第336話ルイスベル part2
336.ルイスベル part2
微睡からゆっくりと覚醒していくと隣のベッドにはルイスが眠っており、床にはリーザス師匠が毛布を被って眠っている。
昨日の夜にいざ眠る段になってベッドが2つしか無い事に気が付いたのだが、リーザス師匠は自分が床に寝ると言って聞かなかった。
他に部屋を取る、オレが床に寝る、いやいやオレが床に……そんな話をしていると、リーザス師匠は何故か殺気を放ちながら「何度も言わせるな」と一括して、床に転がってしまった。
しょうがなくルイスと顔を見合わせてから、ベッドに潜り込んだのである。
「おはようございます」
お互いに挨拶を躱し身支度をする中、リーザス師匠はオレがいるのにも構わず服を着替え始めた。
直ぐに後ろを向いて着替えを見ないようにしたのだが、オレも年頃の男である。師匠には十分 気を付けてほしい所だ。
そうして朝食を摂り終わると、昨日と同じように部屋に戻り続きを話し始めた。
「オレの方は昨日で殆どの事を話したはずだ。細かい事は都度 聞いてくれれば良い。今日はアルド、オマエに何があったのかを聞かせてほしい」
「分かった。その前に1つだけ約束してほしいんだ。2人共、オレが話す事は絶対に他言無用でお願いしたい。この情報がヘタに広がると、最悪はお伽噺の種族間の戦争にもつながりかねない……」
「マジかよ……絶対に秘密にする事を誓う。事と次第によっては、サンドラにも報告はしないぜ」
「良いだろう。私はアルドの許可無く話す事はしない。これで良いか?」
「2人共ありがとう。先ずは……アルジャナ、使徒が興した4つの国とフォスターク。この5つ以外の国の話をしたいと思う」
オレの言葉に2人は目を見開いて驚きを隠さなかった。
「ま、待て!国だと? フォスターク、ドライアディーネ、ゲヘナフレア、グレートフェンリル、ティリシア、この5つ以外に国があるのか?」
「ああ、しかも2つ。多種族国家アルジャナと人族純潔主義国家ファーレーンの2つだ。オレが最初に飛ばされたのは一面の荒野で………………」
ルイスとリーザス師匠にはオレが最初に飛ばされた『スライムの丘』から説明させてもらった。
それからコボルトの森でカズイ達と会った事、ベージェの街で旅の基盤を整えた事、そして主を倒して逃げるようにベージェを後にした事、ハクさんの事、全てを丁寧に話していく。
全ての内容を話し終えたのは昼食の時間を越え、陽が傾き始めた頃であった。
「…………と言う事だ。そして昨日、オマエと会ったんだ」
「そうか……」
ルイスとリーザス師匠はオレを呆れたような顔で見つめてから口を開いた。
「アルド、オマエ良く生き残れたな。普通は最初のスライムの丘で野たれ死ぬだろ……それを隻腕でシルバーだったか? こっちで言うCランクまで上がって旅の下地作りとか……もう、驚きすぎて言葉が出ねぇよ」
「カズイさん達に助けてもらったんだ。ベージェを出てからもそれは変わらない。純粋な戦闘力は別にして、何年もの間 1人であの旅をしていたとしたら、オレはどこかで壊れていたと思う。あの人達はオレの恩人だよ」
「そうか……オマエがそこまで言うんだ。きっとそうなんだろうな。アルジャナからの異邦人か……オレも感謝しないといけないな。オマエをオマエのまま、ここまで連れてきてくれたんだから」
そしてどこか遠い目をしながらルイスは更に口を開いた。
「しかし、アルジャナ……種族間の戦争に嫌気がさして出て行った者達の末裔か……オマエの話じゃなければにわかに信じがたい事だな」
「ルイス、1つだけ良いか? 彼らは逃げ出した者達の末裔じゃない。憎しみを克服できた者達の末裔だ。間違えると怒られるぞ。オレも一度、失言でベージェの神父に睨みつけられた」
「そうか、スマン。憎しみを克服か……確かに凄い者達の子孫だな」
話がカズイ達へ移った事で、オレは昨日ラヴィとした約束を思い出した。
