第257話新居 part1

257.新居 part1






のんびりとした旅程からブルーリングに帰り、気になっていた新居を覗いてみると、頼んであった家は既に殆ど出来上がっており、後はオレの魔道具の完成を待つばかりと言う状態であった。


想像以上の早さで仕上げてくれたギーグ率いる大工達には感謝しか無いのだが、こうなるとオレの頑張り次第で家の完成時期が決まる、と言う事だ……

その日からオレは、嫁3人からの無言のプレッシャーに曝されながら、毎日必死で魔道具の開発を進める事になってしまった。


途中、あまりのプレッシャーに耐え兼ね、ローザに泣き付き助けを借りたのも、今となっては良い思い出である。

そして苦節1ヶ月、最後の魔道具であるコンロがたった今、完成したのだ!


「やったーーーー!できたどーーーー!」


これで予定していた魔道具は全て完成した。後は厨房に冷蔵庫と冷凍庫、換気扇とシンクを取り付けて、各部屋にエアコンを付ければオレの仕事は完了する。

取付は隙間の調整や高さの調整の関係で、引き続きギーグ達にお願いするつもりでいるのだが、初めて触る魔道具を取り付けろ、と言うのは流石に無理と言うものだ。


オレも一緒に作業する事になるとは思うが、先ずはギーグに魔道具の完成を知らせねば!

早速、新居へと向かうと、一時はあれだけいた大工達の姿は無く、ギーグが1人で家の玄関を磨いているだけだった。


「おーい、ギーグ」


オレが大声で呼びかけると、ギーグは嬉しそうな顔でこちらに歩いてきた。


「アルド様、魔道具が出来たんですか?」

「ああ、これから少し時間はあるか?」


「大丈夫です!」

「魔道具工場に色々と置いてあるんだ。取り付ける寸法もあると思うから見てくれないか?使い方なんかも説明したい」


「是非、拝見させてもらいます!」


そう言ってギーグと一緒に魔道具工場へと歩いていく。


「いやー、ブルーリングの英雄の作る魔道具ですからねぇ。しょうもない物でも完璧にとりつけてみせますよ!」


こいつ……もしかしてオレの魔道具をしょうもない性能だと思ってるんじゃないだろうな……

オレはギーグから不穏な空気を感じながらも、特に何も言わず魔道具工場へと歩いていった。






魔道具工場の中のオレの部屋へギーグを通し、魔道具の数々を見せてやる。


「説明していくぞ。左から冷蔵庫、これは箱の中を冬の昼間ぐらいの温度にする魔道具だ」

「冬の昼間ですか……何の役に立つんですか?」


「これは温度を下げて食料を保存させるための物だ。当然厨房に設置してくれ」

「……食料の保存」


「次は冷凍庫、これは更に温度が低くなる。冬の朝ぐらいの温度にして、凍らせて更に食料を長く保存できるようにするんだ」

「……凍らせる」


「次は換気扇だ。これはスイッチを押すと風がこっちからこっちへと吹く」

「これも冷やすんですか?」


「いや、これは風が吹くだけだ。厨房は火を使うからな。火を使うと少量だが毒が出る、放っておくと毒が溜まって最悪は人が死ぬんだ。そんな事が無いように、この魔道具を使って毒を外へ追い出すんだよ」

