第377話オクタールの街 奪還
377.オクタールの街 奪還
マナスポットを解放した次の日。
オレ達は再びオクタールに飛んで、オーガの残党狩りを続けている。
実は朝 起きると、収納の中の主は消えており、代わりに一通の手紙が入っていた。
内容はエル達の近況が書いてあり、どうやら今日中には向こうのマナスポットを解放するつもりのようだ。
しかし、収納から主を取り出すのにエルが半分の魔力を使ってしまった事から、安全を見てもう一泊してから帰ってくるらしい。
そうなると、エル達が帰ってくるのは、恐らく4日後になる。
申し訳ないとは思いつつも、こちらの班は日が暮れるとブルーリングへ戻り、明るい時間だけオクタール周辺の雑魚狩りを続けていくつもりだ。
しかし、街の中は兎も角、散ったオーガをたった4日でどれだけ狩れるのか……
ただ、何時までもここにいるわけにもいかない訳で……
母さんとも相談した結果、エル達が戻ったと同時に、オクタールの街から撤退する事を決めた。
これはエル達にも収納経由で知らせてあり、ナーガさんも概ねは賛成のようだ。
実際はオクタールのマナスポットを解放した事で、いつでも来られる事から、必要に応じて支援をする事になるだろう。
オレもこのまま知らん顔は流石に寝覚めが悪いので、暇を見て覗きに来たいと思う。
何だかんだあって4日が過ぎ、どこかノンビリした空気の中 オーガの残党狩りを行っていると、不意にソナーの探られるような魔力が感じられた。
「母様、どうやらエル達が着いたみたいですね」
「ええ、これでオーガの顔を見なくて済むと思うと、せいせいするわ。早速 合流するわよ」
「はい。アシェラも行こう」
「うん……」
「どうした? ん? 少し顔色が悪く無いか? どこか調子が悪いんじゃないか?」
「ううん、大丈夫」
「ここ最近、食欲も無いみたいだし……無理はしないでくれよ?」
「分かった」
アシェラは何処か気だるげにしている……もしかして『石』の副作用とかじゃないだろうな?
ハルヴァとオレであれだけ言ったのだから、アシェラを信じてはいるが……心配だ。
こうして、アシェラの様子ををちょくちょく覗き見ながら、オレ達はエル達の下へ向かって行った。
オクタールの西門を目指し空を駆けていると、エル達が手を振っている姿が目に入ってきた。
直ぐに降りていき、全員の元気な姿にホッと胸を撫で下ろした所で、エルが嬉しそうに話しかけてくる。
「兄さま、向こうのマナスポットも無事に解放しました」
「お疲れ様。ありがとな。今回はそっちの班の負担が大きかったな。無理をさせたけど、大丈夫だったか?」
「はい。マナスポットの休止する際、ルイスとカズイさん、それにナーガさんにも助けてもらいました」
「そうか。こっちも順調だったって言いたいんだけどな……実は母様が主の攻撃を受けたんだ……」
「え? だ、大丈夫なんですか?」
エルは母さんの頭から足の先までを舐めるように見つめているが、コイツは手を握りしめて見せないようにしてやがる。
「手だよ。主をフラッシュで嵌めるために、自分の身を囮にして おびき寄せたんだ。その時に攻撃が掠ってな……」
オレの言葉に誤魔化せないと思ったのか、母さんはとうとう観念して半分になった右手をエルの前に差し出した。
「ハァ……これよ。その代わり、アイツの目を奪って、股間を蹴り上げてやったわ! ざまぁ無いわね」
「え? ぬ、主の股間を蹴り上げたんですか?」
「ええ、アイツは白目を剥いて、虫の息だったのよ。クックッ……気分爽快ね。やっとスッキリしたわ!」
ナーガさんは呆れた目をしているだけだったが、男連中は青い顔で全員 腰が引けていた……あの光景を思い出すだけで、玉がキュンってなってしまう。
そんな微妙な空気の中、ナーガさんが流れを変えるように話し出した。
「じゃあ、これで長かったオクタールの奪還は終了ですね。少なくないオーガが散らばっったとは思いますが、エルフもやられっぱなしじゃ無いはずです。主の脅威が取り除かれた今、このオクタールの街も徐々に復興していくでしょう」
