第144話爪牙の迷宮 part3
144.爪牙の迷宮 part3
昼食を摂った後にエルと話をしようとしたらナーガさんに仮眠を取る様に言われた。
確かに魔力枯渇で夜中に起きたとは言え徹夜はキツイ。
言われるままに少しだけ仮眠を取らせてもらった。
時間にして30分程だったと思う。しかし仮眠の効果は劇的で眠気はかなり吹き飛んだ。
ここからはいよいよ3階層を探索する。この階層の魔物はサイレントパンサーとボアのはずだ。アシェラの眼に期待させて貰おう
オレは人力車を引きながらエルと先程のアオが言っていた事について話しあった。
「エル、お前の盾なら地竜のブレスを防げるみたいだな」
「そうみたいですね……」
「どうした?」
「兄さま。先程の話ですが……地竜へは僕と兄さまだけ……多くてもアシェラ姉の3人で挑みませんか?」
エルが話す内容に母さん、ナーガさん、アシェラから一瞬、殺気が立ち昇った。
「エル。私達の心配をするまでに成長してくれたみたいで、母さんとーーっても嬉しいわ……」
お母様……嬉しいのならその怒気は引っ込めて貰えると助かるのですが……
「すみません。母さま、ナーガさん。でも僕は全員を守る自信はありません……僕の盾は1人……頑張っても2人を守るのが限界です……」
エルが傲っているのかとも思ったが、どうやら自分の盾でしか防げない攻撃を前に、冷静な判断での提案のようだ。
母さんとナーガさんの殺気も収まっていく。
「ハァ。この話はまた今度しましょう。ナーガもそれで良いわね?」
「えぇ。てっきり、見くびられたのかと思ったわ。エルファス君、ごめんなさいね」
「上手く伝えられなくてすみません……」
ナーガさんが小声で”エルファス君もありね”と呟いていたがオレは何も聞いていない。
改めて周りを見渡すが3階層は今までと同じような洞窟がひろがっていた。階段が無ければ景色での階層の違いは分からない。
深い階層では景色が変わるのだろうか……景色と言えばこの明るさ。
迷宮の壁や床、天井自体がボンヤリと発行して明るいのだ。何故、光っているのか光る原理、全てが謎のままらしい。
それと昨日の夜に気が付いたのだが、どうも外の時間と同期している様で外が夜になると迷宮の中も暗くなる。
前にアオが言っていた”迷宮はマナストリームの瘴気の噴出口”と言うのが関係しているのだろうか。
分からない事ばかりだが取り敢えずは今、出来る事をしようと思う。
それと4階層からいよいよ罠が出てくるはずだ。罠についてはナーガさんから毒、麻痺、睡眠、落とし穴、そして転移、この4種類があると聞いている。
実は罠について少し気になって事前にアオへ聞いてみた。誰が何のためにどうやって罠をしかけるのが不思議でしょうがなかったからだ。
アオは流石だった。罠の発生する原因から作られるプロセスまで大まかにだが教えてくれた。
まず罠が発生する原因だが瘴気は人の発する負の感情と魔力が混ざった物だ。
負の感情の中でも罠は主に”恐怖”に由来するらしく”ここで毒が出たら……麻痺が……落とし穴が……”と思う心を元に罠が作られていく。
今は無いが例えばオレが”落盤の罠”と言う物の噂を広めればどこかの迷宮で新しく”落盤の罠”が出来るかもしれない。
勿論、これからも魔瘴石を取りに潜る予定なので、そんな噂を広めるつもりは無いが。
後はプロセスだが、こちらも人の心が関係している。
”ここに罠は嫌だなぁ”と思う場所に出来ていく。最初は地面や壁の中に小さな空間が出来てそれがどんどん大きくなっていく。地面ならこの時点で落とし穴の完成だ。
毒や麻痺、睡眠の罠はここからさらに毒ガスや麻痺ガスが溜まる事によって完成する。
壁の罠の作動は人の魔力に反応して作動するらしく魔物が通った場合には絶対に作動しない。
そして罠の中でも転移罠だけは発生の仕方が少し違う。
転移は魔法陣が徐々に地面に浮き出てくるらしい。
浮かび上がるのにかなりの時間が必要らしく人気のある迷宮では転移罠が完成する前に発見されるのが普通である。
もし浮かび上がる途中の魔法陣を見つけた場合は必ず壊すのが冒険者達の暗黙のルールだ。
後は”罠をどうやって見つけるか”なのだがこれはアオにきいても”知らない”と一蹴された。
ナーガさんに聞いてみると基本は地面や壁に気を付けるしか対処の方法は無いらしい。
しかし、このパーティは全員がヒールとアンチポイズン、を使え、母さん以外はアンチパラライズも使える。
毒、麻痺、睡眠はどれも即死する罠では無いので正直な所、あまり気にしていないらしい。
要するに転移罠以外は”かかっても治せば問題ない”と言う事の様だ……
脳筋の理論。……因みに脳筋とは脳みそまで筋肉で出来ているかの様な人達の考え方を言う。
こうなると罠は、まぁ……深く考えない様にしよう……
3階層は魔物も弱く夕方には4階層へ降りる階段に到着した。
「じゃあ、ここを降りてすぐの場所で野営をしましょうか。4階層からでるスライエイブはかなり嫌らしい魔物なので気を引き締めてくださいね」
「「「はい」」」
オレ達が返事をするのを母さんがニチャ顔で見てくる……嫌な予感しかしねぇ。
