第46話模擬戦

46.模擬戦





アシェラの事件があってしばらくした闇の日の朝食。

オレは前々から考えていた事を話してみた。


「模擬戦をしよう」

「模擬戦?」


「前々から思ってたんだけど魔力を纏えば、怪我しないで模擬戦ができるんじゃないか?」

「魔力を纏う?」


「見た方が早い」


オレは立ち上がって魔力を纏う。魔力を発動寸前にして誰にでも見えるようにした。それを短剣の形にする。


「どうだ!」


触ってみると柔らかい。皆にも触らせる。


「柔らかいですね、兄さま」

「これなら痛くない……」

「ボクの手甲も魔力で……できた」


これなら怪我も無く模擬戦ができるんじゃないだろうか。

母さんに聞いてみる。


「母様、これで模擬戦をしてもいいですか?」

「ダメよ!」


「何故ですか?」


母さんは魔力を見えるようにしてオレにぶつけてきた。


「魔法は今のでいいわね。私も混ぜなさい」


こうしてオレ達は模擬戦をする事になった。

ちなみにマールは見学するとの事だ。後でエルとだけ模擬戦をしてみるらしい。


魔法の練習場に集まってくじで順番を決めていく。




第一試合 オレVS氷結さん


いきなり注目カードになった。母さんは魔法使いなので離れてから開始だ。

この辺りのレギュレーションも追々決めていきたい。


「母様、いきますよ!」

「いいわよ、アル!」


オレは短剣(偽)を構えて走り出す。

母さんは細かい魔法(偽)で弾幕を張りオレを近づけさせない。



性格なのか兎に角、攻撃がいやらしい……

着地点を狙ってくるのは当たり前で、魔法(偽)の陰にもう一発撃ってきたり、近づけない。


埒が明かないと空間蹴りで空に上がると、母さんも負けじと空に魔法を撃ってくる。

さながら昔、見たアニメのドッグファイトのようにオレの後ろに魔法が炸裂している……炸裂?


「おぃぃぃ、魔法撃ってるじゃねえか!」

「どうせ当たらないんだから一緒でしょ!魔力変化が面倒なのよ!」


何て事を言うんだ。こいつは!

オレは真剣に魔法を躱していくがやっぱり近づけない。


しょうがない、多少の被弾は覚悟する。オレは両手に魔力を纏い母さんに突っ込んだ。

魔法を躱す、躱せないのは短剣(偽)で切る、それも無理なら腕でガードする。


母さんになんとか肉薄して“いける!”と思った瞬間に身体強化を掛けた杖で吹っ飛ばされてしまう。

コイツ……接近戦もできたのか……


「アル、甘いわねぇ」


悪い顔だ、ニチャっと笑っている。




そうして10分程だったが、とうとう決着がつく。

戦闘はオレの勝ちで終わった。

特別な事はしていない、地力なのか徐々に押していき最終的には危なげなく勝てた。


「わざと負けてあげたんだからね!」


氷結さんの負け惜しみが響く。





第二試合 オレVSアシェラ


またオレだ。くじが偏ってないか?


「本気で行く」

「分かった、オレも本気で戦う」


その言葉を合図に戦闘に入る。

アシェラは、この2年で毒の状態異常をマスターした。魔眼を持つアシェラは触りさえすれば相手を毒状態にする事ができるのだ。


オレはアシェラから距離を取って様子を見る。アシェラの得物は手甲だ。

格闘には手数で流石に分が悪い。


(一発もらっただけでピンチってあいつ本当に高性能だよなぁ)


攻めあぐねていると魔法(偽)が雨のように飛んできた。


(魔力もオレの倍あるんだった。あいつチートじゃねえのか?)


勝てるイメージが湧かないが、接近して何とか隙をつきたい。

母さんの時のように両手に魔力を纏って突っ込んだ。


飛んでくる魔力は躱し、切り、ガードする。

やっと短剣(偽)の間合いと思った時には格闘(偽?)で攻撃された。


突き、回し蹴り、攻撃の回転力で押し負ける。

オマケに肩に一撃、貰ってしまった。


直ぐに毒で全身がダルくなってくる。


「アルド、私の勝ち。降参する」

「何言ってやがる。これからだよ」


軽口を叩くが勝てるビジョンが思い浮かばない。

しょうがなくオレは賭けに出る事にした。身体強化の魔力を制御できる限界まで上げるのだ。


オレはアシェラに向かって走りだす。時間が経てば毒が回る前に勝負をつけねば。

魔力マシマシの身体強化でアシェラを翻弄していく。


これならいける!


オレはアシェラの首目掛けて短剣(偽)を振り切ろうとした瞬間、アシェラが少しだけしゃがんだ……これでは頬を殴る形になってしまう!

咄嗟に短剣(偽)を止める……その瞬間、師匠と同じ笑いをしたアシェラがオレの体に突きを撃ち込んだ。


オレは気を失ってKO負けとなってしまった。




第三試合はアシェラVS氷結さんでアシェラの勝ち。

第四試合はエルVS氷結さんでエルの勝ち。

第五試合はアシェラVSエルでなんとエルの勝ちだった。


エルは盾をうまく使い魔法も格闘も捌ききってカウンターで片手剣を決めたらしい。

オレは第六試合寸前に眼を覚ました。


第六試合は残るオレVSエルだ。


「エル、手加減はしないぞ」

「はい、僕も全力で行きます」


オレは短剣二刀(偽)、エルは片手剣(偽)に盾(本物)と全く違うスタイルだが、どこか似ている印象がある。

まずは小手調べと正面から突っ込む。


アシェラが苦戦したと言う盾は、確かに鬱陶しかった。

だがそれだけだ。オレは本気出す、とばかりに速度を上げていく。


エルは徐々に捌ききれなくなっていった。

そして、あっけなく短剣(偽)の一撃が決まる。


「兄さま、負けました」

「ああ……」


オレはどうしてもエルに聞いておきたかった。


「エル、おまえ本気でやったんだよな?」

「え?勿論じゃないですか」


「そうだよな。変な事、聞いて悪かった」


模擬戦で相性というものが思った以上に大きい事が分かった。

元々オレはアシェラのような相手を想定してない。


想定内の母さんやエルは想定通りに戦えたと思う。

反対にアシェラとの戦いは常に後手後手に回っていたはずだ。


それと、戦闘後の考察で面白い事が判った。

オレはエルに勝って、アシェラはオレに勝って、エルはアシェラに勝って、見事な”三すくみ”になったのだ。


この結果から自分の得意、苦手を理解すれば1段上に上がれそうな気がする。


ちなみに氷結さんは全敗していた。

“わざと負けてあげた”とは氷結さんの言だ。



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