第211話ミルドの街 part1
211.ミルドの街 part1
関所を越えて3日目の夕方、やっと目的地であるミルドの街へと到着する事が出来た。
明日から2日間で迷宮探索の準備をしていく。
今日は夕方なので宿屋に泊まり、明日からは借家を借りて拠点を作る事になる。拠点はメイドを1人雇って料理長と2人で探索の間の維持をしてもらう予定だ。
「私は冒険者ギルドへ行って情報を集めてきます。料理長はルイス君、ネロ君、リーザスさんと一緒に食料の確保をお願いします。ジョーさん、ゴドさん、ジールさんは借家の手配をお願いします。ラフィーナ、アシェラさん、ライラさんはメイドの手配をお願い。アルド君は馬車を動かせるようになったのよね?」
「はい」
「じゃあ、エルファス君と一緒に馬車の管理と荷物の護衛をお願いします。たぶんこれが一番問題が起きる可能性が高いです」
「街の中なのにですか?」
「ええ。最悪、食料はアルド君の保存食を除いて無くなっても良いです。但し食料以外は絶対に奪われないでください。雨具やロープですらここでは何倍もする筈ですから」
「分かりました……」
そんなになのか……何処の世紀末なんだ……トゲの付いた肩パットを付けて「ヒャッハー」とか言ってないよな?大丈夫なのか、この街は……
ミルド領に入ってからは、昼間に御者をするゴド、ジール、ナーガさん、リーザスさん以外で夜通し馬車の見張りを交代でしている。
明日は御者は必要無いので公平に全員で見張りをする事になった。
見張りは極力、睡眠を邪魔しないように部屋単位での交代制だ。
アシェラ+ライラ 母さん+ナーガさん リーザスさん+ルイス ネロ+ジョー ゴド+ジール オレ+エルの順番で見張りをしていく。
この見張りだが眠っている間の夜中だけで無く、宿に着いてから朝まで馬車の見張りをするのである。
ミルド公爵領では途中の村でも眼を離すと、装備などを盗まれそうになった事が何度かあった。
ドラゴンアーマーを筆頭に武器1つ取ってもお安くは無いのだから、交代で見張りをして自分達の財産は自分達で守らねば!
楽しかった飲み会もミルド領に入ってからは誰も飲んでいない。
ジョー、ゴド、ジールには誰も“飲むな”と言ってないのだが、自ら禁酒している。
この辺りの嗅覚こそがベテランと言われる所以なのだろう。
ゴド、ジールと見張りを交代してから1時間ほどで夜が明けだした。
結局、朝まで見張りをしたが誰の時にも特に問題は無く、今日の泥棒はお休みだったみたいだ。
そこから1時間ほどするとアシェラとライラがやってきて、見張りを代わってくれた。
「アルド、エルファス、交代するから朝食を食べて朝の用意を」
「アシェラは食べたのか?」
「うん、ボクとライラは用意をすませて今食べて来た所」
「そうか。じゃあ、頼むな」
「うん」
エルと朝食を摂って朝の準備をしてから馬車に戻ると皆がオレ達を待っていた。
どうやらオレ達が一番最後だったようだ。氷結さんより遅いなんて……
「では皆さん、昨日決めたように行動をジョーさん達が借家を決めるまで、この宿を集合場所にしましょう。少し勿体無いですが後1日分の料金は払ってありますので、気分が悪くなったりしたら部屋で休んでもらっても大丈夫ですよ」
流石ナーガさんだ。段取りが完璧すぎて感心してしまう。
オレ達の担当は馬車の見張りなので、引き続き荷物の積んである馬車に乗って、辺りの警戒をしているのだが……暇だ。
あまりにも暇なので魔力操作の修行をしていたら、馬車の周りで何やらゴソゴソと音がする。
エルとお互いの顔を見合わせ、意識を“戦闘”へと切り変えた。
先ずは情報を得るために30メードの範囲ソナーを打つと、馬車の周りに隠れながら包囲しようとしている者達が……
数は4人。ソナーに反応しないので恐らくは魔法は使えない。
敵はオレとエルが見張りに付いているのを知っているのか、包囲が完成してからは全員が武器を抜きゆっくりと近づいてくる。
声を出さないようにしながら、ハンドサインでエルには待機してもらうように指示を出した。
オレは短剣二刀を構え、魔力武器(刃無し片手剣)を発動する。
この(刃無しシリーズ)は最近エルと開発した物で、名前の通り手加減をするための物だ。
但し(刃無し片手剣)は刃引きした片手剣と変わらないため、当たり処が悪いと死ぬ事もある。
不殺のための武器では無く、あくまでも手加減用の武器だ。
特に隠れる事も無く武器を構えながら馬車から降りると、覆面をした4人の賊が無言でオレに斬りかかってきた。
お互いに合図も無しとか……手口が凄まじく慣れている……見張りを殺して馬車ごと奪うつもりなのだろうか。
オレはバーニアを吹かして初撃を躱し、背後から賊の1人の首筋に魔力武器を叩き込んでやる。
すると賊は簡単に意識を失い糸の切れたマリオネットのようにその場で崩れ落ちた。
次の賊には鳩尾に魔力武器を突き込んでやる……2人目。
大体の実力は知れたので短剣を腰のホルダーに戻し、残り2人の賊を素手で制圧していく。
実力は冒険者ランクで言うとDぐらいか?
