第352話開拓村
352.開拓村
特級の呪物を発掘した次の日。
早速 ハルヴァ達がいると言う開拓村へ向かおうと、借り物のレザーアーマーを着て準備をしている所だ。
「じゃあ、アシェラの両親に『石』の事を相談してくるよ」
「分かりました。では私は最近 家の片付けが疎かになっていたので、思い切って大掃除をしてますね」
「オリビア、グリムに飛ばされる前にも言ったと思うけど、メイドを雇っても良いんだからな。無理しないでくれよ」
「ふふ、分かりました。メイドは子供が出来たら考える事にします」
オリビアはオレの言葉を聞いて、楽しそうに笑っている。
「ライラは今日は何をするんだ?」
「今日は『使途の英知』をどこまで学んだか纏める予定。アルド君に一度 勉強した所が間違って無いか確認してほしい」
「分かったよ。纏めたら教えてくれ。確認するから」
「うん」
こうして開拓村へはアシェラと2人で向かう事になったのだが、『石』の件だけで無く魔の森の開拓にオレは興味津々だ。
アシェラからの話では、ブルーリングからの街道も引かれ、そこから更にヴェラの街まで続いていると聞いている。
開拓村自体も城壁などは無いが、かなり広大な土地が開発されたと言っていた。
ワクワクが止まらない中、アシェラと2人でマナスポットへ向かう途中に改めて聞いてみた。
「アシェラ、開拓村はグラン家が主導で進めてるって言ってたよな?」
「うん。クリスさんが先頭に立って進めてる」
「クリスさんって街を作るような知識があったのか?」
「細かい事はお義父様が専門家を雇って補佐してるはず。ボクは魔物を倒したり木を魔法拳で吹き飛ばしたり、言われた事をしてただけだから詳しい事は分からない」
「そうか。どれだけ開拓されてるか楽しみだ」
「きっとアルドはビックリすると思う」
こうしてワクワクしながらアオに飛ばしてもらったのだが、最初に目に入ってきたのは小屋? どうやらマナスポットの岩を囲うようにボロっちい小屋が作られたようだ。
「マナスポットを小屋で覆ったのか。確かにあんまり人に見られるのはマズイか」
「うん。これは一番 最初の頃に建てられたから、だいぶみすぼらしい」
「そうなのか。じゃあ、アシェラ、案内してくれるか?」
「うん」
そう言ってアシェラは小屋の扉を開けると、そこには小屋を更に覆うように立派な石造りの壁が建っていた。
これは……思ったよりも開拓は進んでいるのだろうか? それにしても、この広さは……恐らく、将来このマナスポットを祭る祭殿でも作るのだろう。
オレが立派な石壁に驚いている間にも、アシェラは構わず先へ進み、大扉の隣にある人用の扉を開けて外へ歩いていく。
「おい、アシェラ。待ってくれ」
「アルド、早く」
アシェラの後を追い門をくぐると、そこには広大な平地が広がり沢山の人が土木作業に従事していた。
「こ、これは……」
この土地の広さは今のブルーリングの街に匹敵するのではないだろうか。
城壁こそ無いがメインの通路になるだろう場所には石が敷かれ、荷馬車が絶えず行きかっている。
しかも道の両脇には下水が通るだろう水路まで掘られていた。
「3年でここまでの物を作ったのか……凄いな」
「うん。最初はエルファスにコンデンスレイで森を切り開いてもらった。それから、またコンデンスレイでブルーリングまでの街道を引いた」
「コンデンスレイか……なるほど先ずは土地と道を最初に確保したのか。効率的なやり方だな」
「うん。後は空間蹴りで空から目安になる場所に魔法を撃ちこんで、徐々にこの形にしていった」
「あー、三角関数も無いのに、どうやってこんなに綺麗に道を引いたのかと思ったら、空からか……なるほどな」
「それに、お義父様が人と資材とお金を沢山入れたから、こんなに早くここまでの形になった」
「そうか……新しい種族の礎になるんだな、この街は」
「うん」
これだけの街をこの場所に作るのは、将来 この街は新しい種族の礎になるのだろう。
