第20話9歳の終わり

20.9歳の終わり




10歳まで後1ヶ月に迫った頃。


「誕生日かぁ、仮病でも使うか」


オレは10歳の誕生日に起こるであろう事を考えてウンザリしながら呟いた。


「兄さま、ダンスも礼儀作法も問題ないと思いますよ?」

「出来る事とやりたい事は違うって事だな」


「なるほど、納得できる話ですね」


エルとそんな話をしているとマールが口を出してくる。


「エルファス様、納得しないで下さい。出来る事を確実に行えばいいんです」

「なるほど、マールの言う事も納得できますね」


「アルドの言う事は適当に聞くぐらいが丁度良い」


負けじとアシェラも口を出す。



「みんな!真剣にやらないと修行にならないでしょう!」

「すみません、ラフィーナ様」

「ごめんなさい、お師匠」

「ごめんなさい、母さま」

「すみませんでした!反省して演習場を走ってきます!」


オレは母さんの雷を理由に、演習場へと逃げ出した。


因みにマールは一応は弟子ではあるが、仮のようで呼び名は“マール”と“ラフィーナ様”だ。

アシェラとの違いがよく分からないが、当人同士の問題なのでオレから言う事は無い。


演習場に着くとベレットとガルを探す。どうも2人は休憩中のようだった。


「ガル、ベレット、お暇?」

「アル坊か、嫌な予感がプンプンするんだが……」


「お暇なら模擬戦でもどうかと」

「嫌な予感、的中じゃねえか……」


「そんな事、おっしゃらずに~1回だけ!本当に1回だけ!」

「オマエの言い方に悪意しか感じられねぇ」


「おね~が~い~ガ~ル~」

「あー、鬱陶しい!分かったよ!」


「おっしゃー!ベレットも良いよね?」

「分かりました……」


苦笑いしながらベレットが頷く。

オレ達はそれぞれが木剣と鎧を準備をして、演習場の端へと移動する。


ガルは大剣、ベレットは短剣、オレは短剣二刀を装備してお互いに向かい合う。


「じゃあいつもの通り、1対2で身体強化ありな」

「良いぜ」

「分かりました」


オレが1人で短剣二刀を構えると、ベレットが前、ガルが後ろに立ってそれぞれが武器を構える。


「じゃあ、行くぞ!」

「おっしゃ!」

「はい!」


オレの掛け声で模擬戦が始まった。

オレは身体強化を瞬時に掛け、真っ直ぐにベレットへ向かって走り出す。


ベレットはオレの動きに合わせて、カウンターを仕掛けてくる。狙いはオレの胸だ。

オレはカウンターを躱しながらベレットの右側をすり抜けた。その際に左の短剣で突きを逸らし、右の短剣で首を狙う。


もらった!ベレットに攻撃が当たる瞬間、後詰めのガルが大剣を振り降ろした。

オレはベレットへの攻撃を諦め、仕切り直しとばかりに後ろに跳んで距離を取る……ガルのヤツ、ベレットをエサにしやがった……


「怖いなぁ、ガル!」

「オレはオマエが怖いよ!」


そんな事を言い合いながら、お互いに、また切り合いに飛び込んでいく。

今度は立体だ!と言わんばかりに空中移動を開始する。


何も無い空間を蹴り、加速して短剣を薙ぐ。

短剣に集中させて死角から足技を使う。


実戦の中では足技はかなり有効だ。空間蹴りで空中を足場に出来るからかも知れないが、意識の外から攻撃が出来る。

赤い人が多用するのも分かると言う物だ。


そして高さもオレの大きな武器の1つである。時には背の低さも利用し下から……時には空間蹴りを使い上からと、決して的を絞らせないように短剣を振るう。


ガル達が短剣の間合いを外そうと距離を取れば、短剣の刃を魔力で大きくし大剣の間合いで攻撃していく。

次第にガルとベレットの顔に、疲労と諦めの色が浮かんできた。





息が上がってきた……そろそろ決着か、と思いアル坊を観察すると……

アル坊は薄っすらと笑みを浮かべてオレとベレットを見ていた。


“休憩させられている”こちらの消耗を見て、わざと膠着状態を作っている。


2人がかりで攻撃しているのに、手加減までされているのだ。

その事実にオレは、怒りと恐怖を同時に感じてしまった。


しかし、悔しさを抱えつつもアル坊の動きに付いていくのがやっと……何とか捌くので精一杯だ。

アル坊の動きはさらに速くなっていく……


オレもベレットも有効打を何発も貰い、とうとうベレットが認めてしまう。


「参りました……」


その言葉にアル坊は動きを止めた。そしてアル坊はベレットの前までゆっくりと移動していく。





ベレットの目を見て一瞬、悲しそうな表情を浮かべながら話し出した。


「1ヶ月もしないで10歳になる。そしたら魔法に専念すると思う」

「そうですか、短剣の修行も終わりですね……」


「ここまで来れたのはベレットのおかげだ。本当に感謝している」

「そんな、アルド様の才能があればこそです」


「本当に……感謝しているんだ……」

「……」


「……」

「……」


「これだけは言いたい。今までありがとうございました。師匠!」


ベレットは最初は驚き、すぐに苦笑いを浮かべた。


「ガルもありがとな。またやろう」

「もう、やらねぇよ」


「え?」

「え?」


「ぷっ」

「くくっ…」


「アハハ……」

「ガハハハァ……」


ガルと暫くの間、お互いに笑い合っていた。




深夜------------




(目標の短剣二刀と壁走り、空間蹴り、魔力武器は何とか及第点かねぇ)


窓の外の星を見ながら1人考える。


(やっと魔法を教えて貰える。長かったなぁ。まずは何を教えて貰うか……大技もいいけど小技の連打の方が戦闘に組み込みやすいんだよなぁ)


何と戦うつもりなのか……思考がだんだん物騒な方向に進む。


(敢えて考えないようにしてたけど……核爆発って原子核を分裂させれば起こるんだよな……放射線を考えるなら核融合か……水素からヘリウム、ヘリウムから炭素、炭素から鉄か……)


これ以上は本当にマズイ方向に進もうとしている。


(って核爆発は流石に無いわぁ。オレも死んじゃうし。でも絶対零度とか重力操作、反物質なんか魔法だとどうなんだろうな?もし出来たら……)



妄想が現実になった時、生まれるのは神か悪魔か…精霊のみぞ知る。



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