第88話ネロ

88.ネロ




ギルドを出てエル、ルイス、ネロに相談する。


「今日中にやらないといけない事は終わった。ここからが探索の本番だが・・どうする?」


ここは渾身のニチャ顔で聞いてみた。


「どうせなら普段行かない所や、やらない事だろ・・」


ルイス、お前はやっぱり判ってる!


「普段食べない物か?」


ネロ、お前はそのままでいてくれ。オレ達の良心だ。


「色町・・」


エルが確信を突いて来た!エル!いや、エル様!オレはお前に着いていくぞ!!

ルイスとオレは”ゴクリ”と喉を鳴らす。


「行くか・・」

「そりゃ、行くだろ・・」


オレとルイスの会話にエルが入ってくる。


「お金はあるんですか?」


おふ!金額の話が出るとか・・もう見学とかじゃない・・・エルさんアンタ最高だよ。


「相場とか判るか?」

「オレは金貨1枚と聞いた事がある」


「金貨1枚・・あるか?」


オレは3人を見回しながら聞いてみた。

ネロだけは判っていない様だが、3人は各々、自分の財布の中身を確認してからゆっくりと頷く。


まずは北区へ移動だ。途中で軽く昼食を摂りこれからの事を相談する。


「色町の場所は判るか?」


ルイスが声のトーンを落として聞いて来た。


「オレは北区は行った事が無いな・・エルはあるか?」

「兄さま、僕も北区は初めてです」


自然と北区に家があるネロに注目が集まる。それとネロに色町に行く事をしっかり話さないと。

色町は強制では無い。行かないならネロとはここで別れる事になる。


「ネロ、聞いてくれ。オレ達は北区の色町に行くつもりだ」

「色町・・」


「お前はどうする?行くか?やめとくか?」

「興味はあるが・・オレは金が無いぞ。止めておく」


「そうか・・どうするかはお前の自由だからな」


ネロは金が無くて行かない様だ。先週のワイバーンを運んだ金もあるはずなのに”金が無い”と言うのだ。オレは”色町に使う金は無い”と受け取った。

それとは別に色町の場所は知ってるか聞いてみる。


「ネロは行かないとして、色町の場所は知ってるのか?」

「場所は判る」


「良かったら案内してくれないか?」

「いいぞ」


「助かるよ」


色町の場所が判り3人に何とも言えない笑みが零れた。

軽い昼食も終わり北区への道を歩く。区と言っても商業街と貴族街の間の城壁の様なハッキリとした境界は無い。


だいたいこの辺りから~~区と大まかに呼ばれているだけである。


「そろそろここ等は北区なのか?」


ルイスが周りの雰囲気を見ながら話し出した。

確かに少し雰囲気が暗い。スラムとは言わないが全体的に薄暗く、汚れが目立つ。王都の北側で影になるのも大きいのだろう。


「そうだぞ。ここ等辺から北区だ」

「い、色町まではまだかかるのか?」


「・・まだ店はやってないけど行くか?」

「え?やってない?」


「ああ、まだ昼だからな。もう少ししないと開かないぞ」

「あ、そりゃそうか」


3人で肩透かしを食らった気分だった。


「どこかで時間を潰すか」

「ウチに来るか?」


「いいのか?」

「問題ないぞ」


ルイスがオレとエルを見て来る。ネロの家か、少し興味がある。オレは頷いて意思を示す。


「ネロが良ければお邪魔したい」

「判った。行こう」


ネロは北区の路地をするすると移動する。これ、はぐれたら迷う自信がある。

どれぐらい歩いただろう30分は経っていないはずだ。


「あれだぞ」


ネロが指さしたのは正しく教会であった。

オレ達は驚きながらもネロの後ろに着いて教会に入る。


ネロは教会の中を迷い無く奥の扉へ向かって行く・・・その扉を開けると沢山の子供達が遊んでいた。


「ただいま」


ネロがそう言うと子供達がネロに纏わりついてくる。


「ネロ、おみやげは?」

「今日は何を倒したんだ?」

「怪我は無い?」


「今日は何も狩ってない。それとオレの友達を連れてきたぞ。右からルイス、アルド、エルファスだ」