「聞いた事があります……火は少量の毒が出る、と……」


オレは換気の大事さを伝えてから、次の魔道具の説明をしていく。


「まだあるからな。次はコンロだ。薪で火を起こす代わりにこれで火を起こすんだ」

「要はかまどって事ですか?こんな箱が代わりになるんですか?」


「分かった。見せてやるよ」


オレがボタンを押すと3口の内の1つに火が付き、ボタンの下にあるレバーを操作すると、火が大きくなったり小さくなったりしている。


「な、なんですか……これは……」

「コンロだ。因みに3つ全部に火がつくぞ」


「……」


ギーグは今までで一番、驚いたようで口を開けてアホの子の顔になっている……


「ギーグ、しっかりしてくれよ。次はシンクだ。こっちを捻ると水が出て、こっちを捻るとお湯が出る」

「水……お湯……井戸掘り大変だったのに……」


オレは井戸は頼んでいないので、もしかしてサプライズで井戸を掘ってくれていたのだろうか……それだったら悪い事をしてしまった。


「次で最後だ。これは厨房じゃなく全部の部屋に付けてほしい」

「全部の部屋ですか?」


「ああ、これはエアコン。ボタンを押すと冷たい風や暖かい風が出て、部屋を冷やしたり、温めたりできる」

「部屋を暖めたり……冷やしたり……」


「但し、これは冷たい風を出すと水が出てくるから、取付場所も考えないといけないんだ」

「……アルド様……聞いても良いですか?」


「何だ?」

「これらの魔道具を、本当にアルド様が1人で作ったんですか?」


「少しだけ師匠のローザに手伝ってもらったが、基本はオレが全部作ったな」

「……武だけじゃなく、魔道具作りにも才があるとは……アルド様は精霊に愛されているのですね」


いきなりのギーグの言葉に、オレの眉間には皺がよってしまった。精霊ってアオの事だろ……アオに愛されている、って言われても……

オレに憧れるような眼をするギーグをよそに、部屋には微妙な空気が流れていた。






次の日から早速、魔道具の取付が始まる訳なのだが、オレの作った魔道具は誰もが見た事も聞いた事も無い物ばかりである。

何れは商品化するかも知れないが、今は風呂だけで手一杯でトイレも後手に回っている状態だ。


正直な所、今回の魔道具の数々は自分用と考えており、あまり言いふらして欲しくは無い。

その事をギーグに伝えると、信用できる職人を数人見繕い、絶対に口外しない事を誓わせる、と鼻息荒く宣言されてしまった。


結果、ムサイ男がコソコソと新居で何かをやっている姿は、他人から見れば相当に怪しく見えるらしく、数日が経った頃には、騎士数人が新居に事情を聞きにやって来た。

魔道具の事を秘密にしている以上、騎士の質問に誤魔化しや言えない事が出て来てしまうのは、当然の事である。


そうして1人の大工が騎士に抑え込まれた所で、オレが出て事情を説明しなければ、殺されはしないまでも本当に牢屋にぶち込まれていたに違いない。

そんな事がありながらも、魔道具の取り付けは順調に進んでいき、ブルーリングに帰ってから2ヶ月が経った頃、待望の新居がとうとう完成したのであった。




昼食での席---------------




オレは全員が揃っているこの場で、新居が完成した報告をするべく口を開いた。


「皆さん、やっと新居が完成しました」


アシェラ達3人には昨日のうちに伝えてあったので、驚いた様子は無いが、父さん、母さん、リーザスさんが興味深そうにオレを見ている。


「アルの作った家か、とても興味深いね……引っ越しの前に見せて貰う事は出来るかい?」

「はい。父様の都合の良い時に何時でも大丈夫です」


「昼食の後でも?」

「はい」


「じゃあ、それでお願いするよ」

「分かりました。ただ家具の類は何も無いので殺風景かもしれませんが」


「引っ越しをした後の寝室は、流石に入りにくいからね。丁度良いよ」

「そうですか」


こうして昼食の後で父さんが新居を見に来る事に決まったのだった。






早速、昼食を摂った後、父さんと一緒に新居へやって来たのだが……


「皆さんも見学ですか?」


オレの言葉にアシェラ、オリビア、ライラは当然として、母さん、クララ、エル、マールにリーザスさん、ルイスまでが一斉に頷いた。


「ハァ……大した物は何も無いですよ。じゃあ、案内しますね」


玄関から順番に案内いていくが、5月でも今日は少し暑いので、オレは部屋のエアコンを入れながら順番に案内をして回っていった。


「ここがトイレと風呂です。王都のトイレと同じで洗浄付きで水洗式です。風呂は流石に普通ですね」


オレの後を全員が着いてくるが、アシェラ達3人が満面の笑みを浮かべているだけで、他の者は能面のような顔をしている……

首を傾げながらも、最後である厨房へと移動した。


「僕が今回、1番チカラを入れたのが厨房なんです。説明が終わるまで勝手に触らないで下さいね。火傷の可能性がありますから」


全員が頷く中、順番に魔道具の説明をしていく。


「これが冷蔵庫…………」

「こっちは冷凍庫で…………」

「換気扇は空気を入れ換えるのに…………」

「シンクは水とお湯が出ますので…………」


そして最後が1番苦労したコンロである。火を付けるのは簡単に魔法陣を組めたが、火の大きさを調整するのに手子摺ってしまった。


師匠であるローザに聞いても“そんな方法は聞いた事が無い“と言われてしまい、その部分は試行錯誤を繰り返し、オレが一から開発したのだ。


「一番苦労したのが火の調整なんです。これは僕が一から開発して全く新しい魔法陣を…………」


オレは自分が苦労した場所を一生懸命に説明するが、魔道具について何の勉強もしていない皆からすれば、何を言っているのかさえ分からなかったようだ……


「アル、説明はもう良いわ。ぶっちゃけアンタが何を言ってるのか皆、分かって無いから」

「……」


「それよりアンタ……またとんでもない物ばかり作ったわね。この家、未知の技術の塊じゃない」

「母様、少し便利な程度です。大袈裟ですよ」


「……そのシンク?だっけ。それがあれば井戸が要らなくなるじゃない……しかもお湯まで……」

「あ、お湯はここを捻ると温度が変わってですね……」


「だから、時代を勝手に先へ進めるな!って言ってるのよ!」

「……」


母さんは額に青筋を立てながら、父さんに向かって口を開いた。


「ハァ……ヨシュア、アナタがアルの家を見たいって言ったのは、大正解だったみたいよ。こんな家、誰にでも見せられる物じゃないわ」

「ラフィ、これは僕の想像を遥かに越えていたよ……」


これではまるで、オレの家がおかしいみたいでは無いか。

早速、氷結さんに抗議の眼差しを向けてみたのだが、どうやら今回はオレの分が悪いようだ。


母さんだけで無くアシェラ達以外の全員が、ジト目をオレに向けてくる……


「作っちゃった物はしょうが無いわ……但し、この家に招くのは“使徒“の件を知っている人だけにしておきなさい。それ以外は領主館で対応する事、良いわね?」

「はい……」


母さんの有無を言わせぬ物言いに、オレは“はい“としか答える事が出来なかった……解せぬ。





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