第335話ルイスベル part1

335.ルイスベル part1






思ってもみなかったルイスがいきなり現れ 混乱が続く中、リーザス師匠の声が響いた。


「ルイスベル、アルド、ここでは話も出来ない。さっさと行くぞ」


リーザスさんの言う事は尤もだが、今のオレは1人では無いのだ。ここまで一緒に旅を続けてくれた、カズイ達を放ってはおけない。

悩んだオレはラヴィに話しかけた。


「ラヴィさん、カズイさん達と一緒に宿で待っててください。今日か明日には帰ります。落ち着いたら全部 説明しますので」

「待て、アルド。その2人は何者だ?」


「僕の親友と師匠です。危険はありませんので、行かせてください」

「し、師匠だと? わ、分かった……アルドの師匠……どれだけ強いんだ……」


オレはラヴィからルイスへと向き直る。


「行こう。話したい事も聞きたい事も沢山あるんだ」

「ああ、オレもだ。ついて来てくれ」


こうしてオレ、ルイス、リーザスさんの3人は大観衆の見守る中、全てを放って空へ駆け上がっていくのだった。






ルイスに付いていくと1軒の宿の裏へと降りていく。どうやらこの宿に2人は滞在しているようだ。

直ぐにでもオレが飛ばされてからのブルーリングの状況を聞きたい所だがグッと我慢する。


「部屋に行こう。もう少しだけ待ってくれな」

「ああ、悪い。落ち着こうとは思ってるんだ……ただ、アシェラやオリビア、ライラの様子を聞きたくて……」


「……ああ、直ぐに教えるよ」


アシェラ達の事を口に出した途端 仮面越しではあるが、ルイスの表情が曇ったのをオレは見逃さなかった。

ルイスが宿の主人と話し、鍵をもらい2階にある自分の部屋へと入っていく。


直ぐに王家の影のマスクを外し振り向いた姿は、間違いなくルイスベルその人であった。


「ルイス……本当にルイスなんだよな……」

「ああ、フォスターク学園で3年間 同じクラスだったルイスベルだ。アルド、聞きたい事は沢山あるが、お前の知りたい事から話そうと思う。先ずは何を聞きたい?」


「アシェラ、オリビア、ライラはどうしてる? それにエルやマール、母様や父様、クララは……」

「分かった。先ずはアシェラ達、お前の3人の嫁の話をしよう。そうは言ってもオレはお前が飛ばされて10日しか経ってない頃にブルーリングを出発したんだ。あくまでその頃の話になるのは理解してくれ」


「分かった……」

「お前が飛ばされて直ぐの3人は……………」


それから1時間ほど3人の様子を聞き、ふさぎ込んでいたオリビアとライラだったが、1週間後に何とか立ち直った事を教えてもらえた。


「アシェラは?」


ルイスはゆっくりと首を振り重い口を開く。


「お前の右腕を抱いたまま、誰の言葉にも上の空だったそうだ。オレはお前の妻と2人きりなんてなれないからな。直接 合わせてはもらえなかったが、オリビアの話では相当 重症だったそうだ」

「アシェラ!」


「待て、まだ話は終わってない。座ってくれ。ただエルフの国ドライアディーネで、一度だけオリビアからの手紙を受け取った事がある。半年後の事だがアシェラは立ち直って魔の森を開拓しているって書いてあった。それからは流石に遠すぎて、こっちから定期的に報告の手紙を送るだけになっているがな」

「そ、そうか……」


思わず椅子にもたれかかるように座ってしまった。3人共何とかなったんだ……良かった、本当に良かった。

オレが涙を滲ませながら喜んでいるとルイスは爆弾を落としてくる。


「でもそこまで心配しなくても、指輪で3人の安否は分かったんじゃないか?」

「指輪??」


「ああ、3人共、毎日 指輪を見てお前の安否を確認してたそうだぞ……」


ルイスは何を言っているのだろう。指輪と言えばオレとアオの契約の証のはずだ。証はグリムに右腕ごと切り落とされた。

さっきオレの右腕をアシェラが大事に抱きかかえてた、とはルイス自身が言ったのに……


「だから指輪は魔族の精霊グリムに右腕ごと切り落とされたんだ。それにアシェラ達が指輪ってどう言う事だ?」

「お前……本気で言ってるのか? その左手の薬指に付いている”絆の指輪”だよ!それはどんなに離れていても、お互いの安否が分かる魔法具じゃないのか?」


え? あ、そうだ。そうだった!ルイスの言う通りだ。この指輪は相手を想いながら魔力を込めれば光を放つ魔法具だったんだ。

オレは縋るように3人を想いながら順番に魔力を注いでいく。淡いピンクはアシェラ、青色はオリビア、黄色はライラのはずだ。


それぞれ3人をを想いながら魔力を注ぐと、指輪は3種類に光りだした。

ルイスはその様子を黙って見つめて待ってくれている。


「どうやら3人共 無事みたいだな」

「ああ、良かった……ルイス、ありがとう。本当にありがとう……」


そう言ってオレは暫くの間、絆の指輪を大事に胸に抱きながら心の底から安堵したであった。






「………………って事でエルファス達はそんな感じだ」

「そうか。皆に心配をかけたんだな」


「ああ。エルファスは自分で抱える所があるからな。表には出さないようにしていたが、お前の分まで頑張ろうと無理をしていた。まぁ、ラフィーナさんが止めてたけどな」

「母様が……」


「ああ。お前の精霊様に世界の広さを教えてもらって、皆が冷静に行動できたのはラフィーナさんのお陰だと思う。流石は『氷結の魔女』だ。オレも弟子の1人として鼻が高いぜ」