子供達もいきなりで戸惑っているが、それはオレ達も同じだった。


「こんにちは。ルイスだ」

「アルドだ。よろしく」

「エルファスです。よろしくお願いします」


オレ達は取り敢えず、そういうのがやっとだった。

子供達に自己紹介が終わると奥から神父がやって来た。年は60前後だろうか、瞳にはやさしさが浮かび人の良さが滲み出ている。


「爺ちゃん、ただいま。今日は友達を連れてきた」

「ネロが友達を、宜しければこちらで話でもどうですか?」


神父が隣の部屋を指さして話しかけて来る。


「はい・・」


まだ事情が分かっていないオレはそう答えるのが精一杯だった。

隣の部屋に入り神父、オレ、エル、ルイスの4人で椅子に座る。ネロは子供達に捕まり隣の部屋で子守中だ。


「あなたがアルド様ですか?」


オレの名前がいきなり出てきた。まずは自己紹介をしなければ。


「はい。アルド=フォン=ブルーリングです。ネロとは学園で仲良くさせてもらってます」

「そうですか。ありがとうございます」


オレの自己紹介を皮切りにエルとルイスも自己紹介を始める。


「ルイスベル=サンドラです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


「エルファス=フォン=ブルーリングと申します。私は騎士学科ですが仲良くさせて頂いています」

「あの子と仲良くして頂き、ありがとうございます」


「私はこの教会の神父をしていますトラウトと申します。あの子達の父親代わりも務めておりまして、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」×3


取り敢えずの自己紹介は終わった。少し気になる事を聞いてみる。


「父親代わりと言う事はここは孤児院なのですか?」

「ネロからはどこまで聞かれましたか?」


「すみません。実は何も・・家に来ないか?と誘われて着いたのが、この教会でして・・・」

「そうですか。ネロらしいが、本当にすみません。悪気があった訳ではないのです。少し大らかと言うか、人の機微に疎い所がありまして」


「いえ、オレ達もネロのそういった所には助けられています。なあ?」

「あ、ああ。あいつは嘘が言えないし信頼できるヤツだ」

「そうですね。僕はネロの有り様に好感を持ちます」


オレが振るとルイスとエルがネロに対しての気持ちを話始める。


「そうですか。皆さんありがとうございます」


オレ達の感想を嬉しそうに聞いていた神父が頭を下げてきた。


「あの子は獣人族と言う事でイジメ程では無いのですがどこか壁を作られてきたんです」

「判るぜ。オレも魔族だからな。腫物を扱うような感じなんだろ?」


神父はルイスを見て1つだけ頷いた。


「学園に入ってからはネロは毎日、次の日が来るのを楽しみにしています。あんなあの子を見るのは初めてです」


神父の話を聞きながらルイスがモジモジしている。なんだ、男がデレてもキモイだけだからな!


「先日は実家のブルーリング領にも連れて行って貰えてあの子もあの子の母親もとても喜んでいました」

「ネロは母親がいるんですか?」


「ええ、この教会の2階で下宿していますよ。夜は色町で働いていますが」


色町の単語が出た事でオレ達3人は挙動不審になった。その様子を見て神父は僅かに笑みを浮かべて話だす。


「この教会、孤児院は貴族の方や高名な冒険者の方から多額の寄付を頂いているのです」

「貴族や冒険者が?」


「はい、皆さん若い頃に遊ばれるものですから、万が一に自分の子供がいて不便をするといけないと・・」

「なるほど・・」


「ですので私としては若い方々には是非一度、足を運んで頂きたいと思っております」


オレ達3人を見てそんな事を言う。アナタ全部判って話してますよね?


「もしかして・・ブルーリングからも寄付が?」


神父は僅かな笑みを浮かべるだけで肯定も否定もしない・・爺さん!!父さん!!


