第355話3番目の使徒
355.3番目の使徒
先ずは小さいマナスポットの解放と言う事で、オレ、アシェラ、母さん、ナーガさんの少数で向かう事を決めた。
エルは領主としての勉強、ライラは地図の作成を頼む事から今回は不参加である。
しかし、エルはオレを不安そうな顔で見つめ、恐る恐る口を開いた。
「本当に僕は参加しなくても大丈夫ですか?」
「無理そうなら戻ってくるつもりだからな。その時は改めて頼むよ。お前はクリスさんと開拓村の調整もやってるらしいじゃないか。そっちも疎かにして良い物じゃないしな」
「分かりました……」
渋々ではあるが、エルは納得してくれた。問題はもう1人、ライラである。
さっきから目に涙を貯めて、アシェラとオリビアに同行を懇願しているのだ。
「アシェラ、オリビア、2人からもお願いして。私はアルド君がいないと……」
「ライラ、危なくなったら直ぐに帰ってくる。今度はボクもお師匠もいるから大丈夫。絶対にアルドを死なせたりしない!」
「そうですよ。それに私はいつも待っている身ですから。アルドの帰る場所を守るのも、妻の大事な役目です。一緒にアルドを待ちましょう」
最終的にオリビアの意見を聞き、ライラも渋々 了承をする事になった。
「ではあまり時間もありませんので、出発は2日後の朝にしましょう。各自 準備は怠らないようにしてください。今回は残念ですが素材の類は捨てましょう。失敗した場合も考えて、最低限の装備での電撃戦です」
「分かりました。アシェラ、出発前にもう一度『石』の性能確認だけしておこう」
「うん、分かった」
「久しぶりの冒険ね。3年ぶりだから腕がなるわ」
こうして2日後に再び、苦い記憶の残るドライアディーネを目指す事になったのである。
次の日の朝。明日からの旅に備え、ありったけの保存食を持っていこうかと思ったが、今回は電撃戦だ。
考えた末、梅干しと各種調味料、ジャムだけを持っていく事に決めた。
「これで良しっと。アシェラ、準備は良いか?」
「うん。今から出発でも大丈夫」
「そうか。じゃあ、『石』の確認をしようか」
「うん」
『石』。オレの腕と証が、墓の下で変質して凝縮した物だとアオは言う。
アオ自身こんな事は聞いた事が無いと言っていたが、これが出来た大まかな推測だけは聞かせてもらう事ができた。
アオがマナの精霊である事、遥か昔 精霊王がマナスポットを直接 指輪の形へ変えた事、墓の下にあった物が、使途の肉体と証それに魔力の伝導性が高い竜の素材だった事。色々な要因が複合的に混ざり合って、マナスポットへ流れるマナが間違って証へ流れたために起こったのでは無いかと言っていた。
改めて聞いたが、話の1割も理解出来ない。
もしかして量産できるかもと思ったが、どうやらそんなに甘い話は無さそうである。
そんな『石』であるが、そのまま持っているわけにもいかず、ボーグに頼んでドラゴンアーマーから取り外して直ぐにブレスレットに装飾として取り付けてもらった。
その際に青い光が漏れ出ないように、取り外しの効く金属で覆ってもらう事で、今は畏れを感じるような事は無くなっている。
まぁ、金属で覆うまでのボーグは、青い顔で汗を滴らせながらの作業ではあったのだが。
ボーグ曰く「2度とやりたく無い」と言っていたので本当に申し訳ないと思う。
「アシェラ、先ずはアオを呼んでみてくれ」
「うん」
アシェラはブレスレットに集中して魔力を注いでいる。オレやエルからすれば簡単に呼べるのだが、『石』のチカラでは大変なようだ。
「アシェラかい? どうしたんだい?」
そう言ってアオは不思議そうに現れた。
「明日から解放に向かうからな。『石』の性能の最終チェックだよ」
「なるほどね。『石』からの音は小さいから、気を付けてるようにするよ」
「そうなのか?」
「うん。声じゃなくてキーンキーンって音で聞こえるんだ」
「ほー、そんな風に聞こえるんだな。因みにアシェラはアオを呼ぶのにどれぐらい魔力を使ったんだ?」
「うーん……全魔力の1/4ぐらい?」
「オレだったら全魔力の半分か。やっぱり燃費は悪いな。後は『石』でもマナスポットの解放が出来るかどうかだけど……どう思うアオ?」
「それは無理かな。使徒の証が無いと、マナスポットを僕の制御下には置けないんだ。僕だけがそこにいても意味は無いよ。その代わり、魔瘴石の浄化であれば僕を呼んでくれれば問題無い」
「それだけでも十分。最悪はボクだけで、魔瘴石を取ってこれる」
「そんな危ない事はやめてくれ。絶対にダメだからな」
「……むぅ、分かった」
「じゃあ、次は魔力の回復だな。どうだ?」
「この石を持ってると、ゆっくり魔力が回復していく」
「それは使徒の証じゃ無いからね。アルド達みたいに僕が調整する事は出来ないから、遅いのはしょうがないかな」
「それでもアオの領域にいれば魔力を回復できるのは大きいよ。後はどれぐらいで魔力酔いになるかだけど……これは元の魔力量や体質にもよるみたいだからな」
「大丈夫。アルドに聞いてた兆候が出たら、直ぐにブレスレットを外す」
