第334話交流会 part2
334.交流会 part2
「おいおいおいおい!マジかよ……本当にジャイアントキリングを達成しちまったよ……こりゃどうなってやがる? フォスタークで鍛えた腕は伊達じゃ無かったみてぇだ。凄ぇよ、ラヴィちゃん。こうなりゃ行ける所まで行ってくれ!頑張れ、ラヴィちゃん!戦え、ラヴィちゃん!よっしゃ、コールも行っとくか!行くぜ、ラヴィ!ラヴィ!ラヴィ!ラヴィ!…………」
「「「「「「「ラヴィ!ラヴィ!ラヴィ!ラヴィ!……………………」」」」」」」
司会者が観客を煽って、ラヴィコールが響き渡っている。
当の本人はと言うと、調子に乗って大剣を掲げながら何事かを叫んでいた。
「おっと、ラヴィちゃんが何か言いたいみたいだ。コールを一回止めるぜ」
ラヴィコールが引いていき、ラヴィの声が聞こえてくる。
「…………ジャナ……ルバ……った…………Bランクはこんな物か!なんなら2人同時にかかってこい!」
うぉい!何言ってるの? あの娘。前半のアルジャナの事は歓声にかき消されたっぽいけど、相手チームどころか冒険者全員を煽ってるだろ……あれ。
あ、ダカートの風のパーガスが観客席で大笑いしてる。その位置からなら声、届くだろう。止めろよ、お前。
ラヴィの煽りで観客は大盛り上がりだが、冒険者の反応は様々だった。
パーガスのように楽しむ者、苦笑いを浮かべて呆れる者、周りを見て窘める者、そして本気で気分を害した者だ。
その中の気分を害した者の1人が、ザージバル側の待機場所から口を開いた
「娘、今の言葉に嘘は無いか? お前は本当に2対1で戦うつもりなのか?」
声は決して大きくは無かったが、場にそぐわぬ真剣な口調は殺気すら感じられ、不思議なほどに響き渡った。
「勿論だ。お前達ていど2人同時に相手してやる!」
あー、頭痛くなってきた……恐らく向こうの選手はラヴィが一度 口にした言葉を撤回する事で、溜飲を下げるつもりだったのだろう。
しかし、ラヴィは真っ向から相手の挑発を受けてしまった。これでは本当に2対1での勝負を受けるしかなくなってしまったじゃないか……
「おーっと、ラヴィちゃん、流石にこれは無謀だろ。運営さん、本当に2対1でやらせるのか? え? 選手の自主性に任せる? あらら、運営は日和見を決め込みやがったぜ。ザージバル側はやる気みたいだが、カナリスはどうする? ん? ラヴィちゃんが言う事を聞かない……なるほど。どうやら、ラヴィちゃんの希望で、次の試合だけは2対1での試合が決まったみたいだぜ。いくら何でもこれは無謀だと思うが、ラヴィちゃん、2回目の奇跡を起こせるか!」
どうやら本当に2対1での試合になるらしい。
ザージバルで次に出場する2人の内、若い方の選手は静かに殺気を漂わせてかなりのお怒りモードである。
そりゃ他の国で冒険者の経験があったとしても、Gランクの新人にここまでコケにされれば、怒るのはしょうがない。
「待たせるのはオレの流儀じゃねぇし、ちゃっちゃと行くとするぜ。次の試合、カナリス側は引き続き、ラヴィちゃんだ。2度目の奇跡を起こして実力を証明するか、只のバカだったのかがこの1戦で分かるってなもんだ。オレ個人ではそんなバカは大好きなんだがな。対するザージバル側は次鋒と中堅、フウとガリゴーの2人だ。偶然にも3人共が、大剣を得物にしてるのは何の因果か。そろそろ黙れってヤジが飛んできそうだからな、第2戦始めるぜ。波乱の第2試合、始まりだ!」
大歓声の中、ラヴィの前には2人の男が立ちはだかっている。
フウと呼ばれた年配の男は呆れた顔で肩を竦めているが、対するガリゴーはラヴィに対して本気の殺気を滲ませていた。
「今回はお互いの選手の意向で2対1での試合となるが、くれぐれも熱くなり過ぎて怪我をさせたりしないように。良いな?」
ガリゴーは審判からの言葉に耳を傾けつつも、ラヴィから目を逸らす様子は無い。
対するラヴィも先ほどの歓声の中で見せた浮ついた様子は無くなっており、対戦相手の一挙手一投足に集中している。
これが1対1であれば、2戦目も勝ちを拾えた可能性もあっただろうに……もしかして、オレの教育が悪かったんだろうか?
