第215話逃走中 part1

215.逃走中 part1





こうなると逃亡先を何処にするか……ナーガさんの意見を聞きたい。


「オレ達もリュート領に逃げると、エル達を巻き込みかねないです」

「そうね。反対の南の海側か魔物が溢れてる東側が良いでしょうね。西側は平地が広がっていて逃げるには不向きだわ」


「南か東……」


先日の領主館に襲撃をかける寸前、アオにマナスポットの位置を聞いてある……


「実はこのミルドの街の南に、半日ほど移動すると森があるそうです。その森にはマナスポットがあり、今は魔物に奪われているらしい……」

「ちょっと待って。それは精霊様に聞いたの?」


「はい。領主館に突入する寸前に聞きました。最悪は逃げる時に使えるかと思って」

「そう……でも魔物の領域という事は、主がいるって事よね?」


「はい。ただアオの話では小さなマナスポットらしく、そこまで強い主はいないんじゃないかって……」

「話は分かったけど、問題は逃走しながら主を倒してマナスポットを開放する余裕があるかってことよ……」


「全員が空間蹴りを使えるので、森の中で追手を撒くのは難しくはないと思うんです」

「それはそうね……欲を言えば、ちょっとした谷でもあれば最高なんだけど……」


「どうでしょうか?」

「……」


「……」

「本当に追手を撒くためだけに、マナスポットを開放するの?」


「……ここのマナスポットを開放しておけば後々、楽になるかとも思っています」

「そう、分かったわ。解放を目指しましょう」


「良いんですか?」

「迷宮探索も元々は魔瘴石を集めて、マナスポットを開放するためのものよ。本来の役目であるマナスポットの解放をしようと言うのに、止めるのは本末転倒だわ」


「……ありがとうございます」

「そうと決まればブルーリングで、ラフィーナ達を出迎えて驚かせてやりましょう」


「そうですね」


こうしてオレ達は南の海側へ逃げる事に決まった。

食料はオレ、アシェラ、ライラのリュックに入っている悪魔のメニュー3日分×3食分×3人分の計27食分だけだ。


ナーガさんのリュックは領主館で捜してみたのだが、見つけられなかった……価値が無いと判断されて捨てられたのかもしれない。

朝からの騒動で今は16:00を回った所である。忙しく動き回っていたため、昼食を食べられ無かったので昼食と夕食を兼ねて、黒パンと干し肉を2個ずつ食べる事になった。


朝になったら食料の調達が終わってから、衛兵にわざと見つかる事にしよう。

そうでないと最悪は飢えかねない。

明日は恐らく走り回る事になる。相談した結果、体力の温存も兼ねて早めに休む事にした。


毛布が3枚しか無いのでオレの分をナーガさんに渡し、オレはアシェラの毛布に入らせてもらう。

オレの腕の中で丸くなって眠るアシェラを、ナーガさんとライラがジッと見ていたのは、気付かないフリをさせてもらった。


因みに見張りの順番はナーガさん>ライラ>アシェラ>オレ。オレの番になって起こされた時には、何故かアシェラの代わりにライラが腕の中で眠っている……

一言、何かを言おうと思ったのだが、オレの腕の中で幸せそうな顔のライラを見ると、文句を言う気も失せてしまった。


徐々に既成事実化している気が……アシェラを見ると、何時の間にか幸せそうにライラと抱き合って眠っている。

ほのぼのとした物を見てしまい、つい頬が緩んでしまう。


結局 一番の問題は、この関係が心地良いと思ってしまっているオレの心なのだと、今回の旅で改めて気付かされてしまった。





夜が明け太陽が覗き出した頃、アシェラ、ライラ、ナーガさんがゆっくりと起き出してきた。


「おはようございます」

「「「おはよう……」」」


まだ眠そうに眼を擦るが、思い思いに準備をしていく。

オレも自分のお花摘みに席を外させてもらった。


