第295話シルバー試験 part3

295.シルバー試験 part3






次の日の8:00少し前、オレはカズイ、メロウ、ラヴィ、リースの4人を連れて冒険者ギルドへ向かっている最中である。

何故ラヴィ達がいるのかと言うと、昨日ギルドを出て護衛依頼の準備をするために、カズイが一度 家に帰って家族へ報告をした事から話は始まる。


カズイは両親に心配をかけないようにと、オレと一緒に数日間泊りの依頼を受ける事を話し、オレのシルバー登録試験も兼ねている事を、ここ一連の流れと共に説明したそうだ。

しかし、そこは同じ家の中の事である。偶然ではあるがリースはこの話を聞いてしまった……そして『蹂躙のファーファ』と一緒に依頼を受け、しかも前代未聞のシルバー登録試験に同道する兄のカズイに対して、言い様の無い怒りが込み上げて来たそうだ。


何故、自分も誘ってくれなかったのか?と……結果、メロウとラヴィを仲間に加え、オレとカズイに猛抗議を開始した。

曰く「お兄ちゃんのケチ!」「カズイ、お前まさか1人で行くつもりじゃないよな?」「私は絶対に付いて行く!」から始まり「師匠に弟子が付いていくのは当然だ」「アルド、私は道中で魚を食べたい」「アルド君、私を回復した時、胸に手を当てたんですよね?」と混沌とした責め苦に、とうとうオレもカズイも白旗を上げたのだった。


それからは全員で保存食や必要な物資の準備をし、冒頭に至るのである。






ギルドに到着して先ずは元気に挨拶だ!


「「「「「おはようございます!」」」」」

「……どう言う事だ」


元気に挨拶をしたのに、ファーファさんは眉間に皺を寄せ、オレに対していきなりの詰問である。

爽やかな朝なのだから小さな事は気にせず、元気に挨拶を返してもらいたい。


「何がですか? 気持ちの良い朝ですね。改めておはようございます、ファーファさん」

「お前はふざけてるのか? 私は何故メロウやラヴィ、リースがいるのかを聞いているんだ」


くそっ、誤魔化されてはくれないらしい。流石は『蹂躙のファーファ』と二つ名で呼ばれるだけはあると言う事か。

次はどう誤魔化そうか考えているとファーファさんの眉間に青筋が浮かんでいるのが見えた……ごめんなさい、もう、ふざけません。反省しますのでどうか許してください。


「すみません。実は…………」


オレは速効で、昨日あった事を全てゲロったのであった。


「…………と言う事です。やはりパーティの中でカズイさんだけに同行してもらうと言うのは、カズイさんパーティーの今後の活動にも支障が出ると思い、勝手ではありますが、同行を許してしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

「ふむ。まぁ、話は分かった。別に人数が増えるのは構わない」


「そうなんですか?」

「ああ。そもそも何故、シルバー登録に護衛依頼が強制なのか分かるか?」


「シルバーランクともなれば直接、依頼主との調整や複数のパーティの纏め役をやる事もあるでしょうから、その資質を見極める為では?」

「その通りだ。であれば人は多い方が良い。ただ、これで護衛役が6人になるのか……これなら私は護衛役から抜けた方が良さそうだな。改めて私はギルドの同行者として付いていく事にする。いない者とおもって行動してくれ」


「分かりました」

「じゃあ次は依頼主を紹介する。こっちに来い。こちらがグーモさんと息子のコザ君15歳だ」


「初めまして、アルド=ブルーリングです。村までの護衛しっかりと果たしてみせます」


オレの言葉にグーモは困惑した顔を見せ、コザは驚いた事に文句を言ってきた。


「お前、人族だろ。こっちはお前みたいなヤツ等から護衛してもらいたいんだよ!これじゃあ盗賊に護衛してもらってるのと変わらないじゃないか!」

「コザ、言い過ぎだ」


「親父だってそう思ってるんだろ。コイツ等人族のせいで皆困ってるのに……」


どうやら人族はあちこちで迷惑をかけているようだ。


「人族が迷惑をかけているのですか?」

「お前!白々しいんだよ!ファーレーンでの暮らしが辛くて逃げ出してきたくせに。他種族との共存は怖いとか意味の分からない事を言っているのはお前等だろ!そのくせ畑から物を盗むわ、物乞いはするわ……一体、お前等は何がしたいんだよ!」


