第230話海鮮バーベキュー

230.海鮮バーベキュー






迷宮探索の準備も順調に終え、今はアオに頼んでミルド領のマナスポットへ飛ばしてもらった所である。


「ありがとう、アオ。行って来るよ」


オレの言葉にアオは、満更でも無さそうな顔で消えていく。


「じゃあ、行きましょうか」


ここからミルドの街までの道が分かるのはナーガさん、ライラ、アシェラ、オレの4人だけだ。

しかし、あの時はヤルゴ達から逃げるために、ナーガさんとライラは走るのに精一杯で、アシェラはきっと覚えて無い。


必然的にオレが先頭になってミルドの街に向かう事となった。


「長閑な所ですねぇ」


エルがオレ達を追い抜いて行く馬車を見ながら、そんな事を言う。


「そうだな。この道は普段、漁師の村で獲れた魚を街に運ぶための物らしいぞ」

「では、あの馬車の荷は魚ですか……」


「たぶんな、冬の魚は脂が乗って美味いんだよなぁ」


つい馬車に何の魚が乗っているのか気になって、荷馬車を運転しているオッサンに声をかけてしまった。


「おっちゃん、荷は魚なのか?」


オッサンは愛想良く返事をしたと思ったら、馬車の速度を落として返事を返してくれる。


「おう、魚だけじゃないぞ。今日は貝も積んでるぜ。何だ坊主、買ってくのか?」


オレはオッサンの誘惑に負けて頷いてしまった……

早速、馬車の中を見せてもらうと貝はサザエが積んであり、何とカニまで乗っているではないか!


く、食いてぇぇぇぇぇ!!


オッサンはオレの様子を見てチョロイと思ったらしく、終始ニヤニヤしながら強気な値段を押し通してくる。

結局、オレはサンマに似た魚とサザエを人数分、そしてカニを2杯買ってしまった……


「まいどあり!」


途中までは強気な態度だったオッサンも、オレが継続的に買いに来てくれそうだと踏むと、卸値では無く売値より少し安い値段で売ってくれた。

このマナスポットを開放した時には全く考えてなかったが、好きな時に新鮮な魚介類を食べる事が出来る……ここを開放したのは当たりだったかもしれない。


しかし、こうなると米が欲しい……ご飯の上に、海の幸を山盛りに乗せて特製海鮮丼を作りたい!そして食べたい!!米……米があれば!夢がひろがりんぐ!

エルに後から聞いた話だが、オレは昼食の時間になるまで、終始 げへげへと気持ち悪い笑みを浮かべながら歩いていたらしい……




待ちに待った昼食の時間--------------------




道から少し外れ、広場になった場所で休憩に入る事になった。

オレは早速、石を積んで簡単なかまどを作ると、魔法で火を起こし魚介類を焼く準備を進めていく。


サンマに串を打ち、かまどの周りに刺し、いよいよサザエとカニの出番である。


………………あ、網が無い。


いざメインである、焼きカニの海鮮バーベキューをしようと思ったのに網が無い!!オレはこんな初歩的なミスを犯した自分が、たまらなく憎い!