「ルイス、オレはさっきから話に出てくるカズイさん、ラヴィさん、メロウさんの3人と一緒に旅をしてきたんだ。一度、宿に戻って話をしたい」
「それは良いが、恐らくは空間蹴りを見せた事で相当な騒ぎになってるはずだぜ。実はオレ達もザージバルの街で空間蹴りを見せて騒ぎになったから逃げてきたんだ」
「そうだったのか……どうするか……」
「たぶん宿には手が回ってるはずだぜ。最悪はカナリスとザージバルの領主が、お前を絡め取ろうとしてくるかもしれないな」
「じゃあ、カズイさん達は……」
「運が良ければ見張られてるだけ、運が悪ければ丁重に領主館へ招待されてるだろうな」
「くそっ」
オレが苛立ち交じりに立ち上がると、ルイスは更に言葉を続けた。
「待て。ここはティリシアだ。ミルドの時みたいに領主館に殴り込みは流石にマズイぞ。最悪はフォスタークを巻き込んだ争いになる」
「オレはどんな手を使ってでもカズイさん達を助ける!」
「おま……最悪は外交問題になるとしても動くつもりなのかよ?」
「必要なら……オレはカズイさん達にそれぐらいの恩を受けているんだ」
「そうか……分かった。先ずは落ち着こう。な? どっちにしても、そのカズイさん達の情報を集めるのが先だな。もう少し暗くなったら、暗闇に紛れてお前が泊まっていた宿に向かおう」
「分かった……」
直ぐにでも飛び出したいが、1時間もすれば暗くなる。ルイスの言う通り待った方が、間違いは無いのだろう。
外が暗くなるまでの時間で荷物の点検をした。黒パンにカビが生えていたので新しい物に交換してもらった。
「アルド、そろそろ行こうか。この宿は大丈夫だと思うが、念のためこのまま窓から向かう。心配するな。宿代は多めに机の上に置いておいた」
「じゃあ、オレが先頭で案内する」
「ああ、頼む」
「それとオレ達の旅には馬が2頭いるんだ。出来れば一緒に連れて行きたい」
「約束は出来ないが、相手が馬を連れ出せるぐらい友好的な事を祈ろうか」
「ああ……」
こうして暗くなった空へオレ達は駆け上がっていくのだった。
宿の屋根に取り付いて先ずは100メードの範囲ソナーを打った。
カズイ達はオレとカズイが寝泊まりしていた部屋に集まっている……何故かBランクパーティのダカートの風のメンバーと一緒に……
「ルイス、カズイ達は部屋にいる」
「そうか、良かったな。最悪の状況は免れた」
「但し、話したと思うが、世話になったカナリスのBランクパーティーと一緒だ」
「……そのパーティーと領主との関係は分かるか?」
「話した時には、領主から指名依頼を受ける程度には懇意にしているらしい」
「そうか。会話は出来そうな相手なのか?」
「面倒見が良くて善良な人達だとは思う。但し、Bランクの冒険者である以上、仕事だと割り切る冷徹さはあるだろうな」
「まぁ、そうだろうな。どっちにしても話をするしか無いが……戦闘になっても殺しは無しでいこう。使徒様ならそれぐらい出来るだろ?」
「頑張ってみるよ」
「母さんも聞こえたよな? 殺しは無しだからな」
「分かった。死なない程度に抑えるとしよう」
リーザスさんの言いようでは、死ななければ何でも良いと考えてそうだ。
出来れば欠損なんかの大怪我にも気を付けてほしいのですが……
ルイスと顔を見合わせ、苦笑いを浮かべてから宿へ忍び込む算段をつけた。
宿は3階建てであり、使っていない3階の部屋の窓を壊して忍び込んこませてもらう。
「しかし改めてこの魔道具は凄いな。どれだけ警備がいても簡単に忍び込めそうだぜ」
ルイスは腰の魔道具を撫でながら、呆れた顔で話している。
オレはワザと知らん顔をして、慎重に廊下の様子を覗った。
どうやら廊下には誰もおらず、このまま部屋に向かえそうである。
「たぶん見張りはいない。足音を立てないように5センドだけ空間蹴りを使って、部屋に殴りこむ。出来るよな?」
「5センドか……大丈夫だと思う」
リーザス師匠もルイスと同じように頷いているので、2人共 問題無いだろう。
「じゃあ、行くぞ」
