第91話ジョー

91.ジョー



ワイバーンレザーアーマーを手に入れてギルドに戻るとナーガさんとジョーが何やら話をしていた。

2人共、顔見知りなのでオレも近づいて行く。


「お、噂の修羅が帰ってきたか」

「ジョー、久しぶり」


「おう、ワイバーン討伐以来か?」

「ああ、見てくれ。これがワイバーンレザーアーマーだ」


オレは出来立ての鎧を自慢したくてしょうがなかった。


「いいなぁ。ただワイバーンの皮は地味なのがなぁ・・」


こいつは何を言ってるんだ。この渋さが良いんだろうが。


「この色合いが良いんじゃないか・・渋いだろ?」

「・・・お前、本当に13歳か?お前の年で渋いのが良いとか」


おっと、中身は34+13で47歳だよ!


「ピチピチの13歳だ」

「ピチピチ・・なんか本当にオッサンに見えてきたぞ」


やべぇ・・13歳・・中2か・・眼帯して魔眼の設定でも始めるか?アシェラと被るから却下だ!


「今、ナーガちゃんと話してたんだが先生役、今度の闇曜日でどうだ?」

「オレは大丈夫。エルとルイスとネロに明日にでも聞いてみるよ。明日の夕方にはナーガさんに返事しとく」


「判った。しかしお前に先生役が必要なのかね?」

「知識や経験はあって困る物じゃないと思ってる」


「模範解答だな・・」

「一応、育ちは良い物でね」


「そうだった、お前が貴族とか・・護衛でお前より強いヤツはいるのか?」

「屋敷にはいないな」


「護衛より強い護衛対象とか・・護衛なんか要るのか?」

「実際、戦闘できる時ばかりじゃないしな・・寝てる時、食ってる時、トイレの時もある・・日帰りは別にしても護衛は必要だな」


ジョーが肩を竦めてみせた。


「ジョー暇なら少し稽古を付けてくれないか?」

「嫌味かよオレが付けて貰う方だろうが」


「ちょっと試したい事があるのと大剣の使い方を教えてほしい」

「大剣?短剣じゃないのか?」


「オレは普段、短剣を持ってるがその時々で魔力で武器を伸ばして得物の長さを変えるんだよ」

「お、おま・・オレとの模擬戦ではそんなの使ってなかったじゃねぇか」


「そうだったか?」

「お前、実際にどれだけ強いんだ?」


「さぁ?でもオレより強いのは確実に1人いる」

「知ってるよ!お前の婚約者だろ!」


「この前、実家に帰ったらさらに強くなってた」

「・・・・」


「自分の周りに10個の魔法を待機状態にして殴りかかって来るんだ。その魔法も1個1個がバラバラに動いて10対1で戦ってる気分だったぜ・・」

「お前の強さの理由が少し判った気がするよ」



ジョーが伸びをしてギルドの奥に歩いていく。


「やるんだろ?行くぞ」

「おう」


ジョーこいつもイケメンだ。

練習場に着くとジョーが短剣から大剣への変化を見せてほしい。と言ってきた。どうやら重量や形状、刃の大きさなんかを見たいらしい。


「行くぞ」

「おう」


オレは短剣を魔力の刃で大剣に変化させる。


「ちょっと触っていいか?」

「おう」


ジョーが魔力の刃を触っているが、魔力だからか何故かムズムズする。


「オレの大剣で切ってもいいか?」