結局 『石』の性能はアオの領域内であれば魔力を回復が出来る事と、アオを呼び出せる事だった。
ギフトを得る事やマナスポットの解放は無理だが、2つの能力共 破格の性能だと言えるだろう。
勿論 本物の使徒であるオレ達よりは、1段性能が落ちてしまうのはしょうがない。
色々と制限はあるが、こうしてアシェラはオレとエルに続き、3番目の使徒とも言えるチカラを手に入れたのである。
「確認はこれぐらいにしておこうか。そろそろ明日に備えてゆっくり休もう」
「うん。アルドはオリビアとライラの傍に居てあげて」
「分かったよ。ありがとな、アシェラ」
「ううん」
「じゃあ、僕は戻るよ。くれぐれも無理はしないようにね」
「ああ、分かってるよ。またな」
そう言ってアオは消えていった。
オレがオリビアとライラの下へ移動すると、アシェラは領主館の方へ向かっていく。
恐らくは開拓村へ飛んで明日から旅に出る事を、ハルヴァとルーシェさんに報告しに向かったのだろう。
次の日の朝、領主館の前にはオレ、アシェラ、母さん、ナーガさんがドラゴンアーマーを着込み、リュックを背負っている。
一昨日の話通り、今回は最低限の荷物だけを持ち、電撃戦でサックリ マナスポットを解放する予定だ。
「アルド君、地図は持ったわね?」
「はい。大丈夫です」
「では先ずは大蛇の森へ向かいましょう」
そうして指輪の間へ移動しようとした所で、大きな声が響く。
「ちょっと待った!」
ルイスだ。その後ろにはカズイとネロの姿も見える。
どうやらオレ達がマナスポットの解放に向かう事を、どこからか嗅ぎつけたのだろう。
「オレ達も連れていってくれ。もう、昔みたいに足手纏いにはならない!」
後ろのネロも普段と違い真剣な顔でオレを見つめてくる。カズイだけは眉根を下げて申し訳なさそうにしているが。
確かに一緒に旅をして、ルイスとカズイであれば足手纏いにならない実力があるのは分かっている。きっとネロも同等の実力なのだろう。
しかし、どうしたものか……オレは判断に困って、リーダーであるナーガさんに委ねる事にした。
ナーガさんはブルーリングのギルドマスターでもあるので、きっとネロの実力を良く知っているはずだ。
そんなナーガさんは、困った顔でゆっくりと口を開いていく。
「うーん、困りましたね。実力的には問題無いと思いますが、今回は電撃戦です。移動に耐えられるのか……それに大所帯になって小回りが利かなくなる可能性がありますし……」
「足手纏いだと判断したら、置いて行ってもらっても構いません。ネロ達は分かりませんが、オレはもう、任せっきりにするのは嫌なんです。アルドと旅をして、マナスポットの解放がどれほど過酷なのか……片鱗だけですが、理解したつもりです。危険と隣り合わせで、それでも前に進もうとするコイツの手伝いがしたいんです。邪魔はしません、お願いします。同行を許して下さい」
「オレもルイスと同じだぞ。アルドだけに任せるのは違うんだぞ。これは皆で解決する事なんだぞ」
ルイスとネロは真剣に考えて、同行を申し出たようだ。そしてカズイはそんな2人を見て恐る恐る口を開いた。
「ぼ、僕は2人みたいな覚悟は無いですけど、アルドの手伝いがしたいんです。僕なんかじゃ役に立たないかもしれないですが、連れてってほしいです……」
3人の話を聞いて、ナーガさんは変わらず眉根を下げている。この様子では渋々であるが、同行を許すつもりのようだ。
そんな空気の中で母さんが口を開いた。
「3人共 気持ちは立派だわ。見てて清々しいくらい。でも1つだけ聞かせて頂戴。これから向かう先は死地よ。今までアナタ達が体験した事も無いほどのね。当然 帰ってこられない可能性もかなり高い。それでも行くの? 代わりにやってあげるって言ってるのに、それでもアナタ達は先頭に立つのかしら?」
「死地だからこそです。親友が世界を救うために死地に向かうと言うなら、せめてオレは傍で支えたいと思います」
「オレはバカだから良く分からないけど……アルドは親友だぞ。オレが助けるのは当たり前なんだぞ!」
「ぼ、僕もアルドの友達だから。足手纏いかもしれないですけど、参加させて下さい」
母さんは先ほどとは一転して、柔らかな顔でオレに向きなおった。
「アル、アナタ良い友達を持ったわね。この子達は絶対に死なせちゃダメよ。今は未熟でも将来 必ずアナタのチカラになってくれるはずよ」
「はい。僕の自慢の親友達です。絶対に死なせたりしません」
「じゃあ、サッサと準備をなさい。食料は5日分、空間蹴りの魔道具と雨具やロープは忘れないでね。ノンビリしてると置いて行くわよ」
「はい!」「大丈夫だぞ」「分かりました」
3人は既にリュックを背負っていた事から、この場でナーガさんに中身を見てもらって、問題が無い事を確認した。
「では改めて、出発しましょうか」
ナーガさんの言葉でオレ達はアオの間を目指して歩きだしたのだった・
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