第296話シルバーランク

296.シルバーランク






「到着だー」


カズイの言葉通り、オレ達は目的の場所であるコザ達の村にやっと到着した所だ。

荷物一杯の馬車が村に入っていくと、村中の家から人がワラワラと集まってきて、あっという間に馬車は人に囲まれてしまった。


「グーモ、頼んであった塩はどれだ?」「おーい、このクワがオレので良いのか?」「竹細工は幾らで売れた?」「おい、押すなって。荷物が崩れるだろ」


やっと帰ってきたと言うのに、グーモさんは一息つく処か村人から質問攻めにあい、大忙しである。

オレ達は邪魔にならないように馬車から離れて近くの岩に腰掛けた。


「結局、人族の物乞いが来た以外は、コボルトとの戦闘が1回あっただけだったね」

「そうですね。何も無くて良かったです」


「後は依頼完了のサインをもらったら、ベージェに帰って依頼完了だ」

「はい、今回は僕の試験に付き合わせてすみませんでした」


「僕達も良い経験になったよ。こっちこそありがとう」


それからグーモさんとコザが落ち着いた所で、護衛完了のサインを貰って別れの挨拶をさせてもらった。


「あー、なんだ。最初にキツイ事を言って悪かったな。お前は真面目に護衛をして信用出来るヤツだったよ。すまなかった、ありがとう」

「いえ、もう謝罪は以前にもらっています。僕も色んな経験が出来ました。ありがとうございました」


それから10分ほど立ち話をした所で時計を見ると、まだお昼前の時間である。

6人でどうするかを相談して、この足でベージェへ向かう事を決めた。


「このままベージェへ帰ろうと思います。また会った時にはよろしくお願いします」

「ああ、その時はよろしくな」


こうして無事に護衛を終えたオレ達は6人でベージェへと向かったのだが、ファーファさんがディアの肉をえらく気に入ってしまったらしい。

遠回しではあるが帰りにも狩って欲しいと恥ずかしそうに言われてしまった。


期待をさせないように「見つけたら狩りましょう」とだけ言って、コッソリとソナーを使っていると、おもったより近くにディアの反応がある。

トイレに行くフリをして途中でディアを見つけたと報告すると、獰猛な顔でファーファーさんが森の奥へ突っ込んで行く。


その時のファーファさんの動きは正に『蹂躙のファーファ』の二つ名に恥じない速さだったのは間違いない。

ベージェの街までの道のりはディアの肉祭りだったのは言うまでも無いだろう。






ディアの肉祭りを堪能しつくしたオレ達だが、実は昨日の夕方にはベージェの街に戻っていた。今日は朝から護衛試験の結果を聞きに、カズイ達と一緒にギルドへ向かっている所である。


「アルドはシルバーランクか。あっという間に抜かれちゃったな」

「まだシルバーで登録出来るか決まってませんよ」


「模擬戦でゴールドを2人も倒して、護衛依頼も無事にこなしたんだよ。絶対に受かってるに決まってる」

「そうだと良いんですが……」


「それよりフォスターク王国の手がかりは見つかったの?」

「そっちは手つかずです。マハルさんにも手が空いた時にギルドの資料を探してもらってるんですが、手掛かりは何も……」


「そうか……ギルド以外に情報を持っている所……いっそ昔話の類なのかな? うーん……」


オレとカズイが考えている中、ラヴィやメロウは知らん顔で露店を眺めている。


「ラヴィやメロウも何か考えてあげて。アルド君が可哀想じゃない」

「リース、私やメロウが何かを考えても、良い案は絶対に思いつかないぞ。それなら邪魔をしないように静かにしている方が有益だ」


メロウもラヴィに頷いている。言った本人であるリースも納得してしまったのだろう、ラヴィの言う事に反論できずに、呆れた顔をしながらも黙り込んでしまった。

しかし、こうもフォスターク王国への手がかりが無いものなのか。お伽話としてでも伝承が残っているなら、どこかに情報があっても良さそうな気がするのだが……


こうなるとベージェの街よりも大きな街へ移動した方が、情報を得られるのかもしれない。オレは路銀が貯まったら直ぐに経つ事も念頭に入れながら、これからの事に思いを馳せていた。






