第354話始動
354.始動
友人達に祝ってもらった結婚式が終わり、1週間が過ぎた。
ボーグに預けてあったドラゴンアーマーも無事に直り、ライラにも地図の書き方を教えて急ぎでやらなければならない事は既に無くなっている。
そんなやり終わった中の1つに、アルジャナの魔方陣があった。
既にローザには自動化の魔法陣を教えてあり、今までの給湯器に温度の調節機能を取り付けて魔道具の改良も進めてもらっている。
実は風呂とトイレについては、3年経った今でも国中の貴族家から、ひっきりなしに問い合わせがあるらしい。
魔道具販売は、現状でも十分すぎるほど利益が出てるのだが、爺さんはオレが帰った事により張り切ってしまい、ここらで新しい商品を出すと言い出した。
これは、だいぶ前に風呂とトイレの工事はセーリエの部下に引き継がれ、セーリエの手が空いていたのも大きかったみたいだ。
結果、オレの自宅の魔道具を見学するため、爺さん、父さん、ローザ、セーリエ、ローランド、タブが集まり、さながらモデルルームでの新商品発表会のようになってしまった。
実は自宅の魔道具開発では、ローザに途中で色々と知恵を借りたものの、完成品を見せたのはこれが初めてである。
冷蔵庫、冷凍庫、エアコン、コンロ、換気扇、初めて見る魔道具に驚き通しで、どの魔道具にも大きな興味を示していた。
中でも女性らしく食材の保存の観点から、冷蔵庫と冷凍庫であれば間違いなく大ヒットになるだろうと爺さんに提言したのだ。
しかし、冷蔵庫と冷凍庫は既存の職業と魔石の値段に影響が大き過ぎると言う事で、最終的には父さんの一押しであるエアコンが次のブルーリングの主力になる事が決まった。
確かにエアコンや風呂の嗜好品とは違い、発表すれば冷蔵庫や冷凍庫は必需品になるだろう。
こちらとしては、独立まであまり目立ちたく無いと言う背景もあるし、やり過ぎて目を付けられたくも無い。
こうして、開拓村の資金調達の関係から、更に王国中の貴族から搾り取るべく、新商品が売り出される事になったのである。
そんな爺さん達との商売とは別に、実は今日 ナーガさん達がウチにやってきて、これからの予定を立てる事になっている。
オレが帰ってからもう直ぐ1ヶ月が経つ事と、そう遠くない先オクタールの主を倒すために、救援要請が入ると思われるからだ。
「オリビア、応接間の準備は出来てるんだっけ?」
「はい。来るのはエルファス、お義母様、ナーガさんで良かったのですよね?」
「ああ。大まかな世界地図はライラが書いてくれたから、それを見てこれからの予定を立てる予定だ」
「大丈夫です。お昼も越えるでしょうから、食事も用意しておきますね」
「ありがとう。出来ればそのまま食べたいから、サンドイッチにしてくれると助かるかな」
「分かりました。この間 アルドに教えてもらった玉子サンドを出すようにします。あれなら、きっと喜ばれると思いますから」
そう言ってオリビアは楽しそうに厨房へと入って行く。
軽くつまめる物と飲み物を用意していると、時間になりナーガさん達がやってきた。
「おはようございます、アルド君」
「おはようございます。どうぞ、入ってください」
ナーガさん、母さん、エルを応接間に通し、オレ、アシェラ、オリビア、ライラも席に着いた。
実は今回、ナーガさんには隠していた全ての秘密を話す事を決めてある。
正直 隠し事をしながら、これからの事を話し合うのは難しい。
特にオクタールの街はドライアディーネのグリドル領内である以上、エルフとの密約を抜きに話すのは無理だと判断したのだ。
「じゃあ、ナーガさんもいるので最初から説明しますね。先ずは僕が飛ばされたのは…………」
もう、何度目か分からない事を全員に話していく。
意外だったのは、サッサと出ていくと思っていた母さんが、席に座ったまま真剣に聞いている事だ。
まるでオレの旅の採点をするかのように、所々 頷いたり逆に苦い顔をしている。
こうして途中に休憩を入れ、昼食を摂りながら話を続けて行った。
「…………って事でエルフから救援要請が来ると思われます。実はナーガさんには話していませんでしたが、エルフとブルーリングは密約を交わしているんです。そこでナーガさんに聞きたいのですが、使途と種族の関係はご存じですか?」
「使徒から新しい種族が生まれるのは知っています。恐らく、ブルーリングは将来 独立するだろうとも思っていました」
「そうですか。それなら話は早いです。先ほども言いましたが、ブルーリングとエルフの国ドライアディーネは密約を交わしています。それに付随して特大の秘密が1つありまして……」
「秘密ですか? アルド君達が使徒であった以上の秘密があるとは思えませんが?」
オレは母さんを見るが、ヤツは素知らぬ風を装い、我関せずを貫いている。
「実は…………」
今まで隠していたが、実はウチのアドはエルフの精霊ドライアドである事をナーガさんへ伝えた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!あ、あ、あ、アドちゃんがドライアド様? え? 嘘でしょ?」
ここまで驚くとは。ナーガさんの変顔が見れたのは良かったが、ここは先ず 黙っていた事を謝罪しなければ。
「本当にすみませんでした。僕達もいきなりだった事と、万が一アドが狙われたらと思い、言えませんでした。改めて申し訳ありませんでした」
ナーガさんは放心状態で呆然とオレを見つめているが、間違い無く心はここに無いのが分かる。
5分ほどが経ち、やっと再起動したナーガさんが口を開いた。
「な、なるほど……確かにドライアド様の安全が第一と言う、アルド君の言う事は理解出来ます。でも……ラフィーナ? アドちゃんとは何度も一緒にお茶をしたわよね? コッソリ教えてくれても良かったんじゃないの?」
「アドを特別扱いすれば怪しまれちゃうでしょ? 敢えて普通の子供として接するのが、安全に繋がるはずだわ。それともナーガはアドがドライアドだって知って、同じ態度で接する事が出来たのかしら?」
「そ、それは……そうかもしれないけど……」
「それに素のアドと接する事が出来て良かったじゃない。あの子 畏まって話されるのを嫌うから、最悪は嫌われてたかもしれないわよ。実際にエルフが来るといつも喜ぶけど、直ぐに鬱陶しがって逃げちゃうもの」
「エルフが来る?」
「アルがさっき言った密約の一つね。毎年、夏になると魔道具工場でエルフの代表が、アドに会ってるのよ。去年は王子が来てたわね」
「お、王子?? ま、まさか、クリューデス王子が?」
「確か、そんな名前だったかしら。アドに甲斐甲斐しく世話を焼こうとして、鬱陶しがられて逃げられてたわ」
「そ、そんな事が……このブルーリングは、アルド君の精霊様だけじゃなくて、ドライアド様にグリム様まで降り立たれたのね……」
「ええ。正直 将来を考えると頭が痛いわ。アオの話では、フェンリルがネロ君に会いたがってるらしいから、その内やって来そうだしね」
は? 何それ。そんな話、初耳なんですが?
