第22話10歳の誕生日


22.10歳の誕生日



10歳の誕生日の朝食。


「アル、エル、今日のパーティは夕方からだよ。主賓だからね。ちょっと早めに準備しておいてほしい」

「「分かりました」」


「アシェラとマールも頼むよ」

「「かしこまりました。ヨシュア様」」




朝食後----------




朝食後にオレ、エル、アシェラ、マールで緊張をほぐす為に軽い休憩を取る。


「エルファス様、私、パーティが初めてなので失敗しないか不安です…」

「僕も初めてだけど精一杯エスコートするよ」


「ありがとうございます」

「あれだけ頑張ったんだから、きっと大丈夫だよ」


「そうだといいんですが…」

「他にも気になる事があるの?」


「エルファス様やアルド様は横柄な態度を取られませんが、他の貴族の方はどうなのかと…」

「お客様でそんな事は無いと思うけど、心配なら僕か兄さまの近くにいるといいよ」


「迷惑をかけて申し訳ありません」

「迷惑なんかじゃないよ。一緒に楽しもう、マール」


「判りました。エルファス様の傍にいるようにします」

「うん、それがいいよ」


エルとマールのやり取りを見てるとアシェラがオレを見てきやがった。


「なんだよ…」

「アルドにエスコートは荷が重い。ボクがしっかりしないと」


「……」

「年上の威厳を見せる時」


「威厳なんてあったんだ…」

「滲み出てる。ついでに色気も滲み出てる」


「色気…」


オレはアシェラのペッタンコの胸を見て半笑いで答える。

いきなり魔法の”ライト”を眼の前に使われた。


「眼が!眼がぁぁぁぁ」

「ボクの色気が判らない眼にはおしおきが必要」


普段通りのくだらない行動をして、いつしか緊張はほぐれていった。




昼食後-----------




パーティまで後2時間ぐらいか…


先程、アシェラとマールがドレスの着付けに向かった。

オレとエルだけで部屋にポツンと待つ事になる。


「エル、緊張してるか?」

「思ったより大丈夫です。兄さまは?」


「オレかぁ。オレ、人前って苦手なんだよなぁ」

「そうですか?平気そうに見えますが…」


「大勢から注目されるとな」

「なんか意外な感じがしますね」


「オマエはオレをどう見てるのか」

「人からの評価に興味ないと思ってました」


「ん?人からの評価なんて興味ないぞ」

「それなら、何で人前が苦手なんですか?失敗して評価が下がっても関係ないのでは?」


「確かに…何で苦手なんだろ」


エルはオレの返事に苦笑いを浮かべる。

くだらない話をしていると、そろそろ舞踏会30分前になりアシェラとマールが戻ってきた。


扉が開き2人が入ってくる。


アシェラは薄いピンクのドレスを着ている。銀髪に似合っており、とてもかわいらしい。

マールは青いドレスを着ている。ちょっとキツイ眼に似合っており、とても綺麗だった。


「エルファス様、どうでしょうか?」


マールは少し緊張しながら聞いてくる。


「とても綺麗だ。ドレスがマールを引き立てている」

「ありがとうございます」


マールはエルの言葉に笑顔になり2人で楽しそうに話しだした。


「ど、どう…?」


アシェラが俯きながら上目で聞いてくる。


(そんなキャラじゃないだろ!)


心の中でそう叫びながらもアシェラの可愛さにオレは眼を離せなかった。


「き、綺麗だ…」


つい心の声が口から出てしまう。


(12歳 相手にオレは何を緊張しているんだ。相手は子供だぞ!)


オレの心の声は叫ぶがドレスを着て薄っすらと化粧をするアシェラはオレの理性を簡単に破壊した。


「あ、アシェラが一番かわいい…」

「あ、ありがとう…」


そうしてドレス姿の女性陣を褒め、いよいよお披露目会に向かう。

お披露目会場に向かうと屋敷の入口のホールがダンスホールになっており、食堂の扉は開け放たれ、立食で食事がとれるようになっていた。


オレ達はホールの階段の上で父さん達と一緒に挨拶して降りていくらしい。

そして、1番最初にオレとアシェラ、エルとマールが踊る事になっている。


そこからダンスパーティがスタートだ。

1曲踊りきって、やっとお役御免になる。


今は2階の小部屋で出待ちの状態だ。

ローランドから、しばらくトイレに行けないから行っておいた方が良いと言われた。


オレとエル、アシェラとマールがそれぞれトイレに向かう。

用を足しながら、どちらともなく話し出す。


「エル…」

「兄さん…」


「アシェラ、かわいかった…」

「マール、綺麗でした…」


「……」

「……」


「双子なのに女性の趣味は違って嬉しいよ」

「心から同意します」


何か友情の様な物を感じた瞬間だった。


父さん、母さんと一緒にアシェラとマールが戻ってくる。

どうやらこのまま挨拶になるようだ。


父さんと母さん、オレとアシェラ、エルとマールの順番で移動した。

アシェラとマールはオレとエルそれぞれのパートナーになる。


緊張しながら歩いていくとホールに到着した。

ホールから下を見下ろすとタキシードとドレスを着た人が沢山こちらを見上げている。


(これは思った以上に緊張するぞ。エルは大丈夫か?)


