第140話鬼哭

140.鬼哭




風呂のモデルルームの仕様を決めた次の日の朝


寝不足で眠い眼を擦って朝食を摂った。

早速、ギルドへ向かおうとするとアシェラが付いて来るようだ。


「今日は付いてくるんだな?」

「防具屋に行くならボクも行きたい」


「あぁ。盾の為の改造か」

「そう。一応、盾は出せる様になった。後は反復練習しかない」


「そうだな。そう言えばその手甲はどうしたんだ?」

「左腕は無くしちゃったから騎士団の倉庫から貰ってきた」


「そうか。何か年期を感じる手甲だな……」

「うん……」


「折角だから新しいのを買うか?」

「うーん。気に入った物があれば」


「遠慮するなよ」

「うん」


アシェラは町娘の恰好に手甲を装備している。コートを羽織っているので手甲は良く見えないが薄着の季節だったら、何事かと10人中8人は振り返るだろう。


途中、果実水を屋台で買い、ギルドへと歩いて行く。

ギルドに入ると流石にこの平民の恰好は3回目なので、すぐにオレと気が付かれた。


露骨に眼を逸らすヤツから物珍しそうに見てくるヤツ。ただ一つ共通するのが一切の会話が無く静まり返っている事だ。

オレは猛獣か何かなんだろうか。一度も自分から絡んだ事は無いのだが。


そんなこんなでナーガさんの元へ歩き挨拶をした。


「「おはようございます。ナーガさん」」

「おはよう。アルド君、アシェラさん」


まずは無難な挨拶をして昨日聞いた全員の予定を話す。


「オレ、エル、アシェラ、母さん、全員2日後で問題ありません」

「そう。良かったわ。実は昨日の内に食料と馬車の手配をしておいたの。これで無駄にならずに済んだわ」


相変わらずナーガさんは優秀すぎる。こうは言うがきっと日程がズレても大丈夫な様にしてあったはずだ。


「じゃあ明後日の朝、ギルド前に集合で良いわね」

「「はい」」


ナーガさんと必要な物の話をすると地図、人力車、20日分の食料、は手配済だそうだ。

装備ではマントがあると寝る時の敷物としてや防寒に使えるのであった方が良いと言われた。


確かに寝ながらエアコン魔法は使えない。

防具屋に行くついでに全員の分を買ってこようと思う。


早速、防具屋に到着するとボーグがいつもの様に厳つい顔で店番をしていた。


「ボーグ、おはよう。鎧の改造は終わってるか?」

「ああ。そこにある持ってけ」


隅にある箱を開けると背中と両肩にバーニア用の噴射口の様な物が付いた鎧が入っている。

因みに噴射口のデザインはオレだ。性能には全く関係無いが恰好良いから付けてもらった。


早速、平民の服を脱ぎ新しいワイバーンレザーアーマーを着けて行く。

動かない様に踏ん張り軽くバーニアを吹かしてみる。


以前より発動が早く魔力の消費も低く出力も上がっていた。


「流石だな。想像以上の性能だ」

「そうか?それよりファイアーリザードの皮。忘れるなよ」


「余裕があったらだぞ」

「ああ。頼む」


オレとボーグの話がひと段落したのを見計らってアシェラがオレの服の裾を引っ張ってきた。


「ボーグ。アシェラの手甲にもオレと同じ魔力盾の改造をして欲しいんだ」

「ちょっと見せてくれ」


ボーグはアシェラの手甲を叩いて音を聞いたり細かく動きを確かめたりと確かめている。


「こりゃ、新しいのを買った方が良いぞ」

「だいぶ使い込んであるからな……」


「嬢ちゃんの手にも大き過ぎるし関節の部分は殆ど防具の役割を果たしてない……」


え?マジ?そんなボロしか倉庫に無かったの?