しょうがないので近くにある大岩に、超振動をかけた魔力武器(大剣)を構えて突っ込んでいく。


一閃、一閃、一閃……石を30×5×5センドに切った物を20本ほど用意した。

この石を何とか網の代わりになるように、かまどにジェンガのように組んでいく……


全員がオレの一連の行動を、口を開けて呆然と見ているのは、オレのせいじゃ無いはずだ。

因みに石を切り出すのに、オレの全魔力の6割を使ったのは秘密である。


後でこっそりエルに魔力を補充してもらわなければ……エルには焼きカニのハサミの部分をやろう。

そんなこんなで食材がどんどん焼きあがってきた。


焼きあがったサンマは脂が滴り落ち、凶悪な匂いを辺りに漂わせ始めている。


「アルド……まだ?」

「待て、もう少しだ」


「ボクのお腹は限界に近い……」

「しょうがないなぁ」


オレは一番焼けているサンマを取ると醤油をかけてアシェラに渡してやった。


「内臓は食べても食べなくても好きにして良い。骨と頭と尻尾は食べられ無いからな」

「分かった」


アシェラはそれだけ言うと、サンマの背中に齧りつく。


「美味しい!!」


アシェラの声が響く中、猛獣の群れがオレに襲い掛からんと眼をギラギラと輝かせている。


「わ、分かりました……順番に渡しますから……」


サンマを全員に渡し終わると、次はサザエがそろそろイイ感じになってきた。

フタの部分から汁が染み出し、グツグツと沸騰している……そこに醤油をそっと2、3滴垂らし、しばし待つ。


そろそろ良いか、と左手はドラゴンアーマーを付けたままサザエを掴み、右手にそこらの木を削った楊枝を持ちサザエの身をくるっと取り出した。

そのまま食べようかと思ったが……殺気が……しかも囲まれてる……


周りを見ると今にも襲い掛からんとする、亡者の群れがそこにはあった。


「わ、分かりました……じゅ、順番に取りますから。はい、先ずはアシェラから……」


オレがサザエをアシェラに渡すと、氷結さんが文句を言って来る。


「さっきもアシェラだったじゃない!不公平よ!」


コイツは数分も待てないのだろうか……ここで反論しても3倍になって帰ってくるので、何も言わずにサザエの身を取って氷結さんに渡してやった。


全員のサザエの身を取り終え、やっと自分のサンマとサザエを食べていると、メインのカニがそろそろ良い焼き加減になっている。

オッサンからは今日獲ったばかりと聞いたので、本当は生カニも食べたかったのだが、ここでは流石に調理が難しい。


「カニがそろそろ良い感じです」


オレがそう言うと、先程の勢いが嘘のように全員がカニを得体の知れない物を見る様に、眉間に皺を寄せている。


「食べないんですか?」

「アル、アンタ、この虫を食べるの?」


虫!改めてカニを見ると……なるほど、確かに虫っぽい。外骨格で足が6本にハサミ……言われてみれば納得である。


「見た目は悪いですが、美味しいですよ」

「アルの料理だから美味しいんでしょうけど……虫は流石に……」


母さんの言葉に全員が小さく頷いた。


「そうですか……無理にとは言いませんので……」


そう言いながらオレはカニの足をもいで折り、カニの身をそっと引っ張り出す……

おお、何という身の量!こいつはやっすいカニじゃねぇ!高級カニだ!プリプリカニだ!


オレは十何年ぶりにカニの身を口の中に入れる……

デリシャャァァァス!!パーーーフェクッ!!うんめぇぇぇ!何これ、焼いただけなのに美味すぎるんだけど!


そこからオレは1人、夢中になってカニを食べていた。うまうま。

ふと気が付くとアシェラがオレの隣で、カニの身を凝視している……


「食うか?」


そう言って持っていたカニの足から出た身を、アシェラの口元に持っていくと、悲壮な顔でゆっくりとカニの身に齧りつく……

一瞬の静寂の後、アシェラは眼を見開き頬を赤らめ満面の笑顔で叫んだ。


「美味しい!何これ!こんな美味しい物、ボク初めて食べたかも!」


アシェラの言葉に全員が反応した……この場でこの反応を見せられて、興味を示さないようなヤツは、冒険者になぞならない!

全員にカニを食べさせると、アシェラと同じような反応をし、虫がどうの、と言うヤツは1人もいなくなった。


そこからは、当然の如くひたすらカニを剥く作業が、オレに待っていたのは言うまでも無いだろう。

カニは剥くのに技術がいる……食べる順番に剥いて行く方向……素人が何も知らずに上手く食べる事はほぼ不可能。


そして当然ながら剥くより食べる方が早いに決まっている。


「み、皆さん、オレもカニを食べたいんですが……」

「アルはさっき食べたでしょ。最初のカニの半分は1人で食べたじゃない」


ぐっ、確かに最初のカニのハサミは、2本ともオレが食べた……まぁ良い……ヤツラはカニミソを知らない……最後に甲羅を開けてカニミソをゲットするのはオレだ!

