第371話マナスポット休止 part1
371.マナスポット休止 part1
兄さまと別行動を始めて既に4日が経った。
道程は全員が空間蹴りを使える事から順調で、実は昨日にはマナスポットを眼下に確認できていたりする。
今は『マナスポットの休止』を実行するため、邪魔になるオーガを殲滅している所だ。
「エルファス、コイツ等キリが無いな……どれだけいるんだよ。もしかしてオクタールより多いんじゃないのか?」
「オクタールよりは少なかったですよ。最初に打った範囲ソナーでは60匹と少しでしたから」
「そうか……考えてみればオクタールでは、兵糧攻めに夜襲、しかも極大魔法まで使って倒したんだったか……そりゃ、多く感じるのはしょうがないか」
「そうですね。でもだいぶ減ってきましたよ。明日にはマナスポットまで辿り着けそうです」
「もうオーガの顔は見飽きたぜ。早く終わらせて黒パンと干し肉以外を腹いっぱい食いたい所だな」
「確かに……僕も、もう黒パンと干し肉は見たくありません……」
僕を盾にして、ルイスは動き回ってオーガを倒している。こうして隣に立ってみると、兄さまとは比べ物にならないが、ルイスは随分強くなった。
きっとネロも同じくらいの強さなんだろう。
木の上からウィンドバレットを撃っているカズイさんも、そこらの魔法使いより何倍も上手い。
やはり兄さまの隣にいると、実力が上へ上へと引き上げられていく。
今回、僕が『マナスポットの休止』に志願したのには、洞窟で話した内容とは別に理由が1つある。
魔力共鳴をする事で、確かに魔力の扱いだけは兄さまと同じになるとは言え、僕はこの3年間 殆ど実戦を経験していないのだ。
兄さまは僕の方が強いと言うが、そんな事は無い……きっと今の僕と模擬戦をすれば、失望されてしまうかもしれない。
どこかで鍛えなおさないと……そんな理由を隠して僕は今ここに立っている。
アシェラ姉と母さまを向こうの班に誘導したのも同じ理由だ。きっとあの2人なら見抜いてしまうから……
僕は兄さまと再び肩を並べるためにも、ここで自分を鍛えなおさないといけない。
そんな使徒の使命とは程遠い理由を胸に秘め、僕はオーガの群れに飛び込んでいく。
その日のオーガ狩りを終え、野営地での事。
「今日のエルファス君、凄かったね。もしかしてアルドより強いんじゃない?」
「そんな事ないですよ。兄さまならもっと簡単に倒しているはずです……」
「そう? 僕には2人の強さの違いが分からないかも……そんな物なのかな?」
カズイさんの言葉に裏は無く、心から言っているのは分かる。でも、まだまだだ。過酷な旅から帰ってきた兄さまは、こんな物じゃない。
僕が心の中で気合いを入れ直していると、ナーガさんから話しかけられた。
「エルファス君、明日の朝には、オーガもあらかた片付きそうですね」
「そうですね。オーガを倒したら、直ぐに『マナスポットを休止』させようと思います。申し訳ありませんが、その間の警戒をお願いしても良いですか?」
「はい、任せて下さい。それと、そろそろアルド君へ一度 連絡をお願いします。向こうも、いきなり『マナスポットが休止』すると、準備が間に合わないかもしれませんので」
「分かりました。直ぐに収納で兄さまに伝えておきます」
「お願いします……しかし、もう慣れてしまいましたが、その収納と言い、極大魔法と言い……私達は後に語り継がれるだろう物語の中にいるんですねぇ」
しみじみと話すナーガさんの言葉に、僕は曖昧な顔で誤魔化しておいた。
そう言われても、僕も兄さまも日々を必死に過ごしているだけで、言われるような実感はありません! ルイス、カズイさん! 2人までそんな眼で見ないで下さい!
少しだけ居心地が悪い空気の中、兄さまが『悪魔のメニュー』と呼ぶ黒パンに齧り付いたのだった。
次の日の朝の事。
兄さまには、今日の朝からマナスポットを目指す事を、収納経由で知らせてある。今日中であれば、いつ休止させても大丈夫だとは思うが……
実は、少しだけ懸念がある。休止が夜になると主が逃げを選んだ場合、探し出すのが困難になるのでは無いか?
