第379話改造人間ネロ! part2

379.改造人間ネロ! part2






足で魔法を使う有用性についてエルと話していると、いきなり魔法の炸裂音と共にネロが吹き飛ばされていく。

え? 何があった? 魔法の暴発? あの勢いは笑って見てられるレベルじゃない!


オレは瞬時にバーニアを吹かしてネロの下へと駆けよった。


「ネロ! 大丈夫か!?」


ネロは地面に倒れたまま、修復したばかりの足を抑えて苦悶の声を上げている。

押さえている手の隙間からは、かなりの血が流れ出しており、とても立ち上がれるような状態では無い。


「見せてみろ!」


ネロが隠していた手をゆっくりと離すと、治したばかりの足だと言うのに左足の指が何本が無くなっており、足の裏も大きく抉れていた。


「バカか、お前は! 何で直ぐに見せないんだ!」

「だ、だって、治してもらったばかりなんだぞ……」


「そんな事はどうでも良いだろ! くそっ、直ぐに治すからな!」


ネロの足なら、ほんの10分前に治したばかりだ。イメージは まだ頭の中にしっかりある。

念のため無事な右足にソナーを一度だけ打つと、直ぐに回復魔法を発動した。


「ヒール!」


ネロの足は数秒もすると綺麗な足に戻り、欠損級の怪我をしていたなど信じられないほどだ。

問題無いとは思うが、念のためオレは10分前と同じ言葉を吐いた。


「ネロ、違和感は無いか? 痛みや痺れは?」


言われたネロは、バツが悪そうな顔で小さく頷きながら口を開く。


「大丈夫だぞ……ごめん、アルド……」


ほんの数分前まで、フェンリルと楽しそうに足の具合を確かめていたのに……先ほどとのあまりの違いに、オレだけじゃ無くエルやルイス、カズイさんまで苦笑いを浮かべている。


「大丈夫なら良いよ。ただ、新しい術を開発するのは危険なんだ。ちゃんと気を付けてくれれば問題ない」

「アルドでも、そうなのか?」


ネロは小さくなってはいるが、興味深そうに聞いてくる。


「当たり前だろ。例えば空間蹴りなんて、空中を走り回れるようになっても、自分の背より高く上がるのは長い事 禁止されてたんだからな?」


当時の事を思い出したのか、エルが懐かしそうな顔で会話に入ってきた。


「そうでしたね。母さまが何時まで経っても許してくれなくて……終いには、兄さまがコッソリ飛ぼうとしてたのを、アシェラ姉と一緒に必至になって止めてたんでした」

「そ、そうだったか? お、覚えてないなぁ……」


素知らぬ風を装ってみたのだが……ルイスとカズイさん、ネロまでもが生暖かい目で見つめてくる。

その目は何なんですかね? 何か言いたい事があれば言ってもらって構いませんよ?


「まぁ、アルドだしな。ちょっとズレてるのはしょうがないぜ」

「そうだよね。僕もラフィーナさんの判断は正しいと思うかな」


2人共、何で見てきたみたいに話すんですかね? それじゃあ まるで、オレがおかしいみたいじゃないか!

2人に抗議の目を向けると、ルイスは肩を竦めて呆れており、カズイさんは苦笑いを浮かべている。


「でもアルドでもそうなのか……オレも気を付けるぞ!」


話しの流れに納得できない所はあるが、どうやらネロも新しい技術についての危険性は理解してくれたようだ。

安全は十分確保するにしても、少し先ほどのネロの怪我が気になる。何をしたら足の裏が抉れるような怪我になるのか……しかも借り物とは言え、レザーアーマーのブーツを履いていたのに……


「ネロ、安全だけは注意するとして、さっきは何をしたんだ? あんな足の裏が抉れるような怪我……ルイスが渡したレザーアーマーを付けて無かったら、足が無くなってたんじゃないか?」