フェンリルがネロに会いたがってるとか、どう言う事なの?
「か、母様、僕は初耳なんですが。フェンリルが何でネロに会いたがってるんですか?」
「そんな事 私が知ってるわけ無いじゃない。私は1年ぐらい前にエルから聞いただけよ」
オレは直ぐエルへ向き直ると、事の詳細を聞き出した。
どうやらアオが何処かのタイミングでフェンリルにネロの事を話したのだとか。
アオはネロの事を使徒であるオレと友人であり、驚くほど心が綺麗だと伝えたそうだ。
フェンリルとしては自分の眷属であるネロが、瘴気の元である負の感情を殆ど持たない事が嬉しくてしょうが無いらしい。
今でもマナスポットの中ではあるが、ちょこちょこアオの下にやって来てネロの様子を聞いていくのだとか。
「そんな事になってたのか……知らなかった」
「すみません。伝えるのを忘れてました。それでアオは何処かでフェンリルにネロを会わせるつもりみたいです」
「そうか……この件は1度 お爺様と相談しよう」
「あ、お爺様には伝えてあります。疲れた顔で、「絶対に見られるな」とは言われましたが……」
「そうだろうな……その光景が目に浮かぶよ」
こうしてオレにとっても驚く報告があったものの、取り合えずは話を進める事になった。
「えーと、本来の議題が進まないので、個別の件は後でそれぞれで話しましょうか」
「ええ。分かりました……」
ナーガさんの了承を得て、改めて話を進めていく。
「…………今のペースでは、世界中のマナスポットを解放するのに時間が足りないと判断しました。アルジャナへの片道で3年。このペースでは、きっと僕やエルの寿命が先に尽きてしまいます。ただし、僕もエルも解放だけに、これからの人生を捧げるつもりはありません。そこで小さなマナスポットを解放して、世界中にマナスポットのネットワークを張り巡らせようと思うんです」
「そんな事が可能なんですか?」
「アオとライラに協力してもらって詳細な世界地図の作成を進めています。これを見て下さい」
オレは机の上にまだまだ荒い世界地図を広げて見せた。
「まだまだ詳細とは言えないですが、世界地図の第1号です。これを詳細に書いていく作業と、現地での誤差を埋めていくつもりです。アオに聞いたんですが、幸いアオには地図上での、自分の位置が分かるそうです。アオの協力を得られれば、かなりの精度の物が出来ると思うんです」
「……凄い」
「今はまだ世界全体とブルーリングの周辺だけですが、地図の作成はマナスポットの解放と同時に進めていくつもりです。そして万全の準備を整えて大きなマナスポットを解放していく……これが僕の考えた世界を救う方法です。どうでしょうか?」
「これが本当に出来るのであれば、きっと飛躍的な早さでマナスポットを開放出来ると思います」
「そうですか。ナーガさんにそう言ってもらえて安心しました。こんなのは机上の空論だって、切り捨てられる可能性も考えてましたから。では当面は先ほど話した、オクタールの街までの拠点を作りたいと思います」
そう言うとオレは指輪に魔力を通してアオを呼び出した。
「何だい、アルド。また地図作りかい?」
「いや、ドライアディーネのマナスポットの場所を教えてほしいんだ。この辺りでマナスポットはあるか?」
「ん? ここか……それだとここと、ここに小さ目のマナスポットがあるね」
アオが示した場所の片方は、恐らくオクタールの街だ。であればもう片方は、オーガの主がいた場所なのだろう。
「じゃあ、ここと大蛇の森の間にマナスポットはあるか?」
「どっちも小さいけど2つあるね。ここと、ここだ」
「分かった。ありがとう、アオ。助かったよ」
「もう良いのかい? もうちょっと居てあげても良いんだよ?」
「ん? 大丈夫だ。また何かあったら呼ぶよ」
「そうかい……」
そう言ってアオは寂しそうに消えていく。何だろう。あの奥歯に物が挟まった物言いは……
気を取り直してオレは、全員へ向かって口を開いた。
「皆さんも聞いたと思いますが、当面はこの2か所のマナスポットを目指そうと思います」
全員が大きく頷いて了承の意思を示したのだった。
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