第214話ミルドの街 part4

214.ミルドの街 part4





スラムに逃げ込んだオレ達は、全員の無事を先ずは喜んだ。


「ナーガさん、無事で良かった。何か酷い事はされてませんか?」

「アルド君、大丈夫よ……アイツ等……私の体には一切!!!興味を示さなかったから……」


え?ナーガさんの背中からドス黒いオーラが見えるんですが……アイツ等、少しぐらいナーガさんに興味示せよな!


「そ、そうですか……大体はヤルゴってヤツから聞いたんですが詳しく教えてもらえると助かります」


ナーガさんは一度だけ頷いて話始めた。


「冒険者ギルドに着いてから………」


ナーガさんの話によるとギルドに着いて、最初は現地の受付嬢から普通に情報を貰っていたそうだ。

迷宮探索でやってきたのはプライベートだとは言え、地方の受付嬢からすれば王都のサブギルドマスターなど、雲上人に他ならない。


翼の迷宮の地図も安く仕入れられ、魔物の種類も粗方把握した所に、ヤルゴとそのパーティメンバーがやってきたそうだ。

そこからはヤルゴの言っていた通りだった。


因縁を付けてナーガさんを無理矢理、攫おうとしてきたので咄嗟に空間蹴りで逃げたそうだが、出入り口を抑えられ掴ってしまったそうだ。

そこからは領主館に攫われて魔道具の事を聞かれた。しかしナーガさんは決して口を割らなかったせいで、激昂したヤルゴに殴られて意識を失ってしまったそうだ。次の記憶はアシェラに回復魔法をかけられていた所らしい。


恐らくグジーロってヤツは、仲間がナーガさんを探しに来ないかを監視していたのだろう。

カティって受付嬢が口を割らなければ、知らん顔でギルドを出て行った筈だ。


「後はヤルゴ達が何故、領主館にいたか……ですね」

「恐らく迷宮を踏破させるために、ミルド公爵がSランクであるヤルゴを招いているのでしょうね」


「それでは僕達は公爵家に殴り込んで、その客をボコボコにした犯罪者って事ですか……」

「そうなるわね」


「……」

「おまけに私の身元は割れているから、王都に戻ってもサブギルドマスターを続けられるか微妙な所かしら」


「ナーガさんは被害者じゃないですか!」

「そうね……でも公爵家が相手では……運良くサブギルドマスターに戻っても、ミルド公爵家の者に攫われて領主館襲撃の実行犯を吐かされるわ」


「そんな……」

「もしくはヤルゴ一党に攫われて、空間蹴りの魔道具の事を吐かされるか……」


「……」

「もう、王都のサブギルドマスターは廃業ね。アルド君の隣に永久就職させてもらおうかしら」


そう言って笑うナーガさんが泣いているように見えたのは、見間違いでは無いのだろう……





ナーガさんの件は後日ブルーリング家としてフォローさせてもらうとして、先ずはエル達の状況を知りたい。

それによって合流するのか離れるのか……収納の中にはドライアドに貰った魔瘴石が1個ある。


ジョーやルイス達にバレてしまうが、最悪は領域を作る事も、この状況ではしょうがない。

追い詰められれば、オレは躊躇わずに使うつもりだ。


その時には魔力の心配が無くなるので、追手にコンデンスレイを撃ち込むかもしれないが……

ハァ……思考が物騒になっている。迷宮探索に来ただけなのに、どうしてこうなったのか。


疲れた思考を断ち切って、オレはアオを呼びだした。


「アルド、どうしたんだい?」

「アオ、エル達には伝言を伝えてくれたか?」


「あれからエルファスには直ぐに伝えたさ。それを聞きたかったのかい?」

「ああ。それと実は…………」


アオにオレ達の状況を説明していくが、アオにはどうしても理解が出来ないらしい。


「アルド達は悪くないのに、何で逃げる必要があるんだよ」

「それは……確かにそうなんだけど、オレ達は兎も角ジョーやルイス達が危ないんだ」


「アルドの極大魔法で全部焼き払えば良いじゃないか。悪いヤツなんだろ?」

「あー、末端の人は悪人じゃなく普通の人なんだ」


「悪人に従ってるんだろ?じゃあ、焼き払われてもしょうがないじゃないか」

「そうなんだけど……」


やはりアオとは会話が難しい。伝言を頼んでもどれだけが伝わるのか……

アオと何とか意志の疎通を取ろうとしていると、ライラがおずおずとオレの背中をつついてくる。


「紙に書いて送れば良い……」


恥ずかしそうにライラは言うが、紙をどうやってアオに運んでもらうと言うのか。


「アオ、エルに紙を渡してもらう事は出来るか?」

「そんな事出来るわけないじゃないか。アルドは何を言ってるんだよ」


やはりそんな上手い話しは無い……何とかアオと意思疎通をしなければ……

すると尚もライラは背中をつついてくる。


「収納……精霊様には伝えて貰うだけ……」


収納?ライラは何を言ってr……あ、もしかして……収納に手紙を入れて、アオにその事をエルに伝えて貰えば良いのか!!


「ライラ!それだ。凄いぞ!!」


思わずライラの手を握り締めてしまった。ライラは俯いて耳まで真っ赤になっている。


「アルド、ご褒美にライラを抱きしめてあげる」


アシェラが腰に手を当て、仁王立ちになりながらそんな事を言って来た。

当のライラを見ると真っ赤になったまま、オレをチラチラと見上げてくる


何この空気……これで断ったらオレが冷たいヤツみたいじゃないか!

