第297話改造人間

297.改造人間






手首まで右腕を修復した次の日の朝、今日は右腕を完全の修復する予定である。

朝食を食べ終わってから早速、左手にソナーを打ちイメージを固めていると、カズイ達がやってきた。


「アルド、調子はどうだい?」

「あれから痺れや痛みも出ませんでした。今日は予定通り、右手の修復をしようと思います」


カズイとオレの会話をラヴィ、メロウ、リースだけでなく、ラヴィの母親であるナーニャさんや弟のダローナも興味深そうに様子を伺っている。

唯一、ラヴィパパのマハルさんだけは、名残惜しそうに仕事へと出かけていった。


実は昨日からソナーを使っているが、未だに右手のイメージが固まりきっていない。

同じ男性と言う事でダローナにも手伝ってもらい、オレの左手とカズイ、ダローナの右手にソナーを打ってイメージを固めていく。


やはり手は想像以上に複雑だ……アシェラの時は必死だったのもあるが、良く一発で修復出来たと自分のやった事ながら感心してしまう。

それから1時間ほどソナーを打ち続け、何とか納得できる程度にはイメージを固める事が出来た。


「イメージが固まりました……いきます……」


周りは物音1つ立てずにジッとオレを見つめている。

オレは努めて冷静に心を落ち着けて、一言だけ小さく呟いた。


「ヒール……」


目を閉じたまま、ひたすらにイメージを固めていると、徐々に右手の感覚が蘇ってくる。

魔法が完全に終わってからゆっくりと眼を開いていく……オレの右腕には、元通りになった右手がしっかりと付いていたのだった。






木剣の音が響く中、ラヴィとメロウの声が響き渡る。


「くそっ、もう一回!」「ズルイぞ、次は私だ!」

「2人同時で大丈夫ですよ」


「舐めるな!」「そのセリフ後悔させてやる!」


一体、何をやっているのかと言うと、右腕の修復が終わったのでリハビリがてら模擬戦をやっているのだ。

やはり右腕が治って直ぐに『ハイ、実戦に行きましょう』とはならない。


ゴブリンの時のように追い詰められているのなら別だが、今は平時である。

いつもラヴィやメロウが修行を付けろとウルサイので、丁度良いとばかりにギルドの演習場で模擬戦をしているのだ。


「一度、休憩しましょう」

「ハァ、ハァ、分かった……」「くそっ、ハァ、1発、ハァ、も当たらない、ハァ」


それからは2人とどこが悪かったかを話し、見学していたリースやカズイからも意見をもらった。

正直、誰にも見られない場所があれば、1人で修行した方がリハビリになるのだが、この2人には世話になっている。


少しでも恩を返すためにも、2人が満足するまで模擬戦を続けるつもりだ。


「折角2人なのですから、お互いの動きに気を付けて連携して下さい。これは普段の依頼でも一緒ですよ」

「それはそうだな」「ラヴィ、私は右から攻める」


「じゃあ、やってみましょうか」


こうして昼食の時間になるまで、模擬戦を続けたのだった。




その日の夜




右手で魔力操作を行い、ライトの魔法の玉を出してみる。何度か試してみたが、やはり12個のライトの玉が限界のようだ。

ギフトが無くなった事で魔力操作の練度が1段下がってしまったが、改造人間の証である右手であれば以前と同じように戦える。


何処かのタイミングでオレの切り札である『超振動』と『コンデンスレイ』も試してみたいが、影響を考えるとコンデンスレイは難しいかもしれない。

何にせよ1歩ずつ前進はしている。逸る気持ちを抑えながら明日からの事を考えてみた。


「これで金を稼ぐ目処が付いて、腕も治した。後は金を貯めるだけだ。それと修復した右腕の防具はどうするか……正直な所、ドラゴンアーマーをボーグ以外にあまり触らせたく無いしなぁ。バーニアや魔力盾の仕掛けを壊されでもしたら、それこそどうしようもない」


