第370話邪法
370.邪法
アオはオレとエル以外に聞かれる事を嫌い、他の皆は洞窟の奥へと移動してもらった。
それでも話したがらないアオだったが、オレとエルのお願いに最後には渋々ながら重い口を開いてくれた。
「アオ、精霊王にはオレも一緒に謝るから。な? 頼む、マナスポットを休眠される方法を教えてくれ」
「アルド、いつも様を付けろって言ってるだろ。不敬だぞ、全く……マナスポットを休眠させる方法を言う前に、これだけは覚えておいてほしい。この方法は本来 絶対にやっちゃいけない事なんだ。次回からも、この方法を使おうなんて安易に考えないでくれ」
「分かった。絶対に使わないとは言えないが、簡単に使うような真似はしない。約束する」
アオはオレをジッと見つめていたが、観念したように口を開いた。
「本当は言いたく無いんだけど……ハァ……実はね、マナスポットには核と言われるコアの部分があるんだ」
「核? あー、そう言えばスライムの時、直接 核にマナを注ぎ込んだって言ってたな」
「良く覚えてたね。その核が無事ならマナスポットが壊れる事は無いんだ……もう分かると思うけど、核を残して外殻の部分を壊せばマナスポットは休眠状態に入る。ただ、この方法はマナスポットにかなりの負荷をかけるし、そもそも正確に外殻部分だけを壊す事なんて普通は出来ないからね。アルド達がソナーを使ってマナスポットの内部を調べる事が出来るから教えたんだから……絶対に他言はしないでくれよ」
「分かったよ、アオ。しかし、マナスポットの核以外を壊す……アオ、主って大体 マナスポットの近くにいるよな? マナスポットを詳細に調べて、核を残して壊す時間なんて普通は取れないんじゃないか?」
「まあね。この方法は2つ以上のマナスポットを得た主にしか通じないんじゃないかな。そもそも、禁忌の邪法だしね」
「そうか。絶対に他言しないから安心してくれ……でも、アイツは2つのマスポットを得て、強さと同時に弱点も2つ出来てしまったって事か……アオ、これでアイツを倒す算段がつきそうだ。ありがとう」
「くれぐれも他言しないでくれよ。姐さんやアシェラにも秘密だぞ。本来は使徒にも話しちゃいけないのに……ハァ……」
アオは大きな溜息を吐くと、疲れた顔で消えていった。
「エル、今の話はオレとお前の間だけの秘密だ。母様やアシェラ、マールにも絶対に話さないようにしよう」
「はい。アオが禁を破ってまで教えてくれた方法です。絶対に他言しません」
オレとエルは、この件だけは絶対に墓場まで持っていく事を決めて、皆の下へ戻っていった。
改めて全員に集まってもらい、休止の説明をしなくてはいけないのだが、どうやって話せば良いのか……
悩んだ末、正直に話す事にした。
「アオからマナスポットを休止する方法を聞きましたが、絶対に秘密にしろと言われました。申し訳ありませんが、この方法だけは僕とエルが墓場まで持って行きます。すみません……」
オレ達が絶対に話さない意思を示すと、全員が眉根を下げて見つめてくる。
そんな微妙な空気の中で、最初に声を上げたのは意外な事にネロだった。
足が無くカズイに抱かれながらも、何てこと無いように口を開く。
「しょうがないぞ。精霊様も、アルドとエルファスにしか話せない事だってあるんだぞ」
「そうだよな。そもそも、今だって知りすぎなくらいなんだ。マナスポットを休止させるとか……場合によっては、世界の色々なバランスが崩れかねない」
ネロとルイスの言葉にナーガさんが続く。
「確かにルイス君の言う通りですね。マナスポットの恩恵が無ければ土地が死んでしまう以上、万が一 心無い人に知られれば国や他領との争いに使われ兼ねません」
「聞きたい気持ちはあるけど、しょうがないわね。アル、エル、その代わり、絶対に誰にも知られないようにしなさい。何処かに書いたりしてもダメよ。アナタ達の記憶にだけ残して、一切の痕跡を残さない事。良いわね?」
「「はい!」」
「それで確認なんですが、マナスポットを休止するには、アルド君かエルファス君がいれば問題無いのでしょうか? 他に何か必要な物があるとか?」
「いえ、僕かエルのどちらかが、その場にいれば大丈夫です。ただ、恐らく1時間ほどの時間が必要になるかと。それと魔力も半分以上は残っていないと厳しいと思います……」
「そうですか……1時間と魔力が半分……」
ナーガさんは何かを考え始めて、30分ほどの沈黙の後、唐突に口を開いた。
「もう1つのマナスポットを休止させましょう」
「もう1つのマナスポットって……主がオクタールを攻める前に加護を得ていたマナスポットって事ですか?」
「そうです。主はオクタールから動こうとはしない以上、もう1つのマナスポットを休止させた方が安全です。勿論 そちらもオーガの巣になっていると考えられますから、それなりの戦いはあるでしょうが……」
「なるほど。以前 ここから近いマナスポットの場所をアオに聞いた事があります。恐らくはそこが主のもう1つのマナスポットかと」
どう動くのが一番良いのか。それぞれが思考を重ね、場には沈黙が訪れる。