「母様が……それと世界の広さって何の事だ?」


「そうだな。精霊様から色々な事を教えて貰ったんだ。とても沢山の世界の秘密を。先ずはそこから話そうと思う。その知識があると無いじゃ、これから話す事の理解度が変わってくるからな」

「アオが……分かった。聞かせてくれ」


「ああ。先ずはこの世界についてだ。精霊様が言うには、この世界には大陸と呼ばれる3つの陸地が………………」


そこからのルイスの話は、オレがこの2年で必死になって集めた情報を、順序立てて詳細にした物であった。

この情報を使徒のうちに聞く事が出来ていれば……そう思えて仕方がない。


次にルイスが話し出したのは、魔族の精霊グリムの過去だった。所々、言い難そうにしながらもルイスは正直に話してくれたと思う。

始祖ティリスの件に同情はするが、グリムの逆恨みでこんな事になったのには、どうしても納得が出来なかった。


「………………というわけだ。ここまでがオマエが飛ばされて直ぐに精霊様がオレ達に話してくれた内容になる」

「そうか……正直、オレが飛ばされた理由は、何度 考えても納得できそうも無い」


「まあ、そうだろうな。ただアルド、お願いだ。魔族と言う種族自体を嫌いにならないで欲しい。今回のグリム様の仕出かした事は、新しい種族と魔族と言う種全体の確執になり兼ねない。それだけは何とか回避したいんだ……頼む、アルド」

「頭を上げてくれ、ルイス。オレはそんな事は全く 考えて無いよ。さっき交流会で戦っていたラヴィさんも魔族だし、カナリスでは『ダカートの風』って先輩パーティに面倒を見てもらったんだ。フォスタークの金しか持ってないオレに、ランバさんって商人は損を覚悟で手を差し伸べてくれた。それに……お前は来てくれたじゃないか。何の手がかりも無いのに、こんな所まで……」


「……すまない。ありがとう、アルド」

「グリムの事は割り切れないが……今のグリムは生まれ変わった存在って言うなら……そこは帰ってから考える。少なくともオレは、魔族と言う種が大好きで感謝してるのは間違いない」


ルイスは何も言わずに深く頭を下げたのだった。






そこからはルイス達がどんな旅をしてきたか、どんな情報を得たのかを細かく教えてもらった。

どうやらルイス達は最初にドライアディーネを訪ねたのだそうだ。ドライアディーネにはブルーリングから話が通っていたらしく、最初から非常に協力的だったのだとか。


国境を越えると待っていたエルフに王都へ招かれ、何と王子と面会まで果たしたそうだ。

それから半年をかけてドライアディーネの中を回り、最後に王都に寄った時にオリビアからの手紙を受け取った。


そして何か情報があった場合にはエルフにも伝える事を約束して、グレートフェンリルへと旅発ったそうだ。


「そうか。ファリステアには会えたのか?」

「いや、何でもブルーリングへ向かったとかで会えなかったな。帰りも丁度、王都にはいなかったみたいだ」


「ブルーリングへ?」

「ああ、オレも良く分からなかったんだが、ドライアド様がどうとか言ってたぜ。途中でオレ達が知らない事に気が付いたみたいで、露骨に話題を変えられたけどな」


ドライアド……あー、そう言えば7月の1日~3日の3日間 エルフの代表がアドに会いに来る事になってたなぁ。

恐らくファリステアは学生の頃 ブルーリングの領主館の中を自由に歩いていた事から、案内役に任命されたのだろう。


ルイスはオレに詳しい話を聞いて良いのか悪いのか判断が付かず微妙な顔をしているが、今更の話だ。

ルイスと言うかサンドラ家にはオレの結婚の時にアドも紹介しており、エルフの精霊ドライアドがブルーリングの街を好きに歩き回っているのは周知の事実である。


それにドライアディーネでの話もある。恐らくルイスは、おおよその話は分かっているに違いない。であれば隠しておく必要も無いわけで……


「サンドラをマンティスから助けに行ったときの話には、実は続きがあってな………………」


結局、サンドラとエルフの郷の事件とエルフとの密約を、独立の事だけは隠して説明させてもらった。


「そんな事が……しかし、これでエルフの精霊ドライアド様と魔族の精霊グリム様、それにお前の精霊様がブルーリングの地に降り立った事になるわけか。後はアグニ様とフェンリル様で勢ぞろいってわけだな……」


ルイスよ、不吉な事を言うのはやめてくれないか? それはフラグと言って、想像以上の確立で物事が起こってしまうんだ。

そうこうしていると、黙って聞いていたリーザス師匠が口を開いた。


「ルイスベル、アルド、陽も落ちてだいぶ経つ。直ぐにでも聞きたかった事は聞けたはずだ。今日は夕飯を摂って休むとしよう。良いな?」


有無を言わせぬリーザス師匠の圧力に、オレとルイスは頷く事しかできなかった。

ルイスの方の話は粗方 聞けたとは思うが、オレの方の話は全くと言って話していない。


ここまで来てくれたルイス達に噓を吐くつもりは無いが、アルジャナの件などは口留めをしなくてはとても話せない事だ。

ドライアディーネ、ゲヘナフレア、グレートフェンリル、そしてティリシア。始祖が作った4つの国にフォスターク……この5つの国以外に、アルジャナとファーレーンと言う2つの国が存在する事を知って、世界がどう動くのか……


オレは頭の痛い問題を、先送りする事を決めたのだった。






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