東はフォスターク、北は山脈、南は海である以上、西へ向かって国を広げるしか方法は無い。きっと、この場所から西へ国が広がっていくのだ。
「アシェラ、ちょっと空から全体を見てくるよ」
そう言ってオレは空間蹴りで空へ駆け出していく。
空から見る街は道が碁盤の目のように敷かれ、非常に効率的な形をしていた。
きっと城壁が作られる際には、道に沿って正方形に作られるのだろう。
感慨深げに見つめた後、次に視線を西に向ければ森があり、更にその向こうには一面の草原が広がっている。
「西か……アメリカが開拓時代 西を目指したように、オレ達も西を目指すんだな……」
眼下の雄大な景色を見ながら遠い将来を想像していると、何時の間にかアシェラが隣に寄り添っていた。
「どうしたの?」
「いや。この街から西へ国が広がって行くんだと思ってな。何てことない、ただの感傷だ」
「西へ……」
「ああ、西だ。オレ達のフロンティアは西にある」
そうしてオレ達は、自分達が死んでしまった後の遠い未来に思いを馳せるのだった。
どれぐらいそうしていたのか、一羽の鳥がオレ達の前を横切っていく。
「アシェラ、そろそろ降りようか。いつまでも、こうしててもしょうがない」
「うん」
地上に降りて、アシェラにハルヴァとルーシェさんの居場所を聞くと、ハルヴァは開拓村にある自宅へ、毎日 昼食を摂りに帰ってくるのだとか。
2人はアシェラが嫁に出てからは、見ているのが恥ずかしくなるほどラブラブオーラを出しているそうだ。
「ずっと離れ離れだったしな。多少はしょうがないだろ」
「それにしても、あれはやり過ぎ。見てるとこっちが恥ずかしくなる」
「じゃあ、オレ達の方が仲が良いって、見せつけてやろう」
「うん!」
確かルーシェさんは40を少し回ったぐらいだったはずだ。頑張ればこの世界でも子供は出来るのだろうか? もしかしてアシェラの弟か妹が出来たりして……
そんなゲスい事を考えながら、ハルヴァ宅へと向かっていった。
アシェラの新しい実家は、開拓村に建てられた長屋の中の1軒であった。
騎士団の副団長までやったハルヴァが住むには、いささか趣が深すぎると思ったのだが、クリスさん達も同じと聞き納得した。
恐らくは今現在の状況で大層な屋敷を建てるために、限りあるリソースを割きたくは無いのだろう。
それはマナスポットを囲う立派な石壁と、ボロっちい小屋からも分かると言うものだ。
自分の中で納得して、改めて玄関の扉をノックした。
「こんにちは。どなたか見えませんか?」
「はーい。ちょっと待ってください」
直ぐに家の中からパタパタと音がして扉が開けられる。3年と言う年月で、少し小皺が増えたルーシェさんだ。
「アルドです。帰った報告と相談があって伺いました」
オレが魔族の精霊グリムに、世界のどこかへ飛ばされた事を知っていたルーシェさんは、目を見開いて驚いてから、オレを抱き締めてきた。
「る、ルーシェさん?」
「良かった……本当に良かった……アルド君がいなくてアシェラは……」
そう言ってルーシェさんは、オレの胸の中で大粒の涙を流していく。
そんな時間が数分ほど過ぎただろうか。少し不機嫌なアシェラが、オレからルーシェさんを引き剥がしながら口を開いた。
「お母さん、もう良いでしょ。離れて」
「ぐすっ。あらあら、アシェラったらヤキモチなんて妬いて。良かったわね、アルド君が無事に帰ってきて」
「うん……」
2人が楽しそうに話す中、オレの後ろで何かを落とすような音が響く。
振り向くと、ルーシェさんと同様に少し歳を取ったハルヴァが、まるで幽霊でも見るような顔でオレを見つめていた。
「ハルヴァ、いえ……もう、お義父さんですね。アルド、無事に帰ってきました」
ハルヴァは目に涙を貯めるも、顔を背けオレの方を見ようとはしない。
そのまま服の袖で目を拭い、嬉しそうな顔で口を開いた。
「アルド様、その口調は慣れません。今まで通りでお願いします」