ベッドに寝転がり何も無い天井を見つめながら、何か良い方法が無いかを考えてみる。


「右腕だけ手甲でも着けるかな……」


明日から塩漬け依頼を受ける事になっているので、依頼を受ける時にファーファさんへ相談してみるのも良いかもしれない。

少しずつでも足下を固めていけば、いざという時には直ぐに旅立てるはずだ。


こうして今の状況の整理と、明日からの予定を立て終わってから、日課の魔力操作を終えて眠りについた。






「おはようございます」

「「「「おはよう」」」」


「今日から冒険者として活動します。少しずつお金も入れますので、もう少し厄介にならせてください」

「アルド君はラヴィの命の恩人でオレの指も治してくれた。感謝してもし足りないぐらいだよ。小さな事は気にせずに、好きなだけ居れば良い」


「ありがとうございます」

「それとギルドでオレが読める書物は大体、眼を通したが、フォスターク王国に関して書かれている物は無かった。これはオレの感じた事なんだが、ギルドの書物は実用的な物が殆どだ。実際にフォスターク王国と国交があるならいざ知らず、物語や伝承の類の書物はギルドには無いんじゃないかと思う」


「そうですか。物語や伝承……本か……この街に図書館のような物はありますか?」

「ベージェにはそういった施設は無いな。教会に行けばもしかして本を見せてくれるかもしれないが……」


「教会ですか。一度、暇を見て行ってみます。どうしても手掛かりが無いようなら大きな街へ行く事も考えてみます」

「そうだな。この街は辺境だからな。大きな街なら物語や伝承を調べている人もいるかもしれない」


朝食を食べながらマハルさんからフォスターク王国についての事を聞いたが、成果は芳しくない。

マハルさんの言うように、ギルドには実務以外の資料は無さそうな気がする。一度、暇を見て教会にも足を運んでみようと思う。


そうして朝食を食べているとカズイ達がオレを訪ねてきた。


「どうしたんですか?僕は今日から塩漬け依頼をこなすつもりなんですが……」

「そんな心配そうな顔をしないでよ。アルドの邪魔をするつもりは無いんだ。僕達もそろそろ依頼を受けるつもりだから、一緒にギルドへ行こうと思ってね」


「そうなんですか。じゃあ、直ぐに着替えてきます」

「メロウとラヴィもまだだからゆっくりで良いよ」


「分かりました」


そう言って準備を終えて戻っても、メロウとラヴィはまだ来ていなかった。やはりどの世界でも女性の準備には時間がかかると言う事なのだろうか。

メロウとラヴィを待ちつつカズイとリースへ話しかけた。


「今回はどんな依頼を受けるつもりなんですか?」

「そうだねぇ。依頼ボードを見てからになるけど、メロウとラヴィが討伐の依頼を受けたがってるね」


「あの2人らしいです」

「アルドはどうなの?」


「基本的にファーファさんにお任せです。ただ僕はソロなんで泊りの依頼は基本的に断るか、誰かとパーティを組まないと受けないつもりです」

「そうだね。無理はしないといけない場面だけで充分だ。そこのラインはキッチリ守った方が良い」


「はい。もしどうしてもと言われたらカズイさん達のパーティを指名しても良いですか?」

「僕達をかい?」


「前に話したと思うんですが、知らない人と野営をしたり背中を任せるのに抵抗があるんです。その点、カズイさん達なら信用が出来ますから」

「分かったよ。但し、依頼の内容は確認させてもらうよ。僕達に荷が重すぎる物は断るからね」


「はい。そこは冷静に判断して下さい。僕も四六時中、皆を守れるわけじゃないので、基本的に自分の身は自分で守って貰わないといけませんから」


カズイと話しているとメロウとラヴィがやってきて、これで全員が揃った事になる。


「じゃあ、ギルドに向かおうか」

「はい」「うん」「ああ」「分かった」


5人で他愛ない話をしながらギルドへの道を歩いていった。






ギルドに到着するとカズイ達は依頼ボードへ向かい、オレはファーファさんの下へと向かう。


「おはようございます。ファーファさん」

「……ああ」


「何ですか?」

「いや、お前はずっとその口調なのか?」


「はい、そのつもりですがいけませんか?」

「……いけない事は無い」


「そうですか。では早速、依頼を見せて貰っても良いですか?」

「ああ、分かった。塩漬け依頼の中でも出来ればこの2つを先に片づけてほしいんだが、出来るか?」


「うーんと、『オーガの討伐』か『ファングウルフの群れ討伐』ですか……」

「ああ、オーガは目撃情報から恐らく2~3匹だと思われる。問題は徐々に目撃される位置が村に近づいている事だ。恐らくは遠くない先に村へ降りてくるだろう。その前に討伐してほしい」


