第299話迷いの森 part2

299.迷いの森 part2






蛇争奪戦も無事?に終わり、街道を歩いていると直に村が見えてきた。

あれが目的の村なのだろうが、思っていたよりだいぶ大きく見える。


村と聞いていたので、精々、木の柵が申し訳程度にあるだけだと思っていたのだか……

しかし実際には木製ではあるものの、丸太の片側を埋めて先端は槍衾のように尖らせてある。


しかも高さは3メードほどであり、カシュー領のヴェラの街よりよほど頑丈そうだ。

恐らくは迷いの森が近いせいで、必要に迫られてしっかりした城壁が必要だったのかもしれない。


「あの村ですよね?」

「そのはずだね。元々この村は、迷いの森にしか生えない薬草を取るためにできたみたいだよ」


「薬草ですか?」

「うん。「幻睡草」って言ってね、睡眠薬や痛み止めになるんだよ」


「睡眠薬……」

「うん。でも使い過ぎたり量を間違えると、幻覚を見たり最悪は死んじゃうんだよ」


「……もしかしてその薬は常習性があるんじゃないですか?」

「よく知ってるね。フォスターク王国にもあったの?」


「いえ、そんな文献を読んだことがあって……」

「そうなんだ」


カズイの話から、この森で取れるのは大麻かケシかそれに近い物のようだ。

まぁ、大麻の種は日本でも「麻の種」として七味唐辛子に使われていたし、要は使い方なのだろうが……麻薬か、どうりでこんな僻地にしっかりとした城壁があるわけだ。


何だか急にこの村を救うために、チカラを使いたく無くなってきた。

当然ながら麻酔や薬としては、人の役にたっているのだろうけれど……


もしかして熟練でも迷うってのは、その辺りの事が関係してるんじゃないのか?

そんなオレの葛藤を感じたのか、カズイが話しかけてきた。


「アルド、睡眠薬って言っても狩りに使うし、痛み止めは病気の人に使うんだよ」

「そうですよね……」


「……まぁ、アルドの想像通り、犯罪にも使われているのは事実だけどね」

「……」


そこからは思い空気が立ち込め誰も何も言わないのは、カズイ達も思うところがあるのだろう……






門には門番が2人立っており、勝手に村に入る事は出来なくなっていた。

早速、カズイが門番に話しかけて、ギルドからの依頼で来た事を説明していく。


「…………って事で、ここにいるアルドがオーガ討伐の依頼を受けて、僕達はそのサポートで来たんです」

「こんな人族の子供が? 悪いが依頼票を見せてくれるか?」

「はい、どうぞ」


門番からの言葉に依頼票を見せると、本物なのを確認出来たのだろう。門番は眉間に皺を寄せ、あからさまに困惑した表情を見せている。


「本物だ……こんな子供がオーガを? 受付のサインはファーファか。アイツめ、何を考えている……」


門番は依頼票が本物なだけに、オレをどう扱って良いのか分からないようだ。


「通して貰って良いですか?」

「……分かった。ただ村に入るに当たって、1つだけ注意してほしい事がある。ここは迷いの森に入って幻睡草を取るための村で、住んでいる者はごく僅かしかいない。要は殆どの者は出稼ぎで来ているだけって事だ。だから当然なんだが、どうしても若い男が多くなってしまう。一応、村にも娼婦はいるが、だいぶくたびれててな……申し訳ないが、若い娘は気を付けてくれると助かる」