どうしようかとも思ったが、オレとハルヴァはこの関係が良いのかもしれない。
持ち上げつつも、決してオレが緩むことを許さない。そんな関係だ。
「分かったよ……ハルヴァ。アルド=ブルーリング、無事に帰還した」
「おかえりなさい。良く無事で。さぁ、家に入ってください。ルーシェ、食事の余分はあったか?」
「夜の分も一緒に作ったからたっぷりあるわよ。アシェラ、アルド君、さぁ、入って入って」
こうしてオレとアシェラは、歓迎ムードでハルヴァとルーシェさんに迎えられたのだった。
少し早い昼食を呼ばれながら、飛ばされてからの事を話していく。
アルジャナやファーレーン、白蛇のハクに乗って海を渡った所では、流石のハルヴァも子供が英雄譚を聞くような顔で目を輝かせていた。
確かに聞くだけには、どこかの英雄譚のようで心が躍るのは良く分かる。
しかし、実際に体験した立場からすると、二度と同じ目には合いたくは無い。
「…………って事で3日前に帰ってきたばかりだ。もう少し早く来ようと思ったが、父様への報告やらで遅くなってしまった。すまない」
「いえ、十分な配慮をしてもらっています。頭を上げてください」
「ありがとう。それと1つ相談と言うかお願いがあるんだ。実はオレの右腕が…………」
そこからは昨日あった出来事を話していく。浮気発見器の事は黙っていようとしたが、アシェラがルーシェさんに「家宝にする」と宣言した事で盛大に暴露されてしまった。
ハルヴァからは、男としてと娘の父親としての相反する立場から、何も言われず能面のような顔で流されてしまった。
「アシェラ、その石は絶対に壊してはダメよ。3人で守り通すの。良い?」
「うん。力尽くでも絶対に守る。アレは我が家の家宝!」
あのー、オレってどれだけ信用されて無いんですかね? 浮気なんてするつもりはありませんよ?
ただ、そんな物があるってだけで、気分的に良く無いだけなんですけど。
そんなオレの気持ちも、2人には何故か届かないようだ。
オレは会話を切り替えるためにも、ハルヴァに向き直って石について聞いてみた。
「それでハルヴァ、この石を使っても良いだろうか? オレとしては本当は使ってほしく無いんだ。意見を聞かせてほしい」
ハルヴァは目を閉じて、何かを考えている。流石に真剣なハルヴァを前にしてアシェラもルーシェさんも口を開こうとはしない。
そうして5分ほどが過ぎ、ハルヴァがゆっくりと話し出した。
「アシェラ、それがあればアルド様の隣に立てるんだな?」
「うん。今より、もっとアルドの役に立てるはず」
「アルド様が言うように危険だと分かった時には使うのを止めれるか?」
「うん……」
「以前 私は言ったはずだ。お前に何かあった際にはアルド様を許せる自信が無いと。それでも、その石を使うと言うんだな?」
「うん」
ハルヴァはアシェラからオレに向き直って、何かを覚悟したかのように口を開いた。
「アルド様、私はアシェラが石を使う事は止めません。きっと危険だと判断した時には、自分で使用しない判断が出来ると信じます」
「そうか……」
ルーシェさんは薄っすらと笑みを浮かべて頷いているので、ハルヴァと同じ意見なのだろう。
こうしてハルヴァとルーシェさんから『石』の使用を許可されてしまったのだった。
ブルーリングへ帰る帰り道で、改めてアシェラに話しかけた。
「アシェラ、先ずはボーグにドラゴンアーマーから石を取り外してもらう。それで性能を知らべる。それで良いか?」
「うん」
「でも、少しでもおかしいと思ったら絶対に言ってくれよ。お前を信じるからな」
「分かった。絶対に隠さない。お父さんとお母さんに誓う」
「分かったよ」
こうして『石』の今後の扱いは決まった。
まだまだやる事は山積みではあるが、1つずつ片づけて行こうと思う。
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