第87話新しい鎧
87.新しい鎧
オレ、エル、ルイス、ネロの4人で話してた時だ。
「王都って広いよな?」
ルイスがいきなりそんな事を言い出した
「そうだな。でも、いきなりどうした?」
オレはルイスの意図が読めずに相槌を打ちながらも質問を返す。
「今度の闇曜日は依頼は止めて王都を探検しないか?」
ルイス!お前は最高だ!オレって人間を良く判ってる!!
「いいねぇ・・」
オレはニチャっとした笑顔で返す。
「だろう・・」
ルイスのニチャ顔も中々だ。
「オレもいくぞ・・」
必死にニチャ顔を作ろうとネロは頑張るが、ニチャ顔は心に闇が無いと無理なんだ・・・すまんネロ。
「判りました・・」
エルがメンバーの中で1番のニチャ顔を晒す。思わず”エル様”って言いかけたぜ。流石イケメン、何でもソツ無くこなす。
そんなバカな事をしながら次の闇曜日の予定を話あった。
闇曜日--------
前に冒険者ギルドに余りにも顔を出さなくて怒られた事があった。ワイバーンの件もあるので今日は依頼を受けないが、待ち合わせ場所は冒険者ギルドにしてある。
エルと一緒にギルドへの道を歩いると途中に串焼きの屋台が見える。朝食は食べたのだが屋台からなんとも言えない美味そうな匂いが漂ってきた。
オレは思わず串焼きを買ってしまう。脂の乗った串焼きを持ち移動しながらエルと1本ずつ齧り付いた。
「エル、言おうと思ってたんだが、いつもオレ達に付き合わなくていいんだぞ。騎士学科の付き合いもあるだろう?」
前から気になってた事を言ってみる。今までエルに騎士学科の友人を紹介された事はない。エルに限って苛められてる何て事は無いと思うが・・でも、もし、万が一、エルを苛めてるヤツがいたら・・最速でコンデンスレイを撃ち込んでやる。一点照射を一度、試してみたかったんだ。
「そうですね。実は友人が依頼を受けてみたいと言ってるんです。次の闇曜日に冒険者登録をしてそのまま依頼を受けてこようと思います」
「お、そうか。何人で行くんだ?」
「行きたいと言っていたのは2人ですが、もう少し増えるかもしれません」
「人数が増えると大変だろう。オレも付いて行ってやろうか?」
「うーん、たぶん大丈夫だと思います。皆、身体強化は使えますから」
「無理はするなよ」
「はい」
「判った。いつか一緒に行こう」
「はい。伝えておきます」
エルは来週は友達と依頼らしい。ブルーリングの街でアシェラや母さんが、オレ達の依頼に着いて来た気持ちが判った。
エルと話ながら歩いていると冒険者ギルドに到着する。
ルイスとネロはまだ来て無いみたいだ。ナーガさんに顔だけ出しておくか。
エルと冒険者ギルドに入り、ナーガさんの列に並んだ。
相変わらずナーガさんの列に人は少ない。今日はオレの前に1人だけだ。こいつ先週もナーガさんの列にいたなぁ。
ぼーっと見ているとオレの番になった。
「おはようございます。アルド君、エルファス君」
「ナーガさん、おはようございます」
「おはよう、ナーガさん」
「今日はどうしました?」
ナーガさんが用事を聞いてきたが正直、何の用も無いのだ。そのまま伝えたらきっと怒られる。オレは咄嗟に先週のワイバーンについて聞いてみる。
「今日は依頼は受けないんですが、ワイバーンがどうなったか気になって・・」
「ワイバーンは皮や骨は鎧に、歯や爪、骨は武器に、肉は美味で高額で取引されます。ですので今は傷みやすい肉や内臓、血を先に捌いている所です」
「そうなんですね・・」
「はい。ですので全てを捌くまでにはもう少し時間を頂きたいと思います。もし、どうしてもお金が要るのなら、だいぶ安くなってしまいますがギルドで査定しますよ?」
「急いでないので大丈夫です」
「そうですか」
「ワイバーンはお任せします。じゃあ行きますね」
