第337話ルイスベル part3

338.ルイスベル part3






混沌とした宿の1室から一夜明けた、次の日の朝の事。


「カズイさん、ラヴィさん、メロウさん、リーザス師匠 、申し訳ありませんが国境の街ワルカで待っていてください」

「ああ、分かった。お前達が来るまで、この2人を鍛えておいてやる」


「あ、あんまりやり過ぎないようにお願いしますね」






昨日の夜、オレとルイスが廊下で話している間に、何故かリーザス師匠はラヴィ、メロウの2人と仲良くなっていた。

2人はどうやらオレの大剣の師匠であるリーザスさんから直接 修行を受けたいと言い出したらしいのだ。


結果、自重を知らない女傑3人にお調子者のパーガスが加わり、恐ろしい事に部屋の中で大剣を振り回すと言う暴挙を仕出かし始めた。

直ぐにオレ、ルイス、カズイが止めたのだが、部屋の柱には大きな傷が入ってしまった。一体、幾ら請求されるのだろう……


それから女傑3人+愉快犯1名にコンコンと説教をしてから、ルイスと決めた事を話していった。


「じゃあ、アルドとリベンジャーさん? だけで領主館に行くの?」

「あ、こっちは僕の親友のルイスベルです。そうですね。2人共 空間蹴りが出来るので何かあっても逃げ出せますから」

「初めましてルイスベルです。アルドと同じようにルイスと呼んでください」


「僕はカズイ。アルドの友達兼弟子かな? よろしくね、ルイス君」

「こちらこそよろしくお願いします。カズイさん」


ルイスとカズイは何かとても嚙み合っているように見える。2人共 リーダータイプなので落ち着いており、見ていて非常に安心できる組み合わせだ。

それに反して女性陣は……


「リーザス殿、私もアルドと同じように師匠呼びを許してほしい」

「ん? 呼び方など好きに呼べば良いだろ。いちいち私に聞くな」

「わ、私も師匠と読んでも良いか?」


「好きにしろと言っている」

「ありがとう、リーザス師匠!」

「わ、私も!師匠!」


何故かリーザス師匠をボスにした、サル山のサルを思い浮かべてしまう。

3人共 見た目は間違いなく美人さんであるのに……なんなんだろう、この残念感は。


オレだけでなく、ルイス、カズイも同じように微妙な顔で3人を見つめるのだった。

これが昨晩の出来事である。






そして今日は話してあった通り、オレとルイスの2人だけは、迎えの馬車が来た時点で別行動となった。

馬車はダカートの風が運転しており、オレ達が警戒しないような配慮がされているようだ。


御者台にはソーイとザザイが座り、馬車の中にはウィズとパーガスがオレ達の向かいに座っている。

考えようによっては、逃げられないようにBランクパーティを配置したとも取れるが、そこまで穿った考え方をするつもりは流石に無い。


「2人が来てくれて助かったわ。一応、私達にも面目があってね。パーガスのアホはどっちでも良いみたいな言い方をしてたけど、最悪は領主様からの直接依頼が無くなるかもしれなかったのよ」

「そうなんですか。僕もウィズさん達にはお世話になったので、出来る限りの事はしたいのですが……」

「まぁ、空を飛べるなんて事が分かったら、普通は利用しようとするのは当然だしな。警戒するのはしょうがねぇよ。今までもそんなヤツ等を嫌ってほど見てきただろうしな」


パーガスの言葉にオレは曖昧な笑みで返しておいた。

フォスタークでの生活では、ブルーリングでも王都でも守られていたのだろう。オレ達を露骨に利用しようと寄ってきた者はいなかった。


改めて色々な人に感謝の念が湧いてくる。

そんな少し、おセンチな気分に浸っていると、パーガスが探るように話しかけてきた。


「しかし、お前とリベンジャーが知り合いだったとはな。どんな関係なのか興味があるな……」


ルイスはダカートの風とは面識が無いので、昨日の夜もパーガス達とは殆ど会話をしていない。

パーガスは少しアレなので、空気を読まずにいきなり聞いてきたのだ。


「親友ですよ。ここにいないもう一人の親友と弟も一緒に、学生の頃は4人で色々とバカな事をやってたんです」


ルイスは何も言わず懐かしそうな顔で頷いている。


「そうか。もしかして捜していた男ってのはアルドの事だったのか?」

「はい。噂が変に伝わって、リベンジャーなんて呼ばれていますが」


「親友を捜してフォスタークからティリシアまでやって来たのか……良かったな、見つかって」


ルイスはうっすらと笑いながら小さく頷いた。

オレとルイスはお互いに少し照れながらも良い空気の中、アホなパーガスは余計な事を口にする。


「念のため聞くが、男同士でって事は無いよな?」


コイツは何を言っているのだろうか。もう、お前はジョーと同じ扱いだ!

何故か鼻の穴を大きくしたウィズを無視して、ハッキリと答えてやった。


「「そんな訳が無いでしょうが!(ですよ!)」」

「だよな。悪い。一応聞いておこうと思ってな」


何故か残念そうなウィズは、もしかして腐ってる人なんでしょうか?

