第353話結婚式:友人バージョン
353.結婚式:友人バージョン
ブルーリングへ帰って10日が過ぎた。
最初の数日は、報告やら鎧の修理やら悪夢の浮気発見器やらで、目まぐるしく過ぎていった。
その後も『石』の性能調査に数日をかけたり、カズイにアドを紹介したりと せわしく動き回っていたが、今日はグリムに飛ばされる前に計画をしていた友人を招いての結婚式を行う事になっている。
招待した人に3年も遅れた事を詫びながら帰還の挨拶に回った時には、手厚いお叱りと帰還のお祝いをもらえたのは記憶に新しい。
今回 招待したのは騎士からガル、ベレット夫妻とタメイ。冒険者からジョー、ノエル夫妻にゴド、ジール。そして友人としてルイスとネロ、カズイの3人。最後にその他としてエル、マール、母さん、ナーガさん、クララ、ボーグとなった。
総勢16名となり我が家の玄関は開け放たれ、庭でのバーベキュー大会となる予定である。
「アルド、このお肉はどうすれば良いのでしょう?」
「それはバーベキューに使うから薄く切って皿に盛りつけてくれ」
「アルド、こっちの野菜はサラダで良いの?」
「ああ、そっちはサラダにしてくれ。こっちのは焼き野菜にするから火が通りやすく薄めに切ってほしい」
こうして朝一番に3年前には行く事が出来なかったミルドで材料を買い、今は嫁達と仕込みに大忙しなのだ。
厨房は広めに作ってはあったものの、流石に3人入れば狭苦しい。しかしお互いに声をかけあって、それぞれの持ち場で仕込みを終わらせていく。
そんな中、我が家には嫁がもう1人いるのだが、ライラは料理の類は全く出来ない事から何もする事が無くオレ達を見ているだけであった。
「あ、アシェラ……何か手伝う事はある?」
「こっちは大丈夫」
「オリビアは?」
「こっちも大丈夫ですよ」
これは良くない。4人で作り上げる結婚式に、これではライラはお客様になってしまう。
それに周りが忙しくしている中で、自分だけ暇なのは地味にクルのだ。
まるで自分は何も出来ない無能のように錯覚してしまう。オレも会社に入ったばかりの頃は、忙しくしている先輩達の中で妙な劣等感を感じた事が何度もあった。
「ライラ、悪いけどテーブルを拭いて食器を並べてくれ。客が16人分とオレ達の分だぞ。それが終わったら気分が悪くなった人用の客間の水差しやベッドを確認してほしい。それから…………」
ここぞとばかりに馬車馬のように働かせるべく、仕事を割り振ってやる。
酷いと思うかもしれないが、これぐらいで良いとオレは思う。オレ達は夫婦だ。遠慮して仕事を割り振るなんてそんな仲じゃない。
「分かった!」
ライラは嬉しそうに返事をすると、腕まくりをして食堂と外に置いたテーブルと椅子を拭きに行く。
元々 ライラの能力はかなり高い。ボーっとした所はあるが、目的を示してやれば人並み以上に上手くやってくれる。
こうして4人で開始時間の1時間ほど前に全ての準備を終え、やっと一息つくことが出来た。
少し早い気もするが、この日の為に用意したバーベキュー台の炭に火をつけていく。
炭火は料理出来る状態になるまでに、30分ぐらいがかかるので先につけているのだ。
嫁達は交代でオレの部屋のシャワーを使い、汗を流してお色直し中である。
「ふぅ、後は客が来るのを待つだけだな」
テーブルにはお茶や水、バーベキュー用の肉と野菜が皿に盛られて所狭しと並んでいる。
酒の類は樽で玄関に置いてあるので、欲しければ自分で注いでもらうつもりだ。
すると開始30分前に最初の客であるルイスとネロ、カズイの3人がやってきた。
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。ルイス、ネロ、カズイさんも」
「おう、オレは2回目だからな。祝いの言葉は前回に言ったぜ」
「結婚、おめでとうだぞ、アルド。3年も待たせすぎだぞ!」
「アルド、結婚おめでとう。事故にあったのは、まだ結婚式も終わって無かった時だったんだ……無事に戻れて良かったね」
「ネロ、悪かった。今日は好きなだけ食べて行ってくれ。カズイさん、ありがとうございます。無事に帰れたのはアナタのお陰です。本当にありがとうございました」
それから3人は仲良く話をしているが、先日のケンカは大丈夫だったのだろうか? しかもカズイさんとネロは面識が無いはずなのに……
「ルイス、ネロ、もうケンカするなよ」
「分かってるよ。あれはオレが悪かった。ちょっと自分勝手に考えすぎたみたいだ」
「オレも悪かったぞ。ルイスは母ちゃんのことを考えてくれてたのに……」
こう言い合えるなら、2人にはもうわだかまりは無いのだろう。仲が良さそうでオレも安心出来ると言うものだ。
そんな2人をカズイは笑いながら見つめている。
「カズイさんはネロと面識があるんですか?」
「うん。ルイス君に誘われてね。最近はジョーさんのパーティに入れて貰って冒険者をしてるんだ」
「ジョー達のパーティに?」
「ラヴィとメロウはもう少しかかりそうだから。ドライアド様からも、あんまり傍にいると煙たがられちゃって……退屈してたらルイス君が誘ってくれたんだよ」
「オレも母さんが戻るまで1人だからな。ついでに誘ってみた」
「カズイの魔法は凄いんだぞ。ウィンドバレットでオレ達のサポートをしてくれるんだぞ」
そう話していると次に、小さな女の子を抱いたジョーと、お腹の大きいノエル、後ろにはゴドとジールがやってきた。
そう、ノエルのお腹には2人目がいるのだ。