「ぶっちゃけ素手に毛が生えた程度だ」

「マジか……」


アシェラは自覚があったのか明後日の方向を見て知らん顔をしている。


「ボーグ。アシェラの腕に合う手甲とマントを4枚欲しい」

「マントはその棚にある。どれも金貨2枚だ。好きなのを選んでくれ。手甲は……ちょっと倉庫に行ってくる」


ボーグは奥に引っ込んで行く。

オレは取り敢えず棚に置いてあるマントを漁りながらアシェラへと話しかけた。


「アシェラ。お前、手甲がボロボロなの気付いてただろ」


アシェラはオレの言葉を無視してマントを選ぶフリをしている。


「アシェラ、約束してくれ。装備に関してお金の心配をしないでくれ。そんな事でお前の腕がまた斬られでもしたら……オレは……オレは……」


片腕のアシェラを見た時の悔しさと悲しさ、憤りを思い出してしまった。


「ごめん……アルド……」


暫くすると奥からボーグが戻って来る。


「そんな良い物じゃねぇが取り敢えずには問題無いはずだ。嬢ちゃんに会うサイズが無くてな」


普通、格闘用装備の手甲を使うのはムキムキのマッチョメンだと相場は決まっている。

アシェラに合うサイズが無いのも納得だ。


「ボーグ、ありがとう。全部で幾らだ?」

「マント4枚に手甲か……白金貨1枚と金貨2枚ってとこだな」


オレはボーグへ言われて金額をすぐにお金を払う。


「この手甲に改造は……」

「勿体ねぇな」


「そうか……」

「爪牙の迷宮に潜るんだろ?」


「ああ」

「良い皮を手に入れてくればオレが作ってやるよ。地竜なんて最高だな」


オレは苦笑いを浮かべるしかなかった。本当に地竜を倒すつもりでいるからだ。

ちょっと興味半分でボーグに聞いてみたくなった。皮を扱うプロの目からの意見を聞きたい。


「ボーグ。地竜の皮は扱った事はあるのか?」

「あ?ああ、昔な」


「どうだった?」

「そりゃ最高の素材だった。並みの剣じゃ傷も付かねぇ」


「そうか、ちなみにワイバーンと比べてどうだ?」

「同じ竜種でも全く話にならんな……おい、アルド、冗談だからな。地竜に挑もうなんて考えるなよ」


「ああ、分かってる。例え話だ。傷を付けるとしたらどれぐらいの威力が必要か分かるか?」


ボーグはオレを疑わしそうに見つめていたが溜息を一つ吐き話し出した。


「騎士団の盾を一刀両断出来れば倒せるんじゃないか」

「騎士団の盾?」


「ああ、オレが昔、地竜の皮を扱った時の話だが、地竜を仕留めたS級冒険者は騎士団の使っている盾を真っ二つにしたそうだ」

「……」


「眉唾だがな。これで地竜に挑む気なんて無くなったろ」


ボーグは大きな声で笑っていたがオレは苦笑いしかできなかった。今はマント4枚と鎧が入った箱を持って屋敷へ帰っている途中だ。

アシェラが屋敷から装備してきた手甲はゴミ同然だったらしくボーグに銀貨1枚で売ってきた。


手甲で気になった事がある。左の手甲が無いと言う事はドラゴンローブも左腕が切られているはずだ。

アシェラに聞いてみるとブルーリングの街でローランドが修理に出してくれていたようで、今はオレと同じワイバーンの皮で補修してあるらしい。


本人は補修してある部分の色が違っていてツギハギ恰好悪い。と言っていた。




しかし、改めてボーグの話を思い出してみると地竜がそこまで固いとは完全に予想外である。


ふと領域内でのエンペラーの防御力を思い出してみた。エンペラーも今回の地竜もオレの攻撃力不足が問題になっている。元々、オレのメイン武器は短剣と言う事で攻撃力は高くない。少しオレの攻撃力不足を考え直す必要がある。


普段は今の攻撃力で問題ない。只、ここ一番に圧倒的な攻撃力を発揮する方法……

正に、コンデンスレイの様な圧倒的な攻撃力……


出来れば剣で魔力消費も抑えられる様な物が理想だ。

剣、、、ビー〇サーベル、、コンデンスレイを剣状に……理論が分からない上に、もし出来ても恐らくは自分が焼け死ぬ!