ネロは再び眉根を下げて、言い難そうに話し始めた。


「ウィンドバレットを足から出せたから、乗ろうと思ったんだぞ……」

「は? お前、待機中のウィンドバレットに乗ったのか? マジで?」


「うん……」


おま、何やってるんだ……自分で出した魔法とは言え、一応 攻撃魔法だぞ? 術者の練度次第で、主にも通じる魔法に乗るとか……


オレだけじゃなく、全員が誰も口を開けずに、呆然とネロを見つめる事しか出来ない。そんな中、ルイスが呆れた口調で話しだした。


「ハァ……ネロ。お前なぁ……やり方ってもんがあるだろう……」

「ごめんだぞ……」


「ハァ、もう良い。それで何をしたかったんだ? 本当に興味半分で乗ったわけじゃないんだろ?」

「うん……」


「話してみろよ。オレ達が客観的に聞いてやるから」

「分かったぞ……さっきフェンリル様と足の具合を確かめていて…………」


ネロの話はこうだ。フェンリルが空を駆ける姿を見て、最初は自分も追いかけようと思ったのだとか。

しかし、空間蹴りの魔道具は主に壊されており、今は仮のレザーアーマーしか履いていない。


普通ならここで諦めるか、新たに空間蹴りの魔道具を用意する所なのだが、何を血迷ったのかネロは足からウィンドバレットに乗れば空を歩けるのでは? と思ったのだそうだ。

そして、大して考えもせずに実際に行動に移して、さっきの大惨事になったと……


エル、ルイス、カズイさんは頭を抱えてネロの言い分を聞いている。


「だ、だって……行けそうな気がしたんだぞ……」

「気がしたって……お前……ウィンドバレットは攻撃魔法だぞ? 確かにオレ達でも1~2個は待機状態にして自由に動かせるとしても、乗れるわけ無いだろ! もっと良く考えろ! アルドが治してくれると思って軽く考えてるんじゃないのか?!」


ルイスはネロのあまりに適当な理由に怒りを滲ませている。

確かに安全を全く考えずに全てが適当な話ではあるのだが……それとネロのやろうとした事が、可能かどうかは全く別の話なわけで……これ、出来るんじゃないか?


「ちょっと待ってくれ。ルイスの怒りは分かる。ネロ、もう無茶はするなよ」

「分かったんだぞ……ごめん」


「ただな、ちゃんと準備さえすれば出来るんじゃないか? 考えてもみろ。ウィンドバレットは確かに攻撃魔法だ。でも、それに耐えられさえすれば、ネロの言うように乗る事は可能じゃないか?」


怒りを滲ませていたルイスは一転、驚きの表情で何かを考えだした。


「は? え? あれ? 出来るのか? さっきのはレザーアーマーで強度が足りなかったから? 靴底へウィンドバレットに耐えられる物を貼り付けでもしたら……」

「ああ。それに足からウィンドバレットを撃つ必要があるからな。魔力の伝達が良い物じゃないと難しい……ミスリル……いや、強度的にオリハルコンか」


「もしかしてオリハルコンを靴底に仕込めば、魔道具無しでも空間蹴りが使える?」

「そこまではどうかな? 歩くとなると、ウィンドバレットを幾つ待機状態にしないといけないのか……実際は急な加速が欲しい場面。要はウィンドバレットの炸裂力を利用して、瞬間的な加速を得るのは可能かもしれない……まぁ、今の時点では可能性があるって程度だけどな」


「瞬間的な加速……要はお前のバーニアみたいな物か?」

「そうだな。足の裏での加速なんで今と挙動は変わらないだろうけど、瞬間的な速さはバーニアを超えるかもな」


「バーニアを超える速さ……」


ルイスはネロの足と自分の足を何度も見比べている。

一種、怯えを含んだ視線から、何を考えているのか手に取るように分かってしまう。


これは釘を刺しておかないと……


「ルイス、ダメだぞ。おかしな事は考えるな。万が一、わざと欠損するような事をするなら、オレは絶対に治さないし、魔力操作が一段上がる改造もしない。これだけは先に言っておく」

