第196話サンドラ家 part1
196.サンドラ家 part1
今日はサンドラ家から食事のお誘いがあり向かっている所だ。
懇意にしているサンドラ家からの食事会であれば、本来は笑い声が絶えないはずなのに、馬車の中はまるでお通夜のように静まり返っている。
「アルド、エルファス、こうなってしまった以上、どうするかはお前達が決めろ。最後はお前達2人が背負う事だ」
「「分かりました……」」
サンドラ家から食事の招待があってから何度も話してきた。
第2夫人のリーザスさん、長男のルイス、この2人にコンデンスレイを見られたのだ。何かしらのアクションはあるはずである。
サンドラ伯爵がどう思っているかは不明ではあるが、オレとエルを取り込もうとしてくるのでは無いだろうか。
いざという時の剣として繋がりを得たいと思うか、是が非でもサンドラへ取り込もうとするかの違いはあるが……
それと、無いとは思うがエルフから使徒の件が漏れてるなんて事があったら……
ヘタすると直ぐにでも独立戦争になっちゃうじゃないですかーーやだーーーー
実は王都に帰ってきてから母さん、エル、アシェラと何度かサンドラ領での件の反省会をしたのだが、あの時の判断に大きな後悔はない、というのがオレ達の見解だ。
エルフを見捨てていれば不安の大部分は無くなったのだろうが、オレだけじゃなくエルもアシェラも“見捨てられない”と答えていた。
唯一、母さんだけは何人かは死んだはずだがブルーリングでは無く、魔の森へ飛ばした方が良かったかも……と判断を保留にしている。
実際、未来の事は誰にも分からない。もしかしてオレ自身もエルフの郷を助けた事を後悔する日が来るのかもしれない。
そして冒頭の爺さんの言葉に繋がるのである。
憂鬱な馬車での移動も、そろそろ終わりに近づいてきた。
後5分もしないで馬車はサンドラ邸に到着してしまう。
死刑執行に向かう囚人の気持ちで座っていると、馬車はゆっくりとスピードを落としていく。
……誰も口を開こうとしない中で、馬車がとうとう止まってしまった。
今回、オレ達は2台の馬車に別れての移動である。
先頭の馬車には当主である爺さん、そして直系の男子であるオレとエルの3人。
2台目には母さん、アシェラ、ライラの3人だ。
最初、オレは2台目に乗るつもりだったが、馬車に乗る段になって母さんが“アルとエルが主賓”と爆弾を落としやがった。
爺さんと母さんの相談の結果、急遽、先頭の馬車に乗る事になってしまった、という訳だ。
御者が踏み台を置き、扉を開ける。まずは爺さんが降りて行く。
次はオレの番になる。ゆっくりと馬車から降りると何故か空気がピリついた……
軽い殺気を“鮮血さん”から感じる。あの人は殺気を出していないと死ぬ病気なのだろうか?
隣のルイスが呆れた顔をして片手で“ごめん”のポーズを取っているのが印象的だ。
オレは笑みを浮かべながらルイスにアイコンタクトを送ってやった。
母さんの分を開けて爺さんの隣に移動すると、エル、母さん、アシェラ、ライラも自分の場所へと並んでいく。
全員が並び終えると、まずはサンドラ伯爵が歓迎の挨拶を始め、爺さんが返礼をする。
この流れは毎回の恒例で、ルーチンワークとなっている部分だ。
オレからすると面倒だと思うのだが、貴族の体面の話らしく大事な事らしい。
また1つ貴族が嫌になったのは秘密だ。
サンドラ家のメンバーはサンドラ伯爵を筆頭に第1夫人のミリアさん、その息子のオコヤ君、第2夫人のリーザスさん、その息子のルイスベルの計5人である。
どうやらオリビアは不参加のようだ。
オリビアは今回の招待状が届いた日から、一度もブルーリング邸に来ていない。
オリビアの件も気にはなるが、サンドラ領でのオレ達の噂とサンドラ家の中での話を聞きたい。
オレは食事の前の談話の時間にルイスへと聞いてみた。
「ルイス、ちょっと良いか?」
「ああ、何が聞きたいか大体分かる。ちょっとオレの部屋に行こう」
「すまない」
オレはルイスに促され部屋へと移動する。
ルイスの部屋はリーザスさんの修行の後で何度か入った事はあったが、以前よりだいぶ物が少なくなっていた。
「何かだいぶスッキリしたな」
「ああ、学園を卒業したら家を出るつもりだからな。少しずつ整理してるんだ」
「そうか……」
卒業後はどうするのかを聞きたいが、今はそれよりもサンドラの事を聞きたい。
「サンドラ領でのオレ達の噂はどうだった?」
「おいおい、オリビアの事じゃないのかよ?」
「……」
「冗談だ。お前等が出て行って1月ぐらいか?青い石が光出してな、割れたんだ……」
「そうか……」
「これは噂なんだがな……その時に青い精霊を見たって噂が流れてな……お前達“王家の影”は精霊の使いだって噂も同時に流れた」
「……」
「オレ達はお前がそんな得体の知れない者じゃない、ってのは知ってるんだが……領民はそうはいかない……酷いヤツになるとお前等が去った方向に、拝み出すヤツまで出てきたんだ」
「……マジか」
「それと、お前等と親し気な空気を出していたオレが、正体を知ってるって噂になってな……しかも、借りたままになってる空間蹴りの魔道具も悪かった。あの魔道具と“王家の影”の空間蹴りを結びつけるヤツまで出てきたんだ……」
