第367話オクタールの街リターンズ part2

367.オクタールの街リターンズ part2






フラッシュを全員に教えて次の日の夜、いよいよオクタールの街へ攻め込む時間になった。

昼間は予定通り、全員が魔力を温存して交代で睡眠薬を飲み、体調も万全の状態である。


「では皆さん、準備は良いですか?」


ナーガさんの言葉に全員が頷いている。


「最終確認です。南の正門にはエルファス君とカズイ君。これはラフィーナが襲われた事から一番 主が現れる可能性が高いです。この中で一番 防御力が高いエルファス君にお願いします」

「分かりました」「ぼ、僕で出来るか分かりませんが、エルファス君の邪魔にならないように頑張ります」


「次に西門はアシェラさんと私。最後に東門をラフィーナ、ルイス君、ネロ君で守ってもらいます。パーティを分けるに当たって、絶対に間違えないでほしいのは、安全を第一に考えて行動する事。危険を感じたら直ぐに空へ逃げてください。それでも厳しい場合は、最悪 門を放棄しても構いません。ただ放棄する場合は他の者にも分かるように、空へ大き目のライトの魔法を撃つのを忘れないでください」

「ナーガさん、目が覚めたらオレはどうすれば良いですか?」


「そうですね……アルド君は遊撃でお願いします。申し訳ありませんが、一番戦いが厳しい所のフォローをお願いします」

「分かりました。一番キツそうな所の応援に入ります」


「他に質問はありませんか?」


誰も声を上げる者はいない。


「では同士討ちを避けるために、アルド君の極大魔法を合図に門へ向かいましょう。アルド君、タイミングは任せます。マナスポットを壊さずに、なるべくオーガの被害が多くなるように撃ってください」

「はい。マナスポットは街の中心にあるみたいなので、ぐるっと円を描くように撃ちます」


オレは右手の人差し指をオクタールの街へ向けて、魔力を貯めていく……魔力を注ぎ、凝縮。ひたすらに魔力を注ぎ凝縮していくと、指先の光が一際大きく輝いた。


「行きます!」


極細の光がオクタールの南側に当たった瞬間、マナスポットを中心に円を描くように光の剣が振るってやる。


赤……


瞬時にオクタールの街が燃え上がり、恐ろしいほどの炎に包まれる中、オレの意識は闇へと落ちていった。



◆◆◆



何なの……これは……アルド君が撃つ極大魔法……確かに話には聞いていた。

でもこの破壊力は……こんなモノ、個人が扱って良いモノじゃない……撃った当のアルド君は魔力枯渇を起こし、アシェラさんに抱き留められて優しく寝かせられている。


アルド君の見せる普段の少し緩い感じと、この惨劇を引き起こした姿がどうしても重ならない。

使徒……改めて私の心の中に、その言葉がハッキリと刻み付けられた瞬間である。


意識を切り替えられず、燃え上がるオクタールを呆然と見ているしか出来ない……そんな私をアシェラさんは、子供のように手を引いて空へと連れ出してくれた。


「ナーガさん、早く。ボク達の担当の西門は一番遠い。早く行かないとオーガが溢れる」

「え? あ、はい……そうです……その通りです!」


これじゃいけない! 私がフォローしなくちゃいけない立場なのに……私は小さく首を振った後、自分の頬を強めに張ってアシェラさんを追うのだった。






西門に着くと、既にオーガが我先に門へと殺到していた。


「行く! ナーガさん、フォローを!」


それだけ叫んだ後、アシェラさんは門へと真っ直ぐに向かっていく……疾い!

きっとバーニアを使っているのだろう。空間蹴りの応用とは聞いているが、あれは人の出せる速さでは無い。


アシェラさんがそのままの勢いでオーガの群れに突っ込むと、大きな爆発が2度 響き渡った。

両腕に盾を出している事から、恐らくはリアクティブアーマー? だかの魔法を使ったのだろう。


聞いていた話では攻撃を受けると爆発する盾なのだそうだ……攻撃を受けると爆発する盾……何て恐ろしい物を開発するのだろうか。

やられる方からすれば、悪魔の所業と言われても仕方が無い。


その後もアシェラさんは、ウィンドバレットを10個纏い、得意の格闘と魔法でオーガを蹂躙していく。

私は直ぐに予定通り、ライトの魔法をアシェラさんの背後に設置して、近くの枝へと降り立った。


そのままサポートに入ろうとしたのだが、アシェラさんの動きが速すぎてフォローするどころか目で追うのがやっとである。

これでは私のいる意味が……ダメだダメだ! 私でも何か出来る事があるはずだ!


