第90話エル友
90.エル友
ワイバーンを倒してから2週間後の闇曜日
今日はエルが友人と一緒に依頼を受けに行く日だ。気になる・・メッチャ気になる。
尾行なんてしたら流石のエルも怒るだろうし・・でもどんなヤツ等か気になるんだ。
フル装備のエルが玄関に歩いて行くのが見える。
「エル、オレもギルドに用事があるんだ。ワイバーンの件でな」
「そうなんですか?僕が伝えておきましょうか?」
「うーん、魔石を売らない様に言うのと、防具屋で鎧の進捗も聞きたい。鎧が無いと依頼を受けられ無いからな」
「あの穴ではしょうがないですよね」
「やっぱり自分でギルドまで行くのが良さそうだ」
「そうですか、じゃあ一緒にいきましょう」
「そうだな、武器だけ持って来るからちょっと待ってくれ」
オレは自室へ走り、2本の短剣と2本の予備ナイフを装備してエルの元へと戻る。
通り慣れた道だ。のんびりと歩いていると直にギルドへ到着した。
ギルドの前には新品の鎧を着た3人がこちらを見て手を振ってくる。
横目でエルを見ると同じように手を振り返していた。
「エルファス、遅いぞ!」
「ごめん、ガイアス」
「そっちのは誰だ?」
「紹介するよ。僕の兄のアルドだ」
「アルド=フォン=ブルーリング、同じ学園の1年だ。よろしくな」
「エルファスの兄貴って魔法学科の最下位だったって言う?」
(はうん。オレのハートにクリティカルヒットしたぜ・・)
「ま、まあ、ちょっと調子が悪かったんだ・・」
中々の先制パンチを食らっちまった。
横でエルが苦笑いを浮かべている。
「こっちの3人が騎士学科で一緒のガイアスとティファとマークです。ガイアスとティファは兄妹なんですよ」
「ガイアス=フォン=バーク。オレがこいつの兄貴だ。よろしくな」
「ティファ=フォン=バークよ。兄って言っても2ヶ月だけじゃないの・・」
「2ヶ月でも兄貴は兄貴だ。もっと敬えよ」
「バカじゃないの・・」
「あ、僕はマークです。平民ですので家名はありません。よろしくお願いします」
ガイアスは人好きな雰囲気を醸し出して悪いヤツじゃなさそうだ。
マークはガイアスのお付きみたいに見える・・ティファはきつそうな顔立ちで好みが分かれる所だろう。オレはタイプの顔じゃないな。
3人を観察しているとガイアスが興味深そうに話してくる。
「アルドって呼んでいいか?」
「ああ、好きに呼んでくれ」
「オレの事もガイアスでいいからな」
「判ったよ。ガイアス」
「エルファスからいつも一緒に依頼を受けてるって聞いたがアルドは行かないのか?」
ガイアスはオレが普通の服を着てるので不思議そうに聞いてきた。
「ああ、ワイバーンに穴だらけにされたからな。新しい鎧が出来るまではお休みだ」
「ワイバーン・・エルファスから聞いたが本当だったのか」
「そのワイバーンの件でギルドに話があったから来たんだ」
「なるほど」
ガイアスの眼にいたずらっ子の光が灯る。
「今度、模擬戦しないか?ワイバーンスレイヤーの実力を見せてくれよ」
オレはエルの方を向いてアイコンタクトで”どうする?”と聞いてみた。
エルは苦笑いを浮かべながら頷く。
「軽くならいいぜ」
「流石はエルファスの兄貴だ。話が判るぜ」
ガイアスは満面の笑みを浮かべて大声で楽しそうに笑う。
「早く登録をしましょ」
「ティファ、そう急ぐなって」
「アンタのペースだと終わらないのよ!」
ガイアスは肩を竦めティファの後を追ってギルドへと移動していく。
「オレ達も行こうか」
「はい、兄さま」
「はい、アルド君」
「マーク、アルドでいいぞ」
「エルファス君にも君付けだしね」
無理強いするつもりも無いので片手を上げて了解の意思を示す。
ギルドの喧騒がオレの姿を見た途端に、波が引くように静かになる。
小さな声が聞こえた。
「修羅がきたぞ・・」
「見るなよ・・絶対に眼を合わせるな」
「絶対に動くなよ・・動いたヤツから狙われるぞ」
オレ・・猛獣?皆ネタでやってないか?