「判りました。私も全て捌き終わったらブルーリング邸に連絡するようにします」
「はい、お願いします」
これで顔見せも終わった。酒場でルイス達を待つか。
酒場に移動してエルと席についた。この前と同じ様にオレは大きな声で注文する。
「ミルク2つくださーーーーーい」
「はーーい、ミルク2つですねー」
この前と違い驚かなかったウェイトレスはドヤ顔をオレに向け、ミルクを2つ用意しに厨房へ入って行った。
ウェイトレスは成長している様だ。しかし冒険者は・・・
「おいおい、ミルクだと?いつからギルドはガキの預かり所になったんだ」
「ガキがギルドに何の用だ。さっさと消えろ」
この前と同じでヤジが飛び交っている。
しかし、この前とは違い止める人間が少ない。2度目と言う事で冒険者の半分が扉に殺到してギルドから逃げ出した。ワイバーンスレイヤーになったのも大きいかもしれない。
5人の男がこちらにやって来る。
「おい、ガキ。さっさと帰ってママのオッパイでもしゃぶってな」
オレは無視してミルクを待つ。
「ガキ。何、無視してやがる」
男がオレの肩を掴み、チカラ尽くでオレの体を自分の方に向ける。
「ハァ・・ミルクを頼むのがそんなにダメなのか?」
「テメェみてえな雑魚がギルドに出入りしてるとオレ達まで雑魚と思われるんだよ!」
オレはナーガさんの方を見て大声で聞いてみる。
「ナーガさん、怪我させないので良いですか?この手合いは実力を見せれば黙ると思うので」
ナーガさんが苦笑いをしながら頷いた。
「ガキが!どういう意味だ」
男はオレの言葉を正確に理解した様だ。
「オッサンを”怪我させないから可愛がってやってもいいか?”って聞いたんだよ」
男は顔を真っ赤にして殴りかかってきた。
オレは瞬時に身体強化をかけオッサンから距離を取る。
「5人でいいのか?後ろのヤツらも参加するなら早くしろよ」
さらに挑発すると後ろにいた男達が増えて合計8人になる。
「兄さま、大丈夫ですか?僕も手伝いましょうか?」
エルが少し心配そうに聞いてくる。オレのブリガンダインはまだ右脇腹と左肩に大穴が開いたままだ。先週の事で少しナーバスになっているんだろう。
「大丈夫だ」
オレがそう言うとさらに激高した男達がオレに殴りかかってきた。その数8人。
空間蹴りも魔法も必要ない。
ジョーの時の様に懐に入り込み鳩尾を軽く撫でてやる。
「1・・・」
「3・・・」
「4・・・」
「7・・・」
「8っと終わり・・・」
腹を抑えて前のめりに気絶してる男が8人出来上がった。
「他にやるヤツいるかーーー?」
後ろで見てた男達に大声で聞いてみたが、青い顔をして首を振っている。
男が8人も寝ているとかなり邪魔だ。回復魔法をかけ隅の方に並べておいた。
エルの向かいに座り直し厨房から覗いてるウェイトレスを見つめる。
眼に怯えの色を滲ませながらミルクを2つ持ってきた。
「ミ、ミルクです・・どうぞ・・」
「ありがとうございます」
「ありがとう。これお代と迷惑料」
少し多めにお金を渡すと現金な物で笑顔を浮かべてお礼を言われてしまう。
ミルクを飲んでいるとルイスとネロがやってきた。
「一部始終見てた・・この前も言った事をそのまま言うぞ。お前は朝から何をやってるんだ!」
「ミルクを頼んだだけなんだ」
「だから見てたよ!大声で注文しなけりゃいいだろうが!」
「・・・・」
「なんだよ!」
「正直、一回、痛い目を見せないと、ああ言う連中は鬱陶しい・・お前達に絡まれても面倒だしな」
オレの意図を理解し、ルイスは肩を竦める。
「ちょっと釘を刺したら行こうか」
後ろにいた男達の方に殺気を放ちながらゆっくりと歩いていく・・
流石にナーガさんが止めようとして来るがオレの方が早い。
男達の目の前まで移動して最大の殺気を浴びせる!
