第294話シルバー試験 part2
294.シルバー試験 part2
次の日の朝、オレは再びカズイと一緒にギルドへと向かっている所だ。
「アルド、本当にゴールドと模擬戦をするのかい?昨日のアルドの動きなら大丈夫だと思うけど……」
「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ。別に殺し合いをするわけじゃありませんから」
「それはそうだろうけど……」
カズイにはどうにも自分より年下のオレが、頼りなく見えているらしい。
そんな会話を交わしている間に、オレ達はギルドへ到着した。
「おはようございます、ファーファさん」
「早いな。相手から模擬戦の了解は既にもらってある。直に来るだろうから暫く待っていてくれ」
「分かりました」
隣接する酒場で何か飲みたい所だが、あいにくオレは一文無しである。
まさかカズイに奢ってもらうわけにもいかず、ギルドの隅にある椅子に座って待つことにした。
ギルドの様子を見ていると、ランクごとに依頼が張り出されており、どんな依頼を受けるか仲間同士で相談している姿をよく見かける。
そして気に入った依頼があれば、依頼用紙を剥がして受け付けに持っていくのだ。
どうやらこの辺りのシステムはフォスターク王国と同じらしい。
更に人の流れを見ていると、幾つか気になった事があった。
エルフと魔族、獣人族は見かけるのだが、ドワーフだけはまだ一度も見かけていない。
それに種族と言えば、獣人族がやたらと多い気がする。
割合として獣人族6、エルフ2、魔族2ぐらいだと思う。
そこまで興味があるわけでは無いが、暇に任せて隣に座るカズイに聞いてみた。
「ドワーフは東の一角に纏まって住んでるんだよ。彼らは職人だからね。基本的に用事が無いと出て来ないよ」
「そうなんですか」
「ああ、それにドワーフは他の種族よりも怪我を嫌うんだ。彼らに言わせると、自分の体も道具の1つらしくてね。道具を大切にしないやつは、良い仕事は出来ないそうだよ」
「……なるほど。少し変わった種族なんですね」
「そうたね。それと種族の比率だけど、このベージェの街は獣人族のギギ家が治めてるからね。同じ種族である獣人族が多いんだ。だからこの街では公用語として獣人語が使われてるんだよ」
「なるほど。何でエルフのカズイさんが獣人語なのか少し不思議だったんです」
「アルジャナでは領主の種族によって使われている言葉が変わるんだ。僕はこれが普通の事だと思っていたけど、言われてみれば国の単位で言葉が共通な方が便利だね」
「そうですね」
意外な形でカズイからアルジャナの常識を教えてもらっていると、ファーファさんがこちらにやってきた。
「待たせたな。準備が出来たぞ。相手は演習場で待ってるそうだ。直ぐにへ向かってくれ」
「分かりました」
相手は既に待ってるとか……行き違いではあるが流石に急がないと失礼になる。
オレとカズイは演習場までの道を走って移動したのであった。
「お待たせしました」
演習場には魔族の戦士風の男が立っていた。恐らくはこの人がオレの模擬戦相手なのだろう。
「いや、良い。演習場に直接来たのはオレの落ち度だ」
特に興味も無さそうな声で、淡々と言われてしまった。
「しかし、ファーファに言われて来てみたが、本当に少年が戦うのか?」
男の目はオレの右腕に伸びている。人族の子供で隻腕……普通に考えれば戦う処か庇護されてもおかしくない。
「はい。僕にはどうしても纏まったお金がいるんです」
「事情はあるんだろうが、命あっての物種だぞ。死んだら何も残らん」
「ありがとうございます。でも僕にとっては命を懸けるだけの問題ですから」
「……そうか。生き急ぎすぎるなよ」
男と話しているとファーファさんがやってきたが、何故か完全武装である。
「待たせたな。リストラル」
「いや、少年と話していたからな。退屈はしていない」
「そうか。じゃあ、早速始めるぞ」
「ああ、分かった」
そう言うとリストラルと呼ばれた男は、木剣の大剣を持って演習場の中央へ歩いていく。
「お前からやるのか?」
「弱い方からやるのは当前の事だ」
「そう言うものか。任せる」
何か全てが勝手に進んでいく……何々?このリストラルってヤツの後にファーファさんと戦うって事なんでしょうか?しかも、このリストラルよりもファーファさんは強いって事?