準備を終え、今は悪魔のメニューを皆で食べている所である。

最悪は収納で食料を送ってもらえば良いとは言え、魔力のやり繰りがかなり厳しくなってしまう。


やはり肉と野菜も含めて何処かで調達したい。

調理する時間は無いと思われるので、調理済の物と果物なんかだと尚良いのだが……


それと、もし手に入るなら防寒にもなるし、顔を隠すにも助かるローブがあると更に良いはずだ。

どうも、考え方が完全に逃亡犯のソレになっている気がするが、実際に領主館に押し入った犯罪者なのでしょうがない……。


気を取り直して皆に最後の確認をする。


「南へ逃げる前に食料を調達したいと思います。悪魔のメニューも1.5日分ありますし、最悪は収納経由でエル達から送ってもらえるとは言え余裕がほしい」

「そうね。調理している暇は無さそうだから、出来ている物で保存が効く物が良いわね」


「はい。後はエアコン魔法を全員が使えるとは言え、魔力の節約のためにもローブがあると嬉しいです」

「服……お店に行ってる暇は無いと思うわ。ローブは追手から剝ぎ取りましょうか」


ナーガさんが恐ろしい事を言っている……この人、常識人枠な筈なんだけどたまに凄い事言うよな……

オレ達は最後の確認を終え、先ずは食料の確保に向かった。





スラムの路地裏から通りを覗くと、思ったよりも見回りの騎士が多い。

考えてみれば領主館を賊が襲って逃走中なのだ……門番から門を抜けた報告が無い以上、街の中の警戒が厳しくなるのは当たり前か……


こうなると4人でゾロゾロ歩くのは、見つけてください、と言ってるような物だ。

攫われたナーガさんは一番見つかり易いとしてオレ、アシェラ、ライラの3人でバラバラに食料調達した方が無難か……


「ナーガさん、思ったより見張りが多いです。オレ、アシェラ、ライラの3人で目立たない量をそれぞれが買った方が良いと思います」

「そうね……少し考えが甘かったかもしれないわね」


「じゃあ、オレは肉、アシェラは果物、ライラはナーガさんのリュックと水筒を頼む。ナーガさんは顔がバレている可能性が高いので、野営した場所で待機を」

「分かった」

「「分かったわ」」


「それぞれ物資を手に入れたら野営地に集合だ」


3人は一度頷いてからバラバラに動き始める。

オレは少し道の影になっている場所で、露店を開いている男に声をかけた。


「おっちゃん、串焼きを売ってるの?」

「おう、ウチの串焼きは美味いぞー。秘伝の調味料を使ってるからな」


「そうなのか、それにしちゃ客がいないけど」

「それは、場所がな……」


そういっておっちゃんは周りを見て形を竦める。


「ここ、影になって丁度、見えないな」

「そうなんだよなぁ。クジで負けてな……後、半年はここで商売しなきゃならん……」


どうやらクジでこの場所になったようだ。この領では、きな臭い事ばかりだったので利権やらが関係してるかと思ってしまった。


「じゃあ、オレが多めに買ってやるよ」

「良いのか?」


「本当は串焼きと果物を買ってこいって言われたんだけど……この金で買えるだけ串焼きを買ってやる!」

「坊主助かるぜ!今月、売り上げが無くて困ってたんだよ」


「その代わりおまけしてくれよ」

「分かってるよ。よっしゃ、秘伝の調味料も多めに使ってやるぜ!」


早速、銀貨7枚を渡し串焼きが焼けるまで待つ……いかにもお使いに来たような雰囲気を出し、建物の影に自然を装い隠れておく。

20分ほどすると串焼きが出来上がった。


「出来たぞ。坊主」

「良い匂いだ」


「2本おまけしておいたからな。気に入ったらまた買いにきてくれ」

「分かった。ありがと、おっちゃん」


そう言って屋台を後にしてナーガさんの元へと向かっていく。

つけられている気配は無かったが、念の為 壊れかけの建物の中を幾つか通ってからナーガさんの元へも戻った。