ガイアスとティファ、マークが周りの反応に戸惑っている・・無視、無視。相手すると疲れるし。
ナーガさんの前には誰も並んでいなかったのでガイアス達を誘導した。
「ナーガさん、おはようございます」
「おはようございます。アルド君」
「ワイバーンの魔石なんですけどやっぱり自分で使おうと思うので売らないでほしいんです」
「そうですか、判りました」
「それとこの3人が冒険者登録をしたいらしいのでお願いします」
「・・・アルド君、私が最初に言った事覚えてる?」
「あーこの3人はオレじゃなくてエルの友人なんです」
「そう、アナタ達、ちょっと良い?」
ナーガさんがガイアス達に直接話す様だ。
「私はサブギルドマスターのナーガです。申し訳無いのだけれど子供は登録、出来ないの」
「な、エルファスは登録してるじゃないか!」
「このアルド君とエルファス君はワイバーンを倒す実力者です。アナタ達に同じ事が出来る?」
「それは・・」
「どうしても登録したいのなら条件があります」
「条件?」
「依頼を受ける時はアルド君かエルファス君の同伴で無いと受付けません」
「何故だ?」
「アナタ達だけだと死ぬからよ」
「な、」
「私はその条件以外では絶対に登録しませんよ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・ハァ、判った」
3人はしぶしぶながら条件に従うようだ。
「ではこちらの用紙に記入してください」
3人が記入している間にナーガさんが話しかけてくる。
「この間、話していたジョグナさんの件だけど了解を貰いました」
「そうですか、ただワイバーンの鎧が出来ないと」
「ああ。大穴、空いてましたからねぇ」
「そうなんです・・」
「今から防具屋に行ってワイバーンレザーアーマーがいつ出来るか聞いてきます」
「判りました。準備が出来たら教えてください。ジョグナさんに知らせますので」
「はい、ありがとうございます」
ナーガさんと話している間にガイアス達の記入は終わっていた。
次はギルドの説明が始まるはずだ。エルの友達は気の良いヤツ等みたいだし、オレはそろそろ退散させて貰おう。
「オレは防具屋へ行ってくる。じゃあな。依頼、頑張れよ」
踵を返して出口へ向かおうとするとガイアスが話しかけてきた。
「アルド、少し聞こえたんだがワイバーンレザーアーマーを受け取りにいくのか?」
「出来てたらな。納期を聞いてなかったから出来てるかどうか判らん」
「そうなのか。でも防具屋へは行くんだよな?」
「行くぞ」
「オレも行く」
「は?依頼を受けるんじゃないのか?」
「依頼も受けるが防具屋も行く」
「・・・・」
「防具屋へ行ってから依頼をこなせばいいだろ」
「他のヤツもそれでいいのか?」
「ワイバーンレザーアーマーだぞ!見たく無いか?」
ガイアスがテンション高めにティファとマークに話しかける。
「それは見たい・・」
「僕も見たいかも・・」
「決まりだな。アルドもう少し待っててくれ。依頼だけ受けて来る」
「・・判った」
ガイアスはナーガさんの説明も聞かない様だ。ナーガさんが苦笑いを浮かべてこちらを見てくる。
「移動しながら説明しておきます」
オレの一言でナーガさんに笑顔が戻った。
ギルドの外で一人、待ってるとオレを見て回れ右する冒険者が続出した。
しょうがないので壁走りでギルドの屋根の上で待つ事にする。
暫くすると、ガイアス達が出てきた。どうやらオレを捜している様でキョロキョロと辺りを見回している
屋根の上にいるオレに気が付かない様なので大声を上げガイアスの名前を呼んだ。
「ガイアス、上だ!」
ガイアス達はやっとオレを見つけたようで手を振ってくる。
オレは立ち上がり屋根の上から飛び降りる。空間蹴りを知らなかったのかティファが悲鳴を上げ、ガイアスがオレを受け止めようと走って来る・・それは無理だろ。
思った以上の騒ぎになる予感がプンプンする・・怪我をさせるつもりも無いので途中で空間蹴りを使い空中散歩を見せ付けた。
ティファ、ガイアス、マークは大口を開け眼が飛び出んばかりで見つめてくる。大きく螺線を描く様に降りて行くと3人は後ずさりオレから距離を取った。
「エル、空間蹴りは見せた事ないのか?」
「あーそう言えば無いかもしれません」
「そうか、脅かすつもりは無かったんだが、ギルドの前にオレがいると冒険者が回れ右するんだ」
「あーなるほど」
今だフリーズしているガイアス達に向き直り謝罪する。
「3人共脅かすつもりは無かったんだ。すまない」
「い、いや・・なんと言うか・・エルファスも出来るのか?」
「オレが出来る事は大抵エルも出来る」
「・・そ、そうか、すごいんだな・・ワイバーンスレイヤーって・・」
反応に困る。
「で、どうする。防具屋はやめとくか?」
「いや行く。行かせてくれ」
「じゃあ行くか」
オレの言葉で一行はやっと進み出した。
余談だがアルドの空間蹴りを見た冒険者は今後アルドに絡むヤツを見たら絶対に止める事を決意した。何かあって自分に飛び火した時、空を飛ばれたら逃げられないと思ったらしい。
フリーズから解けたガイアスは空間蹴りの事を聞きたがった。
よほどインパクトがあったのだろう。なんとか教えてほしい。と言ってきたのでオレじゃなくてエルに頼めと言っておいた。
程なくして防具屋に辿り着く。無造作に扉を開けて中に入る。
この前は防具屋のオッサンがいたんだが今日は誰もいない。しょうがないので奥に向かって大声を出す。
「すみませーーーん。誰かいませんかーーー」
「おーーーーちょっと待ってくれーーーーー」
奥から防具屋の声が聞こえてきた。不用心だ・・万引きし放題じゃないのか?
