第212話ミルドの街 part2
212.ミルドの街 part2
オレはミルドの街の中を、冒険者ギルドに向かって走っていた。
ナーガさんが心配で気は急くが、初めての街で土地勘も無いため思うように進まない。
本来なら空間蹴りでまっすぐに向かいたいのに……道行く人にギルドまでの道を尋ねながら、遅々として進まない道のりを進んでいく。
宿を出て30分ほどして、やっと目的の場所である冒険者ギルドへと到着した。
勢いよく扉を開けると、何人かの冒険者がオレを見つめ眉間に皺を寄せている。
「ガキがギルドに何の様だ……」
もう何回 言われたか分からない言葉を無視し、受付嬢の元へと向かった。
「すみません。今日、王都のサブギルドマスターである、ナーガさんと言う方がここに来たはずなのですが」
ヤジを無視し、殺気さえ出ていそうなオレの勢いに、受付嬢は言葉に詰まっている。
「お、王都のサブギルドマスター……ですか……え、あ……わ、私は何も知りません!」
オレから眼を逸らし、明らかに何かを知っている態度に怒りを抑えきれない。
「嘘を吐かないでください!ナーガさんはどうしたんですか!ナーガさんは王都のサブギルドマスターなんですよ!」
受付嬢の何かを隠している態度に、殺気を抑える気も無くなったオレは、本気の殺気を受付嬢にぶつけた。
真っ青になって涙を浮かべている受付嬢に、尚も詰め寄っていると後ろから肩を掴まれ強引に振り向かされてしまう。
「おい、ガキ。カティちゃんに何してやがる……」
「後で相手してやるから……今は黙れ……」
そう言い男を無視して再び受付嬢に詰め寄ると、男は周りの冒険者から大笑いされている。
「おいおい、グルド。恰好付けて今のは無いだろ」「グルド、ダサすぎ!」「ガキ、死んだな……」「グルド、Bランクにもなってガキに舐められてるのかよ」
男が本気の殺気を放ち始めたので、面倒臭そうに振り向くと腰の片手剣を抜いていた。
「ガキが……腕の1本は覚悟してもらう……」
言葉と同時に刺突が真っ直ぐにオレの右肩に伸びてくる……不意を突いたタイミングは良いが遅すぎる……
刺突を左に躱しながら、右足で相手の腹に膝蹴りを入れてやった。
「グホッ……」
グルドと呼ばれていた男は白目をむき、ゆっくり崩れ落ちていく。
まさかBランクの男がオレに倒されると思わなかったのだろう、辺りは静まり返っている中でオレの声だけが響いていた。
「ナーガさんはどうしたって、聞いているんだ!死にたいのか!!」
余程怖かったのか、とうとう受付嬢はナーガさんの行方を口にする。
「さ、サブギルドマスターは……や、ヤルゴさんに連れて行かれました……」
受付嬢が口を開くと同時に、一番奥にいた男がゆっくりと立ち上がって、冷たい口調で受付嬢に告げた。
「まさか、ヤルゴを売るとはな……カティ。お前、死んだぞ……」
どうやらこの男がヤルゴだかの仲間らしい。
「お前に聞いた方がは早そうだな……ナーガさんは何処だ?」
「ガキ、サッサと帰れば良いものを……ヤルゴの名前を聞いちまったんじゃ、すんなり帰す訳にはいかなくなった……」
「早く吐いた方が、痛い目を見なくて済むぞ」
「ガキが……グルドと一緒にするなよ……オレはAランクのグジーロだ。テメェのランクは?」
「Eだ」
一瞬の沈黙の後、ギルド内に笑い声が響き渡る。
「お前、Eランクの癖に偉そうにほざいてたのかよ……雑魚が偉そうに……」
「御託はいい……お前は、そのEランクに負けるんだよ……」
グジーロと名乗った男は背中に背負った大剣を抜くと、オレに向かって振り下ろしてきた。
さっきの男もそうだが、ギルドの中で剣を振り回すとか……この領は本当に何もかもがおかしい……
グジーロの太刀筋は、Aランクだけあって流石に素手では少し厳しいかもしれない。
しょうがなく腰の短剣を抜き二刀を構えると、何故かグジーロは顔を引きつらせながら距離を取った。
「な、何だ、お前は!」
「……」
「お、オレはAランクのグジーロだぞ!オレに何かあればヤルゴが黙っちゃいねぇ!」
「……」
何故か分からないが、急にヘタレだしたグジーロは必死に何かを叫んでいる。
「……こっちはそのヤルゴとやらに、用があるんだよ」
グジーロは辺りを見回して、どうやら逃走ルートを探しているようだ。
オレは思った……ごちゃごちゃ言って口を割らせるより、ヤルゴとやらの元へ逃げさせた方が手っ取り早いのではないだろうか……
そうと決まれば確実にヤルゴとやらの元へ逃げるように、少し痛めつけてやる……
相手の呼吸の間をつき、バーニアを使って突っ込んで行く……魔力武器(刃無し短剣)で、すれ違いざまに右腕を折ってやった。
「ギャアァァ……」
グジーロが右腕を抑えてしゃがみこんでいる……もし、ナーガさんに何かあったら「殺してくれ」と懇願するまで痛めつけてやるからな……
オレから特大の殺気が出たのだろう、グジーロは右腕を抑えながら逃げだした。
人通りの少ない場所で空間蹴りを使い、屋根の上から見つからないようにグジーロを追っていく。
偶然、オレが空を駆けるのを見つけた、アシェラとライラがオレの後を追ってきた。
「アルド、エルファスから話は聞いた」
「そうか、あの男が逃げる先に恐らくナーガさんがいる筈だ」
