第195話予感
195.予感
水浴びの次の日の朝。
「アシェラ、お前のドラゴンアーマーだけど、早めに直してもらおう。昨日みたいな事があると心配だ」
オレの言葉に少し考えてから、アシェラは頷いた。
先程、アシェラに話した通り、今は一緒に防具屋へ向かっている所なのだが……何故か昨日アシェラの部屋に泊まったオリビアとライラも一緒だ。
オレからすると最近のこの状況に少々、困惑している。
色々と思う所はあるがオリビアは良い。オリビア自身の気持ちもアシェラの気持ちも、ついでにサンドラ家としての思いも聞いている。
まあ、将来ブルーリングが独立する事や、新しい種族の事をオリビアに話さなければ……と思うのだがオレの判断だけではどうしようも無い。
しかしライラは違う……エルフの郷で初めて会って、まだ数週間しか経っていないのだ。
何故か普通にこの輪の中にいるが、何がどうなっているのか全く分からない。
ライラ自体の容姿はかなり可愛らしく、好意を寄せてくれることには不満は無いのだが……
本人を目の前に話して良いか分からないので、何処かでアシェラに問いただそうと思っている。
後は爺さんにオリビアに使徒の件を話して良いかを相談しないと……
相変わらずやらないといけない事が沢山ある。
そんなこんなで直に防具屋へ到着した。
中を覗くと相変わらず客の姿は無くボーグが暇そうに座っている。
「ボーグ良いか?」
「ん?アルドか。どうした?」
「実はアシェラのドラゴンアーマーのサイズを直してほしいんだ」
「サイズ?ああ、胸のか。ほらみろ。やっぱり使い難いだろ」
「……いや、それが……全部なんだ」
「全部?どういう事だ?」
ボーグはそう言いながら隣のアシェラを上から下まで見てるうちに表情がどんどん険しくなっていく。
「おい、アルド……これは、どういう事だ?嬢ちゃん、縮んでるじゃねぇか」
「ああ……理由は聞かないでくれ」
「それは、良いが……」
「スマン」
「どっちにしてもサイズの測り直しからだな……」
前の時はアシェラと母さんの採寸はナーガさんがやってくれた。ボーグはどこの寸法がいるかを説明しただけだ。
「じゃあ、オリビアとライラ、アシェラの採寸を頼む。ボーグの言う場所の寸法を取ってくれ」
「「分かったわ」」
もしかして、アシェラはこれを見越して、オリビアとライラを連れてきたのだろうか。
アシェラ、オリビア、ライラが奥の部屋に入っていく。
オレはボーグと世間話だ。
「ドラゴンスレイヤーとまでなると、不思議な体験もするみたいだな」
「まあな……」
「まあ、なんだ。元気出せ」
「ん?アシェラは縮んだだけだぞ」
「うーん、お前の視線は隙があれば嬢ちゃんの胸に行ってたからなぁ。まあ、そういう事だろ?」
「……気付いてたのか?」
「たぶん嬢ちゃんも気付いてるぞ。だからドラゴンアーマーの胸の部分を大き目に作るように言ってきたんだろうな」
「そうなのか……」
「まぁ、あの感じだと2~3年もすれば元に戻るだろ」
「そうだと思う……」
「じゃあ、楽しみに待つんだな」
「ハァ……そうさせてもらうよ」
ボーグの笑い声が続く中、オレは大きな溜息を吐く。
「それと、話しは変わるが、空間蹴りの魔道具をそれなりの数、作りたいんだ。ミスリル線を作っておいてくれないか?」
「どれぐらい要るんだ?」
「取り敢えず神赤貨3枚分を頼む」
「お前……空飛ぶ軍隊でも作る気なのか……」
「知り合いに配るだけだよ」
