第258話新居 part2
258.新居 part2
オレが母さんと父さんに詰められている中、女性陣はアシェラ達の部屋にどんな家具を置くか、レイアウトはどうするのかを楽しそうに話していた。
その横でエルとルイスはオレの部屋を、隅々まで物色している。
「エルファス、この部屋トイレと風呂があるぜ……」
「そうですね……」
「しかも両隣の部屋への扉もだ……」
「はい……」
2人は奥歯に物が挟まったかのような会話を続けている……何が言いたいんですかね?ハッキリと言ってもらっても構いませんが?
2人が更に物色を続けると、部屋の隅にはオレも知らない扉があり、開けてみると階段が上へと続いていた。
階段が上?この建物は2階建てで、ここは2階の筈である……更に上への階段とか……ギーグ、お前は何を作ったんだと、小一時間問い詰めたい。
しかし、オレは未だに父さんからの、懇願に近いお叱りを受けている所である。
何とか逃げられないかとも思ったが、父さんの後ろにはヤツがいた。
オレが焦れているのを、楽しそうに笑みを浮かべながら話が長くなるよう、父さんを的確に誘導していく。
普段は脳ミソの3%ぐらいしか使っていないのだろうが、イタズラのような物には休ませていた能力を使い、120%の性能を引き出してくる……
「アル、聞いているのかい?僕も言いたくは無いんだけと、そんな態度だと不安になってくるよ……」
「すみません、父様……」
クッ、父さんに怒られてしまったじゃないか……
あっ、コイツ父さんの後ろで、笑いを堪えてやがる!なんてヤツだ!
こうして氷結さんの、ただ“面白そう“と言う理由だけで、オレは父さんから魔道具製作について、厳重注意を受けてしまったのだった。
何とか父さんのお説教も終わり、エルに階段の上に何があったが聞いみてると、渇いた笑みを浮かべながら“頑張って下さい“と応援されてしまった。
ルイスに聞いても苦笑いを浮かべて肩を竦めるだけで、口を開こうとはしない。
エルとルイスの態度から危ない物では無さそうだが、口を開かない以上、“自分で見てこい“と言う事なのだろう。
しょうが無く何があるかを確かめるために、一人扉を開けて階段を上っていくとさらに扉を見つけた。
この扉を漫画で表現するなら……ズモモォォォ!と擬音が出そうなほどの圧を感じてしまう……
「何だ、このプレッシャーは……」
Zな強大人型兵器を操縦していた、赤い人が思わず呟きそうなセリフを吐きながら、オレはゆっくりとドアノブを回した。
「……」
そこには何故かは分からないが、いつかのネコの着ぐるみを着たライラが、肉球を見せながら手を振っている……ダメだ、オレのSAN値がゴリゴリと削られて行く……
オレは眼を瞑って扉を閉じると、眉間を揉みながら冷静さを取り戻す事に全てのチカラを結集するのだった。
NOWLOADING…………
頭を振ってさきほどの光景を思い出す……色々と想像は出来るが、どうしても一点だけ腑に落ちない点がある。何故 猫の着ぐるみなのか……
オレは着ぐるみフェチなんて業の深い趣味は持ち合わせてはいない筈だ……
纏まらない思考を振り払い、再度、扉を開けると先程と同じようにライラがネコの着ぐるみで手を振って来る。
「ら、ライラ、この部屋は?」
敢えて着ぐるみでは無くこの部屋の事を聞いてみると、以前の家の下見の時にギーグへ頼んでおいたそうだ。
そう言えばギーグは、アシェラに空間蹴りで何処かへ連れて行かれていた。
なるほど、この部屋の経緯は分かったが、ライラは部屋に入るのに毎回オレの部屋を通るつもりなのだろうか……
「毎回、オレの部屋を通るつもりなのか?」
「2階の廊下の突き当りの階段から、この部屋へ来れる……」
2階に階段なんてあっただろうか……まぁ、オレは知らないが、ライラが来れると言うなら来れるのだろう。
部屋の件はもう良い。いよいよ、最大の謎であるネコの着ぐるみについて聞かねば……
「ら、ライラ……その服は……」
「前にアルド君が”かわいい”って言ってくれたから……」
おふ、オレのせいか?もしかして新居にいる間は、ずっとネコの恰好をするつもりなのか?
間違いは直ちに修正されなくてはならない!ライラには辛いかもしれないがハッキリと言わねば!
「ライラ、聞いてくれ……」
「うん」
ネコの着ぐるみを着て、穢れの無い眼でオレを見つめるライラを見ていると……い、言えない……ネコの着ぐるみが絶妙に言い難い空気を出している。
「ネコちゃんも良いけど、色んなライラを見たいなー(棒)」
「……うん、分かった」
どうやら分かってくれたらしい。もしかして次はイヌの着ぐるみとか出てきたらどうしよう、と思いながらも、何処かでそれも良いか、と開き直っているオレがいた。
ライラの部屋から自室へ降りてくると、エル、ルイスの2人が優しい眼でオレを見つめてくる……
ちょっと待て、コイツ等、もしかしてオレの趣味でライラにあんな恰好をさせていると思って無いか?