しかし、オーガは既にアルド君のコンデンスレイの余波で大多数がどこかしらを負傷し、目の前ではアシェラさんが蹂躙劇を繰り広げている。

私の出来る事など、精々アシェラさんが撃ち漏らしたオーガの残党を七面鳥撃ちする程度だ。


そんな時間がどれだけ過ぎたのだろう。アルド君が極大魔法を撃ってかなりの時間が経った。

そろそろアルド君が起きる頃合いだろうか? 


そんな事を考えていると、オーガ達の波が引いていき、後ろから上位種2匹がゆっくりと姿を現した。

あれはマズイ! 南門で見た主よりは圧を感じないが、上位種2匹を同時に相手するには流石のアシェラさんでも手に余るはずだ!


「アシェラさん、空に逃げてください! 上位種2匹は流石に無理です!」


きっと私の声は届いたはずだ。しかし、アシェラさんは一度だけこちらをチラッと見た後、何故か上位種に向かって突進していく。

え? 何で? ちょっ……待って……


木の上からウィンドバレットを撃っていただけの私だったが、盾ぐらいにはなるだろうと駆け寄ろうとした時、アシェラさんの姿がブレた。

次の瞬間、片方の上位種の頭が爆ぜる……は?


アシェラさんは次に、後ろに控えた雑魚達の頭へウィンドバレットを正確に撃ち込んでいく……もう、その頃には、私にアシェラさんの姿を正確に捉える事は出来なかった。

最後に残された上位種も、アシェラさんの姿がブレた次の瞬間には頭が爆散している。


恐らくアシェラさんは長期戦になると踏んで、本気を出していなかったのだ。

そして上位種が現れた事で、本気を出した……これが、使徒の隣に立つ者のチカラ……アルド君の極大魔法にも驚かされたが、『修羅』と呼ばれる者の本気の実力に、私は畏怖の念を抱かされたのだった。