そんな他愛ない話をしながら歩いていると、直にギルドへと到着した。

早速ギルドに入ると周りの冒険者は、先日のゴールドとの模擬戦が怖かったのか露骨にオレを避けてくる。


またか、と毎度の事に溜息を吐きながらも、ファーファさんの下へと歩いていった。


「ファーファさん、おはようございます」

「……おはよう」


何故かファーファさんは眉間に皺をよせ、オレの顔を訝しげに見つめてくる、


「どうかしましたか?」

「いや……今更ながらお前の実力と態度の差に違和感を感じてな……」


「違和感ですか?」

「ああ、普通は実力と同時に態度も変わっていくものだ……だがお前はいつまで経っても新人冒険者のような態度を崩さない。その取り繕ったような態度に、言いようのない薄気味悪さを感じるだけだ」


何て事を言うんだ、このテ〇ィベアは!!

先達への敬意を表しているだけだと言うのに……


「その言いようは酷くないですか?ファーファさんたち先達へ、敬意をはらっているだけなんですが……」

「そうか……その言葉を本気で言ってるのならすまなかったな」


もっと威張り散らせは良いのだろうか……しかし怖がられるのは嫌だし、そもそもオレ自身がそんな態度は嫌いだ。

フォスターク王国でもそうだったように、時間をかけてオレと言う人間を知ってもらうしか方法は無いのかもしれない。


そんな事より、この〇ディベアに試験の合否を聞かねば!