おうふ……コザ君の言う事は尤もだ。人族にも言いたい事はあるのだろうが、一方的な庇護を求めるなど、そんな関係はいつか破綻する。

しかし、オレは今、自分の事で手一杯だし、オレのやるべき事でも無い。可哀そうだとは思うが誰か他にチカラのある人が解決してあげてほしい。


「僕はファーレーンから逃げて来たわけじゃありません。今はベージェで居候の身ですが、この護衛依頼も僕が独り立ちするための物です。決して皆さんにもたれ掛かるだけのつもりはありませんので、護衛をさせて貰えませんか? お願いします」

「……後ろのはパーティメンバーだろ。そいつらがいればオレは良い。お前は勝手にしろ」


「ありがとうございます」


こうして最初から雲行きが怪しいが、何とか護衛依頼を始める事には成功したのだった。






街を出て馬車の御者台にはグーモとコザが座り、オレ達は歩いて馬車の護衛をしている。

配置は右側にオレとラヴィ、左側にメロウとカズイとリースだ。ファーファさんはその時によって右へ行ったり左へ行ったりとフラフラとしている。


そんな中、コザが御者台の上からオレに声をかけてきた。また何か言われるのかと少し身を固くしてしまう……


「おい……」

「はい? 僕ですか?」


「お前だよ。さっきは言い過ぎた……真面目に生きようとするヤツにまで、何かを言うつもりは無いんだ。悪かったな……それだけだ……」

「いえ、僕は気にしてませんから」


「そうかよ」


それだけ言うとコザは、オレとは反対側を向いてしまう。

そんな不器用だがまっすぐなコザを、オレも含めて周りの者は微笑ましく見つめていたのだった。






昼食の休憩は食事を摂り終わったら直ぐに終了との事だったので、申し訳無いが悪魔のメニューである黒パンと干し肉を齧って済ませてもらった。

しかし、ずっと悪魔のメニューでは他のメンバーだけじゃなく、そもそもオレが耐えられない。


夕食は何か1品でも良いので、美味しい物を作ろうと思う。

それからも特に問題無く村までの道を進んでいると、日が傾き出しそろそろ野営の準備をする頃合いになってきた。


「もう少し先に開けた場所があるんです。今日はそこで野営にしましょう」

「分かりました。野営場所に着いたら周囲の警戒のついでに、何か食材を探しに行ってきます」


「食材ですか……そんな簡単に集まらないとは思いますが、周囲の警戒は助かります」


グーモが言う通り5分も歩くとそれなりに開けた場所に出た。ここなら視界を確保できるし、火を使っても燃え移る事は無いだろう。

ゆっくりと馬車が止まり、それぞれが野営の準備を開始する中、オレは全員に聞こえるように大き目の声で話しかけた。


「すみません。では僕は危険が無いか周囲の探索をしてきます。ついでに何か食材も探してきます」


カズイ達はオレの狩りの腕前を知っているので喜んで頷いているが、ファーファさんやコザは『あったら良いな』程度の目を向けてくる。

ここは何か狩ってきて驚かせてやらねば!オレは心の中で気合を入れたのだった。


早速、森に入って局所ソナーを使い獲物を探していく……幾つかの果物を見つけ収穫したが、肝心の獲物が見つからない。

もう少し広めに局所ソナーを打つと、500メードほど先に反応があるが過去に感じた事の無い魔力だ。


恐らくはオレが今までに見た事が無い獲物なのだろう。大きさもワイルドボアと同じぐらいであり、食べられそうなら狩ってみるつもりで、反応のあった場所へ向かってみた。

足音を消すために10センドほどの高さを空間蹴りで駆けていくと、直に目的の獲物が見えてくる。


「鹿か……」


50メードほど先には牡鹿らしい立派な角を生やした鹿が、美味しそうに木の実を食べているのが見えた。

見た目には100キロは優にあるように見える。流石に200キロまでは無いと思うが……


オレは短剣を抜くと魔力武器(大剣)を発動させ、空間蹴りで一気に加速していく。鹿はオレに気が付く事もなく首を落とされ絶命したのだった。


「狩ってきたぞー」


首の無い鹿を宙づりにして血抜きをしてから、野営地まで引き摺りながら持ってきた。最初は担いでくるつもりだったが、思った以上の重量に断念したのだ。


「また凄いのを狩ってきたね。首が無いけど……これはドレッドディアかな? 肉は柔らかくて美味しい反面、凄く狂暴なんだよ……」

「美味しいんですか、楽しみですね。早速ですがカズイさん、また解体を教えて下さい」