オレは溜息を1つ吐いてから、ゆっくりとライラにハグをした。


ナーガさんが横で歯軋りをしていたのは、見なかった事にしよう。





紙と書く物を持っていないか聞いてみると、ナーガさんがメモ用紙とペンとインクを持っていた。

流石、ナーガさんだ。何かを期待した眼で見られたが、オレには何の事か良く分からないので、そのままメモにこちらの状況とこうなった経緯、これからの行動の予定を書いて収納に放り込む。


エルの方にメモが無いといけないので、ナーガさんに確認を取ってから、メモ、ペン、インクも一緒に収納の中へ入れさせてもらった。


「アオ、エルに収納の中を見るように伝えてほしい」

「分かったよ……」


オレが手紙を書く間、ずっとオレの頭の上にいたアオは、面倒臭そうに消えていく。


「でもアルド君とエルファス君の収納にこんな使い方があるなんて……」

「そうですね。オレも驚きました」


「ライラさんのお手柄ね」

「はい、とても感謝しています」


「後は向こうの状況が分かると良いのだけれど……」

「はい……ジョー達とルイス達、全員が合流してると良いんですが……」


「そうね……」


後は全員が魔力はどれぐらい消費しているのか。


「それと、皆、魔力はどれぐらい残ってる?」

「私は2/3ぐらいです。ギルドでの戦闘でかなり魔法を使ってしまって……」

「ボクは4/5ぐらい」

「私は2/5ぐらい……」


ナーガさんは攫われる時の戦闘で消費。アシェラは魔力を一番消費してないが、空間蹴りの魔道具をナーガさんに渡して持って無い。

ライラは扉の封鎖にずっと魔法を使っていた。これはしょうがない。


「オレは2/3ぐらいです。宿、ギルド、領主館の戦闘で使ってしまいました」

「宿でも戦闘を?」


「はい。実は…………」


そういえばオレの方の話をしていなかった。時間もあるのでオレの方も何が起こったのかを話していく。


「そう……きっと門番から領主に、そしてヤルゴにに伝わっていたのね」

「領主が何で冒険者に情報を流したんですか?」


「そこまでしても迷宮を踏破したかったんでしょうね」

「……」


「隣領のバーク侯爵領はミルド公爵領より東にあって、今なおフォスターク王国を東に開拓し続けている、この国の要よ」

「……」


「バーク侯爵領と領地を接する領、はミルド公爵領以外はどこも発展してるの」

「ミルド公爵領だけ?何故?」


「翼の迷宮よ。翼の迷宮は攻略難度から放置されて久しいわ。ミルドの街から馬車で1日の場所にあるのだけれど、迷宮から溢れた魔物を駆除するだけで精一杯。お陰でバーク侯爵領への街道を繋ぐ事が出来ないの」

「それでSランク冒険者のヤルゴですか……」


「ええ、この王国にはSランクが3人しかいない。その内の1人を繋ぎとめるために、形振り構っていられなかったんでしょうね」

「そんな事ばかりが続き、八方塞がりで貴族至上主義ですか……許されるとは思いませんが、やりきれない話ですね……」


そんな話をしていると、それなりの時間が経っていたらしく、アオが指輪から飛び出してきた。


「アルド、エルファスからだ。収納を見ろだってさ」

「分かった。ありがとう。アオ」


アオは少し照れくさそうに消えていく。

早速、収納からメモを取り出すと、氷結さんの仕業だろう、落書きしたメモが2枚見つかった。


「あの人は……本当に……」

「アルド君、言い難いんだけど……1枚はラフィーナみたいだけど、もう1枚はリーザスみたい……」


アイツ等……氷結さん、鮮血さんコンビか……今度から名前の最後に(笑)を入れてやろうか……

気を取り直してエルからの手紙に目を通すと、どうやら全員が合流出来たみたいだ。


この手紙を書いている時点では、門を目指して馬車を走らせているらしい。

周りがだいぶ騒がしくなっているが、今なら問題なく門を越せるだろう、との事だ。


エル達の当面の目標は、リュート伯爵領を目指し進んで行く。

オレが読んだメモをナーガさんに、ナーガさんが読み終わるとアシェラに、次はライラに……と全員がメモを読み終わってから声をかける。


「向こうは取り敢えず、今は何とかなりそうだ」


3人はオレを見て頷いた。


「但し、オレ達と仲間だってのはすぐにバレる。オレ達は姿を見せて追手を引き付けないと、エル達に追手が伸びかねない」

「このまま私達も逃げたい所だけど、リュート領まで3日。余程のマヌケじゃないとラフィーナ達は逃げられないでしょうね」


「領主館を襲った凶悪犯は、スラムに逃げ込み1日潜伏。しかし捜査の網が伸びてきた事を実感し、一か八かで強行突破で逃げ出したってのはどうですか?」

「ありきたりだけど現実的な案ね」


建物に開いた大穴から空を見ると真冬だけあって、この時間でも夕日で真っ赤になっている。


「今日はここで夜明けまで過ごして、明日の朝から派手に逃亡劇といきましょうか」

「そうね。魔力も満タンまで回復しないとね」


「それと逃亡先なんですが……」


オレはこの廃墟に来てから思っていた事を話してみた。




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