そりゃオレだって、怒りのままに振る舞う事が無いとは言わないが、わざわざ相手を煽ってまで戦闘をするなんて無かったはず……いや、あったかな……あー、ヴェラの街でラバスを煽った事もあったなぁ……ごほん、細けぇこたぁ良いんだよ。
何故か自分に言い訳をしながら、頭を振ってラヴィの試合に集中する。
こうなったら、誰だろうと『怪我をしそうな場合は割って入る』そう腹をくくって、いつでも飛び出せるように、身体強化をかけて試合を見守る事にした。
そんなオレの覚悟を無視するかのように審判の声が響き渡る。
「始め!」
以外な事に最初に突っ込んだのは、呆れた様子を晒していたフウであった。振り下ろしからの大剣を、連続で振って反撃を許さない。
ラヴィは虚を突かれる形となり、完全に受けに回っている。
更にその隙を狙いガリゴーがラヴィの背後を取った。
完全に挟まれた形の状況に、観客も含め勝負は決まったと殆どの人が思ったはずだ。
そんなラヴィはフウとの打ち合いの中、なんと大剣を手放したかと思ったら、予備武器である片手剣を抜いて斬りつけていく。
勝ちを確信した事をよる慢心が油断を生んだのだろう。ラヴィは、浅いながらもフウの左腕に有効打を入れる事に成功した。
「グッ」
くぐもった声が出たが、フウが降参する様子は無い。
それどころか、ガリゴーだけでなくフウまでもが殺気を放ち始める。
「娘よ。少々、お主を舐めていたようだ。お主は充分に強い。ここからは私も本気でかからせてもらう」
本来の得物である大剣は床に転がり、片手剣での奇襲も勝ちを拾うには浅すぎた。
この状況ではラヴィが勝つ可能性は限りなくゼロに近い。
先ほどの奇襲で1対1に持っていけていれば……それだけがラヴィにとっての唯一の勝ち筋だったはずである。
フウとガリゴーはラヴィの前と後に立ち、間合いをジリジリ詰めていく。
絶体絶命のピンチではあるが、当のラヴィは諦めてはいなかった。今もどこかに隙が無いかを必死に探している。
思えばラヴィはベージェで最初にあった時も、オレが本気を出すまで何度やられても決してあきらめる事はなかった。
であればオレが横から口を出して試合を止めるのは、変に禍根を残しかねない。オレは試合を止めたくなる気持ちを必死で抑えながら、ラヴィの試合を眺めるのだった。
ラヴィの第2試合が始まって15分ほどが過ぎていた。
最初の片手剣の奇襲以来 防戦一方で、木剣とは言えラヴィは立っているのもやっとの状態である。
流石に観客もボロボロのラヴィの姿に顔をしかめ、リンチの様相を呈し始めた試合に不満が出始めていた。
「おい、審判、もう無理だろ。止めてやれよ」「2対1で卑怯だろうが!」「もう十分戦った。姉ちゃん、棄権しろって!」「祭りの余興にここまでやってバカじゃないのか? オレはもう見たくない。帰る!」
途中で審判も何度かラヴィに棄権を進めていたが、当のラヴィが頑として拒否している。
そんな試合に焦れたのはガリゴーだ。自分達がまるでヒール役になっている状況に大声で叫びだした。
「おい!だからオレは言ったよな? 『本当に2対1でやるのか?』って。こうなるのはお前も分かっていただろうが!それでも強引に試合を始めて、負けそうになると今度は観客を巻き込んで情に訴えるのか? ふざけるなよ!テメェみてぇな半端者は冒険者なんかやめちまぇ。色々なリスクを回避してこそ冒険者だろうが!それさえ出来ないお前は冒険者失格だ!」
ガリゴーの言う事は正しい。ラヴィが自分で調子に乗ってルールを変え、そしてピンチに陥っているのだから。