「ファーファさん、試験はどうだったんでしょうか?」

「ん?ああ、文句なしの合格だ。ゴールドを2人倒して護衛も成功させたんだ。当り前だろう」


おうふ、そうなのか。ギルドって思ったより清廉潔白な組織だったんですね。もっと個人の裁量が強くて、まともな理由も無く不合格とか言いそうな組織だと思ってました。


「じゃあ、僕はシルバーランクから登録してもらえるんですよね?」

「ああ、そうなるな。お前の強さは今回の件で良く分かったが、人である以上、疲労や不意打ちで簡単に倒される事もある。くれぐれも慢心するなよ」


「はい、分かりました」

「まぁ、お前なら道を誤る事も無いか……」


オレは曖昧な笑みを浮かべて、ファーファさんの言葉を受け流したのだった。

これでやっとシルバーランクになる事が出来た。早速、旅費を稼ごうと思うが、その前にそろそろ右腕の修復をしておきたい。


この10日ほどの間でカズイやラヴィ、メロウやリースの人となりは分かった。カズイ達ならオレが魔力枯渇で意識を失っても、危害を加えたりしないと信じられる。

更に言えば腕の修復に失敗した場合の切り落としも頼みたいのだ。


オレはギルドを出た所で、カズイ達4人へ改めてお願いをしてみた。


「カズイさん、メロウさん、ラヴィさん、リースさん4人に折り入ってお願いがあります」

「何だい、改まって。アルドがそんな態度だと、何を言われるのか凄く怖いんだけど」


どうやら代表でパーティリーダーのカズイが、話を聞いてくれるようだ。


「実はこの右腕ですが、修復しようと思います」

「え?マハルさんの指を修復したとは聞いてたけど、腕の欠損も修復できるなんて……アルド、君は本当に何者なんだい?」


「僕はただの人族ですよ。因みに回復魔法はフォスターク王国の学園で学びました。修行不足ですので、腕前はまだまだなんですよ」

「腕の欠損を修復出来て、まだまだの腕前なの?」


「はい……僕の回復魔法は未熟です。失敗する可能性がかなり高い。もし失敗した時には腕を切り落とさないといけません」

「え?修復した腕を切り落とすの?」


「はい。思い通りに動かなかったり、痺れが出たり、最悪は絶えず激痛が出たりする可能性があるんです」

「……なるほど。そう言えば僕も師匠から聞いた事があったよ。人体の欠損の修復では失敗すると死人が出る事があるって」


「それは事実です。ですので本当に勝手を言いますが、失敗した場合の切断をお願いできないでしょうか?」

「アルド……僕は魔法使いだ。上手く切り落とすなんて出来ないよ。ラヴィ、メロウ2人はどうだい?アルドが修復に失敗したら腕を切り落としてあげられるかい?」


ラヴィとメロウは難しい顔をするが、真剣に頭を下げると渋々ながら頷いてくれた。


「ありがとうございます。ラヴィさん、メロウさん」

「因みにアルドの右腕が治ったら、今よりもっと強くなるんだろうね」


カズイの何気ない言葉に、ラヴァとメロウは眼を見広げ驚いた顔でオレを凝視してくる。

オレは何も答えず、聞こえなかったフリをさせてもらって知らん顔をさせてもらった。






カズイ達と一緒にラヴィの家へ帰ると、庭の一角に陣取って壊れても良いテーブルを1つ用意してもらった。


「最悪はこの上に腕を置くので切り落として下さい……」

「分かった。師匠のケツは弟子が拭く!」


だからオレは弟子を取ってはいないと、何度も言ってるだろうに!

だが、これ以上言って手元が狂われても嫌なので、放置させてもらう。


万が一切り落とす場合の事を考えて、右腕はしっかり洗って準備を確実にしておくのは忘れない。


「準備が出来ました。カズイさん、右手を見せて貰っても良いですか?」

「良いけど、何をするの?」


「ソナーと言う魔法みたいな物を使います。これは相手の体の中を調べられるので、カズイさんの腕を調べさせてください。修復はイメージが重要なので同じ男性の腕でイメージしたいんです」

「……もう、アルドが何をしても驚かないつもりだったんだけど……アルドって本当は御使い様とかじゃないよね?」


「エルフの御使い様はジェイル様でしょ?」

「それはそうだけど……アルドって本当は凄い人な気がしてきたよ」


「僕はただの人族ですよ。かいかぶりです」


カズイは納得して無さそうだったが、これ以上言っても埒が明かないとおもったのだろう。何も言わずに右腕を出してきた。


「では失礼します」


それからは自分の左腕とカズイの右腕にソナーを何度か打ち、イメージを固めていった。


「では、そろそろいきます。失敗した時には言いますので遠慮なく切り落としてください」


全員が真剣な顔で頷いてくれる中、オレは小さく呟いた。


「ヒール……」


魔力が欠損した腕をかたち作り、徐々に人の肌へと変わっていく。ほんの数秒が過ぎると、見た目には全く違和感の無い右腕が、手首の手前まで生えていた。


「感覚はある……痺れや痛みも無い……皆さん、どうやら手首までは成功したみたいです」

「おめでとう。でも手首から先はどうするんだい?」


「今日は魔力が2/3しか無いのでソナーを使ってイメージを固めるつもりです。それで明日の朝に手首から先を修復しようと思います。申し訳ないですが、後1日だけ付き合ってもらえませんか?」

「今更、水臭いよ。僕達全員、アルドに命を救われてるんだ。1日と言わずもっと頼ってくれて良いよ。尤もアルドの期待に添えられるかは別だけどね」


「ありがとうございます」


皆と別れてから1人で自室へと戻ってきた。椅子に座って精神を集中……左手でライトの魔法の玉を出してみる……1、3、8、10。

実は同時に出せるライトの魔法の数は、待機状態に出来るウィンドバレットの数と同じなのだ。


要するに今のオレは10個しか、ウィンドバレットを待機状態に出来ない事になる。

腕を落とされる前は12個のウィンドバレットを纏えたはずが、今は10個……右腕ごと証が切り落とされたので、恐らくはギフトの効果も無くなっているのだろう。


「ギフトの効果も消えてるか……本当ならエルやアシェラと模擬戦をして差を知りたい所なんだけどな」


次に手首までの右腕で同じ事をしてみた……1,4,7、12。

これは以前と同じ12個のウィンドバレットを待機状態に出来る事になる。


これは先ほどオレが右腕を修復する時に、神経を通常より太くなるようにイメージをしたからだ。

アシェラの腕の修復の時は偶然だった。しかし、今回は完全に自分の意志でやった事である。


「フゥ……これでオレも改造人間か……何か異変が出ないか経過で診てくしかないな……」


クソ蝶に腕を切り落とされて散々な目にあってはいるが、アシェラと同じ腕になれた事が何故か少しだけ嬉しかった。






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