そうして最後の足争奪戦も無事に終わり、後片付けに入った頃、なんとナーガさんがカニの胴体をゴミ捨て用に掘った穴に投げ捨てる、という暴挙に出た……


アンタなんばしよっと!オレはバーニアを最大で吹かして、カニの胴体をスライディングキャッチし、不幸な事故を未然に防ぐ事に成功する。


「あ、アルド君……何を……」


オレは戦慄しているナーガさんを無視してカニの甲羅を開けた……そして人差し指でカニミソを掬うと口の中に入れる……う、うめぇ……

オレが至福の時間を味わっていると、全員が珍しそうに甲羅を開けたカニを覗き込んでいる。


「兄さま、それも美味しいんですか?」

「ああ、カニミソだ。オレはカニの中で一番カニミソが美味いと思っている!」


オレは2つ目のカニの甲羅を開けて、指でカニミソを掬うとエルの口の中に押し込んだ。


「うわ、何ですかコレ、すごく美味しい……」


女性陣からは白い眼で見られたが、エルからは魔力を貰わなければいけないので、知らん顔をさせてもらった。


「エル、カニミソ食わせてやったから魔力をくれ。さっきの超振動で魔力が4割を切ってる……」


エルは呆れた顔を見せたがカニミソの味を思い出したのだろう、笑顔で魔力を回復してくれた。

恐らくここからミルドの街は、後1時間も歩けば見えてくるはずだ。


休憩もしっかり取り、そろそろ良い時間になった頃、ナーガさんがゆっくりと立ち上がった。


「お腹も膨れましたし、そろそろ行きましょうか」

「「「「はい」」」」

「分かったわ」


そこからも特に何かが起こる事も無く、長閑な街道を歩いていくと直にミルドの街が見えてくる。

先回の関所の時のように母さんが絡まれても面倒臭いので、先に“王家の影”としての仮面を被ってから門に向かう事にした。


門に到着すると、この怪しさ120%の変態仮面のお陰なのだろう、サンドラの時と同様に門番がオレ達を取り囲み、周りの人は遠巻きに見ているだけだ。


「何だお前達は!」

「オレ達は“王家の影”だ。ミルド公爵が王に“翼の迷宮”の討伐を請願し、王が我らを寄越した。王の勅命を持ってミルドの街に滞在させてもらう」


「王家の影だと?」「お前何か知ってるか?」「随分前にそんなお触れがあったような……」「見るからに怪しいぞ、アイツ等……」


オレ達の扱いを持て余していると、上役だろう者が奥から出て来て、土下座せんばかりに謝り出した。


「申し訳ありません。つい先ほど“王家の影”の方が来られる事は連絡があったのですが、北門から来られるとばかり思っていました。誠に申し訳ありません」

「いや、良い。我らも先触れも出さずに来てしまったからな」


「では早速、領主館へご案内します」

「うぇ、領主館?」


思わず変な声を出しちゃったじゃないか……ミルドの街の領主館は、つい先日も暴漢の襲撃があったらしいから、セキュリティに不安が……出来ればごめんこうむりたい。

どうすれば良いか母さんに小声で意見を聞いてみる。


「どうしましょう……」

「安全の確保が出来ない場所に泊まるのは、バカのやる事よ。領主館に泊まるぐらいなら、そこらで野宿した方がマシよ」


「後々、問題にならないでしょうか?」

「なって問題あるの?もう充分 揉めてるでしょ。今更、問題が1つや2つ増えても変わらないわ」


母さんの言う事は尤もだ。ここは全員の安全を第一に考えさせてもらおう。

オレ達の内輪話が終わるのを待っている門番長?に、どうするかの返事を返した。


「申し出はありがたいが、逗留先は自分で決める」

「そ、そのような……領主館では公爵夫人もお待ちしています。どうか一緒に領主館へ……」


「くどい。我らの行動を縛るつもりか?」

「い、いえ、そのような事は……せ、せめて何処に逗留されるかだけでも、教えて頂けないでしょうか?」


門番長?が可哀そうだがミルドはイマイチ信用出来ない。ナーガさん辺りをまた攫われて、脅されでもしたらと思うと……


「教えるつもりは無い。後を着けるようなら夜襲の準備のためと判断して、敵対行動をとらせてもらう。最悪は迷宮探索は中断して、引き上げる可能性もある」

「……わ、分かりました……王家の影殿の言葉を、そのまま報告させてもらいます」


「ああ、構わない」


こうして何とかミルドの街に到着した。宿はこの前と同じところで良いが、明日からの迷宮探索に食料を買い足す必要がある。

今回の探索は短期集中で行く予定なので、オレの保存食はジャムとフランクフルトのみだ。


ハチミツ漬けが無いのは、まだエルとナーガさんにしか言って無い。

言うタイミングを間違えると、オレの顔は晩飯の味が分からなくなるぐらい腫れあがる事になるだろう……


オレは女性陣の機嫌を見ながら、どのタイミングで話すかを測り続けるのだった……





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