「楽しみって……まぁ、アルドだし今更、驚くのも無駄かな」


全員の呆れた顔の中、オレはカズイに習いながらドレッドディアを解体していった。






「うーん、美味い!」


ディアの肉へ豪快に齧りつきながら感想を漏らしているのは、オレ達の引率者でもあるファーファーさんである。

最初はギルドの見届け人として黒パンと干し肉だけで良いと言っていたのだが、調理している匂いを嗅いでいる間にとうとう我慢できなくなったようだ。


今ではディアの肉をブロックごと豪快に焚火で炙り、大きな口を開け齧りついている。

その姿は正に野生の熊が鹿の肉を食らうかのようであった。


そうして全員のお腹が一杯になった所で朝食用のスープを仕込み、見張りついでにスープをかき混ぜて貰うようにお願いをする。

流石に今日はディアの肉をお腹いっぱい食べたので、つまみ食いはしないはずだ。


そうは思いつつもメロウに一抹の不安を感じながら、それぞれが眠りについていった。






「アルド、起きて……」


眠っていた所を、見張りであるカズイに肩を揺すられ起こされてしまった。


「……どうかしましたか?」

「何かいる……」


オレはカズイの言葉を受け直ぐに戦闘態勢に入ると、短剣を抜き小声で話しかけた。


「カズイさん、皆をそっと起こしてください。それと探る様な魔力が飛んできますが、それは僕の魔法みたいな物なので驚かないで下さい」

「よく分からないけど、分かったよ」


そう言うとカズイは皆をゆっくりと起こしていく。

本当は隠しておきたかったが、安全には代えられない。


オレは300メードの範囲ソナーを打つ……5……いや、7人か……どうやら既に囲まれている。


「カズイさん、相手は人です。会話が出来るか話しかけてみます」

「だ、大丈夫かい?盗賊の類じゃないの?」


「……たぶん違いますね」

「分かったよ、アルドに任せる」


オレは小さく頷くと周りに聞こえるように大きな声で話しかけた。


「何か用ですか?こちらに危害を加えるつもりなら攻撃させてもらいますよ」


オレの言葉を受け、男が1人ゆっくりと前に出てくると、たどたとしい獣人語を話し始めた。


「ま、待ってくれ。危害を加えるつもりは無いんだ。少しで良い、食料を恵んでは貰えないだろうか?」


ソナーで分かったのは7人全員が人族であり、その中には子供が2人もいたのだ。コザが最初に会った時に言っていた人族とは、恐らくはこの人達の事なのだろう。


既にカズイに起こされて戦闘態勢に入っているファーファさん達を見回してから、コザに視線を移すとウンザリした顔で嫌悪感をありありと映し出している。

どうしようか迷っていると、黙っていられなかったのだろう。コザが立ち上がって大声で叫んだ。


「お前!いつまでこんな物乞いを続ける気なんだ!子供だっているんだろう!何で真面目に生きようとしない!」


男は顔をしかめると、コザを卑屈そうな目で見ながら口を開いた。


「も、もう少しで畑も開墾出来ます。あと少し、あと少しで自立出来ますんで……へへっ」

「お前、その言葉を何時から吐いている!オレは少なくとも半年は前から聞いているぞ!」


「ほ、本当にもう少しなんです。後生ですから何卒、お恵みを……」

「……この荷は村の皆の物だ。絶対に恵んでやるわけにはいかない」


男は俯き、絶望したかのように見える。

この選択が正しいのか分からないが、子供が飢えるのを見るのは寝ざめが良くない。


「コザさん、この量のディアの肉はどうせ持っていけません。明日の食べる分以外を渡しても良いですか?」


コザはオレと男とディアのブロック肉を見回してから、ウンザリしたように呟いた。


「ハァ、お前が狩った肉だ。好きにすれば良い」


オレはディアのブロック肉の1/5ほどを切り取ると、残りを男に渡しながら話しかけてみる。


「オレにはアナタ達の事情は分かりません。口を出す立場じゃないのも分かります。ただそれでも1つだけ言わせてください。一方的に庇護を縋るなんて、そんな関係が続く事は有り得ない。アナタはアルジャナかファーレーン、どちらに属するかを選ぶべきだと思います」


男は何も言わずに、ただ俯いて礼を言い去って行った。

どこの世界でもしわ寄せは最後に弱者へと向かう……オレはやるせない思いに大きな溜息を吐くのだった。





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