第372話マナスポット休止 part2

372.マナスポット休止 part2






再度、全員でマナスポットへと進んで行き、上位種の姿が見える場所まで移動すると、僕はルイスへ小声で話しかけた。


「ルイス、僕は空から奇襲をかけるつもりです。上位種を倒すまで絶対にここを動かないでください」

「分かった。但し、お前が危ないと思ったら躊躇わずに出るからな。オレが安心できるくらい圧倒してくれると助かるぜ」


ルイスの言葉には何も答えず、曖昧な笑みで返しておいた。

きっとルイスは言葉の通り、僕が危険だと判断したのなら、自分の身を顧みる事無く飛び出してくるのだろう。


改めて、僕は良い友人を持った事に感謝して心の中で頭を下げた。

意識を切り替えて上位種をもう一度 覗き込むと、先ほどと同じ場所で雑魚のオーガが運ぶ何かの肉を美味そうに食べている。


僕はルイスに『待機』のハンドサインを出してから、空へと1人 駆け上がっていく。

かなりの高度まで上がり、これならオーガ共に気が付かれる事は無いはずだ。


僕は片手剣を持ったまま、右手の人差し指を伸ばし魔力を貯めていった。

全魔力の1/4を込め終わり、魔力変化で『雷』へと変えていく……そう、僕は今回『雷撃』で奇襲をするつもりなのだ。


兄さまのスタイルを真似て、片手剣とナイフでの二刀で奇襲する事も考えたが、ここは確実にいきたい。

魔力の消費は厳しいとは言え、『雷撃』であれば瞬時に方が付く。


指先の魔力が薄い紫に変わったのを確認すると、小さく呟いた。


「行く!」


重力に引かれるまま真っ直ぐに上位種へと落ちていく……目指すは上位種の2匹のみ。

上位種との距離が50メードを切った瞬間、空気を割るような轟音と共に紫電の光が3つ迸る。


3つの紫電の内2つはそれぞれ上位種の脳天の落ち、もう1つは食糧を運んでいたオーガへと走っていった。

上位種の2匹は体中から煙を上げピクリとも動かず、雑魚のオーガに至っては燃え上がっている。


これで上位種の脅威は取り除いたはずだ。

念のため5メードの範囲ソナーを打ち、確実に死んでいるのを確認してから、何が起こったのか分からず呆然とするオーガの群れへと突っ込んでいく。


先ずは一番近いオーガの首を刎ね、2匹目のオーガに向かう途中、ルイスが合流した。


「エルファス! お前、あれは雷の魔法だろうが! 使うなら先に言えよ!」


どうやらルイスは『雷撃』を知っているみたいだ。きっと兄さまと別行動をしている際に見たのだろう。


「すみません。『雷撃』を知ってるとは思わなくて……」

「もう良い! 取り敢えず残りのオーガを倒すぞ!」


そう言ってルイスはオーガに向かって走っていく。

ナーガさん、カズイさんのサポートもあり、ものの5分もしないで、この場にいるオーガは全て倒してしまった。


「ふぅ、何とかなったな。でもお前、あの魔法は自動照準なんだよな? 危うく飛び出す所だったぜ」

「ごめん、ルイス。知ってたなら説明したんですが……」


「アルドから聞いたが、電気? だかの魔法らしいな。オレには意味がさっぱりだったが、アルドとお前には分かるんだろ?」

「実は僕にも原理は分からないんです。きっと兄さまの持つ『使途の叡智』だけが、理解できる……」


「は? お前は『使途の叡智』を持ってないのか? アルドと同じ使徒なのに?」

「僕には『使途の叡智』はありません……僕はきっと真の使徒じゃ無いんです。マナスポットの光も兄さまと違って、最初は畏れを感じましたから……」


「マジかよ……」


ルイスの驚いた顔が酷く印象的だった。でも、これはずっと昔、僕が使徒になった時から思っていた事でもある。

思い返せば7歳の頃……お爺様に初めて指輪を見せてもらった際、僕は確かに畏れを感じていた。


兄さまが使徒になった時も同様だ……使徒になった兄さまと魔力共鳴をして初めてマナスポットの光を「暖かくて懐かしい」と感じられるようになったのだから。

きっと僕は兄さまの影のような存在なのだろう。


戦えないアオに変わって、精霊王が僕をもう1人の使徒にしたのか……それとも本当に何かの偶然で、僕も使徒になったのか……今となっては分からない。

ずっと昔、アオに相談した時も「そんな事、僕に分かるわけないじゃないか。僕との証があるんだからエルファスは間違い無く使徒だよ。それ以上は将来 マナストリームに還ってから精霊王様に直接 聞いてくれよ」と言われてしまった。


どうやらアオからすれば、使徒の証である『指輪』を持つ以上 僕も兄さまも同じように使徒として接するだけのようだ。それ故、僕と兄さまを区別するような事も無いのだが。

これは他の人も同様で、僕が最初は畏れを感じていた事を知っているはずの、母さまやアシェラ姉、兄さまさえも僕を使徒として接してくる。


アオですら分からないのであれば、本当に事実は僕がマナストリームに還った際に、精霊王に聞く以外には答えが見つかる事は無いのだろう。

昔アオに聞いた後で、少し残念なような、少しホッとした事を覚えている。


「でも僕が使徒の証を持つ事には変わりありません。兄さまに連絡して直ぐに『マナスポットを休止』させます。その間はルイス、背中を預けます」

「お、おう……任せろ! お前まではオレの命に代えても絶対にオーガは通さない!」


ルイスと話していると、直ぐにナーガさんとカズイさんが降りてきた。


「エルファス君……さっきの魔法は何ですか? 雷みたいでしたけど……」

「すみません、あれは僕にも原理が良く分からないんです。兄さまなら分かると思うんですが……」


「アルド君しか……そうですか……分かりました。すみません、今はそんな事よりマナスポットの休止でしたね。打ち合わせ通り、私、ルイス君、カズイ君で3方向に散りましょう。今回は初めてのマナスポットの休止です。何があるか分からない以上、絶対にエルファス君まで敵を近寄らせない事が重要です。無理を承知で言いますが、絶対にオーガを通さない事……良いですね?」

