第378話改造人間ネロ! part1
378.改造人間ネロ! part1
母さんから無理難題を言い付けられた後の事。当の母さんは、魔力操作の使い勝手を更に確かめるために、心配そうな父さんを連れて出て行った。
何処に行ったのかは知らないが、父さんと一緒なら無茶はしないだろう……知らんけど。
今は氷結さんの事よりネロだ。両足を失った今、トイレさえも1人で行けないのだから……
「ネロ、遅くなった。足の治療を始めよう」
「頼むんだぞ。オレもアルドの母ちゃんみたいに強くなりたいんだぞ!」
ネロは期待の籠った目で見つめてくるが、ぬか喜びさせるつもりは無いので、正直に修復後の事を説明する事にした。
「あー、ネロ。先に言っておくけど、足を修復しても魔力操作が一段階 上がるだけだからな? しかもお前の欠損は足だ。普段 足で魔法なんて撃たないだろ? だから、あんまり期待しないでくれよ?」
「分かったんだぞ。でも、足でなら魔力操作が1段階 上がるのか……うーん……」
ネロは普段あまり使わない頭を使って、必死に何かを考えている。
オレはと言うと、そんな真剣な様子のネロの太腿にソナーを打ち、ルイス、カズイさん、自分の足との違いを調べていた。
やはり種族での体の違いがかなりある……ネロは筋肉の密度が高い? こうなると、本当は獣人族の足にソナーを打って確かめたいのだが……今この場に、そんな都合の良い相手がいるわけも無く。
しょうがなく、各種族の違いを太腿で調べて、ネロの足のイメージを補完した。
しかし、他種族の足を完全にイメージするにはサンプルが少なすぎる……
結局、昼食の時間が過ぎ、陽が傾き始めた頃、やっとそれなりに納得のいくイメージを作り出す事が出来た。
「ネロ、行くぞ?」
「いつでも良いんだぞ!」
「ヒール」
魔力が足を形作っていく……数秒の後、ネロの左足は膝下15センドまで修復されていたのだった。
あれから夕飯の時間までひたすら修復を行った。今のネロの足は両足が足首まで修復された状態である。
「ネロ、どうだ? かなり急いだけど、動きはおかしくないか? 痛みや痺れも確認してくれ」
「分かったんだぞ」
ネロは足首までしかない足を、曲げたり捻ったりを繰り返し、次に痛みや痺れ、感覚の鋭さを確認している。
「大丈夫そうだぞ。何も問題無いんだぞ」
「そうか。じゃあ、足首から先は明日にしようか。実は少し魔力を使い過ぎたみたいで、魔力酔いの兆候が出てきたんだ」
「そうなのか?! 今日はもう、止めるんだぞ! アルド、ありがとうなんだぞ……オレ、こんなにしてもらって……足が治ったら、絶対にアルドの手伝いをするんだぞ!」
「気にするなよ、ネロ。そもそも、お前が足を無くしたのだって、オレの手伝いをしてくれたからだろ? お互い様だよ」
オレの言葉にネロは、人好きのする笑顔で大きく頷いたのだった。
実はブルーリングに帰ってから、ネロは名誉の負傷と言う事で、怪我が治るまでは領主館住まいとなっている。
今日の治療は終わった事から、オレは愛する妻達が待つ我が家へ帰るため、領主館をお暇させてもらった。
我が家の扉を開けると、肉の焼けた良い匂いが出迎えてくれる。どうやら今日はボアの肉がメインのようだ。
厨房にいるだろうオリビアへ、「ただいま」と声をかけてから、リビングへ歩いていった。
「ただいま」
「おかえり、アルド」「おかえり、アルド君」
リビングにはアシェラとライラが、魔力球を色々な形や色に変えて遊んでいた。
「2人共、魔力操作の修行か?」
「ううん。暇過ぎて魔力球で遊んでた」
「私はアシェラに呼ばれて、魔力球の色の変え方を教えてた……」
「暇だったのか……元気になったら、思う存分 体を動かせば良いさ。それでアシェラ、体調はどうなんだ? 昼はちゃんと食べたのか?」
「変わらない……ずっと胸やけがして、お昼もあんまり食べて無い……」
「そうか……流石にこれだけ長引くと心配だな……アシェラ、明日の昼から開拓村に行こうか。ルーシェさんなら何か分かるかもしれないし、最悪は回復魔法の大家 グラン家がいる」
「うん、行く! もうベッドの中は嫌!」
余程 暇を持て余していたのだろう。アシェラは嬉しそうに言うが、遊びに行くわけではないんですが……
まぁ、確かに、ここ数日 毎日ベッドの中では、嫌気がさしてくるのはしょうがない。
「じゃあ、午前中はネロの足の修復をしたいから、昼食の後にでも向かおうか」
「うん、分かった。開拓村、楽しみ!」
「遊びに行くんじゃないからな? 絶対にドラゴンアーマーなんて着て行かないでくれよ?」
「……分かった」
おま、オレが言わなかったら、ドラゴンアーマーを着ていくつもりだっただろ!