少し早い時間に夕食を食べようと準備をしていると早速、スライエイブが1匹こちらを遠巻きに観察してくる。
倒そうと近づく素振りを見せるとすぐに逃げて行く。しかし気が付いた時には遠巻きにこちらを眺めているのだ。
非常に鬱陶しい。しかし相手にするだけバカらしいので放置していると何時の間にか10匹程の群れになって奇襲を受けた。
しかもオレ達が薪にしていた枯木を棍棒として使ってくる。
オレ、エル、アシェラ、で撃破したが野営地がスライエイブの死体で血の海になってしまった。
魔物の死体の中で寝る訳にもいかず渋々野営地を100メードほど移動する。
この時点でオレ達にはかなり嫌な予感があったのだがナーガさんはすまし顔で母さんはニチャ顔をするだけだった。
やっと野営地の移動が終わったと思ったら新しいスライエイブが2匹、遠巻きにこちらを伺っている……
オレ、エル、アシェラは眉間に皺を寄せスライエイブを倒そうと睨みつけただけで一目散に逃げてしまう。
追い掛ければ倒せない事もないのだが完全に孤立する事になる。
迷宮探索を始めるに当たりナーガさんにきつく言われてる事が”単独行動の禁止”だ。
1人の勝手な判断がパーティ全体の危機に繋がる。
オレ達は青筋を立てながら野営地へと戻っていった。
いつもの黒パンと干し肉を食べ迷宮の中であるのに少しゆったりとした時間が流れる。
しかし、この食事がずっと続くのはヤバイ。何がヤバイかってオレのモチベーションがヤバイ。
こんな物を朝昼晩3食も食べてたらオレはきっと迷宮に入りたく無いと思ってしまう……
保存食で美味しい物……ドライフルーツは絶対持ってくるとしてソーセージ……元々は保存食で長期間持つって聞いた事がある。後は乾物……魚の干物でも焚火で炙れば十分だ。
将来的には乾麺なんかも試したい。
次の探索までにドライフルーツと魚の干物は絶対に用意する。絶対だ!出来ればジャムなんかも……
オレは心の中で迷宮探索での食事の改善を誓う。
暫くすると寝る時間になった。普段なら早すぎるのだが見張りを交代で行うので睡眠時間は長めに設定してある。
見張りの順番は最初にアシェラとナーガさん。次にエルと母さん、そして最後がオレだ。
何故かオレは1人でも大丈夫と思われてる様で、アシェラとエルにそれぞれ保護者としてナーガさんと母さんが付くらしい。
眠りだしてから1時間程してナーガさんに起こされた。
「どうしました……?」
半分寝ぼけながら声をだすとナーガさんが辺りを警戒している。
「敵襲よ。2人では無理みたい。応戦して」
すぐに周りを見るとスライエイプが15匹ほどの群れになりオレ達を包囲していた。
「こ、このクソザル……オレの安眠を……許さん!」
昼にあれだけ苛つかせられて睡眠時にも襲ってくるとか……
オレ、エル、アシェラは正に修羅の様に殺気を滾らせてスライエイブの群れに突っ込んだ。
オレは一番近いスライエイブに狙いを定める。バーニアを吹かし、すれ違いざまに魔力武器(大剣)でスライエイブを真っ二つに切り裂く……まずは1匹。
そこから一番近いスライエイブに、またバーニア。今度は勢いのまま膝蹴りで頭を割ってやった。ついでに隣のクソザルに右の短剣を投擲。額から短剣を生やしゆっくりと倒れていく。
引力の魔力変化で短剣を戻し、次のクソザルを捜すが逃げていく所で近くにはいない……
「エル、アシェラ、大丈夫か?」
「はい、兄さま」
「大丈夫」
「何匹、倒した?」
「僕は2匹です」
「ボクも2匹……」
「そうか。オレの3匹を合わせて7匹か……」
「そうですね」
「ボクが最初に見た時には17匹はいたはず」
「半分以下か……」
「兄さま。僕はあのサルが大嫌いになりました」
「ボクも……見つけたら……」
「オレもだ。あのクソザルども。絶対にぶっ殺してやる」
野営地に戻るとナーガさんは疲れた顔で苦笑いしていた。母さんはと言うと何と今だに寝息を立てて眠っている。
むにゃむにゃと言いながら涎を垂らして熟睡している姿を見て、オレ達は苦笑いを浮かべながら肩を落とすのだった。
そこから朝までクソザルの襲撃は無かった。しかし絶えず1~3匹ほどのスライエイブがウロウロしている。
鬱陶しいので何度かウィンドバレットを撃ち込んでやったが、その時は直ぐに逃げて居なくなるのだが気が付くとまたウロウロしているのだ。
朝食を食べながらナーガさんに聞いてみる。
「ナーガさんいつまで、ここで野営をするのですか?」
ナーガさんはオレ達を見渡しながら苦笑いを零した。
「問題無い。と判断できるまでかしら」
とりあえずナーガさんはここから動くつもりは無い様だ。
この野営にどんな意味があるのか、分かるような分からないような……
ただナーガさんが言うのならきっと必要な事なのだろう。
エルとアシェラも微妙な顔をしている。
後、何日ここで野営をするか分からないが出来る事をやって行こうと思う。
超振動の修行も合間を見てやっていくつもりだ。
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