「わっ!!!」
大声を出して男達を脅かしてやった。男達は腰を抜かす者、悲鳴を上げる者、酷い者は失神した者までいた。少しやり過ぎたと思いナーガさんを見ると、額に青筋を浮かべて半笑いを浮かべていた。
オレは踵を返してギルドから逃げ出す。その後をエル、ルイス、ネロが追いかけて来る。
「逃げるぞー」
「兄さま、待って下さいー」
「アルド!やり過ぎだ!」
「オレはスッとしたぞー」
外には逃げ出した冒険者が沢山いた。4人でその中を笑って駆け抜けて行く。
どれだけ走っただろう。身体強化を使えるオレ達にはどうと言う事も無い。
「あー面白かった」
反省して無いと思ったのだろう。ルイスが説教を始める。
「お前は騒ぎを起こさないと死ぬ病気なのか!」
「あっちが絡んできたんだぞ」
「見てたよ!お前が悪く無いのも見てた!」
「だったら何が問題なんだ?」
「ハァ・・もう良い・・」
「・・・・」
ルイスは呆れ果てて特大の溜息をついた。
「じゃあ切り替えるぞー」
オレの反省の無さそうな声音に、またルイスの溜息が聞こえる・・・解せぬ
「予定通り王都の探検だ。まずは東区で新しい鎧を買いたい。この穴じゃ鎧の意味無いからな・・」
まずは東区。基本、貴族街は衛兵が回っていて面倒臭い。今日は商業街を探検するつもりだ。
一応は何かあるとマズイので全員フル装備だ。流石に王都で遭難はしないと思うので保存食は持って来てない。
4人で露店を冷やかして歩く。すぐに防具屋に到着した。
扉を開き中を覗くと、髭モジャの背は低いが筋骨隆々のオッサンが店番をしていた。
「すみません、鎧が欲しいんだ」
髭オヤジにいきなり要件を告げる。
「鎧?」
オレの左肩と右脇腹の大穴を見て眉間に皺を寄せた。
「その穴、どうしたんだ?」
「ああ、先週ワイバーンに魔法でやられた」
「ワイバーン・・」
「ああ、今ギルドで捌いて貰ってる」
「お前が倒したのか?」
「途中までは弟のエルと一緒に戦ってたんだがオレは魔法を食らって退場だ。そっからはエルが1人で倒した」
「この子供が・・1人で・・」
「ああ、自慢の弟だ!」
「やめてください。兄さま」
実際、エルは命の恩人だ。本当の事しか言って無い。
「これの代わりになる鎧は何か無いかな?」
「・・ワイバーンはどうだ?」
「ワイバーン?」
「ああ、ワイバーンの皮を持ち込んでくれるなら、その皮でレザーアーマーが作れる」
「レザーアーマーか・・鉄板が入って無いからこのブリガンダインより防御は落ちるだろ?」
「ワイバーンの皮なら、そんな鎧なんか問題にならない防御になるぞ」
「え?ワイバーンの皮って鉄板より強いの?」
「ああ。今より軽くて動き安く、防御力も上がる!」
「・・・・」
「どうする?」
「あ、いや、少し考え事を・・ワイバーンの皮、全部でいくつの鎧が作れる?」
「全部・・ワイバーンの大きさに寄るが・・4つ・・いや、5つは作れると思う」
「じゃあ皮を全部渡すからタダでここにいる全員のレザーアーマーを作れるか?」
オレの言葉にルイス、ネロが口を挟んできた。
「ちょっと待て、オレとネロは何もしてねぇ!そんな事をして貰う理由が無い」
「そうだぞ。流石に貰えないぞ」
「理由ならあるだろ。オレ達だけじゃ解体出来なかったんだ。人を呼んで来たのはお前らだ。それに万が一の為に救援を呼んでくれた。そうだよな?エル」
「そうですね。たまたま勝てましたが、救援を呼んで貰えたのは助かりました」
「それだけでワイバーンレザーアーマーなんて貰えねぇ」
「うん。ルイスの言う通りだぞ」
「後はオレがお前達に使ってほしいからだ・・今回オレは死にかけた。もうブリガンダインじゃ安心出来ない・・」
「僕もルイスとネロに使ってほしいです。お金ならまた依頼から引けばいいじゃないですか」
「どうするよ・・ネロ」
「・・・・」
「貰っときな」
オレ達の会話にいきなり髭オヤジが割り込んでくる。
