第183話銀×紫

183.銀×紫




オレがエルフをブルーリングに飛ばしてでも救う覚悟を決めた時、魔瘴石が光りアオ、エル、アシェラ、母さんが現れた。

収納の中には確かに魔瘴石が2個あったはずだ。どうやって飛んで来たのか……


「母様、どうやってここに?」

「そんな事は後よ。状況を説明して」


「分かりました。今のエルフの郷は…………」


オレは成るべく簡潔に要点だけを重視して、母さんに別れてからの一連を説明した。

その間、村長は土下座を崩さず俯きながら『”御使い様”が沢山……災いをどうか……精霊様……」と呟いている。


その祈ってる精霊様はあまり役には立たないぞ、と突っ込みたかったのは秘密だ。


「そう、やっぱり、ここも持たないのね」

「ここも?」


「説明は後でしてあげる。今はエルフを全員、飛ばすわよ」

「ブルー……屋敷へ飛ばすんですか?」


「ええ。その代わり敷地から外へ出る事は禁止させて貰う。その条件が飲めない者は残念だけど置いて行くわ」

「……はい」


オレは今だに土下座をしている村長へ話しかけた。


「聞いてた通りです。エルフを全員、私達の拠点へ飛ばそうと思います。ここエルフの郷の安全が確保できるまで滞在する事も許可します。但し、拠点では私達の言う事を聞いて貰う事と今回 見聞きした全てを秘密にしてください。この条件が守れる方のみを助けます」

「そ、そこは安全なのでしょうか……」


「安全は保障します。食事も贅沢を言わなければ3食 提供します」

「そ、それなら是非……」


「では先程の条件を1人1人必ず確認してから、ここに連れて来てください」

「分かりました」


そう言って村長は眼に希望の光を浮かべて、子供達が退避している奥へ急いでいく。

オレは貧乏性なのでアオに聞いてみた。


「アオ、この魔瘴石は動かせるのか?」

「何でだい?」


「ここは一時的に放棄される。ここに魔瘴石を置いていくと壊されかねない」

「なるほどね。魔瘴石の寿命は縮むけど動かす事は可能だね」


「そうか。でも寿命が縮むのか……」

「そりゃそうだよ。何の対価も無しに出来る事なんて、この世の中にあるのかい?」


「違いない……アオ、天井スレスレに移動出来るか?」

「2メード動かすだけじゃないか。簡単さ」


アオが魔瘴石を見つめると、ゆっくり上昇していく。


「どこにあっても壊されるかもしれないが……せめて、手の届かない場所に、だな……」

「まあ、領域の光を魔物は畏れるから。多分、大丈夫だとは思うけどね」


「そうなのか?」

「ん?魔物だけじゃない。使徒以外は人も畏れを感じるだろ?」


「オレは分からないが確かに他の人は、皆そう言うな」


オレが周りを見るとエル、アシェラ、母さんが苦笑いを浮かべている。


エルフの郷はこれで何とかなるだろう。

後はサンドラの街だ。母さんはどう考えているのだろうか。


「母様、エルフの郷は、これで何とかなると思います。しかし、サンドラの街はどうするつもりですか?」

「エルフを逃がし次第、サンドラに向かうわ。そこでもう1つの魔瘴石を使ってコンデンスレイで一掃しましょう」


「魔瘴石を……」

「アル、石っころ1個ぐらい勿体ぶらないの。この騒動を早く終わらせて、また取ってこれば良いじゃない」


「そうです……その通りです!確かに石っころです」


オレが吹っ切れた姿を見てエルとアシェラも笑みを浮かべている。


「じゃあ、エルフが逃げる時間を稼いできます」


マンティスの露払いに出かけようとすると母さんに止められた。


「アル、アンタは寝てなさい。これが終わったらサンドラにも行くのよ。疲労は頭も体も鈍らせるわ」

「……分かりました」


「最低でも2時間は寝なさい。睡眠薬は使っても良いから」

「……はい」


オレは寝る事になってしまった……しょうがない。

しかし、考えてみれば2時間前には思案する時間も取れないほど追い詰められていたのだ。


改めてエル、アシェラ、母さんに感謝をしながら眠りに落ちていった。




アルドが眠りについてから---------------




アルドがお師匠に言われ眠りについた。

やっぱりお師匠の判断力はスゴイ。打つ手が大胆で繊細……お師匠を見てると人は個の強さだけでは無いのが良く分かる。


でもボクには向いてない。アルド達みたいにアオに頼んで魔力の回復も出来ない。

だからボクは個の武力を磨き上げる。誰にも……アルドやエルファスにも負けないぐらいに!