……元々、良い印象が無かったのだが、更に村のイメージが悪くなってしまった。

もう、オーガをサッサと倒してベージェに帰りたくなってきたぞ。


「3人共、気を付けて下さいね」

「はい……」「ああ」「ん???」


1人分かっていない者がいるが、ヤツは色気より食い気なのでしょうがない。

後でリース達からしっかりと釘を刺しておいてもらおう。


村の中は雑然としており、人が生活できる最低限の物しか無いように思える。

例えば店も酒場を兼ねた食堂が数件あるだけであり、普通の村では生活に必要なはずの八百屋や肉屋などは見当たらない。


「ここは本当に出稼ぎの村なんですね。村の名前が無かったので不思議でしたが、意味が分かりました」

「そうだね。この村にはすっと住んでる人が殆どいないみたいだから……さて、ここはあまり雰囲気も良くない。門番から聞いた村長の家に急ごうか」


「分かりました」


先程から門番に言われたように、リース、メロウ、ラヴィを値踏みするような眼で見る者が沢山いる。

カズイとしても妹や幼馴染みがそんな視線で見られるのは、あまり良い気分では無いのだろう。


オレとしても今回の依頼に、無理を言ってカズイ達を巻き込んだ責任がある。

3人の身の安全はキッチリと確保させてもらうつもりだ。






村長の家は村の中心にあり、一見すると倉庫のような外見をしていた。


「ここが村長の家ですか……」

「どうやら薬を作る作業場も兼ねてるみたいだね」


カズイの言うようにここが作業場なのは間違いないのだろうが、むしろ作業場に村長が住んでいると言った方がシックリくる。

先ずは話を聞くために、近くにいた作業員へ村長への取次を頼んだ。


「オーガの討伐に来た冒険者です。村長に取り次いで下さい」

「……君たちがオーガを?」


「はい。村長をお願いします」

「……」


作業員は何かを言いたそうにしながらも、奥にいるだろう村長の下へと歩いていった。


「やっぱり僕達はだいぶ頼りなく見えるみたいですね」

「そりゃそうだよ。実際に僕達はブロンズだし、アルドは……ちょっと若過ぎるかな」


「確かに。行く先々で絡まれますし……」

「明らかに若いけど、アルドは何処か雰囲気があるからね。自分の実力に自信が無い人ほど、アルドに腹が立つのかな」


「そんなものですか」

「一般論だよ。場合によってはアルドもワザとそう振る舞う事もあるでしょ?」


「そうですね。実力を見せた方が手っ取り早い時は、そう振る舞う事もあります」

「ここの村長はどうか分からないけど、怪我人は出さないでね」


「はい……」


カズイと話していると、先程の作業員が初老の男を連れて戻ってきた。


「いつまで経っても冒険者を寄越さないと思ったら、こんな子供を……ギルドはふざけてるのか?」


村長はオレ達を見ると怒りとも呆れとも取れる顔をして、いきなり文句を言い始めた。

カズイは小さく「やっぱり……」と呟くと、村長へ先日のファーファさん達との模擬戦の様子を話し出す。


「このアルドは『蹂躙のファーファ』とリストラルさんと言うゴールド2人相手にも勝っています。恐らく今、ベージェで一番強い冒険者ですよ」

「こんな子供がファーファより強いものか!適当な事を言うんじゃない!!」


予想通りの反応である……また誰かと戦わされるのかとウンザリしていると、横から声をかけてくる者の姿があった。


「まぁ、良いじゃねぇか、オヤジ。こっちはオーガを倒してくれれば良いんだからよ」

「ジイス……どう言うつもりだ」


「そこのアルド君だったか?迷いの森でオーガを倒してくれるんだよな?」

「はい、そのつもりです」


「で、こっちの綺麗処達は村で待機と。良いんじゃないか?歓迎するぜ」


そう言ってジイスと呼ばれた男はメロウ、ラヴィ、リースを舐めるように見て、嫌らしい笑みを浮かべている。

こうもあからさまだと、不快感どころか殺意すら沸いてきそうだ。3人の安全の為にもしっかりと釘は刺しておかないと……


「もし、この3人に手を出したら僕は絶対に許さないですよ……」

「へっ、何をどう許さないんだ? 少しぐらい腕が立っても、この村じゃオレに逆らわない方が良いと思うぜ」


ヘラヘラと薄く笑いながら、ジイスと呼ばれた男はオレを見下ろしてくる。

きっと村長の息子と言う事で、今までもこうやって好きに生きてきたのだろう。正直、オレの一番嫌いなタイプだ。


もう、ベージェに帰っても良いんじゃないかと思ったが、これで帰るとオレもカズイ達も依頼失敗になってしまう。

所持金0の状態で違約金を払う事になるのだけは避けなければ……


まぁ、危害を加えられたりすれば、違約金どころか、本来の報酬+慰謝料も貰えるのだが。

オレ達の会話を聞いていたカズイが、見かねて会話に入ってくる。


「取り敢えず、休む場所はありますか? 僕達もオーガの討伐の前に休息を取らせてください」


村長はオレ達に納得出来ていない様子だったが、依頼票は本物であり、ギルドから正式に派遣されてきたオレ達を拒む勇気は無かったようだ。


「ハァ、こっちだ……」


村長に付いて行くと倉庫の隣の小さな小屋に案内された。


「ここは自由に使ってくれて構わない……それと食事を摂りたかったら作業場の奥に食堂がある。話は通しておくから入口で依頼票を見せてくれ」

「ありがとうございます。それとオーガについての情報を教えて下さい」


「分かった……オーガが最初に目撃されたのは………………」


村長からの話を纏めると、どうやらオーガが最初に目撃されたのは半月も前の事らしい。

最初は何かの間違いかとも思ったらしいが、徐々に目撃情報が増えていき、最近では3日に1度の割合で見かけるそうだ。


今の所、被害は無いが、それもどうやら理由がある。ここのオーガは、こちらを見つけても普通のオーガのように追いかけてこないのだとか。

それも含めて解決して欲しいと頼まれてしまった。


「分かりました。一度、相談します」


カズイの返事を受けて、村長は露骨に溜息を吐いて倉庫にある自宅へと帰っていった。


「さぁ、アルド、これからどうしようか?」

「本当なら村にカズイさん達を置いて、僕だけで森に入りたいんですが……」


この村に3人を置いておくのはマズイ気がする。カズイ達もブロンズの冒険者なので素人よりは強いだろうが、ここで作っているのは睡眠薬や麻薬の類なのだ。

20歳前のカズイ達に絡め手でこられでもしたら簡単に襲われそうな気がする……


オレが悩んでいるとラヴィが嬉しそうに会話に入ってきた。


「そうだぞ!私達のような美女をこんな村に放置したら、直ぐに襲われてしまうぞ!ここは一緒に森に入るしかないな!」

「ハァ、ラヴィ……普通、自分で美女って言う?」


「な、カズイだって、昔は私とメロウのどっちをお嫁さんにするか悩んでたくせに!」

「おま、いつの話をしてるんだよ!もう10年も前の事じゃないか!」


リースは2人を呆れた顔で見つめ、メロウは良く分かって無さそうな顔をしている。


「ハァ、皆を村においていくのも不安ですし、一度、一緒に森へ入ってみますか」

「そうだね。食堂があるって言ってたから保存食と食材だけでももらってこよう」


「はい。流石に料理する前の食材に変な薬も入ってないでしょうしね」

「違いない」


こうして食堂で保存の効きそうな食材を手に入れて、5人で森の中へと入るのだった。






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