改めて思う……アシェラの様子から見るに、基本的に元気ではあるんだよなぁ……気分が少し悪いらしいだけで。
どちらにしてもルーシェさんやクリスさんに診て貰うしか無いか……そうすれば、こちらの医術とオレの知識を総合して考える事も出来る。
大きな病気じゃないと良いんだけど……ハァ、心配だ。
それからは気分を変え、皆で夕食を摂りながら今日あった事を話していく。
母さんの手を修復して、何故か『氷結さん専用の新魔法の開発』を厳命された話など、3人共に興味津々で聞いていた。
新魔法……やはりアシェラとライラは、『氷結さん専用の新魔法』を自分でも使ってみたいらしく、開発出来た暁には、「自分にも教えてほしい」とお願いされてしまったのは、しょうがない事なのだろう。
そんなアシェラとライラの2人を、オリビアは呆れた顔で見つめていた。
オクタールで戦っていた際には考えられなかった穏やかな夜も更けていき、次の日の朝の事。前日の魔力酔いの兆候はとうに消え、体調は万全である。
3人の愛する嫁達へ昼前には帰ってくると伝え、オレは単身 領主館へと向かっていった。
途中 領主館の庭を覗くと、フェンリルが気持ち良さそうに寝転がっている……それで良いのか、上位精霊。ドライアドもそうだが、お前等には仕事は無いのかと!
きっと、何かあった際には率先して動くのだろう。きっと、そうだ。そうであって欲しい!
モニョっとした気持ちを抱えながらも、昨日と同じように領主館の扉を開いたのだった。
「アルドぼっちゃま、おはようございます。ご友人方は昨日と同じように客間に案内してあります」
「ありがとう、ローランド」
早速 客間に向かうと、エル、ルイス、カズイさん、ネロの4人がテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
「おはよう、皆。ネロ、足の具合はどうだ? 痛みや痺れは出てないか?」
「おはようだぞ。足は前より感覚が鋭くてチカラが上がってる感じだぞ!」
「マジか……それはそれでどうなんだろうな……」
「これなら、前より速く動けるんだぞ!」
ネロは喜んでいるが、本当に良いのだろうか……神経を太くした以上、感覚が鋭くなるのは理解できる。
ただ、思うのだ。こんな事をやっていれば、何時かは手痛いしっぺ返しがありそうで、それが本当に怖い……
チカラが強くなって感覚が鋭くなる。更に魔力操作が一段上がるとか……最終的には、健康な四肢を切り落として新たに作り変える……そんな事を考える者が絶対に現れる。
そして、この技術のリスクが知れた時には全てが手遅れなのだろう。
この技術にリスクが全く無いのであれば、精霊が新しい種族を生み出す際、最初からやっているはずなのだから……
しかし「今のオレ達には必要な技術だ」。オレは心の中で、何度 考えたか分からない言い訳を盾にネロの前に進み出た。
「ネロ、昨日の続きを始めよう。ただ、この技術は体を好き勝手に改造してるって事なんだ。どんな副作用が出るかも分からない……それだけは忘れないでくれ……」
「分かったんだぞ。おかしな所があれば、直ぐにアルドへ知らせるんだぞ。約束する」
「ああ、絶対だぞ?」
ネロは力強く1つだけ頷いたのだった。