色々と聞きたい所ではあるが、オレは演習場の真ん中に立つ、リストラルの前に進み出たのだった。
「始め!」
唐突にファーファさんのかけ声が響く中、リストラルは一息に距離を詰め大剣を横凪に振るってくる。
強さは恐らくジョーと同じくらいか、少し強い程度……特に恐れる所ほ何も無いように思える。
何度か大剣を躱したが、やはりリストラルの振るう剣には怖さを感じる事は無かった。
そろそろ攻撃しようかと思った矢先、ファーファさんの声が響く。
「待て!」
リストラルの目には安堵の色が浮かんでいるが、オレは困惑しか無い。
そんなおかしな空気の中、ファーファさんが口を開いた。
「お前の名は何だったか?」
「アルド、アルド=ブルーリングです」
「アルド君か。リストラルではお前の相手にはならないようだな。であれば私でも同じだろう。このまま模擬戦を続けても良いが、私はお前に興味が出て来た。どうだろう? リストラルと私 対 アルド君で模擬戦を続けないか? 勿論、こんな無茶をいうんだ。相応の便宜は図ってやる。次の護衛試験では私がパーティーメンバーに入ってやるぞ。それでどうだ?」
ファーファさんから意外な提案が出て来た。考えてみても特にオレに損は無いような気がする。
「分かりました。そのお話、受けさせてもらいます」
オレの返事にファーファは不適に笑い、リストラルは眉間に皺を寄せていた。
「カズイ、アルド君の準備ができたら開始の合図を頼む。私達は何時でも良い」
「わ、分かりました」
カズイはオレを上から下まで舐めるように見てから口を開いた。
「アルド、準備は良いかい?」
「何時でも大丈夫です」
不安そうな顔のカズイは小さく頷くと、心の内を誤魔化すように大きな声で叫んだ。
「は、始め!」
合図と共に、ファーファさんが爆ぜるように飛び出してきた。
その後ろをリストラルが気配を消して付いてくる。
どうやらリストラルは後詰めのようだ。ファーファさんとの戦いで出来た隙を狙うつもりなのだろう。
しかし、その作戦には重大な穴がある。
これはファーファさんがオレと対等に戦えて、始めて成立する作戦だ。
そんなオレの考えを吹き飛ばずように、ファーファさんは拳を連撃で撃ち込んできた。
普通ならこの手数の多さは驚異なのだろうが、オレからすればアシェラとの模擬戦で慣れている。
それにアシェラならもっと苛烈に責め立ててきて、オレに反撃の隙を与えないほどだ。
ファーファさんの攻撃も充分に見た。恐らく12,13歳ごろのアシェラと同じくらいだと思う。
そろそろこちらからも攻撃させてもらおうと、ギアを1段上げた。
早速、ファーファさんの攻撃の隙を付き、首を薙ごうとした瞬間、リストラルからの大剣が振り下ろされる。
後ろに下がって躱しても良いのだが、ここは敢えて躱さずにファーファさんの首へ短剣を振りきった。
ファーファさんの目から光が消え、崩れるように倒れていく。
しかしリストラルの大剣はオレに向かって振り下ろされており、ほんの数瞬で届くはずだ。
勝ちを確信したリストラルの目の前で、右腕の魔力盾を展開して大剣を受け止めてやった。
大剣と盾のつばぜり合い。必然的にオレは大剣の懐に入った形となり、左手の短剣をリストラルの首へと振りきった。
懐に入りさえすれば、大剣が短剣に勝てる道理は無い。
こうして2対1の奇妙な模擬戦は、終わってみればオレの圧勝で終わったのであった。
「う、うーん…」
「気が付きましたか?」
「ここは……演習場……そうか、私は意識を失って……しかし、あのタイミングならリストラルの剣は躱せなかったはずだ」
ファーファさんは悔しそうではあるが、勝利を拾ったと勘違いしており、どこか嬉しそうに話している。
「あー、あのですね……」
「ファーファ、勘違いするな。オレ達の負けだ」
