第298話迷いの森 part1

298.迷いの森 part1






「アルド、酷いじゃないか!」

「すみませんでした。僕にはカズイさん達以外に知ってる人がいないので無理を言いました」


「ハァ、もう、しょうがないなぁ。でも本当に戦力としては当てにしないでよ」

「それは大丈夫です。カズイさん達までオーガを通すつもりはありませんから」


「アルドが言うと、本当にオーガを雑魚扱いしそうで、怖いんだけど……」


オレはアシェラとオーガを瞬殺した事を思い出しながら、返事はせず曖昧な表情で流しておいた。


「それと気になったんたんだけど……その右手、防具は無しなの?」

「今回はお金が無いので、素手です。この依頼が終わったら何か適当な物を買うつもりです」


「……ちょっと待ってて」


カズイはそう言うと門では無く、自宅の方角へ走っていく。

30分ほどしてやっとカズイが戻ってきた。


「アルド、これ。僕のお古で悪いけど、素手よりはマシでしょ?」


そう言ってカズイは、魔法使い用のグローブを渡してくる。


「……何から何まで。本当にありがとうございます」

「気にしないで。僕達もアルドには沢山助けられてるんだから」


この様子を見ていたラヴィもレザーアーマーの小手を渡そうとしてきたが、女性だけあって手のサイズが合わなかった。


「皆さんの気持ちだけで十分です」


本当に最初に出会った人がカズイ達で良かった。

こんな所まで飛ばされて絶望しか無かったが、唯一、人との出会いだけは感謝する事ができる。


そうして、そのままベージェの街を出て、迷いの森へと向かって行くのだった。






村へはこのまま北西に街道を進んで行けば、自然と到着するらしい。そして、その村の西に迷いの森があるそうだ。

ファーファさんの話では、恐らくは明日の昼には到着するだろうと思われる。


「カズイさん達は村には行った事はあるんですか?」

「僕達も始めてだよ。迷いの森って言ったら、最低でもシルバーじゃないと依頼は受けられないね」


「そうなんですか」


オレとカズイの会話に、ワクワクした様子のラヴィが入ってきた。


「この依頼でオーガを倒せば、もしかして私達もシルバーになれるかもしれん。腕が鳴るな」

「ラヴィ、僕達は村でアルドのサポートだよ。森には入らないからね」


「カズイ!森は奥にまで入らければ問題無いだろう? 少しくらいアルドの手伝いをしてやっても良いじゃないか」


カズイがオレとラヴィを見比べて、眉間に皺を寄せている。


「カズイさん、村でサポートをしてくれれば十分です。逆にそれ以上は僕も皆さんを守れるか自信がありません。出来れば森には入らないでほしいです」

「分かったよ、アルド。ラヴィ、聞いた通りだ。僕達は村で待機しよう。絶対に1人で森に入ろうとかしないでね」

「分かった……」


ラヴィは絶対に分かってない顔をしながら、渋々頷いたのだった。






村までの道中は散発的にコボルトに出会ったのだが、見つけ次第、右腕のリハビリも兼ねてオレが全てを瞬殺していた。

カズイやリースは楽で良いと笑っていたが、メロウとラヴィは眼に見えて不機嫌になっている。


最終的には無茶な突っ込みをしようとし始めたので、相談の結果、2人の手に余る事態になるまでは手を出さない事に決めた。


今はラヴィとメロウが4匹のコボルトと戦っているのを、後ろからカズイ達と眺めている所だ。


「アルドが倒した方が早いし楽なのに……」

「まぁ、良いじゃないですか。こんな事で張り合って怪我でもしたら……それこそ何をしてるのか、分からなくなりますから」


「まあね。2人は動いて無いと不機嫌になるし、しょうがないか」

「あ、そう言ってたら、ファングウルフが血の匂いに寄ってきましたね。あれは僕が倒しますよ。うーん、ウィンドバレットを8個で良いか……」


「うん、分かったよ」


カズイの返事を聞いた所でウィンドバレット(魔物用)を8個、待機状態にしてメロウの頭上に配置していく。

2人はまだコボルトに気を取られており、ファングウルフには気が付いていない。


6匹のファングウルフは遠巻きにではあるが、ラヴィとメロウの周りを徐々に包囲している……完全に包囲を終えると、ボスと思われる個体が一度だけ大きな声で吠えた。

その瞬間、6匹全てがコボルトと戦闘中のラヴィとメロウへ襲い掛かっていく!


