第259話結婚前
259.結婚前
10日後に結婚のパーティーをする事になったのは良いが、先ずは招待したい相手への連絡と、自分達の親への挨拶をしなければ……予定がどうしても合わない人がいるなら、延期もやむを得ないだろう。
一応、3人には身内以外で呼びたい人がいたら、声をかけておくように話しておいた。
オリビアに聞くと本当は、王都に住んでいる友人を呼びたいらしいのだが、“ブルーリングまで来て貰うのは申し訳ない“と身内だけでのパーティに納得している。
最初から我慢をさせているのかと慌てた所、オリビア自身も少しでも早く結婚したいらしく、友人には個別で報告すると言われてしまった。
次にアシェラに聞いてみると、教会の孤児を全員呼びたいと言い出したのだが、パーティーにはサンドラ伯爵や爺さんも来るはずである。
教会の子供達を貴族の当主と同席させるのは、流石にかわいそうだ。
無用なトラブルが発生しないように、パーティーではなく後から個別で挨拶に行く事で納得してもらった。
ライラについては、知り合いはおろか親族すら不参加と言う……リュート伯爵領に住んでいる親には手紙を書くそうだが、この年齢で本当にどうやって1人で生きてきたのだろうか?
何を隠しているのかは知らないが”いつか全てを話してくれたら”と思う。オレ自身も転生者である事を隠しているのでお互い様なのだが……
そして話し合いの結果、爺さんにはオレが今から王都へ飛んで話し、サンドラ伯爵にはオリビアから内々に、ハルヴァには夜になって帰ってきてからアシェラが自宅で話をする事になった。
この3人の参加を確認できてから、招待客を招待していこうと思う。
早速、爺さんの予定を確認するために、オリビアと王都のアオの間へ飛んだ。
「オリビア、サンドラ伯爵への打診は任せた。オレはお爺様に確認してくる」
「はい、分かりました」
アオの間を出て玄関までオリビアを送ると、踵を返して爺さんのいる執務室へと向かった。
オリビアを玄関までしか送らなかった理由は、王子の密偵を警戒しての事だ。
因みにオリビアがブルーリング領にいる時は、顔の下半分を隠すベールを付けて、顔の判別が出来ないようにしている。
正直な所、非常に面倒ではあるが、王子に隙を見せると後でどれほどの対価を払わせられるか……
王子から賜った以前の言葉で、人となりには多少なりとも好感は持つが、潜在的な敵である事には代わりが無い。
オレは小さく溜息を吐くと、執務室の扉をノックした。
「お爺様、アルドです。少しよろしいでしょうか?」
「……入れ」
数舜の間の後、爺さんの声が聞こえて扉を開けると書類に埋もれそうな爺さんの姿があった。
「お爺様、その書類の量は……」
オレの言葉に爺さんは、呆れた顔をしながら特大の溜息を吐く。
「ハァ……。この書類は全てブルーリングと友誼を結びたいと言う親書の類だ……」
「親書ですか?」
「貴族から豪商、果ては他国の者まで……全てがブルーリングと懇意にしたいそうだ……」
「……ブルーリングに何か希少な鉱床でも見つかったのですか?」
爺さんはオレを呆れた目で見つめてから、何度目かの溜息を小さく吐いた。
「お前達だ……」
「僕達?ですか……」
「この世界は魔物の脅威に絶えず晒されている。であれば、地竜と風竜を倒したドラゴンスレイヤーと懇意になって、いざと言う時に備えるのは貴族であれ、豪商であれ、組織の長であれば当然の事だ」
「……」
爺さんはオレの顔を見ながら、苦い顔でトドメとばかりに溜息を吐いた。
「確かにワシは全力を見せろと言ったが、ここまでの反応……」
「……」
爺さんはオレにジト目を向けてくるが、オレのせいなのだろうか?
暫く微妙な空気が流れると、爺さんは溜息を吐いて会話を変えてきた。
「アルド、それ程の強さを得ても、マナスポットの解放は難しいのか?」
「はい……アオの話では主の強さは、マナスポットの大きさに比例するそうです。僕達が倒した主の中では、魔の森の主が1番強かったのですが、魔の森のマナスポットは大きい方ではある物の、一般的な大きさの域を出ない、とアオが……」
「そうか……討伐が容易いのであれば、精霊様が出てくる必要など無いと言う事か……」
最後は爺さんが一人言を呟いて、この話は終わった。
そもそも、オレが王都までやって来たのは、爺さんに小言を言われに来たのでは無く、結婚の報告と日程の確認にやって来たのだ。
早速、本題を話し出そうとすると、爺さんから「下がって良い」と言われてしまった……
おい、シジイ!オレの話は一切終わって無いぞ!言いたいことだけ言って、何を勝手に終わらせようとしているんだよ!
