第373話オーガ part1

373.オーガ part1






オレ、母さん、アシェラ、ネロの4人で夕食を摂っていると、いきなりアオが目の前に現れやがった。

おま、スープをこぼしちゃっただろうが!!


「アルド、エルファスから伝言だよ。収納を見ろだってさ」


アオはそれだけ言って、こちらが何か言う前に、何も言わず消えてしまった。お前……この零れたスープどうするんだよ……ドラゴンアーマーがスープ塗れじゃないか!


「アル、スープに塗れてる所 悪いんだけど、手紙を見せて頂戴」

「分かりました……」


必死にドラゴンアーマの奥にまで入ったスープを拭いていると、手紙を読み終えた母さんが真剣な顔で話し始めた。


「どうやら明日中には、マナスポットを休止させるみたいね……エルから絶対に主を逃がさないようにって書かれてるわ」

「そうですか。エルがここまで言うとなると、主を逃がした場合 将来に大きな禍根が残りそうですね……」


「ええ、あの子の勘は妙に当たるから……」


そこからは手紙を読ませてもらって、夕食の続きを再開していく……オレのスープ……グスン。

結局、3人で相談した結果、今日の夜の嫌がらせと明日の雑魚狩りは、戦いに備えて止めておく事にした。


これは主との決戦に対して、魔力を100%注ぎたいからだ。いざという時に魔力が足りませんでは話にならない。

こうして、意識を明日の決戦に合わせて、各自がそれぞれ闘志を漲らせていくのだった。






次の日の午前中、母さんもアシェラも口数が少なくエルからの連絡を待っていた。

すると、突然 オレの指輪が光出し、アオが飛び出してくる。


「アルド、エルファスがこれからマナスポットを休止させる。ここまでするんだ。主は絶対に倒してもらうからね」

「ああ、分かってるよ、アオ。ここでアイツは絶対に倒す」


「それと、ここの主は証を2つ持ってるはずだから、ちゃんと2つ共 回収してくれよ。じゃないと休止させたマナスポットに僕が干渉出来ない」

「休止させても、マナスポットは解放できるのか?」


「ああ、マナの精霊である僕なら可能なはずだ。解放しておかないと、マナスポットが復活した際に近くにいた者が契約しちゃうからね。それが動物なら良いけど、魔物だと主の討伐からやり直しになる。アルドも、いつ復活するか分からないマナスポットに張り付くなんて嫌だろ?」


アオの言う事は非常に理解できる話だ。ここまで苦労して主を倒して、またやり直しとか……どんな罰ゲームなのかと。


「分かったよ。ただ、ソナーで証の位置が分かるのは、マナスポットから魔力が流れ込んでいるからだ。休止したマナスポットだと、当然 加護が消えるんだろ? その状態でソナーを使って、証の位置が分かるのか?」

「そんな事、僕に分かるわけ無いじゃないか。本当にアルドは……恐らく休止中のマナスポットなら、主を倒しても証はそのまま体に残るはずだ。最悪は主の体を丸ごと、向こうのマナスポットに運ぶしか無いね」