これが試合では無く護衛の依頼だとしたら、自分だけでなく依頼人や仲間の命すら危険に晒している事になる。
「これで最後だ。フウ、さっさとこんな試合終わらすぞ。こんなクソ試合、いつまでもやってられるか!気分が悪い!」
そう言ってガリゴーはフウと立ち位置の調整をすると、ラヴィの背後からまっ直ぐに襲い掛かっていく。
ラヴィは片手剣で必死に受けるが、どんどん追い込まれて行っているのが傍から見ても明らかだった。
そんなラヴィにフウが気配を殺し襲い掛かる。完璧なタイミングで2人から前後の同時攻撃を受け、ラヴィは血迷ったのかフウの攻撃だけを躱そうとしてしまった。
それは完全な悪手だ。このままではフウの攻撃は躱せてもガリゴーの攻撃はまともにラヴィの頭を捉えてしまう。
木剣とは言え、流石に頭への直撃はマズイ。
ガリゴーもマズイと思ったのだろうが、大剣には勢いが付いて自分では止められないのが見てとれた。
オレは空間蹴りで観客の上空へ駆け上がると、瞬時にバーニアを吹かしてラヴィの下へと駆けていく。
勢いのままラヴィを抱きかかえ、フウとカリゴーの間合いの外へと再度バーニアを吹かした。
ラヴィを助ける際に念のため、ガリゴーの大剣は魔力武器(大剣)で半ばから切り落とし、フウの大剣はウィンドバレット(魔物用)で砕かせてもらっている。
2人は口を開け呆けた顔で、オレの顔と半ばから無くなっている自分の得物を、何度も見比べていた。
数舜の静寂の後、会場には割れんばかりの歓声が響き渡る。
「何だ今の。なんなんだよ今のは!いきなり沸いて出たぞ、アイツ……おいおいおいおい!オレもこの仕事は長いが、こんな動きをするヤツは見た事ねぇよ。しかも今、空を飛んでなかったか? もしかして、こいつが噂のリベンジャーじゃねぇのか? だとしたら凄げぇよ、こいつ。リベンジャー凄すぎだろ!」
司会者が叫び観客も興奮状態になっており、この場の収拾がつく様子がない……
こうなれば逃げるしかないのだろう。
「ラヴィさん、取り合えず宿まで飛びますよ。これではどうしようもありません」
「すまない、。私が調子に乗ったせいでアルドにまで迷惑をかけてしまった……」
シュンと小さくなったラヴィに、オレは肩を竦めて返してやった。ザージバルの2人にだいぶ言われて、今回の件はそれなりに反省をしているようだ。
「後でお説教は覚悟してくださいよ」
そう言って空間蹴りを使おうとした所で、オレの目の前に2つの影が空から降りてきた。
2つの影は以前 オレも使った事がある”王家の影”の仮面をかぶり、腰にはオレが作った魔道具を付けている。
は? 何? どう言う事? え? いきなりの出来事に心臓が早鐘のように打ち、息が上手く吸えない……驚くほど思考が回るが、おかしな考えしか出て来ない。
仮面から見える2人の姿は、髪が燃えるような赤で肌は褐色である。
魔族の特徴を持つこの2人を、オレは知っている……とても良く知っているんだ!
驚きすぎて目を見開いて動けないオレに、震えた懐かしい声が響いた……
「何を……やって……いるんだ……オマエは……」
「い、いや……違うんだ……助けよう……として……」
「知ってるよ。見てたよ…………心配かけやがって……バカ野郎が……アルド、無事で……無事で本当に良かった……」
表情も読めない仮面の端から、一筋の雫が流れ落ちていく……
思いもしない形ではあるが、オレは遠いティリシアの地で2年ぶりに親友との再会を果たしたのであった。
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