第369話オクタールの街リターンズ part4
369.オクタールの街リターンズ part4
オクタールの街から逃げ出して、オレはアシェラと母さん、ナーガさんの4人で洞窟へと向かう所だ。
主が怒りの咆哮を上げながら礫を投げてくるが、分かっていれば躱す程度 造作も無い。
こうして眼下に主を見て改めて思う……オクタールから逃げ出すのは、これで2度目となる。今までも様々な敵と戦ってきたが、ここまで手こずった相手は初めてだ。
『本当に今のオレ達で、この主を倒せるのか?』
勝てるように作られているゲームとは違い、これは現実の戦いである。であれば、勝てない相手がいてもおかしくは無いのだ。
こんな事なら、いっそ最初からマナスポットを破壊するべきなのだろうか……既にネロが足をやられ、母さんも死の淵を彷徨った。これ以上戦えば、次は誰かの命が失われるかもしれない。
でも、マナスポットを使徒 自ら壊すなんて……そんな事が許されるのか?
答えの無い問題を解くかのように、出口の無い思考を重ねながら、ルイス達が待つ洞窟へと向かったのだった。
4人で洞窟に到着すると、ネロは応急処置の血止めを施されて寝かされていた。
痛みが酷いらしく、脂汗を流しながら呻き声を漏らしている。
「ラフィーナさんは無事だったんだな。良かった……」
「あ、アルド……ぐっ……ご、ごめんだぞ……つっ……へ、ヘマ……しちゃったんだぞ……」
「分かったから、ネロ。もうしゃべるな。直ぐに回復魔法をかけてやるからな」
ネロは悔しそうな顔で小さく1つだけ頷いた。
「先ずはソナーを打つぞ、ネロ。もう少しだけ我慢してくれな」
「だ、だいじょうぶ……だぞ……」
辛そうなネロを見ながら、体全体と足へ重点的にソナーを打つ……どうやら足以外は軽い打撲だけのようで、命に別状は無さそうだ。
しかし、右足は既に膝の下から無くなっており、左足も原型を留めてはいない。
放っておいて良い状態で無い事は、一目瞭然である。
「ネロ、先に右足だけヒールをかけるからな。ヒール!」
いきなり修復など出来るわけも無く、取り敢えずは応急処置のヒールをかけると、切断面の傷口が塞がっていき、新しい皮膚が出来ていく。
取り敢えず、右足はこれで良い……問題は左足だ。これだけ原型を留めていないとなると、切り落として新しい足を修復した方が早い。
しかし、ネロへ左足を切り落とすと伝えなくては……オレが言い難そうにしているのを察したのか、ネロは極力 明るい口調で話し始めた。
「あ、アルド……左足も切り落とした方が良いんだろ? オレは大丈夫なんだぞ。サクッとやってほしいぞ……」
「分かった……ブルーリングに帰ったら、絶対に直してやるからな……スマン、ネロ」
「謝るのはこっちの方なんだぞ……主を見たら怖くてしょうがなくなったんだぞ……オレのせいでアルドの母ちゃんを……」
「もう良い。後で聞くから……今は黙って歯を食いしばってろ」
少しでも痛みが無いように、魔力武器(片手剣)を出して単一分子の刃をイメージしていく。
「いくぞ、ネロ」
「いつでも良いんだぞ……」
ネロの言葉を合図に魔力武器を真っ直ぐに振り下ろすと、左足は綺麗に切り落ち、とめどなく血が流れだしてくる。
「ヒール!」
直ぐに応急処置のヒールをかけ、ネロへの応急処置は何とか無事に終えたのだった。
ネロへの応急処置を終え、5分ほどでエルとカズイが戻ってきた。
2人は目を見開いて驚き、悲痛な顔でネロを見つめている。
「2人共、オレは大丈夫だぞ。ブルーリングに帰ったらアルドに足を直してもらうんだぞ。だから、そんな顔はしないでほしいんだぞ」
「ネロ……」
「ネロ君、ブルーリングに帰るまでは僕がお世話をするよ。ここからの戦いは、僕じゃあ 多分ついていけないから……」
「ありがとなんだぞ、カズイ」
「ネロの仇は僕が取ります……アイツは母さまだけじゃなく、ネロまで……絶対に……絶対に許さない!!」
エルは珍しく本気で怒りを滲ませている。ここまで怒ったエルを、オレは初めて見たかもしれない。
いや、過去に一度……子供の頃、魔法の練習をしていたら風の魔法が暴発し、マールのスカートが捲れて泣いてしまった事があった。
今のエルの怒りは、あの時に匹敵する。確か木剣を片手に、鬼の形相で追いかけられたんだよなぁ……
あー、思考が逸れた。兎に角、エルは本気で怒っていると言う事だ。
そんな誰もが主への怒りを滲ませる中、ナーガさんは真剣な顔で口を開いた。
「皆さん、一度 落ち着きましょう。ラフィーナ、何があったのか教えて」
「分かったわ……あれは私達がオーガを間引きしだして…………」
母さんはオレがコンデンスレイを撃った後の事を順番に説明していく。
「…………そこでアシェラが、ヤツの顔面に一撃を入れたのよ。その隙に逃げ出してきたわ」
「そう……アルド君でも防戦一方だったの……しかも、回復持ち……やっぱりマナスポットを2つも得て、今までの主とは格が違うのね……」
「ええ、しかも、あのクソオーガ、私のウィンドバレットが効かなかったのよ。鬱陶しそうにするだけで……マシマシにしたウィンドバレットは流石に避けてたけど、正直 アイツにどれだけのダメージが与えられるかは分からないわ。こっちはこんな感じよ。ナーガとエルの方はどうだったの?」
「こっちはアシェラさんと一緒に…………」
班を分けていた間の事を報告していき、お互いの情報を共有した。その中で、アシェラとナーガさんの班では上位種を2匹倒したのだとか。
悪いニュースばかりの中で、唯一の良いニュースである。
「じゃあ、上位種の脅威は無くなったって事ですね。残る問題は、やっぱり主への対抗策ですか……」
「そうですね……アルド君、正直に答えて下さい。アルド君、エルファス君、アシェラさんの3人で立ち向かって、主を倒せると思いますか?」
「……分かりません。アイツは素手で攻撃してきました。動きがアシェラの攻撃に似ていて、オレとは相性が悪いんだと思います。しかも、アシェラより疾くて攻撃も重い……正直 3人で挑んだとしても、無傷で勝てるとは思えません」
「そうですか……3人でも難しい……であれば方法は2つですね。このまま兵糧攻めを続けて、主の消耗を狙うか……マナスポットを壊すか」
ナーガさんは全員が考えてはいたが、口に出さない事を淡々と告げた。
マナスポットを壊す……母さんからも最後の手段として提案されていた事である。
恐らく、ここからコンデンスレイを使えば、マナスポットを壊す事は出来るだろう。しかし、使徒 自らマナスポットを壊すなんて……そんな事が許されるのか?