「良い・・と思う」


「おい。どっちなんだ?」

「判らねぇよ。そんな事やった事ないし」


「じゃあ最初は軽くで強くしてくぞ」

「判った。」

ジョーは言う通り、最初は弱く、徐々に強くオレの魔力の刃を切っていく。

オレの刃は思ったより硬かった。ジョーの大剣の刃の方が欠け始めたのだ。しかし今はギルドにある刃引きの大剣だ。


ジョーは自分の愛用している大剣を引っ張り出してきた。


「おい、折れてもオレは責任もたねぇぞ」

「判ってる・・ちょっと意地になってるだけだ」


自分で意地になってると言うのだ。見た目よりは冷静なのだろう。

ジョーが今までに無い真剣さを見せた・・ゆっくりと大剣を振りかぶる。大剣が真上に来た時にジョーの気迫が燃え盛る・・


一閃・・・真っ直ぐに振り下ろされた大剣はオレの魔力の刃を容易く切り去った。


その瞬間オレの中の魔力がごっそりと減る感覚がある。感覚で言うと全魔力の1/5程だ・・

どうやら魔力の刃を切られたり折られたりすると、その分の魔力がごっそり削られるらしい。


この結果が知れただけでもジョーには感謝しても、し足りない。


「ジョーありがとう」


オレの言葉を受けジョーは訝しそうな顔を向ける。


「魔力の刃を切られたらゴッソリと魔力が減った。この結果を実戦じゃなくこの場で知れたのは大きい。だからありがとうだ」

「は、オレの全力の気迫の一撃が、魔力をちょっと削っただけかよ」


「オレには大きな事だったけどな」


ジョーはなんとも言えない顔で片手を上げた。


「じゃあ大剣の使い方だな?」

「ああ、教えて欲しい」


「じゃあ木剣で稽古を付けてやるよ」

「ありがとう」


木剣の大剣を2本持ってジョーの前に立つ。


「お前・・短剣もそうやって覚えたのか?」

「いや、最初は1本で自分の中でイケルと思えたから2本にした」


「じゃあ大剣も最初は1本にしろ・・実戦でも大剣二刀なんて使って無かったんだろ?」

「ああ、判った」


オレは大剣を1本にしてもう片方には短剣を持つ。


「確かにそうなるか・・判った。それで行こうか」

「お願いします」


そこからは地味な練習だった、まずは素振りだ。自分と武器の重心、短剣とは違い一振り毎に体を持っていかれそうになる。膂力だけでは無い、チカラの逃がし方が大事なんだ。と気が付いたのは陽が傾き出した頃だった。


「意外だった」


ジョーがいきなり訳の分からない事を言い出す。


「お前みたいなのは極稀だが出て来るんだ。あっと言う間に上に行く。オレ程度じゃCか運が良くてBランクだ」

「・・・・」


「お前は努力で手に入れたんだな。見ているとお前は一振りだって手を抜かない。絶えず思考を重ね、常に今より上を目指し続けてる」

「オレはそんな大した者じゃない」


「はっ、しかも謙虚ときてる。お前程のチカラがあれば、もっとチカラに溺れても良さそうな物なんだがな」

「・・・・」


「オレは大体ギルドかここからすぐの”大鷲の縄張り亭”って酒場にいる。稽古をつけて欲しかったら訪ねてこい。直ぐに物足りなくなるだろうがそれまでなら相手をしてやるよ」

