第238話再・翼の迷宮 part2
238.再・翼の迷宮 part2
朝食を終え真っ直ぐに南へ向かっていると、遠くに建物のような物が見え始めた。
建物はピラミッドのような四角錐で、その建物の麓には何かを守るかのように、大きな蛇のような魔物が見える……
「あれが風竜……」
誰かが呟いたが、それは全員の心の声であった。
「ナーガさん、突っ込みますか?」
「待って、付与魔法をかけます」
そう言ってナーガさんは全員に物理ガード、魔法ガード、身体強化の付与魔法をかけていく。
「アルド君、風竜にピンポイントでソナーを打って、こちらに誘い出せる?」
「たぶん出来ると思います」
「アルド君が風竜をおびき出したら戦闘開始よ。アルド君とアシェラさんは遊撃。エルファス君を先頭に後衛は、風竜と距離が詰まるまで魔法攻撃を」
「「「「はい、」」」」
「分かったわ」
「アルド君、お願い」
「局所ソナー打ちます」
オレのソナーに風竜は直ぐに反応し、その巨体をくねらせながら空へ上って行ったかと思うと、途中でこちらにに方向を変えかなりの早さで向かって来る。
中々の早さだが、あれがMAXのスピードなら母さん達でも何とか躱せる筈だ。
「行きます!」
エルの声にオレ達は全員で空へ駆け上がって行く。
全員が空へ上がると、先ずは後衛からの魔法攻撃が始まった。母さんはウィンドバレット(魔物用)、ライラはウィンドカッター、ナーガさんも最近練習しているウィンドバレット(魔物用)を一斉に撃ち込んでいく。
魔法が風竜に向かって行く途中で、風竜の体がブレたと思った瞬間、風竜はバレルロールの軌道で魔法をやり過ごした。
「どんどん撃って!」
ナーガさんの声が響く中、風竜は綺麗に魔法を躱して確実に距離を詰めてくる。
「散開!」
これ以上は厳しいと判断して“散開”の指示を出すが、風竜は母さんの魔法を脅威と認めたのか、母さんの元へ真っ直ぐに向かっていく。
「ラフィーナ、逃げて!」
ナーガさんが叫ぶが、やはり母さんの空間蹴りでは風竜のスピードには対応出来なかった。
風竜の口が開き母さんを一飲みにしようとした所で、エルが母さんの前に入り込みリアクティブアーマー込みのバッシュを風竜の鼻先にぶち当てた。
ドンっと腹に響く音と共に、風竜の軌道が逸れていく……
風竜は鼻先から煙を出してフラ付いたかと思うと、大音量の咆哮で威圧してきた。
Uターンをした風竜は邪魔をしたエルを睨みながら、口に魔力を溜めていく。
「ブレスです!僕の後ろに!」
母さん、ナーガさん、ライラがエルの後ろに隠れたと思った瞬間、風竜の口からブレスが吐き出される。
しかしエルは盾の上に魔力盾を纏い、風竜のブレスを完全に止めて見せた。
風竜は驚きの表情をエルに向け、すぐに後ろの3人はそれぞれの魔法を撃ち込んで行く。
風竜からすると魔法に当たったとしても致命傷にはならないが、無視できるほどの威力でも無いのだろう、鬱陶しそうに魔法を躱していると唐突に魔法の雨が止んだ。
こちらの魔力が切れたと思ったのか、嬉しそうに唸り声を上げ、エルの元に真っ直ぐ向かって行こうとしている。
その瞬間、上空から風竜を襲うように影が現れ、風竜に渾身の拳を振り下ろす。アシェラだ……遊撃が後衛と同じようにエルの後ろで縮こまっている訳も無い。
風竜がブレスの体勢に入った時点で上空に移動し、隙を伺って吶喊したのだ。
アシェラの魔力拳の威力は風竜にも効くらしい、今は拳の勢いに吹き飛ばされて必死に踏ん張って体勢を立て直そうと頑張っている。
「行く!」
そして遊撃はアシェラだけじゃない。もう1人……
アシェラが上ならオレは当然下から……魔力武器(大剣)を二刀出して、必死に体勢を立て直そうとしている風竜の首目掛けて斬り上げた。
ガァァァアアアア!!
