第86話報告
86.報告
ブルーリング領、現当主のバルザ=フォン=ブルーリングは頭を抱えていた。
事の起こりは13年前に孫が生まれた事なのだろう。自分の直系の男子が一度に2人も生まれ、ブルーリング家は安泰だ。と喜んだのも遠い昔だ。
実際の話、最近のブルーリング家は安泰どころか繁栄の一途である。リバーシで巨額の利益を得、先日のエルフとの揉め事で、王家とエルフの国の双方に貸しを作った。サンドラ伯爵家とも懇意だ。
これらの事は全て双子の兄のアルドが行った。非常に優秀であり13歳の子供とは思えない。
内政だけでは無い。武においてもブルーリング騎士団の中でアルドに勝てる者は何人いるのか・・これについては双子の弟エルファス、アルドの婚約者のアシェラも異常な戦闘力なのだが・・
文武に非常に稀有な才能を見せるが本人は目立つ事を非常に嫌う。
しかし中身の人間性は身内贔屓を差し引いても素晴らしいと言わざるを得ない。先日も奴隷の母娘を見捨てられずに拾ってきた。
そんなアルドだが本日またやらかした・・
事は昼食が終わり暫く経った頃だ。
”冒険者ギルドからの遣い”を名乗る者から謁見の申し込みがあった。
ギルドと言う事で、すぐにアルドかエルファスが関係してると思い至り、心の中で”またか”と呟きながら客室への道のりを急いだ。
客室にはサブギルドマスターを名乗るエルフが待っていた。
一瞬、ブルーリングで保護しているエルフ絡みを疑うが、話を聞けば済むことだと思いなおし席に着く。
「サブギルドマスターのナーガと申します。この度は迅速に謁見させて頂けた事、誠に感謝致します」
「ブルーリング家 当主のバルザだ・・で、何の様だ?」
「実は・・」
ナーガと名乗るエルフが言い難そうに語りだした。
それは朝から出かけたアルドとエルファスの件だった。
話によるとアルド、エルファス、ルイス、ネロの4人で依頼へ向かった所、ワイバーンに出くわしたそうだ。
ワイバーン・・種の中では最弱であるが竜種である。普通は熟練の冒険者がパーティを組んで当たるか、騎士団で対応する案件だ。
4人の中で戦闘力が低いルイスとネロの2人をアルドとエルファスが逃がしたそうだ。
アルドとエルファスならそうするだろうと納得した。エルファスもアルド程では無いが相当に甘い。
2人の孫が真っ直ぐに育っているのを嬉しく思う反面、ルイスとネロを囮にしてでも自分達が逃げる狡猾さを持ってほしかった。と悔しくも思う。
逃げたルイスとネロは真っ直ぐにギルドに戻り事の経緯を説明し、今は有志と一緒にアルドとエルファスの救助へ戻ったそうだ。
一連の行動を聞いてアルドとエルファスは良い友達を持ったのだと少しだけ笑みが零れる。
ナーガはこれだけを説明すると、すぐにギルドへと戻って行った。サブギルドマスターとしてギルドの中の指揮を執るそうだ。
わざわざサブギルドマスターが説明に来たのはブルーリング家が貴族であるのが大きいのだろう。確かに軽んじると後が面倒だ・・
ギルドは一応の筋を通した。ここからはブルーリング家として動く。取り急ぎギルドに人をやって情報を得なければ・・その間にアルド達の救助に向かう人間を集める。ルイスの件もある為にサンドラ伯爵への連絡も必要だ。
バルザは自ら陣頭に立ち執事に指示を出していく。
そうしているとギルドにやっていた人間が大急ぎで走って来る。
「無事です!アルド様とエルファス様、2人共無事だそうです!」
息を切らせながらその事だけを一息に告げた。
仕入れた情報によるとアルドとエルファスの2人でワイバーンを倒したそうだ。
その際にアルドが重症を負った。しかしエルファスの治療で大事には至っていないらしい・・
実際にギルドへワイバーン討伐の連絡をしたのはアルド本人で、鎧はかなり破損していたが本人は至って元気そうだった。と・・
今は倒したワイバーンを現地で大まかに解体し、王都への運搬を手伝っている。
この報告を聞いた時の感情は何とも言えない物があった。
単純にワイバーンを倒した者が自分の孫・・誇らしさ・・嬉しさ・・憧れ・・そして少しの畏れ・・嫉妬・・色々な感情が混ざり合って自分がどんな表情をしていたのか判らない。
ファリステアの件で一連の襲撃に関する全ては、既に王に報告してある。
しかし、流石に王都から1時間の場所でワイバーンが討伐され、それを行ったのが自分の孫だとすると今回の件も王に報告しなければマズイだろう・・
13歳の子供2人でワイバーンを討伐・・お伽話の中の英雄のようだ。
しかし、これはお伽話では無く現実の話である。バルザは王にどうやって伝えるか・・・疲れた顔をして頭を抱えるのであった。
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