第21話プリン

21.プリン



ある闇の日----------



今日は休日だがエルはマールと一緒に市場に行った。

何でも掘り出し物があるらしいが、目的がマールなのはミエミエだった。


オレは教会に行こうと思い、ローランドに話しかける。


「ローランド。街に行きたいんだけど、誰か護衛を頼めるかな?」

「ガルは今日は休みで。ベレットはエルファスぼっちゃまの護衛に出てしまっています」


「そうか、オレ1人でも…」

「アルドぼっちゃま。護衛を付けるのはヨシュア様とラフィーナ様から…」


「判った。判ったから。護衛かぁ」

「本日は屋敷で過ごすのはどうでしょう?」


「アシェラは?」

「アシェラ様も本日は家の用事と言う事です」


「エルもアシェラもマールもいないのかぁ」

「こんな日は読書でもいかがですか?」


「……」

「……」


「うーん…定番パート2でもやってみるか」

「ていばん?ですか?」


「ローランド、厨房を使ってもいいかな?」

「む、厨房ですか…料理長に聞いてみない事には」


「じゃあ一緒に聞きに行こう」

「い、一緒にですか…」


「オレは暇なんだよ。暇すぎて屋敷から抜け出しちゃいそうだ」

「早速、厨房に向かいましょう」


オレ達は厨房へ向かった。


「料理長。プリンを作るから場所を貸してくれ」

「ほへ?」

「アルドぼっちゃま、ちょっと黙ってて頂けますか?」


オレはローランドから謎のプレッシャーを受け口を閉じる。


「料理長、アルドぼっちゃまがいつもの発作です。調理場を借りてもよろしいか?」

「あー発作か、隅なら使ってくれても構わんぞ」


「では隅をお借りしますね」


ローランドがこちらを向いて調理場の一角を指さす。


「あそこなら問題ないかと思います」

「分かった。ありがとうローランド」


満足そうに頷いて、ローランドは去って行った。

プリンを作るための手順を思い出す。


(たしか牛乳と卵と砂糖を混ぜて蒸すんだよな。まあ、やってみるか)


「料理長、牛乳と卵と砂糖が欲しいんだけどある?」

「アルド様、牛乳も卵も砂糖もある…あるます…あります…」


「オレは畏まれるのが苦手だから素でいいぞ」

「お、本当に?」


「うんうん」

「おーオレは敬語が苦手でな。助かるぜ」


料理長の顔に安堵が浮かんだ。


「じゃあ牛乳をこの容器にこれぐらい。卵を2個、後は砂糖を少々ほしい」

「分かった。ちなみに何を作るんだ?」


「さっき言った、プリンだよ」

「プリンって何だ?」


「プリンは兄弟で一度は争いの火種になる危険な食べ物だ」

「そ、そうなのか、怖い食べ物なんだな…」


プリンが怖いとかおかしな事を言う、オッサンは無視して作業を進める。



「てってけてけてけてってって~♪今日はプリンを作っていきますね~」


「まずは卵をかき混ぜます。これでもかってくらいかき混ぜます」


「そしたら卵に牛乳を入れていきます。量は適当ですね~色を見て勘で入れていきましょう~」


「次は砂糖。これは流石に味を見ながら入れます」


「さあ、これでタネは出来ました。後は蒸すだけですね」


「しかし、蒸し器なんてありませんので鍋の中にお皿を置きます」


「お皿の上まで水が来ない程度に水を入れます」


「さあ、大詰めですよ!器にさっきのタネを入れていきます。」


「6個出来ましたね~これをお皿の上に並べます」


「さあ、鍋を火にかけて蓋をしましょう」



-------10分後--------



「あーなんか面倒くさくなってきたから普通で良いか」

「良いのか?」


「うん、そろそろ良いかな~」


蓋を開けると蒸気がもわ~っと出てきた。

器を見てみる。いい感じに見えるが…

試しに1つだけつついてみる。

ぷるぷるだ。

これは成功なんじゃないか。

では器を出して粗熱を取ろう。



------再び10分後---------



だいぶ冷めてきたな。

じゃあ冷蔵庫に入れて。

冷蔵庫ってあったっけ?


「料理長。冷蔵庫ってある?」

「れいぞうこ?そりゃなんだ?」


オレは天を仰いで堕天使のポーズを取る。


「まてよ…いるじゃん!冷蔵庫が」


オレはお盆にプリンを乗せて居間に向かった。

居間に入ると開口一番に叫んだ。


「冷蔵庫さん。プリンを冷やして!」

「……」


オレはいきなりアイアンクローを食らった。


「意味は判らないけど、バカにされた事だけは判るわ…」

「い、いだい、です…母様…」


いきなり息子にアイアンクローをするなんて!DVだ!


「母様、このプリンを冷やして欲しいのです」

「これ?何なの?」


「プリンです」

「だからプリンって何?」


「言うと取られるから言いたくありません」

「じゃあ冷やさないわ~」


「ボクが考えたオヤツです…」

「ヘ~アルが考えたオヤツ…おいしそうね」


「くっ判りました…1個差し上げます…」


オレがプリンを1個差し出そうとすると嫌らしい顔で”氷結さん”が話だす。


「1個~?6個あるんだから2個は貰わないとね~?」


「くぅぅ、判りました…2個で…」

「じゃあ冷やしておくわね」


「オヤツの時間に食べるので、それまで冷やしてください」

「分かったわ。今日はアルと私とクララしかいないから一緒に食べましょ」


「分かりました」


そうしてオレは氷結さん改め、冷蔵庫さんにプリンを任せ、読書でもしようかと書庫に向かった。




オヤツの時間----------




(居間に行ってプリンを食べるぞ!)


オレはウキウキしながら居間への道を歩く。

しかし、居間には今日はいないはずのエル、マール、アシェラ、父さんがいた…


プリンは6個、作ったオレが言うのだから間違いない。

この中にプリンを食べれないヤツが1人出る。


オレはこの場の支配者となるべく声を出す。


「リバーシだ!リバーシで勝負だ!!」


「「「「「「リバーシ?」」」」」」


オレ以外の全員が聞き返した。


「リバーシで勝った者から順番にプリンを食べてよし!プリンデスマッチだ!」


みんなの眼が泳いでいる。

テーブルを見ると、皆の前にプリンの器が置いてあった。


オレは父さん譲りの糸目を開き器の中を見る…



空だ……




オレが皆を見ると一斉に眼を逸らされた。


オレは後ずさる…1歩、また1歩…

振り返り走り出す、その眼には涙が溜まっていた…




庭の木のテッペンで拗ねていたらエルとアシェラが迎えに来てくれた。

アシェラの第一声が


「アルドが食べれなかったプリン。とても美味しかった」


こいつはいつか〆てやる。

マールは恐縮して本気で謝っていた。


新しく作れば良いから気にするな。と言ったら”自分の分も作ってほしい”と頼まれた。中々に図太いヤツだ。

冷蔵庫さんとクララも、また作ってほしいと言ってきた。


どうやら女性陣には好評だったらしい。

また気が向いたら作ろうと思う。今度は絶対に自分の分は確保して…




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