「敵も規模も分かってるのに塩漬け依頼なんですか?」

「場所がな……ベージェから北西に向かうと『迷いの森』と呼ばれる森がある。これはその森の麓の村からの依頼なんだが、『迷いの森』は不思議な事に、熟練の者でも迷ってしまう事があるんだ」


「熟練の者でも迷う??」

「ああ、運よく出られた者の話では、急に方角が分からなくなるらしい……冷静になって太陽や星を頼りにしても無駄だったそうだ」


「なるほど。その森にオーガがいると……」

「ああ、お前には森の中のオーガの殲滅を頼みたい。今回の依頼はその難しさから、元々の依頼とは別にオーガ1体につき大銀貨2枚をボーナスとして出そう。勿論、討伐証明の右耳は提出してもらうがな」


「なるほど……でも、もう1つのファングウルフの討伐は良いんですか?」

「そっちは多少の余裕がある。悪いがオーガの対処を直ぐにでも頼みたい。頼めるか?」


「村までの移動があるのなら、当然ながら野営が必要になりますね……」

「サポートのパーティを付ける」


「それならカズイさん達かファーファさんに頼みたいです」

「カズイ達はブロンズだ。今回の依頼に同道させる訳にはいかない。オーガが相手なら最低でもシルバーになる。それと私は現場には出ない。先日の護衛は一連のやり取りがあったから特別だ」


「そうですか……カズイさん達が無理ならこの依頼はお断りします」

「何故だ?シルバーで信用の出来るパーティは沢山ある」


「それはファーファさんから見てですよね?僕からすれば、この街に知っている人はカズイさん達しかいません」

「……カズイ達を村で待機させる。それでどうだ?」


「分かりました」(万が一森で迷ったとしても、空間蹴りで森の上空まで駆け上がれば出られるだろう)


それからファーファさんは依頼を選んでいるカズイ達を呼び出して、事情を説明していく。

メロウとラヴィは大喜びだが、カズイとリースの顔は晴れない。


「その依頼は僕達では荷が重いと思いますが……」

「アルドの指名だ。お前達と一緒でないと依頼を受けないと言っている。村までの移動と待機だけならブロンズでも問題無いだろう」

「ファーファさん、その言い様はちょっとフェアじゃありません。僕はこのベージェで信頼できる冒険者はカズイさん達とファーファさんしかいません。野営が必要な依頼であれば、カズイさん達がいないと受けないと言ったんです。但し、これは僕の都合です。であればカズイさん達は僕の事情や村の事情は考えずに、自分達の力量で可能かどうかを冷静に決めてくれれば良いと思います。最悪はファーファさんでも僕は構いませんから」


「ちょっと考えさせてください……」


カズイはそう言ってメロウ、ラヴィ、リースと酒場へ移動して何やら話し込んでいる。

メロウとラヴィがカズイに食って掛かっていて、何を言い争っているのか手に取るように分かってしまう。


それから10分ほどすると疲れた顔のカズイがやってきて、ファーファさんに話しかけた。


「条件付きで受けます。僕達のチカラでは無理と判断した場合、逃げる権利を下さい。オーガとの戦闘は流石に僕達では無理です」

「分かった。但し、逃げた場合は本当にその行動が妥当だったかを調べさせてもらう。良いな?」


「はい……」


こうしてカズイ達と依頼を受ける事になったのだが、カズイからは恨みがましい眼を向けられる事になってしまった。

スマン、カズイ。知らない人と野営するぐらいなら、他の依頼を受けた方がマシなのだからしょうがない。


ああは言ったが、オーガが何匹いたとしても、カズイ達には指一本触れさせないつもりだ。大船に乗ったつもりでいてほしい。

こうして急ぎの依頼を受けたオレ達は、その足でベージェから北西にある『迷いの森』を目指して進んで行く。






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