オレの渾身の一撃は風竜にも届き得る!断末魔と間違えるような悲鳴を吐き出しながらも必死に活路を探している。
「アシェラ、追い込むぞ」
「分かった」
2人で風竜に向かって駆け出そうとした所で、ブレスが飛んできたが、バーニアがあれば余裕を持って躱す事ができた。
「しぶとい……」
「向こうも必死」
「そうだな」
風竜の眼には怯えが浮かんでいるが、諦めてはいない……隙があればいつでも喉元に食らいつく、と語っているようだ。
しかし、風竜の早さがこの程度だったのならオレ達の勝ちだ。
母さん達ではあのスピードに対処するのは難しいかもしれないが、バーニアが使えればどうと言う事は無い。
客観的に見ると風竜の強さは、恐らくオレ達1人と同じぐらいの強さではないだろうか。
しかし、こちらは3人……強敵ではあるが、油断さえしなければ負ける未来は見えない。
そこからは安全マージンを取って、確実に風竜を追い込んで行った。
風竜との戦闘が始まって1時間ほどが経ち、オレ達にもそれなりの疲労がたまって来た頃。
敵である風竜はと言うと、片目にはオレの短剣が刺さり、アシェラの魔法拳で尻尾は吹き飛んで無くなっている。
胴体もエルのリアクティブアーマーを受けて火傷が多数……風竜の体からすると小さな手足も、母さん達の魔法で今は申しわけ程度に残っているだけだ。
風竜も自分の敗北を悟ったのか、眼に覚悟を秘めて最後の攻撃を仕掛けてくるように見える。
「皆!気を引き締めて!」
早さも最初と比べれば見る影もなく、油断しなければ怪我をする事も無いと思うが……
やはり何処かに油断があったのだろうか。風竜があんな行動をとるとは思ってもみなかった。
「風竜が!」
ナーガさんが叫んだ時には、何と風竜が逃げ出したのだ。
魔瘴石を奪えば迷宮主である風竜は死ぬ……不利だからと言って、まさか逃げるなんて……あまりの事に一瞬、思考が止まってしまった。
「アル、風竜を止めて!」
母さんが叫んだ声で我に帰ると、丁度 風竜が魔瘴石を飲み込む所だった。
「迷宮主が、魔瘴石を……飲み込んだ……」
風竜が魔瘴石を飲み込んだ瞬間、迷宮特有の感覚が消えていく……どうやら翼の迷宮は踏破されたようだが……
そして風竜は体が真っ赤になって、端からどんどん崩れて灰になっていく……
これは……全員が風竜の意図を理解した……
特攻
風竜はオレ達に勝ち目が無いと踏んで、迷宮の要である魔瘴石を自分のチカラにするべく飲み込んだ……
しかし、祭壇から魔瘴石が無くなった事から迷宮は死んでしまった。
きっと風竜もオレ達を倒そうが、そう遠くない先に死んでしまうのだろう……
負けるぐらいなら、道ずれの特攻を仕掛けるという事か……何て迷惑な……お前は負けたんだ。潔く死んでいけよ……
こんな泣き言が出るほどに、風竜の纏う気配は先ほどと比べ物にならなくなっている。
「皆、逃げろ!アイツは放っておいても直に死ぬ!」
オレの言葉に全員が逃げようとするが、オレだけは逃げずに風竜に立ち塞がった。
風竜は速かった……オレがバーニアを絶えず使っても完全に躱す事は出来ず、オレもドラゴンアーマーもどんどん傷が増えていく。
その間も風竜の体は徐々に崩れて行くが、まるで軽量化した、と言わんばかりに更に速くなっていった……
エル達を逃がしてまだ1分も経ってない筈なのに、何時間も戦ったように感じる……
風竜も全員を倒す時間は無いと悟ったのか、オレだけに集中するようだ。
思考が追い付かない……息を吸う時間が無い……風竜の体も加速度的に崩れて行くが、攻撃を躱すだけでこちらが攻撃する時間が無い……速すぎる……
そして、その時が来てしまった……何がと言う事は無い。風竜のスピードに少しずつ追い込まれていき、決定的な隙が出来た、それだけの事だった。
あ、ヤバイ……何となく“これは助からない”だろうな……と思いながら風竜を見ていると、突然雷が風竜を襲う。
雷の攻撃故なのだろう、麻痺で風竜に一瞬の硬直が出来、オレは九死に一生を得る事が出来た……
しかし納得できないのは風竜の方だ。横やりを入れた者へ憎しみを込めた眼を向けたと思うと、ライラへ真っ直ぐに向かって行く。
「逃げろ!」
声を出してはみたが今の風竜の速さについて行ける者など誰もいない……ライラの攻撃も雷撃の自動追尾故に当てる事ができたのだ。
母さんの魔法も、アシェラの格闘も、エルの盾も、全てをすり抜けて風竜はライラに向かっていく……
「やめろぉぉぉ!!」
オレの声が響く中、風竜はライラの腹に食らいついた……
「あ、アルド君…………良かった……」
ライラは自分が風竜に食らいつかれているのに……オレの無事な姿を見て笑みを浮かべている……良かったと、心の底から嬉しそうに……
次の瞬間、風竜はライラの体を嚙み千切った……
風竜は限界だったのだろう、体を維持出来ずに全体が崩れ落ちていく……
上半身と下半身に別れてしまったライラと一緒に……
「ライラ!!!」
オレはライラの上半身を抱きかかえ、アドに貰ったエルフの秘薬“完全回復薬”を飲ませようとした……
しかしライラはピクリとも動かず、秘薬を飲んではくれない……
「これはかけても良いってアドが言ったんだ。ライラ、大丈夫だ。直ぐ良くなる」
薬を半分かけてもライラには何の変化も無い……
「くそぉぉぉ!!」
オレは秘薬を口に含むとライラに口移しで無理矢理体の奥に押し込んだ……
秘薬が無くなり……ライラは依然、動かない……オレを助けようとして死ぬなんて……
「くぅ、こ……こんな、こんな事ならもっと優しくしてやれば良かった……」
オレがライラの横で泣いている間に、エルは魔瘴石の浄化と活性化した魔物の掃除をしてくれていた。
「アルド……」
アシェラがオレの背中に手を置いた瞬間“ぼんっ”っと音と煙が出ておかしな事にライラの体が元に戻っている……
「ま、まさか……ライラ、ライラ、眼を開けてくれ!頼む……これからは優しくするからお願いだ……」
オレが揺すりながら声をかけると、ライラはゆっくりと眼を開けていく……
。
「ライラ!」
「アルド君……」
「助かったのか……?」
「そう……みたい……」
「良かった……本当に良かった……」
「……」
そう言いながらオレはライラを抱きしめ続け、温もりを感じ生きている事を実感していた。
しかし、考えて欲しい……体が半分になったと言う事は、当然ながら装備は今現在も半分になった下半身にあるわけで……
上半身しか無い体に突然、下半身が生えてきたら……オレは下半身スッポンポンのライラと暫く抱き合っていたのだった。
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