「そうですね。昨日、タメイとその部下がマナスポットでここまで飛んで、エルフの王都と領都へ伝令に向かいました。そう遠くない内に復興が始まるはずです」
「そうですか。まだラフィーナの手に、ネロ君の足の治療もあります。先ずはブルーリングへ帰って英気を養いましょう」
「はい」「はい」「はい……」「はい。やっと帰れるぜ」「はい。そうだね、少し疲れちゃったかも」「分かったわ」
こうして少なくない被害は出たが、全員が生きてオクタール奪還は終了したのである。
オクタールの街を奪還して、次の日の事。今日は母さんの手とネロの足を修復する予定になっている。
アオの領域にいれば魔力の心配をしなくて済むので、今日か明日には治療を終わらせるつもりだ。
全てが順調なようで、実は1つだけ懸念がある……アシェラの体調が依然 良くないのだ。
本人は「大丈夫」と言っているものの、食欲が無くいつも気だるそうにしている……念のため、ブルーリングに還ってからは『石』を外させているのだが、状況は芳しくない。
放っておくと動き回るため、オレ、オリビア、ライラの強い懇願で、ここ数日はベッドで無理矢理 静養させている。
当然ながらアシェラとの夜のプロレスは無しだ。もっぱらブルーリングに帰ってからは、オリビアとライラに相手をしてもらっていたりする。
「じゃあ、アシェラ、行ってくる。ちゃんとベッドで寝てるんだぞ」
「……ボクも行きたい」
「ダメだ。出歩くのは良くなってからだよ。元気になったら開拓村を見に行こう。父様に聞いたんだけど、今は城壁を作り始めてるみたいだぞ」
「城壁! 行く!」
「じゃあ、早く良くならないとな」
「……分かった」
こうしてアシェラとの会話を終えてから、部屋をお暇させてもらった。
実はブルーリングに帰ってから、1度だけアシェラにソナーを使ってみたのだが、特におかしな点は見つけられなかった。
ソナーも完璧では無い以上、分からない事は多い……オレに分からない病気だったりしたら……心配だ。
しかし、母さんやネロを放っておく事も出来ず……なるべく早く帰る事を誓って、オレは領主館へと向かっていった。
領主館に着くと、父さん、エル、マール、ルイスが揃っており、母さんとネロを心配そうに見つめている。
確かにオレの回復魔法は熟練の技とは言い難いが、一応はローザ、アシェラ、そして自分の欠損を治した実績もあるのに……
そんな目を向けられるとモニョっとしちゃうじゃないか!
「あー、皆さん。そんなに心配しないで下さい。たぶん大丈夫だと思いますから」
「アル……その「たぶん」とか「思う」ってのは止めてくれないかな? ラフィの手が足になるなんて事は無いよね? 頼むよ……本当に頼むからね」
「任せて下さい。母様の手が足になった場合には切り落としてやり直しますから」
「だから! それは絶対に止めてほしいんだ!」
「分かりました。最善を尽くします。精々、右手が左手になるぐらいに抑えます」
「……この場で冗談が言えるぐらいには自信があるって事だよね? 分かったよ……黙って見てるから、くれぐれも頼んだからね」
軽い冗談で和ませようかと思ったら、全員から更に心配そうな顔で見つめらてしまった。
「じょ、冗談ですよ? 一応はローザの足、アシェラの左腕、自分の右腕を修復した実績もありますので……安心してください」
過去の実績を話す事で、皆の目からやっと疑いの色が消えていった。
「で、では、比較的 簡単な母様の手から始めましょうか。先ずはソナーで手の構造を調べます。マール、悪いけど右手にソナーを打たせてくれないか? 女性と男性じゃあ、骨格がだいぶ違うんだ」
「ええ、問題無いわ」
そこからは、母さんの左手とマールの右手に何度もソナーを打ち、構造を頭に叩き込んでいく。
1時間ほどソナーを打ち続け、完璧にイメージが出来るようになった頃、オレはゆっくりと口を開いた。
「イメージが出来ました……行きます」
「ええ、いつでも良いわよ。チャチャっとやって頂戴。暇過ぎて眠くなってきちゃったわ」
おま、こっちは必至でイメージを固めているって言うのに!!