今はブルーリングで休めたお陰で、ボクの魔力は満タンだ。

アルドの代わりに敵を間引きしようと、ガルに状況を聞きに行くと面白い女の子がいるのに気が付いた。


年はボクより少し下、アルド達よりも1~2歳下かもしれない。

年下の女の子……昔アルドが”年下はかわいいですね”と言っていた事をボクは忘れた事は無い。


ガルに聞くと驚いた事に、その女の子は”空間蹴り”を使ったそうだ。

空間蹴りを使い、紫の髪……アルドより1~2歳下……ボクは嫌な予感と期待が混ざり合った不思議な感覚で少女の前に降り立った。


「……」

「……」


「……」

「……」


どれぐらい見つめ合っただろうか……ライラの面影はあるが、前に見た時と年が違い過ぎて判断できない。

ライラならボクだと分かりそうな物なのだが……


そう言えばボクもアルド達と一緒で仮面を被っていたのを忘れていた。

ボクはゆっくりと仮面を外す。


少女は驚いた表情を一瞬だけ見せ、ニチャっと笑った。


「こんな所で第一夫人に合えるなんて……」


やっぱりライラだ。この姿から考えて”若返りの霊薬”は無事に手に入ったのだろう。

ライラはゆっくりと懐から小瓶を取り出した。


小瓶の中には1/3程の液体が入っている。


「約束の”若返りの霊薬”よ」


そう言ってライラは私へ小瓶を投げ渡してきた。


「これでアルド君との仲を取り持って貰うわよ……」


そう言って妖しい笑みを浮かべるライラを見て、ボクは何か大きな間違いを犯した気になってくる。

しかし、”年下はかわいいですね”アルドの言葉が思い出され”若返りの霊薬”を返す決断はどうしても出来なかった。


ゆっくりと頷くボクをライラは満足そうに見つめて”若返りの霊薬”の使い方と効果を教えてくれる。

一通りの説明が終わると、辺りを見回しながら口を開く。


「アナタがいるって事はアルド君もここにいるのかしら?」


ライラは5年前の約束をしっかり守ってボクの前に現れた。

今度はボクが約束を守る番だ。ボクは観念して正直にアルドの事を話して聞かせた。


「アルドは昨日からここで戦ってた。今は反撃に向け休んでる」


一瞬だけ思案顔をしてから、ライラは驚いた顔で脂汗を流し始める。


「どうしたの?」

「も、もしかしてアルド君も そのマスクを着けているのかしら?」


「これは王家の影としての装備だから、アルドも付けてたはず」

「……」


ライラはヘビに睨まれたカエルのように、身動き一つせずに目をグルグル回しだした。


「あれが……アルドきゅん☆だったなんて……」


フリーズしたライラをおいて、ボクは面倒ごとに巻き込まれないようにそっとその場を後にする。





実はライラと別れてからボクはかなり焦っていた。


ライラがカワイイ……若返ったライラは少女の儚さと大人の女性の優雅さを兼ね備えている。

少しだけ熟女の図々しさも持ってるのはご愛敬だ。


アルドがボクを捨てる事は無い。これは断言できる。ただ、1番じゃなくなるかもしれない……

ボクは思った”負けたくない”と!


ライラに教えて貰った”若返りの霊薬”……ボクはすぐに使う事を躊躇いはしなかった。

但し、今は戦闘中だ。お師匠にだけ本当の事を告げて相談してみた。


「…………って事でボクはすぐに”若返りの霊薬”を使いたい!」


お師匠は呆れた顔をしながらも、ボクの頭を撫でて一言だけ呟く。


「分かったわ、アシェラ。但し、起きたら私の分も、手に入れるのを手伝うのよ?良いわね」


ボクはお師匠から出る謎のプレッシャーに、頷く事しかできなかった。





アルドは村長から用意されたと言う、3階の倉庫で毛布にくるまり眠っていた。

鎧と仮面を脱ぎ楽な恰好で眠っている。


ボクはアルドの寝顔を見て頬を撫でた。

アルドは少し、にやけながらボクの手に頬を擦りつけてくる。


改めてアルドの一番でいる事を誓い”若返りの霊薬”を飲み干した。

この量なら3歳ほど若返るはずだ。


しかし、ライラは問題無かったそうだが、万人に効果が出るとは限らないとも言われた。

”死ぬ事は無いと思う”ともライラは言っていたが、疑問形だったのが少しだけ不安を感じる。


ボクはアルドの毛布に潜り込み、何時の間にか逞しくなった胸に顔をうずめ眠りに落ちていった。




アシェラが眠りについてから-----------




オレが起きると毛布の中にアシェラ?が潜り込んでいた。

何故かいつものアシェラより小さく感じるが、これは嗅ぎ慣れたアシェラの匂いだ。


少しの違和感を感じながらも、ゆっくりと起き出していく。

アシェラの頭を撫で愛おしさを感じていた時、それに気づいてしまった……



オレは絶望した……



オレは”豊かな母無き世界”を感じ魂のままに叫ぶ!

”絶望”オレの心はその一色に塗り替えられ、今なら王様に貰ったマスクを着け全裸で王都を疾走できそうだ。


母さんと紫の少女がオレの魂の慟哭を聞いて、何事かと部屋に飛び込んで来た。

オレは自分でも冷静では無かったのは十分理解していた……だが……アシェラが……


「アシェラが……アシェラが……」


オレがアシェラを前に、本気で絶望しているのが分かったのだろう。

母さんはゆっくりとオレとアシェラに近づき、オレの横で横たわっているアシェラにそっと触れた……


母さんは驚きのあまり目を大きく広げ、驚愕を顔に張り付けている。

母さんが驚くのも無理は無い。


そう……オレのアシェラがいない……


アシェラは失われてしまったのだ……


オレは生きる気力さえ無くしたように、アシェラだったはずの”モノ”を見つめながら涙を流し続けた。


オレの叫びが五月蠅かったのだろう。アシェラがムクリと起き出して、オレを怪訝な顔で見つめている。


「アシェラ……アシェラの……」


更に怪訝な顔でオレを見つめるアシェラ……


「アシェラのお胸様がいなくなった!!!ペッタンコだぁぁぁぁ!!」



オレの叫びがエルフの郷にコダマしていた。





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