「お爺様、僕の用件が……」
爺さんは一度だけ眉をひそめた後、思い出したかの様に話出した。
「お前の話がまだだったな、スマン。それで、何の用だ?」
「実は家が完成したので10日後にパーティを開こうかと思います。お爺様の予定は空いていますか?」
「パーティか……10日後は特に予定は無い」
「そうですか。ではサンドラ伯爵とハルヴァの予定を聞いてから、招待客にも話そうと思います」
「……因みに誰を呼ぶつもりだ?」
「ブルーリング家、サンドラ伯爵家、ハルヴァ家は全員です。それに冒険者枠ではネロ達4人、騎士ではノエル、ガル、バレット、タメイを呼ぼうかと」
「ブルーリング家、サンドラ家、ハルヴァ家と友人は日をズラしてはどうだ?ワシ等と一緒では、話もしにくかろう」
「なるほど……それなら教会の孤児達も新居に呼べるか……いや、父様から使徒の件を知っている者以外は新居に呼ぶな、と言われてるんだった……やっぱり教会にはこちらから出向くか……」
爺さんの提案を受け、オレが考え込んでいると、不意に爺さんの声が響いた。
「どうだ、考えは纏まったか?」
「そうですね。許して頂けるのなら友人達とは日を分けたいと思います」
「ワシは構わん。恐らくはサンドラ卿も同じ事を言うと思うがな」
「そうですか……」
そうと決まれば、直ぐにでもサンドラ伯爵邸に向かって、この事を話したいと思う。
「直ぐにでもサンドラ邸に向かいたい、と顔に書いてあるぞ」
そう言いながら爺さんは笑っているが、ここは王都である以上、勝手気儘に出歩いて、王子に無い腹を探られるのも面白く無い。
どうせ暫くはここ王都のブルーリング邸にも、諜報部隊は張り付いているのだろうから。
「そう焦るな。後でサンドラ卿には手紙を送っておく」
オレがどうしようか考えあぐねていると、そこは半世紀以上、貴族の世界で生きてきた爺さんだ。
手紙を送ってサンドラ伯爵に伝えてくれるそうだ。
「……ありがとうございます」
オレはそう言って素直に爺さんへ、礼を言うのだった。
王都のブルーリング邸からブルーリング領の領主館へ飛ぶと、いつも通り指輪の形をした証が宙に浮きながら、オレを出迎えてくれた。
オレとエルにだけは温かく感じる魔力を浴びながら、父さんがいる筈の執務室へと向かっていく。
「アルドです、少しよろしいですか?」
「入ってくれ」
「失礼します」
執務室には父さんとローランドが何やら相談していたらしく、机の上には幾つかのメモが見える。
「アル、丁度良いところに来てくれた。あのエアコンの魔道具だけど、この執務室だけで良いので取付けて貰えないだろうか?」
「エアコンの魔道具ですか?」
「ああ。お説教した後で申し訳ないとは思うけど、あの魔道具は素晴らしい。頼めないかい?」
「作るのは構いませんが、取付はギーグに頼まないと……僕では上手く取付られるかどうか」
「分かった。ギーグと言うのはアルの家を直した大工だったよね?」
「はい、そうです」
父さんはオレからローランドへと向き直り、指示を出す。
「ローランド、聞いての通りだ。大工の手配を頼む」
「承知いたしました」
満足そうな顔を浮かべ、1度頷いてから再びオレに向き直り、話し出した。
「それでアルは何の用だったのかな?」
「はい、実は…………」
オレはアシェラ達と話した内容と、王都で爺さんと話した事を分かり易く話していった。
「…………と言う事で、父様の10日後の予定は空いていますか?」
「そうか、アルも結婚するのか……あ、予定は大丈夫。何があっても、必ず出席させてもらうよ」
そう言って笑う父さんの顔は、嬉しそうであり何処か寂しそうでもあったのは、見間違いでは無いのだろう。
父さんの予定を聞いて退席した後、オレは母さんの部屋へと向かっている所である。
ヤツは毎日食っちゃ寝しているだけなので、予定を聞くまでもないのだが、軽んじてヘソを曲げられても面倒くさい。
結果、父さん達と同じように10日後の予定を聞きにきた、と言うわけだ。
早速、ノックをして扉越しに声をかけた。
「母様、アルドです。少しお話ししたい事が……」
少し待っても、一向に返事が返ってくる様子は無い。
何度かノックをするも、やはり返事が返ってくる事は無かった。
留守なのか、と頭をよぎったが、メイドもヤツが出かけたとは言ってなかった筈だ。
オレは局所ソナーを10メードの出力で打って部屋の中の様子を探ってみる事にした。
早速ソナーを打ってみると……いた、ベッドに大の字になっているようなので、どうやら眠っているらしい。
ここで無理矢理起こしても面倒な事に成りかねないので、オレは部屋から30メードほど離れてから、一瞬だけ渾身の殺気をぶつけてみる……
見つからないように廊下の影に隠れていると、戦闘態勢に入った母さんが扉を蹴破りながら飛び出してきて、大声で叫んだ。
「アル!アンタでしょう!折角、気持ちよく寝てたのに!!」
氷結さんは怒りながら辺りを見回すが、ヤツはソナーを使えない……オレを見つける事は不可能な筈だ。
だが、何故だろう……氷結さんは辺りを見回しながらも、確実にこちらへやってくる……
結局、即効で見つかってしまい、こっぴどくお説教をされてしまった。
流石はAランク冒険者だ、と改めて”氷結の魔女”の実力に関心させられてしまった出来事であった。
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