「はい、任せてください。オレの命に賭けて、エルファスまでは絶対にオーガを通しません!」

「は、はい……精一杯頑張ります」


ナーガさんは、自信の無さそうなカズイさんに苦笑いを浮かべて、3人を連れて所定の場所へと移動していった。

1人残された僕の目の前には、背よりだいぶ大きな黒い岩が、禍々しい気を放ちながら存在を主張している。


先ずは兄さまへの連絡をしなければ。僕は早速アオを呼び出した。


「エルファス、ここは……マナスポットか……本当にマナスポットを休止させるつもりなんだね?」

「ごめん、アオ。これだけは譲れないんだ。悪いけど、兄さまへこれからマナスポットを休止させるって伝えてほしい」


「分かったよ……ただ、絶対に核だけは壊さないでくれよ。絶対だぞ!」

「分かってるよ。僕もマナスポットを壊したくなんて無いんだ。こうして禍々しい気を発してるマナスポットでも、見てると何だか愛おしく感じてくる……それと同時に悲しくもなるけどね」


「それはエルファスが使徒だからだよ。マナスポットはマナの噴出口だ。幾つもの命が折り重なったマナが、穢れた噴出口を見て悲しんでいるからさ」

「僕が使徒だから……」


「ああ、そうさ。アルドとエルファスは僕の自慢の使徒だ。だから、クドイようだけど、間違って核を壊したりしないでくれよ」

「分かったよ、アオ。君を失望させないように精一杯やってみる」


「ああ、エルファスなら安心できる。アルドは何をやらかすか分からないからね……じゃあ、僕はアルドの所にいくから」


そう言ってアオは消えていった。

ふぅ……先ずは核の位置を調べないと……ゆっくりとマナスポットに触れソナーを打った。


目を閉じ瞑想に入って、ソナーの反射してくる魔力に全神経を集中していく……分からない……もう一回……分からない……もう一回……

何度 打ったか分からないほどのソナーを打ち、魔力が1/4を切った頃、とうとう微かな魔力の揺らぎを感じられた。


「やった! 見つけました!」


喜びと共に目を開けると、驚いた事にオーガとの戦いに疲れ果てたであろうルイスが、疲労困憊で荒い息を吐いているのが見えた。


「ルイス!」


思わず駆け寄りそうな中、ルイスの怒号が響き渡る。


「来るな、エルファス! お前はお前のやるべき事をやれ! こっちはオレのやるべき事だ……間違えるんじゃねぇ……」


周りを見ると、ルイスだけで無く、ナーガさんもカズイさんも疲れ果て、魔力枯渇の症状も見て取れた。

これは……一度 撤退するべきなんじゃ……そんな思いが過るが、皆の目に諦めの色は無い。


であれば! 僕は左手をマナスポットに当て、もう一度ソナーを打つ……既に一度は感じられた核の位置だ。もう一度ソナーを打ったのは確認のため。

片手剣に魔力を纏い、超振動をかけていく。兄さまから受け取った、かつてないほどの鋭さの魔力武器も発動し、片手剣を大きく振りかぶる!


一閃!!


僕は核スレスレを狙い、片手剣を真っ直ぐに振り下ろした。

ゆっくりとマナスポットが2つに割れ、核が無い方はまるで最初から砂で出来ていたかのように崩れ去っていく。


それと同時に、残った側のマナスポッからはドス黒い光が徐々に消えていき、終いにはただの岩と見分けがつかなくなってしまった。


「これで……マナスポットは休止したのか?」


何気なく言った、僕の独り言に返す言葉があった。


「ああ、そうだね。これでここのマナスポットはちゃんと休止したよ。エルファス、言った通り核は壊さなかったみたいだね。良くやったよ」

「アオ……いつの間に?」


「し、信じて無かったわけじゃないよ? ただ、ちょっとだけ心配だから見にきただけさ……う、嘘じゃない」

「そう……じゃあ、急いで兄さまの所に行かないと……」


アオにそう言って歩き出そうした所で、視界が歪む……転びそうになった所を、何時の間にかいたルイスに抱きかかえられてしまった。


「エルファス、魔力枯渇だ。お前はもう戦えない」

「でも兄さまが……」


「ここから、どれだけ急いだって3日はかかる。後はアルドに任せようぜ。お前はお前のやるべき事をしっかりやったんだからな」

「そうか……僕はやりとげたのか……」


「ああ、先ずはこんなオーガ臭い場所から逃げ出すぞ。ほら、おぶされ」

「え、いや……ルイスだって疲れてるのに……」


「今のお前よりはマシだよ。ほら、早くしろって。オーガが来ちまうだろ?」

「ごめん……」


「謝るな、胸を張れ。全てを完璧にこなしたお前は、間違いなく立派な使徒なんだからな」


ルイスの言葉を聞きながら、やりきった安堵と共に僕の意識は闇の中へ落ちていった。




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