「サンドラからも?」


オレの時と同じ反応だ・・皆、兄弟かよ!!

神父と話していると奥が少し騒がしくなってきた。


何かと思っていると、扉が開いて年の頃30前ぐらいの美しい女性が入ってくる。

女性の衣服は露出が激しく、眼のやり場に困る。しかし眼がどうしても胸と足に吸い寄せられる。


「ネロの友達が来たって言うから見にきたよ。あんた達かい?」


見た目としゃべりの違和感がすごい。


「は、はい・・」×3

「私はネロの母親のミミルだ。いつもネロがありがとね」


頭を見るとネコミミが!!ねこみみ!!これだよ!これでこそ異世界!!美人のネコミミ!ばんざーーーーい

オレ達3人は驚きのあまり固まっていた。


「あ、そろそろ仕事の時間だ。私は行くけどゆっくりして行っておくれ」


嵐の様な展開に追いつけないでいると、ネロかーちゃんが最後に・・・


「お店に来てくれたらサービスさせて頂きます。ネロ共々よろしくお願いしますね・・♡」


ウィンクをして綺麗な礼を色気全開で見せ付ける・・その際にシナを作って胸と足をアピールして出ていった。

オレ達3人は少し前屈みになり、しばらく椅子から立てないだろう・・


そんな様子を神父は老人独特の懐かしい物を見る目で、オレ達を眺めていた。



閑話休題------



「長居してしまいました。ありがとうございました」×3


オレ達3人はネロかーちゃんが出ていってからも暫く教会で遊んでいたのだ。

ブルーリングの教会で子供と遊んでいたのが懐かしい。


「ネロ、また明日な」

「じゃあな、ネロ」

「ネロ、今日はありがとうございました」


「ああ、また明日だ」


夕方の少し前、オレ達は教会を出た。

あの教会の子供は娼婦達の子供だそうだ。母親は夜は働いて昼は眠っているるらしく、母親がいる子もああして教会で神父が面倒を見ているそうだ。


子供達は神父が読み書き、簡単な魔法を教えるらしくネロはどれも並み以上の才能を見せたらしい。

しかし神父も教職では無い。ネロの才能を開花させる為に寄付とは別に娼婦からもカンパを募ったそうだ。


いつもネロに金が無いのはそのカンパを少しずつでも返しているからだ。と神父から聞いた。

勿論、娼婦達は受け取ろうとしなかったが生活が楽な訳でも無く・・ネロも金の入手先を説明して無理に作ったお金では無い事を強調する。


ここは思った以上にやさしい世界だった・・ネロの本質が真っ直ぐで少し世間からズレている・・オレは正に、この教会そのままだと思った。

空を見上げると少し茜色に染まりかけている。致してから帰るにはベストな時間だ。しかし、あの話を聞いて気持ち良く出来るのか・・いや、気持ち良くはあるのだろうが。


お互いの顔を見合う。

3人共苦笑いを浮かべた。


「しょうがないか。あんな話を聞いちゃ・・」

「そうだな、寄付出来るぐらいの甲斐性が出来たらにするか・・」

「そうですね。確かに背負うには、まだ早すぎますね・・」


3人で小さな溜息を吐き、後ろ髪を引かれながら各々の家に帰って行った。



屋敷に帰ると風呂から出たばかりだろうマールがエルを待っていた。

マールからすれば良い匂いがして綺麗になった自分をエルに売り込んでいるのだろうが。


エルは少し前屈みになりながら必死でマールから距離を取ろうとしている。

しかしマールからすれば避けられると思うのだろう・・いつもより1歩エルに近づく・・オレは全てを理解しているからこそ、その1歩の残酷さを思いエルにエールを送る・・エルにエール!!


いつか今日のリベンジをしたいと思う!その時はエル、ルイス、勿論ネロも一緒だ!!

きっと指名は3人共ネロかーちゃんだと思うが…



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