そんなどこか緩い空気の中、馬車は領主館へと進んで行った。






領主館に到着すると、驚いた事に玄関では領主じきじきのお迎えである。

先に名乗らせるわけにはいかない。オレとルイスは慌てて貴族の礼で領主へ挨拶を始めた。


「アルド=ブルーリングと申します。この度は拝見の機会を頂き、誠にありがとうございます」

「ルイスベル=サンドラです。謁見の機会を頂戴しました事、大変な栄誉と存じます」


オレ達2人がしっかりとした挨拶をするとは思っていなかったのだろう。

カナリス伯爵は少し驚いた様子で居住まいを正し、ティリシア式の貴族の礼でオレ達を迎えてくれた。


「本日は急な誘いに応じてくれて、感謝する。大した持てなしは出来ぬが、ゆっくりと寛いでくれ」

「ありがとうございます。お気遣い感謝致します」

「閣下に拝謁できる栄誉に勝る物は御座いません。お気遣い無きようお願い致します」


恐らくこれで挨拶は終わりのはずだ。

ティリシアではフォスタークとは違った作法があるのかも知れないが、知らないのだからしょうが無い。


オレの心配を余所に、カナリス伯爵は人好きのする笑顔で話しかけてくる。


「そこらの貴族より余程しっかりした挨拶をするので驚いてしまったよ。堅苦しいのはここまでにして楽にしてほしい」

「はい。ボロが出る前に許しを頂けて、助かります」

「はい、ありがとうございます」


そう話すオレ達を伯爵は楽しそうに眺め、領主館の中へと招いてくれる。

少し早い時間ではあるが、オレ達は食堂へと通された。


「手練れと聞いていたからもっと粗野な者達かと思ってしまった。こんな事なら妻や娘も同席させれば良かったよ」


席にはダカートの風とオレ達が座り、少し多めの護衛が部家の中に待機しているのみである。


「いえ、私達は粗野な冒険者ですからカナリス卿の判断は正しいかと存じます」

「そう言えるそなた達なら、私の判断が間違っていたと言わざるを得ないな」


こうしてオレとルイス、カナリス伯爵は早い昼食を摂りながら、当たり障りの無い会話を続けていった。

因みにダカートの風の連中は終始 オレ達とカナリス伯爵の会話をカカシのように見つめるだけで、空気になっている。


一度 ワザとパーガスのアホに話を振ってやったが、おかしな敬語でまともな返しが出来なかったのでそれ以来 話は振って無い。

そうして食事も終わった頃、本題であろう話を、カナリス伯爵が口にしてきた。


「アルド君、ルイスベル君、これまでの対応を見て、君達がかなりの教育を受けているのが分かった。そんな君達に折り入って相談があるんだが聞いてほしい」


オレとルイスはここからが本題であるのを理解しながら、顔に出ないように身構えた。


「何でしょうか?」

「そうして表情にも出さない君達に言うのも気が引けるが、君達は空を飛べるのだろう? その技術を分けてもらう事は出来ないだろうか?」


言葉は丁寧ではあるものの、カナリス伯爵の目からは、絶対に話してもらうと強い意志が垣間見える。

反対に隣のルイスは元から腹をくくっているのだろう、『絶対に話さない』と意志が感じられた。


そんな2人に挟まれ、オレは……


「申し訳ありません。それはフォスターク王国 ブルーリング男爵家の秘術です。フォンを返上したとは言え嫡男として、殺されるとしても教える事は出来ません」


ブルーリングの名を出し、絶対に教える事は無いと明確に意志を示した。

そんなオレをルイスは少し嬉しそうに笑みを浮かべ、続けてサンドラの名を口にする。


「私もフォスターク王国サンドラ伯爵領 領主キール=フォン=サンドラの息子として絶対に口外は致しません」


カナリス伯爵はオレとルイスを見回して、少し考えてから言葉を口にする。


「フォン……嫡男……君達はフォスターク王国の貴族の子息なのか……」

「成人してフォンを返上してはいますが」

「この身は魔族であるので、フォンは持ってはいませんが」


カナリス伯爵は更に言葉を紡ぐ。


「私ならティリシアで貴族の身分を与えられる。尤も人族のアルド君にば次代での話になるが。どうだろうか?」

「私は望んでフォンを捨てた身です。貴族に未練はありません」

「フォンは私には身に余ります。何を思えど口にも出せぬ役職に、未練は御座いません」


更にカナリス伯爵は少し考えた末、絞り出すように話し出した。


「チカラで無理矢理言うことを聞かせる事も出来るのだぞ?」

「そうであればご自由に。私とルイスであれは、申し訳ありませんが逃げるだけならどうとでもできます故」


オレとルイスから本気の殺気が立ち上りだしたのを見て、護衛の騎士が一斉に剣を抜く……

それを見たバーガスが叫ぶように口を開いた。


「ヤメロ!アルド、ルイスベル!頼む!!ご領主様、この2人が言う事は本当です。ここにいる護衛も含めてコイツが本気になったら一瞬で首が落ちます」


パーガス達はカナリス伯爵の信頼をそれなりに受けていたのだろう。

伯爵は大きな溜息を一つ吐くと護衛に向かって口を開いた。


「剣を仕舞え、これは交渉だ」


改めてオレとルイスに向き直った時には、憑き物が落ちたように最初と同じ穏やかな顔で話しかけてくる。


「私の負けだよ。君達にはどうやっても勝てそうに無い。この通り謝罪する。どうか矛を収めて欲しい」


そう言ってカナリス伯爵は肩を竦めながら、テーブルのお茶を口に含むのだった。





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