「良く来てくれた。皆、今日はありがとう」
皆からお祝いの言葉をもらった後、直ぐにノエルへ声をかけた。
「ノエル、来てくれてありがとな。お腹 重いだろ。この椅子に座ってくれ」
「ああ、スマンな。しかしお前の結婚式か……最初に王都まで護衛した時を思い出す。あんな子供が所帯を持つなんてな。どうりで私も年を取るわけだ」
「まだまだ若いだろ。その子を産んだら騎士に復帰するのか?」
ノエルは苦笑いを浮かべて、ゆっくりと首を振った。
「もう私に騎士は無理だろう。それにこの子達を置いていくつもりも無い。アルド、後で相談するつもりだったが、どこか農地を売ってくれる所は無いだろうか?」
「農地? そりゃ、金さえあれば何処かの農地は売ってもらえるだろうけど……何でだ?」
「ジョーも30を越えてる。そろそろ何処かに引っ込もうかと思ってな。実はゴドとジールの妻達ともそんな話が出てるんだ。籍を抜いたとは言え、こんな話をブルーリング家の子息であるお前にするのは少しズルイとは思うが、頼めないだろうか?」
「それは良いが、ネロはどうするんだ?」
「ネロはもう一人前だ。もう、どのパーティでもやっていける。正直 Bランク下位のジョー達では、ネロの才能を持て余し始めていてな。このままだとネロが飼い殺しになるって言って、冒険者を続けるとしてもネロはパーティから外すつもりらしい」
「そうなのか……分かったよ。オレにとっても冒険者のイロハを教えてくれたのはジョー達だ。恩人と姉の頼みじゃ断れないな」
「バカ、姉とか……何を言ってる……」
「お前はオレだけじゃなくて、エルやマールにとっても姉みたいなもんだよ。安心してくれ。とびっきりの場所を探してみせる!」
「え? あ、いや、そんなに沢山の金があるわけじゃ無い。ほどほどで食っていける程度で良いんだ」
「分かった。後で詳しい話を聞かせてくれ」
「スマンな。ありがとう」
ジョー達は冒険者を引退するのか。確かにSやAならもっと高齢になっても冒険者を続ける者もいる。
しかしBやC程度だとある程度の年になれば、引退して第二の人生を歩む者は多い。
それでも、そうした者達は成功した者達だ。それ以下の者は20代の半ばで見切りを付けていくのだから。
ノエルからの相談を受けた後も、エル達や母さん達、ガル達もが続々とやってくる。
そうして、アシェラ達のお色直しも終わり、とうとう結婚式の始まる時間となった。
オレは玄関の前に立ち、横にはアシェラ、オリビア、ライラがお気に入りの服を着て立っている。
3人は風呂に入りいつもはしない化粧もして、普段より2割増しで可愛らしい。
そんな中 オレは顔なじみである客達へ向かって口を開く。
「皆さん、アルド=ブルーリングです。今日は僕達の結婚パーティに集まってもらえて本当にありがとうございます。本来は3年前に行う予定でしたが、訳あってこんなに時間が経ってしまいました。少々長すぎた旅でしたが…………」
オレの挨拶の途中で、氷結さんがいきなりブーイングを入れてきた……いきなり何なの?
「アル、かたっ苦しいのよ。ここにいる人はアナタ達の事を良く知っている人達でしょ。そんな挨拶なんて聞きたく無いわ」
母さんの言葉を聞いて、皆からも同じようにブーイングの嵐となった。
「そうですよ、アルド君。普段通りで良いですから、アナタの言葉で話してください」
「そうだぞ、アルド。もっと楽しそうに話すんだぞ」
「ネロとナーガさんの言う通りだぜ。それじゃあ、腹の探り合いをしてる貴族の挨拶だ。お前の大っ嫌いな貴族のな」
「アル兄様、頑張って下さい」
「アル坊、恰好付けんな。お前らしくで良いんだよ」
「そうッスよ。アルド様はブルーリングの英雄なんッスから。ドッシリと自分の言葉で話すッスよ」
おうふ。そうか、ここには親しい人しかいない。普段の自分の言葉で良いんだ……素のオレの言葉で。
「あー、母様、皆さん、あたたかーーーーい、ブーイングをありがとうございます。そうだよな、これじゃあ貴族の挨拶だよな。じゃあ、オレの言葉で話すぞ。オレは訳あって3年間 旅をしてきた。その間 思う事はいつもこのブルーリングの事……アシェラ達や皆にまた会うためにここに帰ってきたんだ。そんな皆にオレ達の結婚を祝ってもらえるなんて、こんなに嬉しい事は無い。今日は思い切り飲んで食べて笑っていってくれ。ありがとう、皆。大好きだ!」
オレの挨拶に笑う者、頷く者、呆れる者、様々な反応があった。でも気分を害する者だけはいなかった。
そんな皆の反応ががたまらなく嬉しかった。
知らない誰かのためじゃない。オレはちっぽけな自分の手の中に入る人のために、この世界を救うんだ。
この人達と一緒に笑うために。それこそがオレの使徒としても道なのだと、心の底からそう思えた。
「おーい、アルド。この肉もっと焼いてくれ」
「オレはこの肉が良いぞ」
「うまうま」
「ハハハハ。この肉美味いな!最高だぜ!」
ひっきりなしの注文にオレは馬車馬のように肉と野菜を焼いていく……お前ら、少しは遠慮ってものを覚えた方が良いんじゃないですかね?
「おーい、アルド、肉 早くしろよー」
「お前ら!いい加減にしろ!こっちはひたすら焼いてるんだよ!ちょっとは遠慮しやがれ!」
ルイスとオレのやり取りに、全員が笑い声を上げている。
まったく……呆れるオレの顔には確かな笑みが浮かんでいたのだった。
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