第239話再・翼の迷宮 part3
239.再・翼の迷宮 part3
ライラを抱きしめている時に、母さんから「アンタ、責任取りなさいよ」と言われてしまった……
何の事かと思ったらライラの下半身がスッポンポンで、一瞬何が起こったのか理解不能だったが、近くに落ちていたライラの下半身を見て全て理解ができた。
ライラの半身を見ると、改めてアドの薬の凄まじさが良く分かる。こんなおかしな効果の薬が無ければライラは間違い無く助からなかった筈だ。
そしてライラがいなければ、こうなっていたのはオレだったのだろう……
ライラはオレを助けるために、大したダメージも出ない雷撃魔法を使って風竜の気を引いて、そして死んだ……
あの時のライラは確かに心臓が止まっていて、死んでいたように思える……よく分からない精霊の不思議パワーで、復活できたとしか思えない。
こうなって思う事は……オレはこの恩に、どうやって報いるべきなのだろうか。
オレはアシェラに話しかけた。
「アシェラ、オレはライラに命を救われた」
「うん」
「どうやって恩を返せば良いんだろう……」
「ライラはアルドの第2夫人になれるのが、一番喜ぶはず」
「……アシェラ、本当にライラが第2夫人でも良いのか?」
「うん、でもボクやオリビアを粗末に扱ったら許さない」
「ばっ、お前やオリビアを粗末に扱うわけ無いだろう」
「なら、良い」
アシェラの了承は貰った。皆の前だが、今 この場で言わなければ一生言えない気がする……
「ライラ、助けてくれてありがとう……」
「うん……」
「あー、なんだ……その……」
「……」
「……もし、もしライラが良ければ……お、オレの妻になってくれないか?」
ライラは頬を真っ赤に染め、満面の笑みを浮かべながらオレに抱きついてくる…………可愛らしいお尻が丸見えだったのはご愛敬。
こうしてオレはお笑い要員の嫁を1名、手に入れる事になった。
エルが戻ってきたのは、こちらの話が纏まって大まかに道筋が付いてからだ……この面倒事から逃れる嗅覚は政治家向きだと、実の兄でも唸る程だったのは特筆しておく。
ライラの件も落ち着いてからの事、改めて諸々の後始末を押しつけていたエルに話しかけてみた。
「エル、全部任せてすまなかった」
「いえ、誰も犠牲が出なくて良かったです」
「そうだな。因みに魔瘴石はどうなった?」
「風竜の灰の中に埋まってました。今は浄化して収納に入れてあります」
「そうか……」
「どうしたんですか?」
「迷宮主があんな行動にでるなんて、と思ってな……」
「そうですね……完全に想定外でした……」
オレは振り返り、ナガえもんに聞いてみた。
「ナーガさん、迷宮主が魔瘴石を吸収するなんて、あり得るんですか?」
「正直、私は聞いた事もありません……これではまるで迷宮の自殺です……」
「……」
「帰ったら過去の文献を調べてみますが、どちらにしても、これからは迷宮主が魔瘴石を吸収して、特攻をかけてくる可能性は考慮しないといけません……」
「そうですね」
ナーガさんも迷宮主がこんな行動にでるとは知らなかったようだ。
今回はアドの秘薬のお陰で何とかなったが、反省点は多い……
それに、予定していた風竜の素材が殆ど灰になってしまった。
残っているのは、風竜が魔瘴石を吸収する前に切り離してあった、尻尾と手足が少々。
これでは精々、鎧が1つ作れる程度しか無い。
実は事前の打ち合わせで、オリビアとマールの分のドラゴンアーマーを作る予定だったのだ。
勿論、ライラの分もパーティメンバーとして数には入れてあったのだが、この量では……
オレが風竜の尻尾と足を見ていると、エルが話しかけてきた。
「残念ですが、今回は犠牲が出なかった事でヨシとしましょう」
「そうだな。今回は本当に危なかった……運が悪けれぼ何人か死んでてもおかしくなかった…」
「はい、もっと強くならないと……」
「ああ。大きなマナスポットの主は、こんな物じゃないだろうしな……」
エルの言う通り、オレ達はもっと強くならないといけない……圧倒的なほどに。
「魔瘴石集めに、マナスポットの解放……新しい種族の建国……過去の使徒は本当に全部を1人でこなしていたのか?」
「まさに英雄の所業ですね……」
「オレにはちょっと無理そうだ」
「兄さまが無理なら僕にも無理ですよ」
「エル……幸いな事にオレ達は2人いる。役割を少し考えた方が良いかもしれないな」
「役割……ですか?」
「ああ。エルは建国のための内政の勉強、オレはマナスポットの解放って具合にだ」
「兄さまだけで、マナスポットを解放するんですか?」
「小さいのは解放しただろ。悪夢の精力増強のギフトの時……」
「……そんな事もありましたね」
「先ずは世界中の小さなマナスポットを開放して、移動の手段を整える。それから体制を整えて、大きなマナスポットを開放して行くのが良いんじゃないかと思うんだ」
「なるほど」
「それに世界中のマナスポットを開放しておけば、色々な場所から支援を期待できる」
「そうか……例えばサンドラ領やエルフの郷からも、来てもらう事が出来るんですね」
「ああ。建国は新しい種族だけの話だが、マナスポットの汚染はこの世界の危機だ。種族がどうの言ってる場合じゃない」
「確かに……独立と同時に、その件も発表するのですか?」
「お爺様とも相談しないといけないが、そうなるだろうな。この事もフォスターク王国への牽制になる。“使徒を殺して世界に危機を招くのか?”って他の種族に言わせるんだ」
「そこまですれば、独立で戦いは起きませんかね?」