この時になって始めて2人はファングウルフに気が付いたようだが、時すでに遅しである。

ラヴィが驚いた顔を晒した所で、待機状態のウィンドバレット6個をファングウルフに向け発動してやった。


メロウの頭上から不可視の魔法が放たれ、一瞬にしてファングウルフ6匹の頭が吹き飛ぶと、辺りに無残な屍を晒している……

2人は何が起こったのか理解出来ておらず、口を開けて放心しており隙だらけだ。


オレはその様子に溜息を1つ吐くと、2人の目の前にいるコボルトにもそれぞれウィンドバレットを発動して、頭を吹き飛ばしてやった。


「メロウさん、ラヴィさん、呆けてないで!まだコボルトが2匹残ってますよ」


オレの言葉を受けて、やっとラヴィとメロウは残りのコボルトへ、驚きながらも眼を向ける。

そこからは特に危険な事も無く、2人はコボルトを殲滅していった。






「2人共、アルドがいなかったら怪我してたよ。僕達だけの時はもっと慎重に動いてたじゃないか。少し気が緩んでるんじゃない?」


カズイからのお説教に2人は小さくなりながら、真剣に反省しているようだ。

オレと一緒にいる事で慢心しているのか……カズイ達のパーティにとって、オレはあまり歓迎される存在ではないのかもしれない。


「すみません。僕が無理にパーティへ入った事で余計な問題が出てしまっています」

「確かにアルドが入って環境が変わった事は事実だけど、それならゴールドやプラチナのパーティと合同で依頼を受ける事だってあるんだよ。今回の事は2人がアルドに甘えてるのが原因なんだ。ラヴィとメロウの意識の問題だよ」


カズイの言う事は尤もだ。確かに格上と合同で依頼を受ける度に、相手へもたれかかっていてはいつまで経っても一人前になどなれない。


「カズイの言う通りだな。少しアルドに甘えていたようだ」「ああ、前はもっと周りへ意識を割いていた……」


メロウとラヴィは素直に反省しているようだ。改めて、このパーティを見るととても良い関係に見える。

お互いが対等に接し、言いたい事を十分に言い合えている。更に言い方にも配慮を持って、必要以上に相手を責めない。


当然ながら言われた方も素直に反省する度量もある。カズイ達のパーティが期待の新人扱いされているのが分かると言うものだ。


「良いパーティですね。僕は身内のパーティが殆どだったので凄く新鮮な感じがします」

「アルドのパーティーは身内だけだったの?」


「学園の仲間ともたまにパーティーを組みましたが、殆どは身内でした」

「そうなんだ。アルドの身内……どんな人達か凄く興味があるよ」


「そうですか?僕のパーティーは双子の弟と嫁2人、後は母親と母親の友人の6人で組む事が多かったです」

「双子の弟に嫁2人。それに母親とその友人……突っ込み所が多すぎてどこから聞いて良いのか分からないよ」


「そんなに複雑では無いんですが……僕の母親はAランク、こちらで言うプラチナの冒険者なんです。その関係で母親と弟、それに婚約者と一緒に4人パーティーを組んだのが最初なんです」