怒りでイメージが消えないように、努めて冷静にヒールを発動した。
「……ヒール」
魔力が欠損していた手の部分を補っていき、徐々に本物の手へと変化していく……ほんの数秒後には、母さんの右手は綺麗に修復され、欠損していたなど信じられないほどだ。
「母様、手はちゃんと動きますか? 痛みや痺れはありませんか?」
「うーん……そうね。動きは問題無さそう。痛みや痺れも……無いわね」
母さんは手をワキワキと動かし、抓ったり撫でたりして感覚を確かめている。
一通り確かめると、次は修復した右手でライトの魔法を使い始めた。
ライトの魔法は光の玉から、光の犬へ形を変えていく……驚いた事に光の犬が宙を駆けだした。
え? 何だこれ……本物の犬が走ってるみたいな躍動感じゃないか……こんな魔力操作 人が出来る物なのか?
母さん以外の全員が呆けた顔で光る犬を見つめている……当の母さんは鼻の穴を膨らまし、更に調子にのっていく。
犬が空を駆けまわる中、次はネコが現れた。ネコも犬同様、本物と見紛うほどの緻密さで動いている。
誰もがあまりの出来事に呆けた顔を晒す中、氷結さんは頬を赤らめ高らかに宣言した。
「これは凄いわよ! これだけの魔力操作……宣言するわ! たった今、私は最強の魔法使いの一角になったわ! 最強よ、最強!! このチカラなら……アル! ウィンドバレットのマシマシの上を開発して頂戴! アンタなら出来るわよね?」
いきなりコイツは何を言ってるんだろう……もしかして、実は手の修復は失敗していて、副作用で脳がやられたのかもしれん。
「か、母様、いきなり何を?」
「今の私なら、魔力を込めて威力を上げるなんて事をしなくても、更に上の魔法を使えるはずよ! それに新しい魔法を開発しておけば、将来 アンタも使えるようになるかもしれないんだから。まぁ、私のレベルになるまでは、だいぶ時間がかかるでしょうけどね!」
カッチーン。おま、なんば言いよっとか! 人に手の修復をさせておいて、言いたい放題じゃないか! フーンだ。こっちはギフトがあるもんねー! 今回のマナスポットの解放で少しだけ魔力操作が上がったもんねー!
「か、母様、僕とエルにはギフトがありますから。オクタールの解放で魔力操作が少しだけ上がりました。きっと、そう遠くない先に追いつくと思いますよ? あ、すみません。「追い抜いてしまいます」の間違いでした。HAHAHAHA」
オレの返しに氷結さんは、貴族の奥方がしちゃいけない顔で更に言葉を返してくる。
「あらー。ギフトなんてズルをしても、私の魔力操作に追いつけて無いのに何を言ってるのかしら? もしかしてアル、使徒だ、救世主だっておだてられて調子に乗ってるんじゃなーい?」
グハッ、気にしてる事を……あー、そうですよ! ギフトがあっても、未だにアシェラにボコられますよ!
コイツは確実にコチラの急所を攻撃してきやがる……やはり口では勝てそうに無い。3倍になって返ってきやがる……ビクン、悔しい、でも感じちゃう。
「わ、分かりました。暇を見つけてウィンドバレットを改造してみます……それで良いですか?」
「ええ、なるべく早くして頂戴。いつ今回みたいな敵が現れるか、分からないんだから」
「……はい、分かりました」
こうして、今のオレでは扱えないだろう、氷結さん専用魔法の開発を命じられてしまった。
オレ自身が使えない魔法なんて、開発できるのだろうか? 一抹の不安を感じながらも、特大の課題に頭を悩ませるのであった。
因みにネロ、お前の事は忘れてないからな。直ぐに足は治してやるぞ!
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