オレが言い難そうにしていると、リストラルがファーファさんにハッキリと敗北を告げた。
「何だと? あのタイミングでお前の攻撃を躱したと言うのか? 適当な事を言うな!」
「違う。そこのアルド君がいきなり盾を出したんだ」
「は? 盾? リストラル……お前、私を揶揄ってるのか?」
リストラルは助けを求めるような目を、オレに向けてくる。
「これです。使うつもりは無かったんですが、使わされてしまいました。出来れば他言無用でお願いします」
そう言うとオレはファーファさんに見せつけるように、右腕から魔力盾を展開して見せた。
「それは……魔道具か……」
「詳細は秘密です。たた、これでリストラルさんの大剣を防がせてもらいました」
「そうか……私達は2人がかりで負けたんだな」
「ああ、完敗だった」
2人は何とも寂しそうに、肩を落としたのだった。
所変わってギルドのカウンター。
「後は護衛任務をクリアするだけた。私はもう、お前の実力を疑ってはいない。さっさと護衛を達成してシルバーになってくれ。それで塩漬け依頼を片付けてくれると助かる」
「塩漬け依頼ですか?」
「ああ、何度か失敗して受ける者がいなくなった依頼だ。ギルドにもメンツがあるからな。塩漬け依頼は大抵の場合、赤字覚悟で高額の依頼料を設定する。金がいるお前にはピッタリな依頼だろ?」
「そうですね、シルバーになったら塩漬け依頼の斡旋をお願いします。では早速、護衛任務をしたいのですが」
「まぁ、待て。お前は良いだろうが、こっちの準備が出来ていない。今ある護衛依頼は隣街までの商隊の護衛、近隣の村まで買い出し組の護衛の2つだな。商隊の方は馬車が5台の護衛で何組かのパーティと合同での依頼になる。買い出し隊の方は、この街へ近くの村から買い出しに来てる者達の帰り道の護衛だ。行きは金しか持って無いが帰りは物資を山のように運ぶからな。逃げられないし積荷を狙って魔物も寄って来る。ぶっちゃけ割に合わなくてやりたがる者は少ない」
「どちらが早く受けられるんですか?」
「それは買い出し隊の方だ。ヤツ等は護衛をしてくれる者を待っている状態だからな。言えば直ぐにでも始められる筈だ」
「では買い出し隊の方でお願いします」
「本当に良いのか?ランクはブロンズで報酬は雀の涙だぞ」
「はい、大丈夫です」
「カズイもそれで良いのか?」
「はい、大丈夫です」
「分かった。それじゃあ明日の朝8:00にギルド前に集合だ。これは依頼であると同時に試験でもある。当然、準備も試験に含まれるぞ。後、私も参加はするが基本的に言われた事しかしない。戦闘も一般的なブロンズと同程度しか動かないから注意しろ」
「分かりました。準備も試験の内なら……幾つか聞きたい事があります」
「言ってみろ」
「先ず荷はどれだけあるんですか?後は人の数。その人達は護衛対象に含まれるんですか?それと目的地までの予定日数を教えてください。最後に護衛の間の食事は誰が用意するんですか?」
「よく気が付いたな。先ず、荷は荷馬車が1台、人数は2人だ。護衛はあくまで荷だけだが、目の前で人が襲われて放置するのも寝ざめが悪いだろ?最低限の戦闘は出来るそうだが当てにできんな。目的地までは歩いて2日。明日の朝経って、明々後日の昼に到着する予定だ。食事は個々が用意する事になっている。但し今回はリーダーがメンバーの分を用意しておけ。因みに私は食べる方だからな。それと小耳にはさんだんだが、ここ暫くは雨の心配は無さそうだ」
「分かりました。ありがとうございます」
こうして急遽、明日の朝から護衛依頼を受けられる事になった。先ずはしっかりと準備をして、漏れがないようにしなければ。
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