「お、ワイバーンの小僧か・・名前と家を聞く前にギルドから逃げやがって・・」
「オッサン、ごめん。ナーガさんが怖かったんだよ」
「ナーガちゃんか・・確かに怒らせると怖いな・・・」
「だろ?」
「そんな事よりワイバーンレザーアーマーお前の分だけだが出来てるぞ」
「マジで?」
「ああ、ブリガンダインに大穴が2個も開いてたからな。お前のを一番に作ったんだ」
「流石、オッサン気が利くぜ」
「持ってくるから待ってろ」
「ありがとう、オッサン」
防具屋は奥にあるだろうワイバーンレザーアーマーを取りに行く。
暫く待ってると防具屋が、こげ茶色を少し黒くした色のレザーアーマーを持ってくる。
「これがワイバーンレザーアーマーだ。どうだ?」
「おお、色が良いなぁ。渋くてカッコイイ」
「判るか?この地味さの中の渋さ・・ワイバーンの良さはこの色合いだ」
「判る判る。良いな。恰好良いなぁ」
オレ達の会話にガイアス達は引いていた。
「ワイバーンはすげぇけど、そんなに良い色か?」
「私に聞かないでよ。アンタに判らないのに私に判る訳ないでしょ」
「僕も色自体にそんな良さは感じませんけどねぇ・・」
3人は色に良さは見つけられないようだ。
「兄さま、装備してみてください」
「そうだな」
ワイバーンレザーアーマーを装備していく。
「動き易い・・でも本当にブリガンダインより防御力があるのか?」
「坊主、疑ってるのか?」
「そうじゃないけど・・」
「じゃあ、そこの坊主、鞘付きで良い。腰の片手剣で殴ってやれ」
防具屋はエルに片手剣で殴れと・・えー痛そうじゃん。
エルは防具屋の言う通りに鞘付きの片手剣を構えた。
「エル・・優しくだぞ」
「はい」
そう言いながら結構な早さでオレの左腕に斬撃を加えて来る。
「む、痛くない」
「ではもうちょっと強く・・」
さっきよりかなり早い斬撃を同じ左腕に食らう。
「やっぱり痛くないな」
「そうだろう?ワイバーンの皮は衝撃を吸収するからな。魔法にも少しだが耐性があるんだぜ」
「嘘じゃなかったんだな。ありがとう。オッサン」
「やっぱり疑ってたのかよ」
防具屋が呆れた声を出すが顔は笑っていた。
「兄さま、僕達はそろそろ行きますね」
「おう、最初なんだから無理はするなよ」
「はい。判りました」
「じゃあな、アルド。模擬戦楽しみにしてるぜ」
「アルド君、また会いましょう」
「じゃあね・・」
「またな。怪我するなよ」
ガイアス達は門に向かって行った。さてオレは何をしようか。
ワイバーンレザーアーマーは思ったより性能が良かった・・もしかして武器も良い物だったらワイバーン戦でもっと楽に戦えたのかもしれない。
「オッサン。武器屋も見に行こうと思うんだけど、どこにある?」
防具屋に腕の良い武器屋の場所を聞いた。今日は1人で王都散策も悪くない・・空間蹴りと壁走りを使い最短で武器屋までの道を走り出した。
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