1時間ほど、ネロとルイス、カズイさんと自分の足にソナーを打ち、イメージを固めていく。
昨日の続きである以上、おおよそのイメージは既に出来ている。そう時間を取る事も無く準備を終える事が出来た。
「じゃあ、行くぞ」
「いつでも良いんだぞ」
結局、自分の中の葛藤があるだけで、修復自体には何の問題も出るはずもなかったのである。
「ネロ、どうだ?」
「ちょっと待ってほしいんだぞ……」
ネロは修復したての足でゆっくりと立ち上がり、状態を確かめている。
徐々に動きを激しくしていき、最後には客間の中であるのにストップ&ゴーで走り出した。
「アルド、凄いんだぞ! 前よりずっと走り易いぞ! 外で試してくるんだぞ!」
そう言って、オレの返事を聞く前に外へ走り去っていった。
残されたオレ、エル、ルイス、カズイさんは、ネロの突然の行動に呆気にとられて、苦笑いを浮かべるしかできない。
「ハァ……アルド、オレ達も外に行くか。あのバカ、靴も履かずに出て行ったからな」
「そうだな……」
「ネロ君はジッとしてるのが苦手だからしょうがないよ。僕でも何日も動けずにいたら嫌になっちゃうから」
「そうですね。ネロには、元気で動き回ってるのが似合ってます。きっと足が治って嬉しくてしょうがないんでしょう」
それぞれの意見を言い合いながらも領主館の外へ出ると、フェンリルと一緒に走り回っているネロの姿があった。
「フェンリル様、こんなに速く走れるんだぞ。うわっ、フェンリル様、待ってほしいぞー! ほらっ、こんな事も出来るんだぞ!」
「わんわん! わわん!」
お前等、仲良いですね……傍から見ると、ハスキーと戯れてるバカ飼い主にしか見えないんですが……
ネロとフェンリルが落ち着いた頃、ルイスが用意してあった靴を渡している。
「ほらよ。裸足で出ていきやがって、折角 治ったのに、また怪我するぜ」
「ありがとだぞ、ルイス。靴を履いて、魔法を試してみるぞ」
「足なら魔力操作のレベルが上がってるんだよな……でも、どうやって足で魔法を使うんだ?」
「うーん……分からないぞ。だから、色々試してみるんだぞ!」
「分かったぜ。でも、あんまり無茶するなよ」
ネロはルイスの言葉に頷きながらも、周りに人のいない場所へと走っていく。
足で魔法かぁ……ぶっちゃけ、そんな上手く使えるものなのか? オレも流石に足で魔法を使った事は無いし……でも、もしかして蹴りを使う際に、魔法を出せれば効果的なのか?
いつものように、エルへ自分の考えを話してみた。
「エル、足から魔法を撃てれば、蹴り技の時に効果的だと思うか?」
「あー、兄さまは蹴りを良く使いますから。手と変わらない発動速度なら、凄く便利だと思います」
「そうだよなぁ。でも、発動速度か……そりゃ、そうか」
その間も、ネロは庭を走り回ったり、足を上げて魔法を発動しようとしたりと、試行錯誤を繰り返している。
一方 オレとエルは、足で魔法を使えた場合の考察を真剣に悩むと言う、一種 異様な空気にルイスが呆れた声を上げた。
「お前等……やりたい放題だな。オレは何も考えずに振舞えるお前等が、心底 羨ましい時があるぜ……」
ルイスの疲れた声が響いたのであった。
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