第89話足
89.足
前にローザの部屋に行ってから殆ど毎日の様に通っている。
魔道具の基礎を習っているのだ。
ローザはサラが魔道具作りを許さないと言っていたが、実は逆だった。このままだと父親の命が無駄になる。なんとか研究を成功させて父親の命が意味のあった物にしてほしいと言われたそうだ。
しかしサラ本人は魔道具作りに恐怖があるようで魔法陣を見ると足が震えるらしい・・・一種のPTSDなのだろう。
オレの授業は主に夜だ。昼の間はお湯の魔道具を研究して貰っている。
ローザ本人が言うには今まで魔剣や鎧、戦闘に関する事ばかりだったそうだ。今の生活に関わる研究は思いがけない発見が多く楽しいらしい。
しかし、サラとの約束があるので落ち着いたら魔剣の研究も再開する予定だ。
問題は足の治療だ・・・あれから1週間程経って風呂も出来たのにオレが何も言わないので、とうとう痺れを切らして聞いてきた。
「アルド、言っていた風呂も出来たみたいだけど。いつから治療を始めてくれるのかしら?」
ローザはオレがビビってるのを判っているのだろう・・何でもない風を装って聞いてくる。
ローザの顔を見ると薄っすらと笑みを浮かべているが眼の奥には決意の炎が見えた・・・もう先延ばしは出来ないな。と腹をくくる。
「判った。何時でもいいぞ。お前の好きな時で良い」
「本当に何時でもいいの?」
「ああ・・」
「じゃあ・・今から・・でも?」
「・・・・」
「どう・・かしら?」
「判った・・」
ローザの眼にも恐怖が浮かんでいる。オレも怖い。しかし、それ以上にローザは足が欲しいのだろう。
オレはノエルを呼びだした。
「アルド、こんな夜にどうした?」
「ノエルすまないがローザを風呂に入れてやってくれないか?」
「風呂?どうした?」
「これからローザの足の治療をする。失敗すれば足から手が生えてくるかもしれない。その時には切り落とすしか無いんだ。少しでも綺麗にしてリスクを下げたい」
「切り落とす・・」
ノエルがローザの足を凝視している。
「お前の言ってる事の半分も判らんが、足を切り落とすかもしれないから風呂に入れろと言うんだな?」
「そうだ、頼む。ノエル」
「判った・・今生の別れかもしれん。娘、お前も一緒に来い」
そう言ってサラも一緒に風呂に連れて行った。
あいつ・・バカじゃないんだよな。性根も真っ直ぐだ。だけど何なんだ!あの残念感は!!やっぱりノエルは”ポンコツ枠”だと改めて思った・・・
暫くの間------
ノエル、ローザ、サラが帰ってきた。
「アルド・・今日このローザを洗って思ったが・・こんなに汚かったのか?」
いきなり本人を前に何を言い出すんだ。だからお前はポンコツなんだ!!
「ノエル、何を言い出すんだ?」
オレは察しろ!とさり気なく振る。
「2人共、3回目でやっと泡立って来た・・私も3回かかった・・こんなにも汚かったとは・・・」
「もうお前は黙れ!!」
「何だ?どうした?」
「これ以上、口を開くならお前には金輪際、風呂は使わせん!オレは本気だぞ・・知ってるよな?本気のオレは言った事は絶対に曲げん・・」
ノエルは眼をいっぱいに広げ口を閉じる。
「そうだ・・それで良い・・ゆっくりと部屋から出ていけ・・ありがとう・・ノエル・・助かったよ・・」
口を開けそうなノエルに殺気をこれでもかと浴びせた。
「そうだ・・ゆっくりだぞ・・そうだ・・」
ノエルがゆっくりと部屋から出ていくのを眺める。
「ノエル・・いつも助かってる・・ありがとう・・」
そう言いながらノエルが出て行った部屋の扉を閉めた。
オレはローザの方に向き直り、フォローをする為に口を開こうとした。
やべぇ・・奴隷で片足と言う事でメイド達よりだいぶ汚れていたのだろう。
風呂に入る前より髪の色自体が違って見える・・黒だと思っていたが明るい茶色だった。
肌も赤黒かったが今は綺麗な肌色だ・・やばい・・5割増しだ。元々、見目は良かったのだ。これでは、もう少しでアシェラに匹敵してしまう・・・
オレが挙動不審なのが判ったのだろう。
「サラ、ジェニーさんの所に行ってきて、アルドが来たと言えばわかるから・・」
「はい・・」
サラは不安そうにオレとローザの顔を見て部屋から出て行った。
「アルド、前に言っていた私の有用性なんだけど・・」
オレはローザと2人きりだ・・やばい・・ちょっとやばいんですけどおおおお!!