「……分かったぜ」


複雑な顔をするルイスの後ろで、エルまでもが何かを考えている。

身内の中だけとは言え、やはりこの技術を公にした事を心の底から後悔したのだった。






ネロの2度目の修復の後、全員で客間へ戻って先ほどの技に付いて話し合いをする事にした。

フェンリルもネロが心配らしく、自分の犬小屋から出てきてネロの隣で座っている。


「さてと。ネロ、教えてくれ。さっきウィンドバレットを使った加速、どうするつもりなんだ?」

「どうってどう言う事だぞ? さっきアルドとルイスが話してたみたいに、練習して使えるようになるつもりだぞ」


「そうか。じゃあ、あれを開発して技にまで昇華させるって事で良いんだな?」

「そのつもりだぞ」


「分かった。あれは正直な所、かなり危険な技だと思う。開発した後に実戦で使うにしても、開発するだけだとしてもだ。何でか分かるか?」

「……ウィンドバレットは攻撃魔法だから、失敗すれば自分で自分を攻撃する事になるんだぞ……」


「そうだ。それに、どうしてもウィンドバレットに耐える靴がいる。ウィンドバレットの威力を落とせば瞬発力が落ちる以上、靴の方で調整しないとどうしようも無い」

「でもオレはオリハルコンなんて買う金は無いぞ……アダマンタイトでも難しいんだぞ……」


「そこは心配しなくて良い。使徒の仕事を手伝ってくれるんだ。父さんに話して何とかしてもらうよ」

「え? で、でもオリハルコンって、もの凄く高いんだぞ……ジョーから聞いた話だと、家が買えるって聞いた事あるぞ」


「あー、まぁ、そうだな。靴底に必要な量の値段か……因みにオレの家なら5軒は買えるんじゃないか?」

「あ、アルドの家を5軒……お、オレやっぱり止めておくんだぞ……」


「だから大丈夫だって。流石に貸与って形にはなるだろうけどな。事は世界の行く末に関係してくる話しだ。お前が今より1段階 強くなるなら父さんも嫌とは言わないさ」

「……わ、分かったんだぞ」


そこからはネロ達を客間に置いて、オレとエルだけで執務室へ向かわせてもらった。

最初 流石に父さんも難色を示していたが、ネロが強くなる事でどれだけの助けになるのかを説明していくと、渋々ながら首を縦に振ってくれた。


途中でエルが、迷宮探索で出た利益を元に、最終的にはネロに買い取らせると言った事も大きかったようだ。

そして細かな話はローランドが、直接ボーグと話しをする事で話しは纏まったのである。


父さんのいる執務室をお暇し、エルと客間へ戻る途中 気になる事を聞いてみた。


「エル、お前 本気でネロにオリハルコンを買い取らせるつもりなのか?」

「あれは口実ですよ。ああでも言わないと、父さまも為政者ですから。ネロの資質の調査から担保の確保、損失が出た場合の穴埋めまで考えないといけなくなります。それに僕はネロなら、そんなに遠く無い先に何とかしてしまう気がするんです」


「それはお前の勘か?」

「勘……いえ。きっと兄さまと一緒にいれば嫌でも強くなるので、確信に近いかと」


「……たまにお前がオレをどう思ってるのか不思議に思う事があるよ」


エルは何も言わずに軽く笑みを浮かべている。オレを氷結さんと同じ、バトルジャンキーだとでも思っているのだろか? 兄ちゃん、泣いちゃうぞ。

こうして、客間に戻り、執務室での細かいやり取りは秘密にして、オリハルコンの件はブルーリングから貸し出す事を説明していく。


ネロにお金が溜まったら、買い取っても良いと説明した所、「自分の物じゃないと気を遣う」と言い出し、月々の給金から一定額、更に纏まったお金が出来たら都度 支払いたいと言い出した。


「本当に良いのか? お前は王都のミミルさんに仕送りもしてるんだろ?」

「大丈夫だぞ。今でも月に神銀貨2枚も貰ってて使い道が無いんだぞ」


お前、そんなに貰ってたのか……高給取りだな。でもな、オリハルコンは神金貨だぞ。何十年かかるのか……

まぁ、キリの良い所でオレが払っても良いし、エルが後を継ぐならどうでも良い事ではあるのだが。


こうして、ネロは新しい技を開発する事になった。

実際 モノになるのか分からないが、使えるようになるのなら、その時には是非 教えてもらいたいと思う。




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