「助かる。ありがとう」


ジョーは口調とは正反対の優しい目でオレを一瞥してギルドに戻って行った。


「さてと、帰るか」


誰にでも無く独り言を呟き練習場から出る。

エル達の事を思いだし、ナーガさんの元へと移動した。


「ナーガさん、エル達は戻りましたか?」

「それがまだ帰って来ないんです」


「・・エル達が受けた依頼は何ですか?」

「ギルドの規定で教える事は出来ません」


「そこを何とか・・お願いします!」

「・・・・」


「ナーガさん!」

「・・・・」


オレからは殺気が出ていただろうに・・ナーガさんは青い顔をしながらも決してエル達の依頼内容は話さなかった。

埒が明かなオレはギルドの中に響き渡る大声で叫び出す。


「誰か!オレの弟のエルファスが依頼でどこに向かったか知らないか?」


周りの冒険者はオレに怯え顔を背ける。

ああ、面倒臭がらずにもっとコミュニケーションを取っておけばこんな反応はされなかったのに。


普段の態度のツケが”今”出てしまっている。


「お願いします。弟がまだ帰らないんです。何でも良いので知っている事があれば教えてください」


さらに叫ぶが冒険者達は”間違った情報”を話す可能性がある以上は口を開く事は無いだろう・・アルドは全く信用されていないのだ。

”闇雲に探すしかないか”と諦めかけた時に受付嬢の1人が震えた声で話し出した。


「な、ナーガさん・・ワイバーンを解体した場所がちょっとした観光地になってるみたいですね」


ナーガさんはその受付嬢を見て溜息を1つついた。


「はぁ、そうみたいね。特に新人が喜んで見に行くらしいわね・・」


オレは貴族の礼をし、走り出した。

城門を抜けスカーレッドの森へ走り出した所でガイアスとマークを両肩に1人ずつ担いだエルが眼に入る。後ろには青い顔をしたティファもいた。


「エル!無事だったか!」


エルの元へ走りながら叫ぶ。


「兄さま?どうして?」

「ギルドでお前達がまだ帰ってこないって聞いて、心配で迎えに来たんだ」


「そうでしたか。すみません。ガイアスとマークが魔力枯渇で倒れてしまって・・ティファもギリギリなんです」

「魔力枯渇?なんで?魔法を使いすぎたのか?」


「いえ・・どうしても空間蹴りを教えてほしいと言うので、やり方だけ説明したんです。そしたら移動中に魔力を目一杯使って練習しだして」

「それでこの様か」


「途中で依頼はキャンセルして空間蹴りの練習にしようって言ったんですけど依頼も達成したい。と・・」

「・・・・」


「ハァ、取り敢えずギルドに行くか・・1人持つ」

「ありがとうございます」


軽い方のマークを渡された。

エル達が受けた依頼は薬草採取だった。薬草採取を最初に選んだのも最初から失敗した事にも一気に親近感が沸く。


ギルドに到着し中に入ると、先程 別れたジョーが数人の冒険者を伴ってどこかに行く所だった。

ジョーはオレ達を見つめてから特大の溜息をつく。


「ハァ、弟は無事だったみたいだな」

「お陰様でなんとか無事だった」


「ジョーはこれからどこかに行くのか?」

「・・行くつもりだったが止めた」


オレが頭の上に???を出しているとジョーの隣の冒険者が話し出した。


「こいつはお前の弟を捜しに行く所だったんだよ」

「エルを?ジョーが?」


ジョーはばつが悪そうにしかめっ面で、あらぬ方向を見ている。


「こいつは”お前が必死に弟を捜してる姿”を肴に、飲んだくれてた冒険者を見つけてなぁ。締め上げて話を全部、聞いたんだ」

「・・・」


「ガキに腕力で勝てなくて、皆でイジメかよ。ってギルド中に啖呵を切ってなぁ。見ていてスッとしたぜ」

「・・・・」


「で、有志でお前の弟を捜しに行く所に、当の本人が帰ってきたわけだ」

「そうですか・・」


オレはマークを隅に寝かしてから貴族の礼をする。


「本当にありがとうございました。今回の件、お気持ち嬉しく思います」

「アルド、そう言う時は貴族の礼なんかすんな。”ありがとう”でいいんだよ」


ジョーが今だにあらぬ方向を見ながら教えてくれる。


「はい。ありがとうございました」


今度は胸に手を当てる貴族の礼では無く、日本式の礼・・お辞儀で感謝を表す。

ギルドの中には僅かに渋い顔の者もいたが概ね一連の流れを笑って許してくれた。


「ナーガさん、さっきはすみませんでした。それとありがとうございました」

「アルド君とエルファス君、お互いに保護者登録しておきますか?」


「保護者登録?」

「はい、15歳以下の未成年の制度なんですが。保護者登録をすると保護者へは本人と同じ情報を開示できます」


「そんな制度が・・」

「今回の様な時に役に立ちます。15歳になったら自動的に解除されますけどね」


エルの方に向き直り聞いてみる。


「エルどうだ?オレは是非しておきたい」

「僕もお願いします」


エルの答えを聞いていただろうナーガさんは笑顔で答えてくれた。


「承りました」


エルとティファは依頼失敗の手続きをしている。

マークとガイアスは起きる気配は無い。1人ずつ届けていては屋敷に帰るのが夜中になる。爺さんに遅くなる事も伝えないと・・


あまり頼りたくは無いが今回は実家に頼らせて貰おう。


「エル、屋敷に戻って馬車を2台手配してくる。ティファと一緒に待っててくれ」

「判りました。すみません、兄さま」


「気にするな」


一言、声をかけ屋敷への道を走り出す。最速で移動したいので空を駆けた。城門も空を駆ける者には意味を成さない。

全力で走るとすぐに屋敷へ到着する。執事に馬車の手配を頼み、爺さんの書斎へ向かった。


書斎には爺さんが1人だった。簡単に事の成り行きを説明し馬車の使用許可を貰う。ギルドに戻ろうとすると爺さんに話かけられた。


「アルド、それがワイバーンレザーアーマーか?」

「え?あ?はい、そうです」


「渋くて良いな・・」

「はい!」


爺さんは判ってる!この色の良さが。少し嬉しくなりながらギルドへの道を戻る。


結局、この日、全て終わって帰ってきたのは日を跨ぐギリギリの時間だった。オレは意地でも風呂だけは入って眠りについた。




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