第213話ミルドの街 part3

213.ミルドの街 part3






3人の前衛の中で一番弱そうな右の両手斧使いに狙いを定め突っ込んで行くが、生意気にもカウンターを狙い、虎視眈々と両手斧を引き絞っている……


両手斧が振り下ろされる寸前にバーニアを吹かせ、両手斧使いの背後に回り首筋に魔力武器(刃無し短剣)を振り切った。

ゴっと鈍い音と共に両手斧使いは崩れるように倒れ、その隙にアシェラがオレの影からスルスルと後衛の位置まで進んでいく。


気付いた時にはもう遅い、アシェラは魔法使いと回復魔法使いに睡眠の状態異常を撃ち込み終わった後だ。

魔法使いの2人が崩れ落ち、アシェラはナーガさんの元まで辿り着いた。


これでナーガさんを人質に取られる心配はない。

ホッと小さく息を吐くとグジーロが眼を見開き、震えながら叫びだした。


「ヤルゴさん!こ、こ、コイツです。こ、こ、コイツに腕を折られて……グルドもやられて……カティがゲロったんです。や、ヤルゴさん、助けて……オレじゃ……」

「うるせぇ!何言ってるのか分からねぇんだよ!お前はもう、しゃべるな!鬱陶しい……」


左の騎士剣術を使う男が、どうやらヤルゴらしい。


「テメェ、何者だ……」


アシェラがナーガさんを回復しているのでなるべく時間を稼ぎたいが、騎士の2人とグジーロに動かれると面倒だ。

オレはウィンドバレット(殺傷型)を、グジーロと騎士2人の足に1発ずつ撃ち込んでやった。


「「「ギャア」」」


しっかり鎧の継ぎ目を狙ったので、3人は地面に倒れ込んで必死に鎧を脱ごうと苦戦中だ。


「テメェ……どういうつもりだ……」

「会話がしたそうだったからな……邪魔な3人を潰させてもらっただけだ」


「……」

「そういえばオレも聞きたい事があったんだった……」


オレは(刃無し短剣)を解除してヤルゴに問いかけてみた。


「何でナーガさんを襲った?何が目的だ……辱めたとかなら……許さんぞ……」

「は?山猿をオレが相手する訳ねぇだろうが!ふざけた事言いやがるとぶっ殺すぞ!」


こいつの言い方を聞くとナーガさんは大丈夫のようだ。

だとすると目的は金か?装備か?


「言い方は気に入らないが、今は良い。じゃあ何だ?金か?」

「ある筋からドラゴンアーマーを着たヤツラがこの街に入ったって聞いたんでな……一団の殆どがドラゴンアーマー。それが本当なら最近 評判の氷結の魔女か新緑の癒し手しかいねぇと思って網を張ったんだ。ビンゴだったぜ」


「目的はドラゴンアーマーか……」

「そのつもりだったが、コイツはもっと面白い物を持ってやがった……ギルドにのこのこやってきた所を捕まえるのに、コイツは空を歩いて逃げようとしやがったんだ……」


「……」

「たまげたぜ……直ぐにギルドの出入り口を封鎖し、逃げれなくしてから捕まえてやった……空を飛べても天井がある建物の中じゃあなぁ……」


オレの腰辺りを見て、ニヤニヤしている。


「お前等……全員腰に何か付けてるよな。それ、オレにくれよ?この山猿、奪われまいと自分で壊しやがったんだ」


ヤルゴが懐から空間蹴りの魔道具を出すが、ナーガさんが破壊の魔法陣を起動したのだろう、機関部が壊れて中の魔法陣が消えていた。


「で、他にも面白い物を持って無いか、ひん剝いて調べてた所にお前等がやって来たって訳だ」


横目でアシェラを見ると、ナーガさんの意識が戻ったらしく体を起こしている。


「ナーガさん、装備を着けてください。アシェラ、悪いが魔道具をナーガさんに渡してやってくれ」

「分かった」


後はアシェラに任せておけば大丈夫だろう。

ライラは頑張っているが、騒ぎが徐々に大きくなっているのか、そろそろ限界みたいだ。


「クックク。お前は自分が時間稼ぎをしているつもりだったみたいだが逆だ。もう中も外も包囲されてるぜ。逃げられねぇよ。諦めな」

「そうか?お前を倒せば余裕で逃げられると思うぞ」


「は?オレを倒すだと?この国に3人しかいないSランクのオレを?お前みたいなガキが?冗談にしても笑えねぇな」

「お前程度でSか……ギルドも余程、人手不足なんだな」


「……テメェ、腰の魔道具を渡せば許してやる……壊されるのが嫌で下手に出てるんだ……あんまり調子にのるなよ……ほら、サッサとよこせ」

「……断る」


「ハァ、何か面倒くさくなってきたなぁ。3つあれば1つぐらい壊れずに何とかなるだろ……」


ヤルゴが動いたと思ったら、真上から振り下ろしの斬撃が飛んでくる!

すかさずバーニアを吹かして後ろへ離脱するがギリギリだった。


コイツ……素の身体強化はオレより練度が上なのか……


「何だ今の動きは……さっきもおかしな動きをしていたと思ったが……お前の鎧、表面に何か付いてるな……まさか鎧自体が魔道具なのか?」


流石はSランク……頭も回るらしい。これで性格がクズじゃ無ければ完璧なんだが。

コイツには手加減していては、コチラが飲まれる。


殺す事になったとしてもしょうがない。オレは本気のバーニアを吹かせて突っ込んだ。

ヤルゴはバーニアを吹かしたオレが見えているらしく、しっかりとカウンターを合わせてくる。


対応されるのはエルやアシェラで慣れている……左腕に魔力盾を出しリアクティブアーマーを起動した所で、バーニアを逆噴射して急制動をかけた。

全身にGがかかり骨が軋むのを我慢すると、ヤルゴのカウンターが空を斬る。


ここだ!