◆◆◆



アシェラ達が上位種を倒し終わった頃。エルファスとカズイのパーティも、かなりの時間オーガを倒し続けていた。






「エルファス君!」


僕のウィンドバレットが、エルファス君を横から襲おうとしたオーガの顔面に炸裂する。

しかし、僕の援護など必要無かったかのように、次の瞬間にはエルファス君の肩から生えた盾が爆発し、オーガは粉々になってしまった。


あれは確かリアクティブアーマーとアルドは言っていた。

僕達が初めて会ったコボルトの森で、アルドが使っていた技だ。


エルファス君の戦い方は『堅実』。この言葉がぴったりだった。

アルドのように目にも止まらぬ速さで動くわけでも、思いもよらない動きをする事も無い。


ただ片手剣を振る度、確実にオーガの首が1つか2つ落ちていく。

まるでオーガなどおらず、1人で舞っているかのような動きに僕は心を奪われてしまった。


美しい……


アルドの戦いは正直に言うと少し……いや、かなり怖い。

1つ1つの動きが必殺であり、殺意がそのまま刃になったかのようで、見ているだけで心の奥が薄ら寒くなってくる。


しかし、エルファス君の戦いは……まるで対極。動きが全く違うエルファス君なのに、アルドの姿とダブるのは何故なんだろうか。

1つだけ言える事は、やはり使徒と言うのは僕なんかとは違って特別だと言う事だ。


アルドにも感じた圧倒的なチカラをエルファス君からも感じられる。

きっと、これこそが世界を救うために、精霊様から与えられたチカラなのだろう。


世界を救う……アルドから聞いた、使徒の使命。

こんな世界を救う戦いに、僕なんかが参加しているなんて……まるで夢でも見てるみたいだ。


いつかベージェに帰る日が来たら、この戦いの事もリースに話してみたい。

新しい種族の御使い様と一緒に、世界を守る戦いをしてきたんだって。


現実は、きっと僕がアルジャナに帰れる日は来ないのだろうけど、もし帰る事が出来たのなら……

そんな思いを胸に秘め、僕はエルファス君のサポートを続けていった。



◆◆◆



「ネロ、そっちに言くぞ!」

「任せるんだぞ!」


ルイスの指示はいつも的確で、オレの動きの一手先を行くんだぞ。

今も新手のオーガが来る前にルイスからの指示が飛んで、オーガを安全に倒す事が出来た。


しかも、アルドの母ちゃんの魔法がオレ達の周りに沢山 漂っていて、危なくなったら直ぐに発動させてオーガの頭をふっ飛ばしてくれる。

凄ぇ。オレはずっと前に魔力は身体強化にしか使わなくなったから、今でもウィンドバレットは2個しか待機状態に出来ないのに。


やっぱりアルドの母ちゃんは凄いんだぞ!

ルイスも凄い。アルドの母ちゃんも凄い。アルドやエルファス、アシェラだって。


やっぱり、オレの周りには凄いヤツばっかりなんだぞ。

オレだって! 直ぐに空間蹴りで空へ駆け上がって、落ちる勢いのままオーガの頭に片手斧を叩き込んでやる。


やったぞー。オレにだって出来るんだぞ!

ルイスみたいに難しい事は分からないけど、アルドが世界を救うって言うならオレも。


先ずはここのオーガを倒すんだぞ。もう2度と、ルイスとアルドに置いてかれないように……



◆◆◆



オーガを倒し始めてだいぶ時間が経ったはず……そろそろアルが起きる頃かしら。

そんな事を考える私の眼下では、アルの友人であるルイス君とネロ君が必死にオーガを倒している。


2人は私が想像していたよりずっと強くなっていた。

ネロ君は獣人族特有の俊敏さを使ってオーガを翻弄し、的確に急所へ一撃を入れている。


対するルイス君は、攻守とも非常に安定した戦いをしつつオーガを倒していた。

戦い方は全く違うけれど、2人の強さはルイス君が頭一つ上ぐらい……恐らくはAの下位、若しくは中位と言われても納得の実力だ。


しかも、ルイス君に至っては状況を冷静に判断し、ネロ君へ的確な指示も出している。

20歳そこそこで、この実力……このまま2人が成長していけば、冒険者の最高ランクであるSに届く可能性すらある。


いや、アルと行動を共にするのであれば、そう遠くない先にSの実力を得るのだろう。

アルの歩く先には、それほどの戦いが待っているのだから。


そんな2人をサポートするために、私はウィンドバレットを配置しサポート役に徹している。

正直、メンドクサイ……げほんげほん。


普段ならやらない行動ではあるが、絶対にこの子達を死なせるわけにはいかない。

この子達は将来きっとアルやエルのチカラになってくれるはず。


そうして、ルイス君とネロ君、それに私で安定した戦いを続けていると、唐突にオーガ達の姿が消えていく。

倒し尽くしたのか? そんな思いが過るが違う……オーガ達は未だに炎が燻るオクタールの街からこちらを窺っている……


何故 向かって来ない?

私の疑問に対する答えを示すように、オクタールの奥からゆっくり歩いて来る黒い影があった。


主……


体は雑魚のオーガより2回りほど大きく、色は禍々しい黒。2つのマナスポットを奪ったであろう主は、圧倒的な存在感を見せつけている。

この圧……以前 戦った風竜よりも大きく感じられ、私の中に根源的な恐怖を呼び起こす。


くっ……流石に私達だけでは無理ね。先ずはルイス君とネロ君を逃がさないと。


「ルイス君、ネロ君、空に撤退よ! 早く!!」


私の声は聞こえているのだろう。しかし、2人は主の姿を見て恐怖で固まっている。

マズイ! 私は即座に木の枝から空へ駆け出していった。





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