「お前等、もしかして誤解してないか?」
「兄さま、僕はどんな兄さまでも大好きです……但し、出来れば家の中だけにしてもらえれば……」
「アルド、オレには理解できないが、人には色々な趣味嗜好がある……もしかしてネロのカーチャンに執心しすぎて拗れたのか?」
エル、それは家の外では他人のフリするって事なの?ねぇ?兄ちゃん、泣いちゃうよ??
ルイス、確かにネロカーチャンはオレの好みのど真ん中だが、ネコの着ぐるみはどう考えても違うんじゃないか?
オレはどう言い訳をしようか考えていると、2人は明らかに笑いを堪えている。
「お前等!」
「悪い悪い。でも、そりゃそうだろ。カワイイとは思うがあれに色気は感じないだろ…………感じないよな?」
「兄さま、すみません。ルイスに言われて……ぷっ」
オレが特大の溜息を吐くと、2人は大笑いを始めたので冗談だったのが分かったが、ルイスよ、最後に念を押して聞き直すのは止めてくれ……オレはノーマルだ。
何かドッと疲れてしまったが、これでやっと新居が完成した事になる。
いよいよ次のステップ、結婚に向けて具体的に話を進めなければ。
新居を一通り見終えると、父さんや母さん、他の皆も、気を利かせて屋敷へと帰って行った。
この場にはオレとアシェラ、オリビア、ライラの4人だけが残されている。
「アシェラ、オリビア、ライラ、長いこと待たせて、すまなかった。これでやっと新居が完成した。4人で結婚に向けての話をしよう」
3人は嬉しそうな顔で頷いてくれたのだった。
新居は完成したばかりで、まだ家具の類は置いていないが、食堂の大テーブルと椅子だけはギーグに作って貰ってあったのだ。
オレ達は早速、大テーブルを囲んで結婚の準備について話し合いを始めた。
「先ずは結婚式について決めたいと思う。以前、アシェラとライラには話したんだが、貴族のような結婚式は止めておこうと思ってるんだ」
「アシェラとライラに話は聞いてます。私はそれで構いません」
「無理はしてないよな?」
「クスッ。はい、大丈夫です。気にかけてくれて、ありがとう、アルド」
どうやらアシェラとライラが、予め話しておいてくれたようだ。
「それと順番なんだが、皆を呼んでお祝いをしてから、3人には引っ越しを始めて貰えば良いのか?」
「うん、それで良い。順番を間違えると、お父さんがうるさい」
「ハルヴァか……」
「うん」
オリビアとライラにも問題無いか確認を取る。
「オリビアとライラもそれで良いか?」
「はい、大丈夫です」
「私は今日からでも……」
ライラの言葉にアシェラとオリビアから、殺気が迸る!!
「な、何でも無い。お祝いしてから引っ越す……」
オレは何も見て無いし、聞こえて無い……張り詰めた空気を変えるように、話題を変えて話しかけた。
「あー、それと家具は買っても良いが、1度、ギーグを呼ぼうと思う。自室に置く物で作って欲しい物があれは、その時に言ってほしい」
「「分かった」」「はい」
家具か……昔から思ってたんだけど、この世界のベッド固いんだよなぁ。
基本、木製のベッドに毛布を敷いただけである。貴族ともなれば敷いてある毛布も厚くなり柔らかいのだが、平民では中々に難しい話だ。
因みに我がブルーリング家は贅沢をしないので、毛布の厚さは腰や背中が痛くならない最低限である。
こうなると、やはりマットレスが欲しい。バネってこの世界でもあるのか?
「アルド、またヨシュア様に叱られる。これ以上はダメ」
思考の海に潜っていると、唐突にオレの前で仁王立ちしたアシェラに叱られてしまった。
「ベッドが固いと思って……」
「充分に柔らかい。ボクの毛布を使う?」
「オレがアシェラの毛布を取るわけないだろ!」
「い、一緒に寝れば毛布を倍使える……」
一緒に……思わずアシェラと見つめ合っていると、露骨にオリビアが咳払いをし、ライラがアシェラとオレの間に入ってくる。
「アシェラ、一度、しっかりと話す必要がありますね」
「ボクもそう思ってた所」
「……」
オリビアとアシェラは難しい顔をしており、ライラはしきりに頷いている。
ケンカとかは止めて欲しいんだけど……
オレが3人を見てオロオロとしていると、当の3人はオレを見てからお互いの顔を見合わるて、小さく笑みを浮かべている。
「アルド、ケンカなんてしないから安心する」
「ええ、一度、3人でアルドをどう共有するか、話すだけです」
「うん……」
「……」
あのー、そこにオレの意思は考慮されるのでしょうか?
オレは喉まで出かかった言葉を飲み込むと、3人に向き直って口を開いた。
「お手柔らかに……」
そこからは細かな事を決めていき、お披露目は10日後と、かなり急なスケジュールに決まった。
これには理由があり、1ヶ月後のエルの誕生日にエルとマールが結婚式を行うからだ。
いっそエル達の後にしても良かったのだが、家も完成して1ヶ月以上の“おあずけ“は、15歳の体には長すぎるとだけ言っておこう。
3人からも不満は出なかったので、このまま進めさせてもらうつもりだ。
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