そう声をかけて廊下へと飛びだしていく。そのままの勢いで部屋まで移動すると、蹴破る勢いで扉を開け放った。
「……」
「……」
部屋の中に押し入ると、カズイ達とダカートの風のメンバーが、何故かリバーシの盤を中心に群がって固まっている。
しかも壁には何やら勝敗表のような物まで張り出されていた……
「えーっと……皆さん何をやっているのですか?」
全員が驚いた顔で、短剣二刀を構えるオレを見つめている。
誰も何も言わない静寂の中でオレの言葉だけが響いたのであった。
どうやらオレ達は警戒し過ぎていたようだ。
この場の状況を見るとカズイ達は軟禁されている様子も無く、遊びに来たダカートの風とリバーシで対戦していただけに見える。
先ずはオレが話をしなければ。
カズイ達にもルイスにも、ましてやダカートの風のメンバーにも、全ての状況が理解できる者はいない筈なのだから。
「あー、すみません。実は…………」
直ぐに武器を収めると、オレ、ルイス、リーザス師匠の3人で部屋にお邪魔して、昨日の交流会からどうしてたのかを説明していった。
勿論 アルジャナや使徒、やルイス達の素性は全て隠してある。
「あー、確かにオレ達は、御領主様からお前とそこにいるリベンジャーを連れてくるように言われてるが、無理矢理連れて行くつもりは無いな」
「見逃してくれるんですか?」
「そりゃ、あんな動きを見せられたら……無理だろ? 恐らくお前を力尽くで連れて行こうとするなら、最低でもAランクパーティーを連れてくる必要がある。ただでさえ御領主様は、Aランクの2人に無理を言って交流会へ出てもらってるんだ。虎の子のAランクをこれ以上 使える余裕はカナリスには無いな。せいぜいオレ達みたいなBランクが友好的に誘いにくる程度だろうぜ」
「友好的ですか……」
「ああ、お前も御領主様に顔を売るチャンスなのは間違いない。食事だけでもどうだ? 悪い話じゃないと思うぜ。ぶっちゃけると、そうすればオレ達の面目も立つからな」
「少し相談をさせてください」
「了解だ。ゆっくり相談してくれ。オレ達はもう少しで決着が着く、『ダカート杯』に忙しいからな」
そう言ってパーガスはリバーシへと戻っていく。
オレはルイスだけを連れて廊下へ出ると、パーガスが話した件について口を開いた。
「ルイス、どう思う?」
「そうだな。友好的ってのが本当なら、食事ぐらい一緒に摂ってこちらに害意が無い事を見せておくのも良いかもな」
「そうだよな。それにお前は将来 ティリシアに住むかもしれないんだろ? 仮面で顔を隠しているとは言え、遠い未来で面倒事に巻き込まれる可能性も0じゃないしな」
「オレの事は今はどうでも良い。問題は国境を通る必要がある以上 向こうが本気なら包囲網を敷けるって事だ。実際にそこまでするとは思わんが、相手が分からない以上 警戒だけはしておいた方が良い」
「ハァ……やっぱりそうか。しょうがない。面倒だけどお食事会に参加するか」
「だな。そうなると問題は誰が行くかだけど……母さんは外した方が良いと思うぜ。あの人は相手の権力によって態度を変えないからな。最悪 相手によっては怒らせないとも限らない」
「分かる。食事会でいつもの殺気を飛ばしかねん。じゃあ、やっぱりオレとお前の2人が正解か? オレ達だけなら最悪は空間蹴りで逃げられるしな」
「ああ。それと母さんとアルジャナ組は先に国境へ向かっててもらった方が良い。カナリスもザージバルも狙いはオレとお前のはずだ。母さんはアルジャナ組に紛れ込ませれば見つからないと思うぜ」
「分かった。それで行こう」
こうして部屋に戻ったのだが、リバーシ大会の横で何故かパーガス、ラヴィ、メロウがリーザス師匠から大剣を習っていたのだ。部屋の中で大剣を習うとか意味が分からない。
混沌としてきた部屋にオレとルイスの溜息が響くのだった。
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