「……分かった」
エルからナーガさんが攫われている可能性が高い、と聞いたらしく、アシェラは少し驚いてから男を睨み付けている。
「アシェラ、殺気。気付かれる」
「ごめん……」
直ぐに殺気を治めたが、こんなに怒ってるアシェラは久しぶりに見た。
「アシェラ、母さんはどうした?」
「エルファスに話を聞いて、ジョー達を探しに行った」
「そうか……」
「たぶんお師匠はこっちに来たかったと思う……」
「そうだな、ナーガさんは昔からの友達だしな……」
「うん。でもリーザスさんの相手は自分じゃないと出来ないって言って……あとギルドが関係してるなら念のため、いつでも逃げられる準備をしておく、って……」
「そうか……」
そこからは3人、無言でグジーロを追い続けた。
今は空間蹴りの魔道具を使っているので魔力の消費はギルドと宿の戦闘の分だけだ。魔力はまだまだたっぷり残っている。
グジーロはというと腕を抑えながら、青い顔で必死に走っていく……20分ほど追跡するとなんとグジーロはミルドの街の領主館へ入って行くではないか……
「アシェラ、マズイ領主館の中に逃げられた……」
「どうするの?」
「……」
「……」
「ナーガさんは見捨てられない。助けにいく……」
「分かった!」
オレ達は領主館の屋根の上に取りつくとアオを呼びだした。
「何だい、アルド」
「アオ、頼みがあるんだ」
「ハァ……アルドは頼み事が多すぎるよ」
「すまない。ブルーリングに帰ったらアオが好きなシャーベットを作るから……頼む」
「……しょうがないなぁ。で、でもシャーベットに釣られた訳じゃないからね!」
「ああ、分かってる。それで頼みなんだが、エルに伝えてほしいんだ…………」
オレ達はこれから領主館に突っ込んでナーガさんを助ける事、恐らくギルドと領主がグルになって旅人を襲っている事、そして なるべく早くミルドの街から逃げるように伝えてもらう。
それと同時にアオにはこの辺りのマナスポットの位置と状態を分かる範囲で教えてもらった。
一通りの準備を終え、アシェラとライラに向き合う。
「アシェラ、ライラ、準備は良いか?」
「うん!」
「はい」
「じゃあ、100メードで範囲ソナーを使う。ナーガさんの居場所が分かったら真っ直ぐに向かうぞ」
2人が頷いたのを合図にオレは100メードの範囲ソナーを打った……どこにいる……いた!
ナーガさんは1階の大広間に、10人ほどと一緒にいるようだ。
10人の内の1人はグジーロなので、ヤルゴとやらも一緒にいるのだろう。
オレを先頭に、屋敷の2階の窓から建物の中へと侵入した。
1階は当然ながら見張りが多い。ナーガさんを確保するまでは出来るだけ騒ぎを起こしたくない。
魔法使いには、屋上からおかしな魔力が流れた事を感じ取れるだろうが、まさか襲撃があるとは思わない筈だ。
2階から最短でナーガさんの元へと向かう……大まかな構造は先程のソナーで分かっている。
運が良かったのか、道中はメイド3人とすれ違っただけで、目的の部屋の前まで辿り着く事が出来た。
申し訳ないとは思うが、メイド達はアシェラの状態異常で暫く眠ってもらっている。
ライラには理解出来なかったようだが、ハンドサインでアシェラにオレの後に続けと指示を出した。
ナーガさんが居る部屋に到着し、扉を確認するが……鍵がかかっている……
小さく舌打ちをし、ウィンドバレット(魔物用)3個を扉に叩き込んで、部屋の中に突っ込んだ。
ナーガさんは……いた!
後ろ手に縛られ下着姿で転がされていた……
男達は机の上に並べられたナーガさんの装備を、興味深そうに触っている
流石にこの状況は……何も無かった事を祈りながら、ナーガさんを攫ったと思われる連中に吶喊した。
ライラは冷静に状況を判断したのだろう、壊れた扉の前に立ち後続を断ってくれている。
対してアシェラはオレのすぐ後ろを影のように付き従い、フォローを入れてくれるようだ。
オレは2人のフォローに感謝しながらウィンドバレット(非殺傷)を10個纏い、魔力武器(刃無し短剣)を構え突っ込んで行く……同時に後ろから付いてくるアシェラにハンドサインで、ナーガさんの身柄の確保を頼んでおいた。
改めて見ると敵の数は9人……腕を治療してもらっているグジーロ、回復魔法使いが1人、魔法使いらしき者が1人、前衛らしき者が3人、騎士らしき者が3人だ。
オレはナーガさんを盾にされるのを防ぐために主力と思われる前衛3人に向かっていく。
恐らくこの中にヤルゴとやらもいるのだろう……
騎士の3人はいきなりの襲撃に驚くだけで何も対処できていない……魔法使いと回復魔法使いも同様だ。
しかし、前衛の3人は自分の得物を抜き、咄嗟の襲撃にも反応してみせた。
左と真ん中の男は騎士剣術なのだろう、盾と片手剣を構え、右の男は珍しい事に両手斧を構えている。
動きを見るためにウィンドバレットを3発ずつ撃ち込んでやると、左と真ん中の男は盾と片手剣を使い上手く凌いでいるが、右の男は両手斧だけあって1発を躱したが2発が命中した。
まずは右の両手斧使いから倒すつもりで突っ込んで行く……
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