そんな中、エルが覚悟を秘めた目でゆっくりと口を開いた。
「僕が解放に行きます。ナーガさん、ルイス、カズイさん、『マナスポットを休止』させる間のフォローをお願いできませんか?」
「待ってください。私とエルファス君、ルイス君、カズイ君の4人でマナスポットを目指すつもりなんですか? 主はいないとしてもオーガの巣です。危険すぎます」
「元々 アイツは寿命が付きかけてオクタールを狙ったはずです。だとしたら、もう1つの『マナスポットを休止』させた瞬間、アイツはきっと次のマナスポットを狙うに違いありません。休止に全員で向かってしまえば、恐らく主を見失ってしまう……アイツはここで、この場所で、キッチリ倒す必要があります!」
ナーガさんは、エルの気合に満ちた目に驚きながらも何かを考え始めた。
「弱体化させたとしてもオーガの主……強敵には変わりが無いわ。そこにアルド君、アシェラさん、ラフィーナ、私達の最高戦力を当てると言うわけですか」
「はい。本当は僕の方が主との相性は良いのでしょうが……これ以上 誰かが傷つくのは耐えられません。盾を持つ僕が、ナーガさん、ルイス、カズイさんと、『マナスポットの休止』に向かうのが最良と判断しました」
エルの今の言葉は、3人を自分の盾で守る……ぶっちゃけるとナーガさん、ルイス、カズイの事をハッキリ『弱い』と言ったようなものだ。
しかし、現状でエルの案以上の物があるわけも無く……
「ハァ、分かりました……使徒様に守ってもらうしか無さそうですね」
「すみません。失礼な事を言って……本当は僕1人で行くのが良いんでしょうが、『マナスポットを休止』させる間は恐らく集中しないといけないので」
「大丈夫です。道中は守ってもらうのですから。1時間ていど、私達3人でキッチリ露払いしますよ」
「ありがとうございます」
こうして、これからの方針は決まった。相談の結果、4人はこれから睡眠を取って、明日の昼にここを発つ。
居残り組はと言うと、明日から引き続き雑魚の掃除と主への嫌がらせを続ける事が決まった。
次の日の昼、エル達はもう1つのマナスポットを目指すため、最後の昼食を一緒に摂っている所だ。
「エル、無理はするなよ。殆ど雑魚ばかりとは思うが、上位種の数匹はいるはずだ。くれぐれも安全にいってくれ。今回は負傷者が多すぎる……もう誰にも傷ついてほしく無いんだ……頼む、皆を守ってくれ」
「大丈夫ですよ、兄さま。アオから聞いた場所には、ここから3~4日で辿り着けるはずです。そこから準備に2,3日……確実に『マナスポットを休止』させますから。その時には直ぐにアオ経由で知らせますので、絶対にアイツを逃がさないで下さい。もし逃がしたら……将来 確実に後悔するような気がするんです……」
「任せろ。アイツはここで確実に倒す。得た加護が1つなら、オーガの主は倒した事があるんだ。尤もコンデンスレイで焼き払っただけだけどな」
そこからは、ナーガさん、ルイス、カズイとも話し、怪我だけはしないよう何度も注意しておいた。
「では行ってきます。ラフィーナ、こっちの班は、アナタがしっかりしないといけないんだからね。頼むわよ」
「分かってるわ。何度も細かい事ばかり言って……ナーガ、アナタ、小姑みたいよ」
「なっ、こ、小姑って……」
「皆、気を付けて行ってらっしゃい。それと、アオはああ言ったけど、私はこっちのマナスポットを壊す選択肢を捨てたわけじゃないわ。どうしても無理だと判断したら、私は躊躇わないわよ」
母さんが獰猛な顔で恐ろしい事を言っている……全員が呆れた顔をしながらも、『氷結の魔女』の判断力と決断力に改めて感心したのだった。
エル達が発った次の日。エル達なら問題無いだろうが、今回は怪我人が多すぎる。十分に気を付けて行動してほしい。
居残り組は、ネロを洞窟に残して相変わらずオクタールから溢れる雑魚を虱潰しに倒している。
実際に雑魚狩りをしてみて、想像以上にオクタールから出てくるオーガの数が減っているのに気が付いた。
考えてみれば、確かに主には撤退させられたが、エルの班とアシェラの班ではオーガを蹂躙していたはずだ。
母さんとも相談した結果、再度 状況把握のためにオーガの様子を調べてみる事にした。
早速、オクタールの上空まで出て範囲ソナーを打つと、驚いた事に主は相変わらずマナスポットの傍にいたが、上位種はおらず雑魚のオーガは50匹にまで減っている。
しかも、その50匹も五体満足な者は半分に満たず、満足な食料は狩れていないようだ。
どうやらオーガ達はかなりの食糧難に陥っているらしく、かなり疲弊していた。
更にオクタールから出てくるオーガの殆どは怪我をしており、酷い者だと瀕死の者までいる。
これなら主に挑めるかとも思ったが、先日の主の動きはオレやアシェラよりも疾かった。
やはり、ここはエル組の働きに期待して、ジッと待つのが正解なのだろう。
こうして昼は雑魚の殲滅、夜は魔法を撃ちこんでの嫌がらせを続けていくのだった。
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