再び背中のバーニアを全力で吹かせ、リアクティブアーマー付きの盾でバッシュ!

オレのバッシュに、不完全だが自分の盾を合わせてくる……盾と盾がぶつかる瞬間、ドンっと腹に響く音が鳴り響いた。


ヤルゴは盾越しではあるがリアクティブアーマーをまともに受け、5メードほど吹っ飛んだかと思うとそのままピクリとも動かない。

元々リアクティブアーマーは威力が高い。威力マシマシでは無かったので死んではないと思うのだが……


周りの人間が見つめる中、ヤルゴが動き出しゆっくりと立ち上がる……

左腕は関節が2~3箇所増えていると錯覚するほどボロボロで、鎧も壊れて体にぶら下がっているだけだ。


しかし、火傷だらけで足を引きずりながらも、瞳には憎しみの炎が燃え盛っていた。


「テメェは殺す……もう魔道具なんていらねぇ。絶対にテメェだけは殺してやる!!」


半死半生の身で瞳には狂気が浮かぶ、オレはあまりの異常さに飲まれそうになってしまった。

オレが気圧されると同時に、ヤルゴからでは無い特大の殺気が2つ、背後から立ち昇った……


「……アルドを殺すつもりなら……ボクが先にお前を殺す」

「私のアルド君を殺すだと?その口が言ったのか……」


アシェラとライラはそれだけ言うと、アシェラはウィンドバレット、ライラはウィンドカッターを威力マシマシでそれぞれ1発だけ放った。

ウィンドバレットは右腕を粉々に吹き飛ばし、ウィンドカッターは両足を切り落とす。


「ギャァァアアアア……」


部屋中にヤルゴの絶叫が響き渡る……

流石にここまでやれば追ってこれるとは思えない……出来れば禍根を残さないためにも人死には避けたい。


ナーガさんを見るとドラゴンアーマーを着こみ、空間蹴りの魔道具を着け終わった所だ。


「アシェラ、意識がある者に睡眠の状態異常をかけてくれ」

「……分かった」


アシェラはグジーロと騎士2人にヤルゴ、そして1人だけ無傷の男の5人に睡眠の状態異常を撃ち込んで行く。

オレはその後から負傷者全員に、最低限だけだが血止め用の回復魔法をかけてやった。


アシェラとライラはオレが回復魔法をかけるのが不満なのか、渋い顔で見ている。


「手先や足先の修復は難しいんだ。コイツはもう以前のような動きは出来ないよ……それに出来れば人死には避けたい。本気で軍を動かされると、オレ達は良くても料理長や魔道具に慣れていないジョーやルイスが逃げられなくなる」


そう言って転がっていたヤルゴの足に、ウィンドバレット(魔物用)を撃ち込んで粉々にしておいた。


「アルド君、そろそろ持たない!」

「ライラ、分かった。ナーガさん、行けますか?」

「えぇ、大丈夫よ。皆、助けに来てくれて本当にありがとう……」


「お礼は後で聞きます。今はここから逃げるのが先です」

「分かったわ」


オレは人の配置を見るために100メードの範囲ソナーを打つ………地上は無理だ、完全に包囲されている……

エル達はジョー達と合流できたのだろうか?アチラの状況が分からない……今、合流するのは悪手だ。


「エル達とは反対方向に逃げます。落ち着いてから改めて合流する算段をつけましょう」

「そうね」


「それと地上から逃げるのは難しいです。脱出は最上階からにしましょう」

「でも2階に上がるにも、廊下は騎士で一杯よ」


「アシェラ、魔力拳で天井に、穴を開けられるか?」


オレはこの大広間の天井を見つめながらアシェラに聞いてみる。

アシェラは想像の範囲外だったのだろう、驚いた顔で天井を見ると一度だけ小さく頷いてから答えた。


「出来る!」

「そうか、頼む。オレがシンガリを務める、ライラ交代だ」


オレがライラと扉前の足止めを交代すると同時に、アシェラは左拳を握り締め魔力を溜めると、空間蹴りで天井へ駆け上がって拳を叩きつけた。

その瞬間、屋敷が揺れるほどの爆発が起こる……


騎士が爆発に動揺していると、ナーガさんの声が響いた。


「アルド君、来て!」


その声を合図にウィンドバレット(魔物用)を10個出し、入口の天井辺りに打ち込んだ。

オレが天井の大穴を抜ける時に見た限りでは瓦礫で入口は塞がっていた。


瓦礫をどかして天井の大穴を見つけるまでの数十分は、時間が稼げたはずである。

人目に付かないように3階のロフトの部分まで駆け上がり、ここからエル達とは反対側に逃げようと思う。


こうなると発見の報告に時間がかかってしまう、少人数の目撃者がほしい……そんな事を考えているとロフトには若いメイドと中年の執事の姿があった……

ナニをしていたかは知らないが、これで目撃者を2人ゲットだ。


これ幸いと、オレ達は怯える2人を無視して窓から空に駆け出していく。

外に出ると太陽は少し傾きかけていた。昼を少し回った頃か……どこかに隠れてエル達と連絡もとりたい。


暫く移動すると眼下に壊れかけの建物群が見えてきた。これは、スラムか……

オレ達はスラムの中でも特に酷い、今にも崩れそうな建物に逃げ込んだ。






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