「どうだろうな……そこまでしても、今の時点では半々だろうな。独立までの10年か15年での行動次第……強さを磨くだけじゃなくて、仲間も増やさないとな」
「そうですね……」
何気なく話しているが、オレとエルの会話は世界の行く末でもある……他の皆は何も言わずに、静かに聞いているのだった。
今回の迷宮探索では色々と課題は残ったが、取り敢えずの目標であった翼の迷宮は踏破できた。
このまま残りの魔物の殲滅に動くか、休息を取って魔力や体力の回復を図るかを決めなくてはならない。
懐中時計を見ると時刻は13:00を少し超えている。
「ナーガさん、取り敢えず昼食にしませんか?殲滅に動くにしても、腹が減っては戦えないです」
「そうですね。アルド君、疲れていると思いますが昼食の準備をお願いできますか?無理そうなら黒パンと干し肉でも、誰も文句は言わないと思いますが……」
誰も文句は言わない……嘘だ!ナーガさんとエル以外の3人はオレに縋るような眼を向けている……ここで悪魔のメニューを出したら、少なくとも氷結さんが文句を言うのは火を見るよりも明らかだ。
「大丈夫です。簡単な物になりますが何か作りますよ」
「疲れているのに……ありがとうね、アルド君」
オレは取っておいたマッドブルの肉を焼くと、黒パンに挟んで人数分を手渡した。
お礼と共に全員がステーキサンドに齧りついていく……オレもそうだが、だいぶお腹が空いていたようだ。
食事を摂りながらナーガさんは全員を見渡してから口を開いた。
「皆さん、食べながらで良いので魔力の残量を教えてください。因みに私は2/3って所です」
「私は半分ぐらいね」
「ボクは半分より少し少ない」
「僕は1/3ぐらいです」
「私は……半分くらい」
「オレは1/3を少し切ったぐらいです」
「一番多い私が2/3……今日はここで明日の朝まで休憩にしましょう。申し訳ないけど、アルド君は昼食を摂った後は睡眠薬を飲んで貰ってもいいかしら?アルド君、エルファス君、アシェラさん3人のうち1人は魔力に余裕を持っててほしいの」
「分かりました」
どうやらオレが3人の中で一番魔力が少ないので回復しろとの事だ。
昼食を終え睡眠薬を飲んでからエルの肩に触れ、ギリギリまで魔力を渡すと、強烈な脱力感と眠気が襲ってきた……
「エル、後は頼むな……」
「はい、任せてください」
これでエルの魔力は3/5程度にはなった筈だ。これ以上は、今のオレに出来る事は何も無い。横になるとアシェラが膝枕をしてくれた……心地良い柔らかさと温かさに、ゆっくりと眠りに落ちていく……良い夢が見られそうだ……
ゆっくり覚醒していくと毛布の上に、一人で寝かされていた。
出来ればアシェラの膝枕で起きて、下からお胸様を眺めたかったのだが……
くだらない事を考えていると、オレの隣に母さんとライラが眠っており、ナーガさんがオレ達を守るように立っていた。
「ナーガさん、どうかしたんですか?」
「アルド君、起きたのね。良かった……」
ナーガさんの話によると、オレが眠ってから1時間ほどが経つと急に魔物が襲いかかってきてそうだ。
先ずは母さんとライラで迎撃していたが、想像以上の数にとうとう魔力が枯渇してしまった。
今はアシェラとエルが空間蹴りの魔道具を使い、省エネで魔物を倒している。
「僕も行ってきます」
「お願い。アルド君」
どうやら解放型の迷宮特有の現象なのだろう、普通の迷宮なら1層ずつ上がって来るしか無いのだが、解放型はその条件は当て嵌まらない。
恐らくだが、魔物が迷宮から解放されて一斉に出口に向かっていると思われる。
外にいるヤルゴ達は無事なのだろうか……こちらの体制が整っていれば合流する事も出来るのだが、この状態では申し訳ないが自分達の事で精一杯だ。
先ずはエルとアシェラに合流したい……母さんやライラが魔力枯渇になるぐらいなので、2人も相当キツイ戦いをしているのでは無いか……
オレも長期戦への備えから自前の空間蹴りでは無く、魔道具を使って空を駆けて行く。
少し移動するとエルとアシェラが戦っている姿が見えた……先ずはアシェラの方へ移動して声をかけてみる。
「アシェラ、大丈夫か?」
「アルド……コイツ等、倒してもキリが無い」
「魔力はどうだ?」
「ボクは1/3ぐらい残ってるけど、エルファスが厳しいと思う」
「分かった、エルを見てくる」
「うん」
オレはアシェラの元から離れて、エルへ近づいていく……エルはてっきり普段通りの騎士剣術で戦っているかと思っていたのだが、右手に片手剣、左手にナイフを持ち、遠目に見える姿はまるでオレのようだった。
「エル、大丈夫か?」
「兄さま……すみません。魔力がもう1割しかありません……」
エルは酷い魔力枯渇の症状が出ており、顔は青白く眠気が襲っているのだろう、眼を必死に開けて意識を保とうとしている。
「エル、ナーガさんの所へ行け。後はオレに任せろ」
「……すみません」
限界だったのか、エルはオレの言う事に素直に従って、ナーガさんのいるキャンプ地へと移動していく。
「アシェラ、無理そうならお前もナーガさんの所で休憩しろよ」
そう言った瞬間、アシェラの魔力拳が炸裂してワイバーンの頭が爆ぜた。
「ボクは大丈夫。お師匠達が起きるまでは頑張る!」
「そうか……無理するなよ」
エルとも感じるが、やはりアシェラとの共闘はシックリくる。お互いのしたい事が手に取るように分かり、1+1が3にも4にもなっていくようだ。
そうしてオレはアシェラと一緒に翼の迷宮の掃討戦へと、突入していった。
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