父さんが挨拶する中、エルを見てみる。

自分と違い、さほど緊張した様子の無いエルがお客様達に薄く笑顔を送っていた。


(こいつ男前すぎだろ!)


心の中でエルに突っ込んだ。

そんな事を考えていると急に父さんに振られて代表で挨拶をする流れになった…


(聞いてねえよ、パパン!)


「初めまして。アルド=フォン=ブルーリングと申します。こちらは弟のエルファス=フォン=ブルーリングです。本日はお忙しい中、お越し頂きありがとうございます。これより初めてのダンスを披露させて頂きますが、非常に緊張しています。これではきっと失敗してしまうかも…しかし、失敗しても笑わないでやってください。精一杯がんばりますので宜しくお願い致します」


(どうだ?)


観客から笑いが上がり、拍手が鳴った。


(急場にしては、まあまあか?)


拍手の終わりと同時にゆっくりと音楽が流れだす。

オレがアシェラを、エルがマールをエスコートして階段を降りていく。


オレはアシェラとゆっくりとダンスホールの真ん中に移動する。

所定の場所に移動するのを確認するとアシェラに小声で話しかけた。


「見せつけてやろう」


アシェラが驚いた顔を見せてからニヤリと笑う。


ダンスが始まった。


決して、洗練されたダンスでは無かっただろうが、オレ達は楽しんでいた。

目の前のアシェラだけじゃない。エルやマールも笑っていた。


ひとしきり踊ったオレ達は、曲の終了と同時にダンスを終了する。

お互いに礼をした瞬間、万雷の拍手が響く。


オレ達4人は胸を張って…しかし、どこか恥ずかしそうに退出して行った。

それを機に各々がダンスに興じて行く。


そんな人達をしり目に、オレ達はやっと解放されたとばかりに飲み物を飲みくつろいでいた。


「楽しかったな」

「そうですね、兄さま」

「はい、楽しかったです。アルド様」

「うん、楽しかった」


オレ達4人でそんな感想を言い合ってると女性が近寄ってくる。


「一曲お願いします」

「喜んで」


基本、ダンスに誘われて断るのはマナー違反だ。身長差で踊れない等は別にして誘われれば踊るのだ。

エルが爽やかスマイルで女性をエスコートしていく。


オレは見逃さなかった、何でもない顔をしながらマールの手が握りしめられていた事を…


(あー、怖い怖い)


するとオレに話しかける声があった。


「アルド様、お願いできますか?」

「はい、お願いします」


(オレもかよ!)


オレはかわいらしい淑女をエスコートして踊る。踊りながら色々な話をした。名前はオリビア。年は同じで10歳。ダンスは初めてで勇気を出して誘ったらしい。学園に行ったら仲良くしてほしい等、多岐に渡った。


その後も踊りの申し込みが絶えなかった。

基本、全ての申し込みに踊ったがクララとだけはホールの隅で小さく踊った。


(クララ、まだダンス習ってないから踊れないんだよなぁ)


流石に疲れて休憩をしようと人の輪から離れる。

周りを見渡してみると、アシェラとマールが10歳前後の男の子達4~5人に囲まれていた。


近寄ってみる。


「僕はカシュー子爵家の3男、マッシュだ。名前を聞かせて貰えるかな?」

「タブ商会のマールです。」

「氷結の魔女の弟子、アシェラ」


男の子達はこそこそと身内で話し出す。


「タブ商会ってリバーシのタブ商会か?スゲーじゃん」

「氷結の魔女ってあの、氷結の魔女だよな?弟子ってこっちもスゲーぞ」

「仲良くなればオレ達の将来も安泰だぞ」

「顔もかわいいし…」


「オレは氷結の魔女の弟子を狙うぞ」

「マッシュ様それは無いですよ」


「オレに逆らうのか?」

「いえ、そんな事は…」


男達はアシェラ達に話し出す。


「氷結の魔女の弟子アシェラ嬢、1曲お願いs…」


「アシェラ。お願いします!」


オレはカシュー君の言葉が終わる前に一気に言い放った。

アシェラはオレを見て悪い顔をしている…


まさか、マッシュ君を選ぶのか…


「お願いします。アルド」


オレはアシェラの手を取りホールの真ん中に歩いて行く。

後ろからマッシュ君が、何か言ってるが無視だ無視。


曲が始まり踊り始める。


「オレが横入して大丈夫だったか?」

「ん、大丈夫」


「そっか」

「アルドは他の娘と踊って楽しかった?」


「お、お、お…」

「お?」


「オマエとが一番楽しい…」

「あ、ありがと…」


2人は真っ赤な顔で俯きながら踊っていた。

その姿を見ていた大人達は、昔の自分を思い返し、自分達まで赤くなっていたのは秘密だ。


色々とあったが何とか最後まで大きな失敗も無く過ごせた。

成功と言っていいだろう。


オレはアシェラに、エルはマールにお礼を言いパーティは終了していく。

こうしてオレ達の10歳の誕生日は過ぎていった。



余談だがオレの挨拶を見て王国貴族の間では、お祝いの席などで軽いジョークを言い、和ませるのが流行りになったそうだ。




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