「なるほどね。プラチナの親か……アルドがそんなに強い理由が分かった気がするよ。そんな家族ならお父さんも凄く強いんだろうね」


「いえ、父は普通の人です。魔法は少し使えるみたいなので、たぶんコボルトと良い勝負だと思います」

「え?あ、そ、そうなんだ……お父さんが家の中で1番弱いんだ……」


「あー、後は妹がいるんですが、概ねあってます」

「そっか……あってるんだ……」


何故か微妙な空気になってしまった。

パパンが実は貴族で次の領主だと話しても良いのだが、変に気を使われるかもしれない。


隠すつもりは無いが、必要に迫られるまでは黙っていようと思う。

それからはオレの身の上話を肴に、村までの道のりを歩いていった。






初日の夜は、街道の中でも比較的見晴らしの良い場所で、野営をする事になった。

夕食は申し訳ないが悪魔のメニューである。


何か適当な物がいれば狩ろうと思っていたのだが、局所ソナーでも何も見つらなかったのだ。


「すみません。今日は黒パンと干し肉だけです」


明らかに残念そうに肩を落とすメンバーを見て、苦笑いを浮かべながらカズイが口を開いた。


「これが普通なんだから。野営の食事が家で食べる物より美味しいなんて、そっちがおかしかったんだよ。アルドは気にしないで」

「はい……」


オレもカズイの言う事は尤もだと思うのだが、メンバーの……特にメロウの落ち込みようが酷い。

まるでこの世の終わりのような落ち込みようだ。


「め、メロウさん、明日は頑張って魚を探しますから……」


メロウはオレの言葉を聞いてやっと機嫌をなおしてくれたのだった。






全員が寝静まった中、1人で見張りをしていると蛇が寄ってきたので、ウィンドカッターで首を刎ねてやった。

オレは食べる気にはならないが、メロウなら食べそうな気がする……念のため朝食の時に聞いてみようと思う。


このまま順調にいけば、昼には目的の村に到着するはずである。

村に着いたらオーガの情報を貰って、軽く森に入ってみるつもりだ。


森に何か迷う理由があるのでならば、早めに体験して対策を立てておきたい。

最悪は空間蹴りを使って、森の上空に駆け上がってしまえば問題ないと思っているので、気は楽ではあるのだが。


そんな事を考えていると、空が徐々に明るくなってくる。

まだ起きる時間にはだいぶ早いが、つまみ食いが出来ずにお腹が空いたであろうメロウが、起き出してきた。


「おはようございます」

「おはよう……」


「あ、メロウさん、夜中に蛇を倒したんですが食べます?」

「!!見せて!」


首は無いが1メードほどの長さがあり、食べるならかなりのボリュームである。


「この蛇は毒が無いから食べられる。普通はスープに入れるけどあまり美味しく無い」

「そうなんですか……」


「アルドなら美味しく出来るはず!」

「うーん……開いて白焼きにして、砂糖と香辛料で甘辛く焼いてみましょうか?」


「聞いてるだけで美味しそう!」

「美味しいかは分かりませんからね?」


こうして蛇を背中から開いて骨を出し、骨切りをしてから木の枝を使って焼いていく。

見た目はウナギの白焼きそのものである。


うっすらと焦げ目が着いたら塩胡椒で下味を付けてから、砂糖と香辛料を使って甘辛く仕上げていく。

何とも言えない美味そうな匂いが漂出し、ラヴィやリース、カズイまでもが起き出してきた。


「アルド、何を作ってるの?凄く美味しそうな匂いなんだけど」

「見張りをしてたら蛇が出たので狩ったんですよ。メロウさんが食べるそうなので白焼きにしてる所です」


「勿論、僕の分もあるんだよね?」

「え?カズイさんも食べるんですか?じゃあ、メロウさんと相談して下さい」

「アルド、私も食べる!」

「アルドさん!私も!」


全員、食べるのかよ……オレが呆れていると4人でギャーギャーと争奪戦を始めだした。

結局、最後は4等分で落ち着いたのだが、ここまで食べたそうにされると、オレも食べたくなってくるから不思議である……





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