「ただいま」

「「おかえり」」


一番時間がかかると思われたライラも既に買い物が終わったらしく、ナーガさんと一緒に荷物をリュックに入れていた。

こうなると後はアシェラだけだが、果物を買うだけにしては少し遅い気がする……


壊れた屋根に空間蹴りで登り、辺りを見渡すとアシェラが衛兵に追われているのが見えた。


「アシェラが見つかった。合流してそのまま逃走しましょう」

「「分かったわ」」


オレは空間蹴りで空へ駆け上がり衛兵の後ろに回り込むと、衛兵の首筋に打撃を入れ意識を奪っていく。


「アシェラ、大丈夫か?」

「うん……変な男に声をかけられて、無視してたら騒ぎになって……ごめん……」


オレには、その光景が目に浮かぶようだ。


「大丈夫だ。このまま逃走したいが、その果物を持てるだけ持って行こう」

「うん」


アシェラは衛兵に追われながらも果物の入った木箱は放さなかった。

木箱を開け、それぞれがリュックの中に好きな果物を入れて行く。オレはオレンの実とアポの実を多めに詰めさせてもらった。


その間にも警笛の音があちこちで鳴り響き、オレ達の包囲が徐々に縮まっているのが分かる。


「ローブが欲しいけど……無理か……」

「アルド君、お店は見つけてある……」


「流石ライラだ!無理かもしれないけど案内を頼む」

「うん!」


ライラの案内で服屋へと向かうが、途中 衛兵がワラワラやってきて、オレ達は空間蹴りで空へと逃げさせてもらった。

服屋を見つけると急降下していき、入口から全員が入ったのを確認すると閂をかけて時間を稼ぐ。


「すみません、ローブをください!」


オレの言葉に店員はみるからに怯え、会話にならない。


「すみません、ローブ、貰って行きます。皆、好きなローブを。ナーガさんはついでに毛布も」


カウンターの奥に荷造り用のロープもあったので、申し訳ないがそれも頂いて行く。


「ありがとうございました!」


それだけ言うと店員に白金貨3枚を渡し、2階から空間蹴りで空へ駆け出した。

服屋の周りは衛兵が集まり、凄まじい喧騒になっている。


オレはその光景を見ながら「白金貨3枚では安すぎたか……」と一人呟くのだった。





服屋から空間蹴りで逃げているのだが、空間蹴りは建物を無視できてしまうので、気を付けないと直ぐに衛兵を撒いてしまう。

今も南門を目指しながらも、途中の屋根の上で休憩中だ。


「ライラは魔道具が無いから、空間蹴り以外に魔力は使わないでくれ」

「はい」


昨日の打合せでマナスポットを開放する事に決めた時、ライラが言い出した。

曰く、自分はアシェラより弱い。主との戦闘にはアシェラとオレの魔力を万全にするべきだ、と。


相談の結果、ライラは空間蹴りの魔道具をアシェラに渡し、素の空間蹴りで移動する事となった。


屋根の上で休憩していると、直に衛兵がワラワラとやってきて魔法を撃ってくる。


ここにいると屋根に大穴が開きそうだ……家主に恨まれたくないので早々に立ち去らせてもらう。

ここから目標の南門までは100メードほどの距離だ。


門番もいる筈なのでここからは、見つかりながら移動する必要も無い。


「よし、行こう。ここからが本当の逃走だ」

「うん」

「はい」

「分かったわ」


それからは真っ直ぐに南門へ向かわせてもらった。

オレ達を指差す門番を尻目に、門を越えて100メードほどの所で地上へ降りる。


門番はどうやらオレ達を追って良いのか判断出来ないようで、こちらに向かおうとする者、それを止める者が入り混じっている。


オレ達4人は混乱している門番を尻目に、アオから聞いた場所を目指して真っ直ぐに向かって行く。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る