「……」
「どんどん騒ぎが大きくなってオレは暫くサンドラの屋敷に引きこもってたんだけど、2回ほど屋敷に賊が忍び込んで攫われそうになった」
「!!大丈夫だったのか?!」
「ああ、1回は護衛に撃退されて逃げだした所を騎士団が、もう1回はオレと母さんで撃退してやったぜ」
「そうか……良かった……」
「……」
話の途中だがルイスは言葉を発せず、オレの顔をジッと見つめている……
「どうした?」
「……アルド、お前……本当に精霊の使いなんかじゃないよな?」
「……」
「……」
「……」
「……スマン。そんな訳ないよな。何言ってるんだろ、オレ。忘れてくれ」
ルイスは少しだけ悲しそうな顔を、無理やり笑顔にして話題を変えた。
「それにしても何なんだ。あの魔法は……地形が変わってたじゃねぇか。それに青い石……」
「あれか……スマン。あれらは爺さんに話すのを止められてるんだ」
「って事はブルーリング秘伝の魔法か……とんでも無いな。ブルーリングは……」
「……」
不意に扉がノックされ、扉を開けるとメイドがお茶を運んでくれたようだ。
早速、ルイスとお茶を頂き、一息つくと続きを促した。
「で、サンドラ家の見解を聞いても良いか?」
「ああ、全部、包み隠さずって訳には行かないがな」
「それは当然だな」
「まず、父さんだが……お前達のチカラを少し怖がっている。個人で街1つ焼き払える魔法を使うから、らしい。オレには分からんが為政者なら当然の判断なんだそうだ」
「……」
「父さんが言うには『アルド君達の人となりは好ましく思っているし、信用もしている。ただ人には止むを得ない場合がある。例えば大切な人を人質に取られたり……サンドラとブルーリングが争いになったりした場合だ……』だそうだ」
ルイスは意味が分からない、と肩を竦めているが、本当に分からないわけではなくオレに気を使っているのだろう。
「……そうか」
「但し、それ以上に感謝をしているのも本当だ。オレや母さんからの報告や騎士団からの報告からも、お前達が来てくれ無ければ間違いなくサンドラの街は滅んでいた」
「……」
「父さんは“次代にサンドラを残すのが自分の使命”といつも言ってるからな。本当なら土下座をして感謝したいと思うぞ。あの立場では絶対出来ないだろうけどな……」
オレは苦笑いを浮かべるのが精々だった。
「貴族か……」
「ああ、貴族だ。オレなんか面倒にしか思わんがね。感謝の気持ちさえ……言いたい事も言えず、行きたい場所にも行けない。貴族って役を演じてるだけで自分の気持ちはいつも腹に抱えるだけ……そんなに良いもんかねぇ……」
「……同感だ」
オレとルイスはお互いに苦笑いを浮かべ、大きな溜息を1つ吐く。
「後は……ミリアさん、オコヤ、母さん、オレ、は父さんと違って感謝だけって感じかな?特にオコヤはお前とエルファスを物語の英雄みたいに思ってる。後で話してやってくれると助かる」
「……話すのは問題ないが……英雄とか」
「いいや、サンドラにとってお前等は間違いなく英雄だよ。あそこにいた者は間違いなくそう感じたはずだ……オレも含めてな」
「……」
「さて、最後は問題のオリビアだが……」
「……」
「それは直接話した方が良いかもな。今オリビアの部屋にアシェラと紫髪の少女がいるらしい。お前をそれとなく誘導してくれ、だとさ」
「誰が?」
ルイスは小さな紙を取り出してオレに見せた。
「この字はミリアさんだな。さっきのメイドにこっそりと渡された」
「ミリアさん……」
「って事で行ってやってくれ。どうなるにしても有耶無耶にして自然消滅なんて嫌だろ?」
「……そうだな」
「厭らしい話だが、父さんもお前の枷になるのなら、オリビアとの結婚は反対はしないどころか喜ぶはずだ。本心は別にしてもサンドラの安全と繁栄を一番に考えるからな」
「……」
ルイスの話の内容ではオレ達を避けているのはオリビア本人のようだ。
オリビアもまだ15歳。心変わりしたとしても全く不思議は無い。
「分かった。オリビアの部屋に行ってみるよ」
「そうしてやってくれ。部屋の外にメイドが居るはずだから、連れて行ってくれるはずだ」
どれだけ段取りが良いんだろうか……オレが訝しそうにしているとルイスが笑いながら教えてくれた。
「オレが失敗した場合はトイレに案内すると言って、連れて行くつもりだったみたいだぞ」
そう言ってルイスはさきほどのメモを見せてくれる。
文字がギッシリ書かれ過ぎていて、パッと見は模様のように見えるのだが……
オレは苦笑いを浮かべルイスの部屋をお暇させてもらった。
メイドはオレ達の会話が聞こえていたのだろうか、オレを一瞥すると何も言わずに歩き出す。
どうもサンドラ家としてはオレ達の秘密を暴こうだとか、無理に取り込もうだとかは思っていないようだ。
少し警戒し過ぎたかもしれない……
オリビアの件が解決すれば、後の事は爺さんとサンドラ伯爵にお任せしよう。
オリビアとの関係が今まで通りになるか、ただの友人へと変わるか、は不明だが……
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