「武器じゃなくて鎧。命を守るもんだ。こう言ってくれるんなら、礼を言って終いでいいんだよ」
「・・・・」
「・・・・」
「ルイス、ネロ頼む、貰ってくれ」
「ハァ・・判ったよ。ありがとう。アルド、エルファス」
「ありがとな。アルド、エルファス」
オレとエルは笑いながら頷いた。
「で、ワイバーンの皮全部でオレ達4人の鎧をタダで作ってくれるのか?」
「目の前でこんな話されて”嫌”って言える訳ねぇだろうが・・まったく」
「ありがとう、オッサン!」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ありがとうだぜ」
オレ達のお礼に髭オヤジは苦笑いを浮かべていた。
それからは各々のサイズを測り、成長しても使えるような遊びも作って貰う。
全員が違う武器を持つので動きの邪魔になる個所が微妙に違うのだ。
今までは全員が同じブリガンダインだったが、これからは各々が使い易いように変わっていくのだろう。
細かい場所を話してると唐突に髭オヤジが聞いてきた。
「で、皮はすぐ持ってこれるのか?」
「どうなんだろう。まずは内臓や血の足が早い素材を捌いてるらしいが」
「そうか、話を通してくれればオレが皮の解体をしてもいいぞ」
「追加の報酬は出せないけど良いのか?」
「追加はいらねぇ。正直、自分でやった方が使い易く解体出来るし無駄が減るんだよ」
「そりゃそうか。作る物は決まってるんだから解体の時点で加工すれば手間やダメになる素材が減る」
「そうだ。正直予算に余裕が無いからな。無駄を極力省きたいんだ」
「そう言う事なら直接、話に行こう」
「おう」
オレ達と髭オヤジはその足で冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドの前まで来て朝の騒動を思い出した。そう言えばやらかして逃げたんだった。
ルイスがジト目でオレを見て来る・・あ、明日じゃダメかな?・・あ、ダメですか、そうですか。
覚悟を決めてギルドの扉を開けた。それまでガヤガヤと五月蠅かった喧騒は波が引くように消えていく。
シーンとしたギルド。これだけで回れ右して帰りたくなる。モーゼの海割れの様に人波が割れてナーガさんまで真っ直ぐに道が出来あがる。
ナーガさん。口は笑ってるけど眼が笑ってないです・・怖い。
特大の溜息を一つ吐きナーガさんの元へ歩き出した。
「ナーガさん、頼みがあるんですが・・」
「あら、奇遇ですね。私もアルド君に頼みがあるんですよ・・」
「オレから言っても良いですか?」
「ダメです!言ったら逃げる気でしょう!」
見抜かれてますやん
「アルド君、さっきのは確かに絡んだ冒険者が悪いわ。でもね、後ろを見なさい。普段は強気な冒険者が、か弱い乙女みたいになってるじゃないの!」
ナーガさんの言葉に後ろを振り返る。一斉に眼を逸らされた・・何故だ。まるでオレが絡んでる不良みたいじゃないか・・・泣くぞ
半泣きでナーガさんを見ると”うっ”と声を漏らして急に態度が軟化する。
「まあ、次からは気を付けてくださいね・・」
ナーガさんも本気でオレが悪いとは思っていないのだろう。オレの態度を見て反省したと判断した様だ。
「何か頼みがあったんですよね?」
ナーガさんの怒りは収まり、いつもの顔で話しかけてくれる。
「はい。実はこの防具屋のオッサンにワイバーンの皮を譲るつもりです。代わりにオレ達4人分のワイバーンレザーアーマーを作って貰います」
「なるほど・・上手い取引ですね。お互いに無駄が極力排除されています」
「細かい話はオッサンとギルドで直接して頂きたいですが、皮はオッサンに渡して下さい」
これで冒険者ギルドに用事は無い!色々な意味でここから立ち去りたい!
「ではオレは失礼します・・」
すぐ様、回れ右をして逃げる様にギルドから立ち去った。
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