ジョー達だと負けはしないが怪我をする者が出るかもしれない。
ルイスやネロだと人数次第でヘタしたら負ける、と言った所か……
改めて朝のナーガさんの差配が、考え抜かれて素晴らしい物なのが良く分かった。
母さん、アシェラ、ライラチームでも良かったかもしれないが、ヤツ等だとハチミツ漬けをつまみ食いされかねない。
気を失っている賊の手と足を縛ってから、そこらに転がしておく。
身元が分かる物が無いか、懐を漁っていると4人の内の1人が女だというのに気が付いた。
全員の覆面を剥がして顔を見るが、見知った者はいない……昨日、この街に到着したばかりなので当然ではあるのだが……
見た目は20代、30代、50代の男が1人ずつ、20代前半の女が1人。
全員の装備はバラバラで何も知らずに街ですれ違ったら、冒険者の一団としか思わなかっただろう。
「エル、どうする?」
「そうですね……衛兵に突き出すか、直接聞くかですが……ここの衛兵には多くは期待できないかもしれません」
「そうだよな。馬車に荷物が乗ってるのも、見張りがいるのも何で知ってるのか……このままじゃ、迷宮探索どころじゃないしな」
「そうですね……僕達の情報を知っている人は多くないと思います。門番、宿の人間……」
「まぁ、聞いてみれば分かる事だな」
オレは早速、魔法で水を出して4人の頭からかけてやる。
「うわ、何だ」「冷たい!」「ひゃ」「何だ?」
4人は真冬の寒空の中、水をかけられ飛び起きた。
賊はオレを見てから縛られている自分の状態を見て、今がどういう状況なのかを理解したのだろう。
「ガキが……すぐに解け……」
50代らしい男がボスなのか、オレを睨みつけながらふざけた事を言って来る。
色々と聞きたい事があるので、少し脅しておいた方が良いかもしれない。
オレは無言でウィンドバレット(そよかぜバージョン)を10個、自分の周りに待機だせた。
「コイツはウィンドバレットって魔法だ。威力は一番弱くしてあるから、人が全力で殴るのと同じぐらいだと思う」
「だから何だっt……」
取り敢えず、ウィンドバレットを3発叩き込んでやる。
「て、てめぇ……」
また3発。
「……」
無言もダメだ。3発。
「や、止めろ……」
顔面に残りの1発を叩き込んで、おかわりのウィンドバレット10発を自分の周りに漂わせた。
男がは鼻血を流し、歯も何本か折れている。
怯えた眼でオレを見ているが、こちらは命を狙われたのだ。
手心を加えて、万が一にもルイスやネロ、ジョー達や料理長に被害があったら……
やはりどこから情報が漏れたのかきっちり吐かせないと。
男の顔面に1発を撃ち込み、残りの3人に3発ずつ打ち込んでやった。
「お前達は何者だ。何のためにオレ達を襲った」
ボスは怯えた顔でオレから顔を背け、残りの3人はチラチラとボスの顔色を窺っている。
「素直に話せば1人だけ助けてやる。誰が助かりたい?」
オレの言葉に3人は堰を切ったように、話し始めた。
「オレ達は冒険者ギルドのDランクパーティだ。殺さないでくれ!」
「全部リーダーが計画したんだ。オレ達は言われた通りにしただけなんだ」
「わ、私は何も知らないわ。な、何でもするから助けて。お願い!」
3人の言葉にリーダーと言われた男が、怒りを露わに叫びだす。
「ふざけるな!旅人を襲うのはいつもの事だろうが!てめぇ等も喜んで参加した癖に自分だけ逃げるつもりか!」
4人はギャーギャーと、責任を擦り付けあっているが、正直 ウルサイ……
「うるさい……黙れ」
オレが殺気を込めて呟くと、それまでギャーギャーと言い合っていたのがピタリと止まり、目を見開いてオレを見つめている。
「大体は分かった。あと1つ。お前等にオレ達の情報を流したのは誰だ?」
さっきまでビックリする程に軽かった口だったが、今は全員が口を噤んでしまった。
「おい、どうした?死にたいのか?」
オレが殺気を込めて4人を睨みつけても、青い顔をして震えるだけで何も言おうとはしない。
「い、言えねぇ……言えば間違いなく殺されちまう……」
このセリフで大体の事が分かるというものだ。
オレ達がこの街に来たのが昨日の夕方、そこから何処にも寄らず真っ直ぐに宿へ入った。
こいつらの職業は冒険者……もしかして……冒険者ギルドが関係している?
「エル、ナーガさんが危ないかもしれない……」
エルも思い至ったのか眼を見開いてオレを見た。
「兄さま、行ってください。ここは僕が!」
「分かった。ここは集合場所だ。エルはここで待機、何かあればアオ経由で知らせてくれ」
「分かりました」
オレは4人に冒険者ギルドの場所を聞くと、正解といわんばかりに決して口を開こうとしない。
冒険者ギルドの場所を聞くだけなので、4人の口を割らせるよりそこら辺の通行人に聞いた方がよっぽど早い。
オレは宿から飛び出して通行人に聞きながら冒険者ギルドを目指した。
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