他には魔力武器で刃を究極に鋭くする……もっともっと魔力操作の熟練が必要だな。

単一分子の刃を作れたら間違いなくこの世界で一番鋭い刃になる。将来に期待だ。


盾を斬る……現代日本の技術で鉄を斬る方法……

鉄…鉄か。盾程の厚みの鉄を切るって……現代日本でも溶断か研磨ぐらいしか方法は無かったはずだ……


アニメや漫画ではどんなだったか……

確か刃物にオーラを纏って切れ味を上げるってのが多かった。


魔力武器はもうやってるんだよなぁ。

そう言えば昔、見たマンガで超振動するナイフで何でもスパスパ切ってたのがあったな……


超振動って振動させれば良かったのか?うーん。最近では超音波カッターなんてのも市販されてたはずだ。

屋敷に帰ったら試してみるか……


オレは取り敢えずのアイデアを浮かべて顔を上げると隣のアシェラがチラっとこちらを見た。

思考の邪魔をしない様に黙っていてくれたのだろう。


その気遣いに感謝し、他愛もない話をしながら屋敷までの道を楽しんだ。





屋敷に着くとちょうど昼食の時間だった。

昼食を摂り終え、すぐに裏庭へ移動してバーニアの使い勝手を確かめる。


修行不足からか反応が早かったり遅かったり、出力もバラツキがかなり大きい。

やはり修行が必要だ。


次は地竜への攻撃方法だが……

さっきのボーグの話が本当なら地竜にダメージを与えられるのはコンデンスレイだけになる。


ただでさえ持て余しぎみのコンデンスレイを密閉された空間で撃ちたくない。

ヘタするとこっちが全滅しかねない。


ここは、やはり小回りが利く剣での必殺の一撃が欲しい。

今は取り敢えず使えるレベルのバーニアの修行よりも”必殺の一撃”の開発なのだろう。


再びの試行錯誤……振動かぁ……振動、、超振動、、超音波振動……、

まずは今までの様に思い付く事は全てやってみよう。


まずは振動。

魔力で短剣を振動させてみる……ガタガタ揺れている?何か違う……失敗。


次に超音波振動を試してみる……音、確かに音は空気の振動だ。大きい音を込めれば良いのか?

試してみると恐ろしい程の爆音が鳴り響き屋敷全体が震えている。


確認してみると魔力も恐ろしい勢いで減っており残りは半分程になっていた。

屋敷を揺らす程の爆音だ。怒られるに決まっているので速攻で逃げる。今はエルの部屋の前まで逃げてきた所だ。ついでとばかりにエルへ魔力の補充を頼んでみる。


「おーい、エル、魔力を分けてくれないか?」


オレの声に部屋の中からごそごそ音がして開いた扉の奥にはチラっとマールが見えた。

思わず声を出しそうになったが婚約者になって2人きりで部屋にいる事が許されたのだろう


エルはいつも通りの様子なので、やましい事は無さそうだ。

魔力については新しい技術の開発だと言うと笑って補充してくれた。


「魔力ですか。これで良いですか?兄さま」


いつも無理を言って本当に申し訳なく思う。


「すまない。地竜にも通じる攻撃を開発しておきたくてな」

「なるほど。頑張ってください」


「ああ。じゃあ行く。ありがとな」


エルの元を去って再びの修行だ。

さっきの実験から短剣を直接、振動させるのは難しそうだ。


魔力武器(大剣)を出し、刃の部分だけが微振動するイメージを浮かべた。

結構な魔力を消費していく……試しとばかりに鑑賞用の岩に刃に軽く振り下ろした。


ガキィィーンと思った以上の音がして岩には5センド程の深さの切込みが入っていた。

これは……なんだか行けそうな気がする。


そこからは細かく条件を変えて魔力武器(大剣)を振動させていく。

色々と試して分かった事は予想していた通り振動を細かく多くすれば加速度的に切れ味が良くなる。


そしてこれも予想通りなのだが、当然ながら魔力消費も同じく加速度的に大きくなった。

どの辺りが地竜に対して最適か……こればかりは実際にソナーでも使わないと分からない。


気になるのは、この技術の最大出力の威力と騎士団の盾を切れるかどうか。


この2つは最低限、確認したいが騎士団の盾は勝手に切り裂くと怒られそうだ。

っとなると、今、出来るのは最大出力での破壊力の検証だけ。


オレは魔力枯渇にならない程度で出来る最多の振動を魔力武器(大剣)に施す。

ヒィィィィンと羽虫の様な音が聞こえ魔力武器(大剣)の輪郭がボヤけ出した。


この間にもオレの魔力はガリガリと削れている。

試しに魔力武器(大剣)を振り下ろすと大岩が真っ二つになり、ついでとばかりに地面すら切裂いた。本当に恐ろしいのは大岩も地面も全く手応え無く振り切れてしまった事だ。


あまりの事に驚いてすぐに魔力武器(大剣)を持ち上げるが地面を手応え無しで好きに切裂けてしまう……

凄まじい切れ味に驚いた後、我に帰った時には言い様のないだるさを感じた。


魔力枯渇寸前……気を抜くと気絶しそうになりながら自室のベッドへ這うように移動する。

薄れていく意識の中で”夕飯には起きれないだろうなぁ”とどうでも良い事を考えていた。




後に、超振動の発する音が亡者の鳴き声のように聞こえ、過去に殺した者を亡者として剣に纏い切れ味を増している。と訳の分からない噂が流される事となる。

その斬撃は“鬼哭”と呼ばれ、全てを切り裂く必殺の一撃としてアルドの代名詞になるのは別のお話。





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