オレはナーガさんの言葉を受けて、一言を返す事しか出来なかった。
「……アオに聞いてみます」
オレの言葉に、返事は何も無かった。ただ、全員が自分の力不足に悔しさを滲ませながらオレを見守るだけだ。
そんな一種 負け戦の空気の中で、オレは指輪に魔力を込めアオを呼び出した。
「どうしたんだい、アルド? ん? ここは領域の中だね。そうか、これから主を倒しにいくのか。アルドとエルファスがいれば大丈夫だと思うけど、気を付けてくれよ」
アオは普段と同じように軽口を言いながら現れたが、オレ達の様子を見て訝しげにしながら、更に口を開いた。
「どうしたんだい? 何か問題でもあるの?」
「ああ、少し……いや、かなり大きな問題がある。アオの意見を聞きたいんだ。実は…………」
そこからは、このオクタールに到着してから起こった事を順番に説明していった。
「ちょっと待ってよ。じゃあ、マナスポットをここから、あの極大魔法で壊そうって言うのかい?」
「まだ、決めたわけじゃない……ただ、マナスポットを壊した場合の被害や、そもそも使徒がマナスポットを意図的に壊した場合、問題があるのかを教えてほしいんだ」
「ハァ……あのねぇ、アルド。使徒の使命はマナスポットの解放だよ。どうしても倒せない主なら放っておけば良いんだ。主の寿命は短い。数年もすれば勝手に自滅するか、新たなマナスポットを求めて領域から出てくる。そこを狙って倒せば良い。マナスポットを壊すなんて、僕は絶対に許可できないよ」
アオの言う事は理解できる。確かに何百年と言うスパンで考えれば、アオの言う事は正しいのだろう。
しかし、アオの言う通りにすれば、エルフには何年にも渡ってオーガの被害が出続ける……理解は出来るが、オレの感情の部分がどうしてもアオの言い分を納得できそうに無い。
「アオ、お前の言いたい事は理解できる。ただ、その間 エルフには被害が出続けるんだ。オレにはその選択は取れそうに無い……」
「ちょっと待ってよ。何も僕だって、ずっと放っておけって言ってるわけじゃない。主が弱体するか、アルドが主を倒せるくらい強くなるまでの間だけの話だよ。アルド、その顔は納得して無いね……もぅ、エルファスや姐さんからも言ってやってよ」
アオはエルと母さんに話しを振るが、2人もオレと同じ意見のようで眉根を下げてアオを見つめている。
「アオ、悪いけど、今回ばかりはアルに賛成よ。流石にこれを放っておいたら、エルフとの同盟にもヒビが入るでしょうしね。それに何より、あのクソオーガはここで! 確実に! 肉片も残さず! 絶対に殺してやるわ!! 絶対によ!!!」
母さんの恐ろしいほどの怒りに、アオは驚きながら目を見開いている……お前、足が震えてるじゃないか。
「アオ、悪いけど、僕も兄さまの意見と一緒だよ。あのオーガは危険すぎる。放っておけば一体 どれだけの被害を出すのか……今、倒せる内に倒さないと……僕の勘がそう言ってるんだ」
エルの勘……昔からエルの勘は妙に当たる。これだけでも、オレにはマナスポットを壊してでも主を倒す理由が出来た。
「アオ、お前が言うように数年放っておいて、アイツが3つ目のマナスポットを得たら……きっと誰も勝てなくなる。エルが言うように、アイツはここで倒さないといけないんだ。頼む、チカラを貸してくれ。頼む、アオ」
アオは呆れた顔でオレ達を見回すと、溜息を吐きながら口を開いた。
「ハァ……全員がアルドと同じ意見なのか……分かったよ……」
「アオ! ありがとう」
「ただし、マナスポットを壊すのはやっぱりダメだよ。その代わり、マナスポットを休眠状態にする方法を教えるよ。そうすれば、休止させたマナスポットから加護が主へ送られる事は無くなる」
「そんな方法があるのか? それなら今までも、もっと楽に開放出来たんじゃないのか?」
「今から言う事は邪法だよ。本来 使徒が行って良い方法じゃない。しかも、マナスポットにも大きな負担がかかるんだ……ハァ、元に戻るのにどれだけの時間がかかるのか……精霊王様、愚かな僕や使徒に許しをお与えください……」
こうしてアオは重い口を開くのだった。
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