第92話冒険者のススメ part1
92.冒険者ノススメ part1
エルの友人達と会った次の闇曜日
ジョーに冒険者のノウハウを教わる事になっている。
その事をエルがガイアスに話をした所、自分達も参加させてほしい。と頼まれた。
急遽ナーガさん経由でジョーに頼み込み、了解を貰えたのが昨日の事である。
これからギルドの前で初顔合わせをする所だ。
「皆、今日の先生をしてくれるジョグナさんだ」
「ジョグナだ。ジョーと呼んでくれ」
「はい、よろしくお願いします」×6
ジョーが皆を見てからオレにジト目を向けてくる。
「どうした?」
「こいつ等ぐらい可愛げがあったらな。って思ってな・・」
オレは肩を竦めて意思を示す。
「まあ良い。呼びにくいから名前だけでも教えてくれ。お前とエルファスは知ってるから除外だ」
「ルイスです」
「ネロだぞ」
「ガイアスです。よろしくお願いします」
「ティファです。お願いします」
「マークです。よろしくお願いします」
「ルイスとネロは前に練習場で会ったな」
「はい」×2
ジョーが一度、全員を見回してから話し出した。
「今日は先生役って事だがオレはそんな玉じゃねぇ。正直な所やさしく手取り足取り教えてやるつもりも無ぇし、教える事も出来ねぇ。悪い部分があったらダメ出しするから直せ。何回言っても判らねぇヤツは手も出すから覚悟しとけ」
「・・・・・」×7
「返事は?!」
「はい!」×7
「あと、アルドとエルファス。お前等2人はこっちを手伝え。正直1人で5人は安全の確保に自信を持てねぇ。基本は5人の周りを付いて行くだけだ。狩りには本当に危険と判断するまで手は出すな。判断はオレがする。いいな?」
「はい」×2
「アルド、この中でリーダーにふさわしいのは誰だ?」
「ルイスとネロは判るがガイアス達とは依頼をこなした事は無い。エルなら全員と依頼をこなしたからエルが判断するのが良いと思う」
「だ、そうだ。エルファス、お前が決めてくれ」
「判りました・・・ルイスが妥当かと思います」
「理由は?」
「まだ甘い所もありますが、状況判断は適格です。安全マージンも確実に取るので危機に陥る事も少ない。そして一番は撤退の判断が出来る事です」
「ベタ褒めだな」
「僕、兄さま、ルイス、ネロで狩りに行く時はいつもルイスがリーダーですから」
「アルドやお前じゃないのか?」
「僕は人を使うのが上手くありませんし、兄さまは自分でやってしまう。普段はルイスの指示で動いてます」
「マジかよ・・お前等を顎で使うなんて・・・怖いもの知らずだな」
ジョーがルイスの事を恐ろしい物を見るような眼で見つめる。
「ま、まあ良い・・受ける依頼は薬草採取、狩場はスカーレッドの森だ。ワイバーンの爪の1個でも落ちてるといいな」
ジョーの指示でルイスが依頼を受けてきた。ルイスはガイアス達に薬草の色、形、どの辺りに生えているかを資料を見せて説明している。後は簡単な陣形。”密集”各自が背中合わせになって、各自目の前の敵に集中して攻撃する。”散開”各自がバラバラになる。敵を包囲する時などに有効だ。
”一点突破”例えばアルドを先頭に一点突破。アルドを先頭に攻撃しながら移動する。
この3つだが最低限の陣形を説明する。
ジョーがその様子を見てルイスへの感想を漏らした。
「やるなぁ、あいつ。あれでFランクとはなぁ」
ルイス達のミーティングも直に終わり全員がジョーの前に立つ。
「準備は良いか。行くぞヒヨッコ共」
「はい」
先頭はルイスだ。ルイスが基準で歩く早さから移動経路、全てが決まっていく。
移動の途中もガイアス達に装備や持ち物、各個人の能力を聞いている。
どうやら装備は問題がないらしいがガイアスだけ水を魔法で出す事が出来ないらしい。
ルイスは直ぐに道具屋で水筒を2つ買って来る。
「はぐれる可能性もある。念のためだが持っててくれ」
「判った・・水筒3個か・・」
ガイアスは元から持っていた水筒と合わせて計3つの水筒を持っている。
ルイスとガイアス達の会話を聞いてガイアス達の戦闘スタイルが判った。
3人共、騎士学科だけあって片手剣と盾を装備し、身体強化はそれなりの様だ。
試しにネロとマークが100メード競争をしてみる。ネロの圧勝で差は10メード程だった。逃げるのに何とか足手まといにはならない程度か。
魔法の腕前は3人共、詠唱魔法の時点でお察しだ・・・魔法は当てに出来ない。
剣の腕の方はガイアス>ティファ>マークの順番だそうだ。まあ身体強化を同LVまで抑えたエルに3人がかりで勝てないそうなので、そちらもお察しである。
大体の情報が出揃った時点でルイスがガイアスに提案した。
ティファとガイアス、マークとルイスのペアを基本にしてはどうか?と話している。
ネロはこの中で1番素早く索敵に優れているから遊撃要員だ。
最初のミーティングの時からルイスの事を一目置いていた3人は、あっさりと了承している。
これで決めておく事は大体決まった。
目的地のスカーレッドの森までの道のりの自己紹介も含めて賑やかに歩いて行く。
城門を出て1時間程で目的のスカーレッドの森へ到着した。
すぐ近くにワイバーンを大まかに解体した場所があるが今は面影がなくなっている。
「さてヒヨッコ共、まずは自分達なりの方法で依頼をこなしてみろ」