「直系のアナタの寵愛を受ければ有用性は十分よね・・」
そう言いながら片方しか無い足を見せ付けて・・徐々にスカートを捲り上げていく・・直に、もう1本の足も見えてきた・・
「ただし足の修復を先にお願いするわ・・」
一気に頭が冷える。
「その後なら私を好きにして貰って構わない・・」
色々と考えた結果、治療はローザの部屋で行う事に決めた。切り落とす事を考えたら風呂場が良いと言ったのだが”人の足が切られた場所で風呂も何も無いだろう”とローザに言われた。
確かに風呂は心も洗う場所であるべきだ。
床に布団を敷きローザを寝かせる。申し訳ないが足を露出させるので下着はまる出しだ。少し透けて、いけない部分が見えるのはご愛敬。
自分の頬を思い切り叩く・・痛い・・歯、折れて無いだろうな・・
眼を閉じ、久しぶりの瞑想状態に入る。やっぱり集中するならこれが一番だ。
何十回と打ったソナーで足の構造を思い出す。オレとローザの足の違いもだ。驚いた事に人により思った以上に構造の違いがあったのだ。血管の通り道などかなりの差がある。
集中・・ローザの足を立体で思い描く・・骨・・筋肉・・神経・・血管・・皮膚・・・・・
どれぐらい経っただろう自分の中でしっかりと思い描けた瞬間に眼を開け唱える
「ヒール!」
熟練してるとはとても言えないヒールの魔法はオレの魔力の9割を持って行った。今は立っているだけでやっとだ。これでは失敗した時に足を切り落とす魔力もない。
治療で頭が一杯になり魔力の分配を失敗した。申し訳なさを抱えてローザを見る。
ローザは眼をいっぱいに開き、自分の足を見つめている。それから嬉しいのだろう満面の笑みを浮かべた。
魔力枯渇で意識を持っていかれそうになりながらオレは口を開く・・
「どうだ?・・・」
気を抜くと意識が飛びそうになりながら・・しかし見た目で判らない異常があるかもしれない。ローザにそれだけは聞いておかないと・・
始めてローザがこちらに向き直りオレの様子に驚いた表情を見せる。
「動く・・痛みも無い・・ありがとうアルド」
ローザの足は元々膝上10cm程からの欠損だったが治療後はひざ下10cm程まで修復している。オレは一言だけ呟いて意識を手放した。
「良かった・・」
その言葉は自分への物かローザへの物か・・・気絶して倒れている顔はやりきって満足そうであった。
ローザは大事な宝物を触る様にそっとアルドに触れる。
次の日の朝ーーーー
夢うつつの状態から徐々に意識が覚醒してくる。窓を見ると薄っすらと明るくなり始めていたた。
隣に気配を感じ顔を向けると同じ布団の中からローザがこちらを愛おしそうに見ている。
(なんで同じ布団で寝てるんだ???)
「ローザ、今は・・オレはどれだけ・・ああ、違う・・・足は・・足はどうなったんだ」
ローザの返事に意識を集中する。
「ありがとう。アルド。いえ、アルド様。アナタは私とサラの希望です・・」
そう言うローザはベットの中で寝間着のままオレを抱きしめた。おいぃぃぃぃ!朝だし!!13歳って中2だよ?オレのマグナムも中2で生意気なんだよおおお!!
オレは我慢した!賢者にジョブチェンジ出来るフィールドを捜したが周りには見当たらない・・・おうふ・・・
「わ、判った。ローザ・・」
ローザの大きな双丘で窒息しそうになりながら何とか返事だけは返す。
どうやらローザは昨日の会話で足の治療の後は夜のレスリングをする物だと思い込んでいたらしい。
しかし魔法と同時にオレは魔力枯渇で気絶してしまった。しょうがないので寝間着に着替えてオレがいつ起きても大丈夫な様に準備をして待っていたそうだ。
今は夜のレスリングには正直、明るすぎる。もうメイド達が仕事を始めているだろう。ローザを見るとシースルーの寝巻を着ている。この寝間着もオレがその気になった時用に、執事が置いて行ったそうだ。
全てがお膳立てされてる感じで正直な所、気分は良くない。
それにオレは15歳になったら正式に貴族の籍を抜くつもりでいる。オレの妾になるならその時にローザの立場は危うい物になるだろう。
15歳になったら貴族の籍を抜くつもりでいる事、実家に婚約者がいる事、ローザは魅力的だが体だけの関係になるであろう事、全てを正直に話す。
当のローザはアルド個人に恩を感じていたのだが。誠実なアルドの姿を見て、アルドとの関係を体の関係にするのが惜しくなってくる。もし許されるなら男女の関係では無く主従の関係を結びたい。そう思ってしまった。
床に敷かれた布団から出て腰掛けるローザは何と言うかエロかった・・・足が治ってローザがブルーリングでの自分の地位を確立した暁には是非、一晩お願いしたい所だ。
そうでないと嫌らしい話だがオレの重荷になる。今のオレは何者でも無い・・アシェラは何としてでも幸せにするつもりでいるがローザまでは背負えない。
そんな気持ちが漏れ出たのだろう。ローザは一言だけ呟いた。
「判りました。アルド様の思う様にしてください」
オレの事を愛おしそうに見つめながら話すローザは素直に綺麗だった。
今日も学園がある。オレはローザの部屋をお暇して自室へと急ぐ。
後で思ったが何故に空間蹴りを使って窓から入らなかったのか・・ローザの部屋から出て自室への道中ですれ違ったのは・・ファリステア、アンナ先生、ユーリ、マール、爺さん、メイド沢山・・・
エル以外全員とすれ違ったのだ。
いかにも朝帰りのオーラを出したのもオレのミスだ。
朝食の時、爺さんに温かい眼で見られ・・登校中には女性陣から距離を取られた。
屋敷から学園までの間でエルとしか話をしてない。
溜息をつき空を見ると、かすかに秋の気配を感じた。3か月もするとまた連休だ。何故か無性にアシェラに会いたくなった・・・
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