「……そうかよ。程々にしておけよ」
ボーグとそんな他愛ない話をしていると、奥の部屋から3人が出てきた。
「はい」
アシェラがボーグに採寸表を渡している。
「……だいぶ縮んだな。これだとちょっと時間がかかるけど良いか?」
「どれぐらい?」
「そうだな……10日ってところか」
「分かった。10日後に取りに来る」
「ああ」
「それと値段は?」
「そうだな……材料は殆どかからないしな……白金貨5枚ってところか」
「はい、これ。白金貨5枚」
「嬢ちゃんまで即金かよ。お前等いったいどうなってるんだ……」
ボーグはそう言って苦笑いを浮かべている。
これで用事は終わりかと思ったら、アシェラは採寸表をもう2枚ボーグへと渡した。
「嬢ちゃん、これは何だ?」
「この2人の防具もお願い。素材は昨日倒したワイバーンで。前にアルド達が着てたワイバーンレザーアーマーと同じ感じで作って。それで、こっちのライラの鎧にはボクと同じバーニアを、魔力盾は2つ共に仕込んでほしい」
「……おいおい、こっちの嬢ちゃんも修羅なのか?」
ボーグがライラを驚いた顔で見ている。
「私は修羅じゃない。ただ空間蹴りができるだけ」
「出来るだけって……空を飛べるって事じゃねぇかよ……こいつは驚いたぜ……」
オレもライラが空間蹴りを使った時は本当に驚いた。ボーグの気持ちが手に取るように分かる。
空間蹴りが使えるライラなら、バーニアも使えるだろう。
ただ、オリビアは純粋な魔法使いだ。ローブじゃなくても良いのだろうか?
「オリビアはローブじゃなくても良いのか?」
「良い。お師匠と一緒で魔道具を使う」
どうやらアシェラは本気でオリビアを身内と認めているようだ。
空間蹴りの魔道具は爺さんから、殺してでも回収しろと言われている。
それを使わせる前提なのだ。きっと魔道具の件は母さんも納得済なんだろう。
なんだか凄くモニョル……そりゃ、オリビアに不満は無い。オレには勿体ないとさえ思う。
でも、オレの嫁の話なのに、何でオレの意思が1mmも反映されてないんですか?
おかしくありませんかね?
ハァ、こうやって外堀を埋められて行くんだろうなぁ、とボンヤリ考えていた。
ボーグの店をお暇して今は服屋へ移動中だ。
服屋……きっとライラと縮んだアシェラの服を買うのだろうが……絶対に下着を買う流れだよな、これ。
オレは前回の悪夢を思い出さずにいられない
服屋の店員にオレの下着の趣味を事細かく聞かれ、最後には透け具合の好みまで聞かれた。
オレは絶対にあの悪夢を忘れない!
何があっても今日は服屋の外で待っている事を、オレは固く誓うのだった。
3人の後ろを歩いていると、不意にオリビアが振り向いてこちら見つめてくる。
「どうした?」
「いえ、アルドに似合う服はどんなだろう、と思いまして」
オリビアの言葉にアシェラとライラも立ち止まり、オレを頭の天辺から爪先までマジマジと見つめらた。
「オレの服は良い。3人の気に入った服を選んでくれ……」
オレは服屋に入りたくない内心を隠し、何でも無い風を装って話す。
心の中では「アルド君のライフは0よ!」と聞こえそうだ。
「アルド、ボクがアルドに似合う服を選んであげる」
「ズルイわ、アシェラ。私もアルドに服を選びたい」
「わ、私も……アルド君には王子様みたいな服が似合うと思うの」
やっべぇ。もう逃げられない……しかもライラはオレに何を着せる気なんだ……白タイツか?白タイツなのか?