であれば、僕の猶予は午前中。正午までには、『マナスポットを休止』させなければ。
新たに気合いを入れ直し、ナーガさんへ話しかけた。
「ナーガさん、準備完了です。午前中には『マナスポットを休止』させるつもりです。申し訳ありませんが、チカラを貸して下さい」
「午前中ですか? 急ぎすぎると事故に繋がります。何か理由でもあるのですか?」
「少し考えてみたんです……休止が夜になってしまうと、最悪は主に逃げられてしまうかもしれません。であれば、ここは兄さま達では無く、こちらの班でリスクを取るのが最善だと判断しました」
「確かに……こちらと向こうの動きで1つの作戦であれば、エルファス君の言う通りですね。分かりました。もし、休止が夕方以降になるようであれば、明日に持ち越しましょう」
「はい!」
こうして僕達は、オーガの残党を正面から殲滅しつつ、街の中心にあるマナスポットを目指していく。
僕を先頭にして、地上をルイスと共に進んでいる。ナーガさんとカズイさんは完全な魔法使いのため、安全を取って木の上を移動してもらうよう話してある。
この数日でかなりの数のオーガを倒した事もあり、マナスポットまでの道のりは順調で、恐らくは1時間もあれば到着出来そうだ。
そんな少しの余裕がある中、後ろを歩くルイスが僕にだけ聞こえる声で話しかけてきた。
「エルファス、何を焦ってるか知らないが、お前は十分にやってるよ」
いきなり何を言うのか……心の中を見透かされたようなルイスの言葉に、驚きながらも平静を装って言葉を返した。
「僕は焦ってなんか無いですよ。ただ、兄さまの隣に立ち続けるために、鍛えなおさないといけないと思ってるだけで」
「そうなのか……まぁ、アイツの隣に立ち続けられるのはお前しかいないからな。でもな、無理はしなくちゃいけない時だけにしとけよ。ずっと張りつめてちゃ、いつか破裂しちまうぞ」
「……」
ルイスの言う事は尤もだ。確かに僕もこの3年、遊んでいたわけじゃない。修行の時間も毎日取り、寝る前の魔力操作も欠かした事は無い。
であれば、良いのだろうか? 兄さまが帰ってくれた事で、これから実戦は嫌と言うほど経験する事になるのだから……
ルイスの言葉で少しだけ胸につかえていた物が取れた気がする。ふと後ろを歩くルイスを見ると、肩を竦めて笑っていた。
「全く、アイツに付いて行くのは大変だぜ。必死にならないと、直ぐに置いてかれちまう」
「本当に……そうですね」
お互いに苦笑いを浮かべていると、ルイスが前を向いて口を開いた。
「おっと、オーガが来たぜ。おしゃべりはここまでだ」
「はい」
こうして僕達は大きな問題も無く、マナスポットを目指して進んでいくのだった。
ルイスと話してから1時間ほど進むと、オーガの上位種 2匹の姿を見つけた。2匹はドス黒い大きな岩を守るように座り、周りのオーガが食料を運んでいる。
どうやら、あの黒い岩がマナスポットで間違い無さそうだ。
マナスポットを休止させるには、先ずはあの2匹と周りのオーガを倒さないと。
「ルイス、マナスポットです。一旦 下がりましょう」
「分かったぜ」
僕とルイスが100メード程 もと来た道を下がり、茂みに身を隠すとナーガさんとカズイさんが降りてきた。
「エルファス君、上位種が守っていた黒い岩がマナスポットですね?」
「はい。先ずはアイツ等を倒さないと、どうしようもありません」
「上位種2匹にオーガも見えただけで5匹はいました。誘い出して個別に倒せれば良いんでしょうけど……」
「それは……恐らくは難しいと思います。あれだけ密集してては、1匹ずつおびき寄せるには無理があるかと……」
「ですよね……であれば、正面から倒すしか無いわけですが、上位種2匹とオーガが最低でも5匹……流石にエルファス君でも厳しいですよね?」
「倒すだけなら問題ありません。ただ、散らばると面倒なので、奇襲で上位種2匹を先に倒そうかとと思います」
「き、奇襲ですか? それに、あの数のオーガが問題無いって……」
「何とか出来ると思いますので、皆さんは上位種を倒した後に合流してもらえると助かります」
ナーガさんだけで無く、ルイスとカズイさんも僕を呆れた目で見て、乾いた笑みを浮かべている。
「エルファス、やっぱりさっきの発言は撤回だ。今はほんの少し……アルドが1歩先を歩いているだけで、お前は間違いなくアイツの隣にいるよ」
ルイスはそう言いながら、少し強めに背中を叩いてきた。
そうなのだろうか? ルイスの言葉に、焦っていた心が落ち着いて行くのを感じる。
そこからは具体的にどう攻めるかを話し、サポートのタイミングを決めて行った。
「じゃあ、エルファス君が上位種を倒してから、私達はサポートに入れば良いんですね?」
「はい、それでお願いします。絶対に上位種を倒すまでは近づかないで下さい。本当に危ないですから」
「ハァ……分かりました。ここはエルファス君にお任せします。但し、危なくなったら絶対に逃げて下さい。約束ですよ?」
「はい、約束します。無理はしません」
「であれば私からは何も言う事はありません。2人共、聞こえていたと思いますが、エルファス君が上位種を倒してからが私達の出番です。せめて全力でサポートをしましょう」
「は、はい。ベストを尽くします!」
「はい。正直、エルファスに全部 任せるのは心苦しいですが……エルファス、せめて後ろは任せろ。絶対にお前の後ろは守ってやる。絶対にだ!」
「ありがとう、ルイス。当てにしてるよ」
こうして再び、ナーガさんとカズイさんは木の上へ。ルイスは僕の後ろに付いてマナスポットへと向かって行ったのである。
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