「そうなのか……でも、主のあの巨体を全部 運ぶとか……」

「しょうがないだろ。それとも、さっきも言ったけど、新しく生まれた主をもう一度 倒して最初からやり直すかい?」


「分かったよ……どっちにしてもソナーで探知出来るかは、主に挑まないと分からない事だしな」

「まぁ、そうだね。じゃあ、僕はエルファスの所に行くよ。エルファスなら問題無いと思うけど、万が一があるからね。アルド、後は頼んだよ」


そう言ってアオは慌ただしく消えていった。


「アル、アオはああ言ってたけど、先ずはあのクソオーガを圧倒出来ないと意味が無いわ。最悪はここのマナスポットを壊してでもアイツを倒すわよ!」

「そうですね。ソナーを打つにしても、以前のアイツにそんな余裕は持てなかったですから……加護が1つになって、どこまで弱体してるかですね」


「ええ。エルがマナスポットを休止させると同時に攻めるわよ。ソナーが効くかどうかは、それからの話ね……取り敢えずオクタールに向かいましょう」

「はい、母様」「分かった、お師匠」


先ずはオーガがどこまで弱体されるか……以前のハクさんの時に、オーガの主へソナーの1発でも打ち込んでおけば……

何も考えず、コンデンスレイで焼き払ってしまったのが悔やまれる。


少しの後悔を感じながら、オレ達はオクタールへ向かっていった。






オレ、アシェラ、母さんの3人はオクタールの城壁に降り立ち、廃墟と化した街を見下ろしている。

オーガによって壊された建物も勿論あるが、やはり最大の被害を出したのは、オレが放ったコンデンスレイに寄る物なのは間違い無い。


オクタールでは、ほぼ全ての物が焼き尽くされてしまっており、城壁すらも一部が溶け落ちてしまっている。


「母様……ここまでの被害を出したんですから、絶対にアイツを倒さないと……街の人も浮かばれません……」

「そうね。アイツはここでキッチリ倒すわよ。アル、アシェラ、気合を入れなさい!」


「はい!」「はい、お師匠!」


それから少しの間 待っていると、唐突に指輪が光りアオが飛び出してくる。


「アルド、エルファスがマナスポットを休止させた。今なら主の加護は1つしか無いはずだよ」

「分かった。母様、範囲ソナーを打ちます」


直ぐに500メードの範囲ソナーを打つと、主はマナスポットの傍にはいなくなっている……くそっ、どうやらアイツは西門へ移動しているようだ。

この方向……恐らく主は、急に向こうの加護が無くなった事で、あちらのマナスポットを見に行くつもりなのだろう。


「母様、マズイです! アイツはエル達の所に向かっています。このまま見失えば、エル達と鉢合わせする可能性が高い!」

「あのクソオーガ! 本当に! 本当に鬱陶しいヤツね! 直ぐに追うわよ。アル、案内して」


「はい!」


母さんに言われるまま、主を追うために3人で空へと駆け上がって行く。

主までの距離は500メードほど……しかし、アイツの方が早い……このままじゃ、追いつけない。


「母様、このままじゃ置いて行かれます。僕とアシェラで先行するので母様は後から来てください!」

「しょうがないわね……でも、無理はダメよ。それに、アイツに引導を渡すのは私なんだから! 足止めだけしておいて!」


「……分かりました」


母さん……どうやっても、その頭の仕返しをしたいんですね。

思い通りにいかない主へ、怒り心頭の氷結さんはおいといて、オレはアシェラへ向かって声をかけた。


「アシェラ、先行するぞ。付いて来てくれ」

「分かった!」


そこから最速で空を駆けると、徐々に主との距離は近づいていく。勿論 母さんの姿は既に見えなくなっているが。

そこから数分が経つ頃には、地上を真っ直ぐに走る主の姿が見えてきた。


「アシェラ、いた! 主だ。先ずはアイツの足を止めて、ソナーを打つ。フォローを頼む」

「分かった。ボクも状態異常を撃ち込んでみる」


「頼む。行くぞ!」


アシェラと共にバーニアを吹かせて、主へと真っ直ぐに突っ込んでいく。

今回はアシェラが一緒なので、リアクティブアーマーは無しだ。万が一、巻き込むのが怖い。


であれば……ここ最近は最初の一当てにはリアクティブアーマーが定番だったが、以前のようにウィンドバレット(魔物用)を10個纏って主へと吶喊した。

先ずは奇襲を! 主の背後から魔力武器(大剣)を発動させ追い抜きざまに斬り付ける!


ヤツに魔力武器が当たると思った瞬間、驚いた事にしゃがんで躱しやがった。

まさか気が付いていたのか……そんな思いが過る中、これはマズイ……オレは魔力武器を振り切った体勢で隙だらけである……反対に主はしゃがんだ格好のまま足にチカラを込め、次の行動に移ろうと気力を漲らせている。


ヤバイ……これは……咄嗟に魔力盾を展開しようとした所で、主は弾けるようにオレから距離をとった。

何故? 今のは決定的な隙だったはずだ……頭の中に???を浮かべていると、オレの直ぐ上には魔法拳を纏ったアシェラの姿があった。


「アルド、もっと慎重に攻める! 相手を舐めるのは悪い癖!」


アシェラは主の一挙手一投足を見つめながらも、横目でオレに苦言を呈してくる。

確かにチャンスだと思って、少し攻撃が単純すぎた。これは叱られてもしょうがない。


「行けると思ったんだけどなぁ……ごめんなさい……」

「先ずはソナーで証を調べるのが先。それから思う存分 蹂躙すれば良い!」


闘志を漲らせながら、恐ろしい言葉を吐いているのは、オレの愛すべき嫁である……その矛先が主に向かっているのを見て、何故か心の底から安堵してしまった。

浮気は絶対にしない事を誓っ……いやいや、今はそうじゃない!


「分かった。アシェラ、同時に攻めるぞ」

「うん!」


「行くぞ!」


アシェラとオレで主を挟むように位置を取り、主へと向かっていく。

主の攻撃は思った通り、以前とは比べ物にならないほど遅く、軽くなっていた。


しかし、腐ってもオーガの主である。加護を1つしか持っていなくとも、過去に戦ったゴブリンエンペラーなどよりは遥かに強い。

ハクさんとオーガの主を倒した時を思い出す……あの主が、コイツと同程度の強さであったなら、あの時のオレでは勝てなかっただろう。


尤もハクさんの話では、加護を防御に全振りしてたみたいなので、コイツほど疾さも重さも持っていなかったであろうが。

コイツは恐らく最初の加護を繁殖と自身の強化に使い、オクタールの加護を回復と更に自身の強化に振ったのだ。


そしてエルが1つ目のマナスポットを休止させた事で、最初の加護が消え繁殖と強化の半分を失った。

この強さであれば……主が必死になって、オレとアシェラの波状攻撃を躱している。


「アルド、コイツには麻痺が入るけど、直ぐに回復される」

「そうか……コイツの回復は状態異常にも効くのか……アシェラ、もう状態異常は良い。攻めるぞ!」


「分かった!」


主の体には生傷が徐々に増えていくが、それよりも早く傷が回復してしまう。

くそっ、これじゃあ、消耗戦になる……


焦る中でも、何度かのソナーを打ち込むと、コイツの額からおかしな魔力が伸びているのを感じられた。


「アシェラ、コイツの証は額だ! くそっ、これだと首を落とすしか方法が無い!」

「むぅ、厄介……」


恐らく、コイツは2つ目のマナスポットを得る際、奪われにくい頭を証にしたのだろう。 

流石は2つ目のマナスポットを手に入れただけはある……どうやら、かなり頭も回るらしい。


相手に感心した所で、こちらの不利に変わりは無く……しかも、ここはまだ領域の中だ。

消耗戦は圧倒的に、コチラが不利になってしまう……最悪は、オクタールのマナスポットを壊す事も視野に入れていたので、なるべく近くで戦う事を決めていたのではあるが……


クソッ、後 一手、エルが居てくれれば……そんな詮無い事を考えていた時、大きな声が響き渡った。


「アル、アシェラ、良く時間を稼いだわね! このクソオーガは私がグチャグチャのミチミチにしてやるわ! 覚悟なさい!」


氷結の魔女の声が辺りに響き渡ったのであった。




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