死刑執行される囚人はこういう気持ちなのかと、オレは3人に服屋へと連れていかれるのであった。
屋敷に帰ってきたのは、陽もだいぶ傾いた夕方になってからだ。
朝から王都を歩き周ったと言うのに、3人は出かける前よりツヤツヤになっているように見える。
何だこの底なしの体力は……これならマンティス相手に3日は戦い続けられるに違いない。
オレが密かに驚愕していると、3人がアシェラの部屋へと入っていく。
実は買った服は先に屋敷へ、運んで貰っていたのだ。
きっと今頃はアシェラの部屋で、ファッションショーでも繰り広げているのだろう。
魅惑の花園への興味は尽きないが、オレはさっさと逃げさせてもらった。
夕飯までの時間を自室で過ごしていると、オレの部屋のノックの音が響く。
「アルド、いる?」
どうやらアシェラのようだ。
「ああ、どうした?」
「服を見て欲しい」
オレはベッドに寝転んでいたのだが、身を起こし扉の前まで移動すると、ゆっくりと扉を開いた……
「どう?」
「どうですか……アルド」
「……」
なんだこれは……
アシェラは夏なのに赤いコートを着てブーツ姿……まるでサンタコスだ。
オリビアは黄色と赤のチャイナドレスっぽい服を着ている……
極めつけはライラ……ネコの着ぐるみを着ているのだ……何これ、あの店だけ現代日本に匹敵するんじゃね?
そういえば女店員に下着の好みを聞かれた時に、コスプレの話をしたような……
オレの話からこれだけの物を作ったとするなら……あの女店員、優秀過ぎじゃないですかね?
オレが戦慄している間に3人はオレの感想を待っているようで、徐々にポーズを付けながら赤くなっていく……
放置プレイも見たい気がしたが、オレはドSじゃない。
「アシェラ、とってもカワイイ。凄く抱きしめたい……けど暑いだろ……充分だから脱いでこいよ」
アシェラは満面の笑みを受かべてから、急いで自室へと向かって行った。エアコン魔法が使えるので問題ないだろうが、だいぶ暑かったみたいだ。
「オリビア、とても綺麗だ……でもそのスリットは……下着が少し見えてるぞ……」
オレの言葉にオリビアは驚いた顔を一瞬見せ、落ち着いた様子で部屋を出て行くが、途中で何も無い所で躓いて、かなり動揺している。
最後にライラなのだが……これはどう言って良いのか……
期待した眼で見られているがアシェラやオリビアと違いセクシーさは全く無い。
むしろ、オレからするとネタ枠だと思うのだが……どうなんだろう。
ライラの期待に染まった眼を見ると思った事をそのまま言うのは躊躇われる。
「ら、ライラ、ネコ……ライラネコちゃんかわいいなぁ……」
ライラ的にはOKだったのか……頬を赤く染めて恥ずかしそうに部屋を出て行く。
謎だ……紫の少女から謎紫の少女になったぞ。
我ながら意味の分からない思考をしながら、3人の少女のそれぞれの魅力を間近で見て、こちらまで赤くなるのを止められなかった。
夕食の前にオリビアが、ブルーリングの馬車に送られ帰っていく。
オリビア曰く「あまり図々しい真似をすると、お義母様に嫌われてしまいます」との事だが、そのお義母様って氷結さんの事ですよね?
何時の間に、お義母様って……オレ、アシェラ以外に婚約した覚え無いんだけど……
こうして考えてみると、まずはライラよりオリビアが問題か。
使徒……独立の際には隣の領であるサンドラ軍は王国軍に組み込まれて、恐らくだがオレ達と戦う事になる。
この事実を知って、オリビアの気持ちは今までと同じとは いかないはずだ。
爺さんやアシェラは、いったい今の状況をどう考えているのだろうか。
いたずらにオリビアの心を傷つけるだけになっている気がする……
虫の知らせなのだろうか、オレの考えを裏付けるような出来事が唐突に起こった。
いや、違う……心のどこかでは分かっていたのだ。考えないように、していただけなのだろう。
8月も中旬を過ぎた頃、サンドラ邸から昼食に招待されたのだ。
爺さん、母さん、オレ、エル、アシェラ……そしてライラを。
差出人はサンドラ伯爵の下にリーザス第2夫人とルイスベル、の名前があり、3人での連名だ。
恐らくはリーザス夫人とルイスがサンドラ領から帰ってきたのだろう。
そして、手紙を境に、オリビアがブルーリング邸へ遊びにくる事は無くなった。
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