「はい」×5
「アルドとエルファスは散開してこいつらの護衛だ。ただし、オレの合図があるまでは絶対に手を出すなよ」
「判った。合図はどうするんだ?」
「そうだな・・オレがライトの魔法を打ち上げる。それが合図だ」
「判った」
「判りました」
「じゃあ散開しろ」
オレとエルは壁走りで木の上に移動して行く。
時間にして30秒程だろうかジョーの声が響いた。
「なんじゃそりゃ!!お、お前等すぐに降りてこい!!!!」
いきなりのジョーの声にオレとエルは木から飛び降りる。
驚いたジョーがまた叫んだ。
「落ちる!!!!」
エルの落下地点まで移動し落ちてくるエルを抱かかえ様としている・・それは無茶だろ。
ジョーの行動にエルが気が付き、空間蹴りで別の場所に移動する。下に誰も居ないのを確認して地上に着地した。
「ジョー、どうした?」
「お、おま、おま」
「おま?」
「お前等、飛べるのか!」
「空は飛べないな」
「今、飛んでたじゃねえか!!!」
「あれは空間蹴りで何も無い空間に足場を出して歩いてたんだ」
「どうでもいいわ!そんなもん・・・空を歩けるのか・・・」
「まあ、歩けるな」
ジョーがオレとエルを”アホの子”の顔で見つめてる。その後ろでガイアス、ティファ、マークの3人がヒソヒソと話しをしている。
「あれはそうなる・・」
「あの2人・・普通の顔してるけど、絶対おかしいわよ」
「僕はエルファス君は常識枠だと思ってたんですが・・」
3人の言葉が酷い。
10分程するとジョーも流石に落ち着いた様で、やっと思考が戻ってきた。
「一生分、驚いた。もうこれ以上は無いよな?」
ジョーが聞いてくるがどうなんだろう・・・コンデンスレイ撃ったらこいつショック死するんじゃないか?
オレは何も答えずに顔を背ける。
「おぃぃぃぃ!まだあるのかよ!もうオレの中の常識さんが息してねぇよ!!」
コンデンスレイはグラノ魔法師団長にも極力、内緒にしろと言われてるのでウィンドバレットだけ見せる事にする・・・本当は手の内は晒したく無いのだがジョーには借りがある。
オレは短剣二刀を構えた・・・対魔物用にウィンドバレットを5個、自分の周りに展開する。
「ちょっとだけ本気だす」
オレは1本の大木に向かい走りだした。短剣を魔力で大剣に変化させ大木を真横に一閃。
ゆっくりと倒れて行く大木を見ながら後ろ向きに空間蹴りを使い空中に離脱。
ウィンドバレット5個を大木の周りに展開する・・・「行けー!!」・・・オレの言葉に5個のウィンドバレットが同時に大木の幹に5個の大穴を開けた。
大木の破片が飛び散る中、短剣を2本、投擲!すぐ様、予備のナイフを両手に装備し2本共、大剣に変化させる。
ジョーに教えて貰った大剣の挙動を利用し大剣二刀を振り回し木の幹をバラバラに切り裂く。
木の破片が舞い落ちる中、オレも地上にゆっくりと着地した。
「どうだ?」
質問と同時に振り向いたオレにエル以外の全員が眼を見開き・・・口を全開に開け・・・”アホ顔”を晒している。特にティファ、女の子がしちゃダメな顔だ。それは。
フリーズから復帰するのに少々の時間を要したが全員が無事に復帰した。
「あとは、見せて無いのは・・少ししか無い」
「あるのかよ!」
「・・・・」
「もう良い・・腹いっぱいだ・・」
ジョーがコメカミを揉み、疲れた声で言う。
「少し休憩だ・・オレがもたねぇ・・」
皆が思い思いの場所に座り休憩しだす。ルイスとネロがやってきて隣に座り聞いてくる。
「アルド、お前どんだけチカラ隠してるんだよ・・・」
「お前らに見せて無かったのは最後の大剣の使い方だけだぞ?」
「え?あれ?そうだっけ?」
「ウィンドバレットも空間蹴りも武器変化も見てるだろ。全部、組み合わせただけで新しいのはジョーに習った大剣の技術だけだ」
「そう言われれば・・そうかも・・」
ルイスが首を傾げて考えている。
「お前等も似た様な事出来るだろ」
ルイスとネロが驚いてオレを見て来る。
「いや・・この前ウィンドバレット教えてやっただろ」
「教えて貰ったけどオレはまだ待機状態に出来ない・・」
「オレは5歳から毎日、寝る前に魔力操作の修行をしてるぞ。エル、アシェラ、マールもだ」
「・・・・」
ルイスとネロが真剣な顔でオレとエルを見回す。
「空間蹴りを覚えたら使える技術自体、差は無いんじゃないか?」
2人の眼には明らかに燃え上がる何かが見える。
「アルド、焚きつけるな。使えるのと使いこなすのは全く違うぞ。剣を振るだけなら5歳児にだって振れる」
「それこそ努力だけだろ。素振りも1振り毎に考えて振り、魔法も1回毎に考えて撃つ。所詮はそれの延長だ」
「・・・皆がそれを出来たらな」
「・・・・」
「お前はあれだ・・・きっと特別な才能は無いんだろう。でも”努力する天才”なんだろうな」
「努力する天才・・・随分地味だな」
「はっ、その割には嬉しそうじゃねぇか」
ジョーの言う様にオレは何故か嬉しかった。努力する才能か・・・良いじゃないの。
本当にそんな才能があるのならオレは是非”努力する才能”がほしい。心の底からそう思った。
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